お人好しアンデッドと フローラの旅は道連れ世は情け。 骨まで愛してる。

あべ鈴峰

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救出作戦・その4 再会

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犯人たちの隙をついて 頭が保管されている倉庫に侵入したフローラは、男達が出て行ったことで やっと安心する。
「ふぅ~、助かった」
これで自由に倉庫の中を調べられる。
でも、その前にジャックを助けるとき障害になりそうな 魔法陣をどうにかしないと。

机の前に立ったが 変わったものは置いてない。
普通に帳簿とか、ペンしか置いてない。
どれが、魔方陣のスイッチ?
フローラも男たちを真似て ガチャガチャと手当たり次第に動かしてみるが  解除できない。
(・・・)
 私と魔法は相性が悪いらしい。
だから、仕方ないと肩を竦めるとフローラは頭が積まれている棚へ向かう。

「 ジャック・・ジャック・・」
呼んでみてが、返事がない。その代わり全員の視線を感じる。
私が右に行くと黒目が右に動く。左に行くと左に動く。アンデッドたちの目が私の一挙手一投足を見ている。視線の感じから 声は出せないが、こっちの声が聞こえているようだ。

 フローラは全体を見渡せるように 頭が並んでいる棚の反対側の壁まで行くと、手を筒のようにして 両目に当てる。こうすると、よく見えると 猟師のおじさんが言っていた。
ジャックの特徴である青い目のアンデットを探さないと。
(青い目・・青い目・・青い目・・)
右側の上から下へと視線を動かし続けるが、思うように見つからない。
 所々に 青い目のアンデッドが居るには居るが、
色が濃かったり、薄かったりで ジャックの春の空色の瞳が無い。

せめて性別が分かれば簡単なのに・・。
それでも諦めずに 根気よく探していくと見覚えのある瞳を発見した。
 あった!
左側の中断に ジャックと思しき頭が・・。
棚をよじ登って目の前に立つ。
すると、私を見て瞳孔が大きくなる。私が何かしでかしたりする度に こういう目をする。
 ベリー狩りの時もそうだった。そのことを思い出して微笑む。

 ジャックの頬を両手で押さえて 顔を近づけると その虹彩を確かめる。春の空の色。ジャックで間違いない・・はず。 念には念を入れよう。
フローラは、ジャックの頭を撫でる。私が一目で気に入った青磁のように、 すべすべしていて青白くて綺麗だ。 頭の側頭部にある ひび割れの模様を指で確かめる。 顔色の代わりに骨の色を観察していたことが役に立った。背伸びして額の匂いを嗅ぐとセージの香りがする。

間違いない。本人だ。

「ジャック・・」
時間にすれば半日の出来事だろう。 でも、姉の時のように行方不明になって、もう二度と会えないかもと気が気じゃなかった。だから何年も離れ離れだった気がする。
(リンダ の手前、弱音も吐けなかったし・・)
再会できたことで 胸が熱くなる。他人であるジャックを こんなにも大切に思っていたなんて・・。 初めて知る自分の気持ちを抱きしめる。 安心と嬉しさがこみ上げてきて涙が溢れる。

「ジャ・・ック・・」
 会いたかった。すごく会いたかった。 その気持ちが涙になって、頬にいくつもの筋の 跡を残す。
 嬉し涙が、こんなにも 心を満たしてくれるとは思わなかった。 涙でぼやけてるけど ジャックが困ったような顔をしてるのが分かる。
両親も姉も助けられなかった。その事で 自分の無力さにどほど苛まれたか。
それが、初めて自分の力で助けることができた。 
私の願いが通じたんだ。
ジャックの額に自分の額を押し付ける。こうして触れていると気持ちが落ち着く。
もう二度と離れ離れになりたくない。

(・・ そうだ。リンダのお父さんも探さないと)
「今、助けるね」
 フローラは涙を拭うと ジャックを助けようと両手で頭を掴んで引き抜いた。すると、カタカタと音を立てて回りに積まれている頭が揺れるだした。
(くっ、崩れる!)
 サーッと血の気が引く。慌てて押し戻して揺れが収まるのを待ってから、ゆっくりと手を引き抜く。
(・・大丈夫だ)
大惨事にならなくて良かったホッとして息を吐く。 もし崩れて頭を怪我したら・・。 そう想像するだけで冷や汗が出る。

 ジャックを見ると極限まで瞳孔が大きくなっている。フローラは手合わせて、ごめん。ごめん。とジャックに向かって謝る。
 ここまで来たのに、またまた問題発生。なかなか上手く行かないものだ。
「・・・」
どうやって引き抜こうかと ジャックが積まれている 位置を確認する。本を積み重ねたみたいに規則正しいというわけではない。どちらかと言うと石垣に近い。
 大きさも形も違う頭が絶妙なバランスで積み重ねてある。

 頭だけでは会話が出来ないから、リンダの父親を探すためにも体が揃っているジャックが必要だ。 上の段から順番に移動すれば確実だろが それでは時間が かかりすぎる。
その間に リンダをずっと一人にはしておけない。私が遅いことを心配して うろうろしているところに、 忘れ物を取りに来た男たちと 鉢合わせする可能性もある。

腕組みして色々と考えたが 結論として一人じゃ無理。リンダに助けてもらおう。 フローラは机の上に乗ると明り取り用の窓を両手で掴んで 渾身の力を込めて押す。
「んんんんっ」
やっぱり、動かない・・。
押すところが悪いんだろうか? 窓の上と下の2箇所を同時を押してみる。
「ふぬんっ!・・あっ」
すると、硬くて動かなかったのに急に開いて 窓が全開になった。
 これならリンダが通れる。後は・・。

部屋を探してロープを見つけると窓から垂らしてリンダを呼ぶ。
「リンダ。リンダ。・・こっち・・こっち」

*****

 頭が並んでいることに戸惑っていたリンダだったが、生きているとわかると安心したようだ。
 そこで、ジャックの頭を引き抜いて出来たスペースに ジャックの胴体を入れていた袋を代わりに押し込むという計画を立てた。
袋からジャックの胴体を出して安全な所に置くと  袋を畳んだり包んだりしながらジャックの頭と同じ大きさに丸める。それをリンダに持たせた。 
準備は整った。後は やるだ。
「いい、1、2の3で私が引き抜くから素早くそれを押し込んで」
「うん」
リンダに向かって頷くと、リンダが頷き返す。
お互いに息を合わせてカウントダウンする。「「 1、2の3!」」

 ジャックの頭を胸に抱く。よし、引き抜けた。
カタカタという頭が揺れる音もしない。
成功したと リンダを見ると うまく頭の代わりの袋を押し込め られたようだ。
それにしては泣きそうな顔で私を見ている。
(?)
 よく見ると、まだ袋を 両手でつかんでいる。
まだだ。油断できない。
フローラは安心させるように、リンダに声をかけて落ち着かせる。
「 後は腕を引き抜くだけだから、簡単だよ」
「うん」
「まず、指を外そう。そーっと、そっとだよ」
何の根拠もないが リンダが私の言葉に 弱々しく頷く。リンダが、 手を小刻みに震わせながら 袋から手を離す。

「上手。上手。その調子」
いよいよ大詰めだ。全神経がリンダの腕に集まる。 固唾を呑んで見守る中リンダの手がゆっくりと引き抜かれていく。
(あと、ちょっと)
「「・・・」」

 リンダの指先が棚から全部出た。
崩れなかったと安堵す。
「「るやったね!」」
 リンダと喜んでいるとジャックの頭が腕をすり抜ける。
「あっ」
どこへ行くのかと行方を目で追うと 自分の体の名所へ向かっている。
すると、頭が来たことが分かるのか 骨が一本一本と組み立てられて 人の形になってく行く。初めて見る光景に驚きを通り越して感心する。

こうやって元に戻るんだ。 洋服を見つけるといつものジャックになった。
「ジャック!!」
 私の声にジャックが振り返る。フローラは棚の上からジャンプして抱きつくとジャックが笑いながら抱きとめる。
この骨ばった硬い体。絶対に折れない確かな力強さ。ああ、 ジャックだ。

*****

 離さないと言うように、しがみついてきたフローラは 暖かく柔らかくて お日様の匂いがする。
ああ、 本当にフローラだ。
最後にぎゅっと抱きしめた後、くるりと回転しながらフローラをおろす。

 完全に諦めていたから窓にフローラの顔を見つけた時は我が目を疑った。でも、すぐに消えてしまったし、その後何の音沙汰もなかったから 自分の願望が見せた幻たと思っていた。
ところがフローラに名前呼ばれて、初めて現実だと、確信出来た。
まさか、こんなに早く探しに来てくれるとは思っていなかった。ジャックは、大活躍のフローラをねぎらうように乱れた髪を自分の指骨で、櫛梳
ってなおす。

「心配かけた」
「そうですよ。すごく心配したんですからね」
 フローラが腕組みして顎を上げて言う。
 こうしてフローラの力で助けられたことに驚く。それと同時に、そこまでして自分を助けに来てくれたかと思うと嬉しくてたまらない。
「 ごめん。ごめん。しかし、よくよくここ今わかったな」
「あー、それは。リンダ。こっちに来て」
 なだめるように言うとフローラが 誰かを手招きする。

 恥ずかしそうにリンダと呼ばれたアンデッドの少女が現れた。
見たことのない子供だ。フローラは、どこで知り合ったんだ?
フローラがリンダを引き寄せると、嬉しそうに両肩に手を置く。 その手にリンダが自分の指骨を重ねる。短い間に ずいぶん親しくなったようだ。
「 リンダが色々教えてくれたから。ねっ」
「うん」
リンガが頷くと人見知りなのか、すぐにフローラのスカートの後ろに隠れる。

「 そうだったんだ。ありがとう。ところでこの子は?」
「 リンダは、ミネラル村の子供で、ジャックと同じようにお父さんが消えたんですって。だから、私と一緒にさがしに来たの」
あの村に まだアンデッドが残ってたんだ。 気づかなかった。 
でも、リンダがいてくれて幸いだった。


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