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北へ行くべきか、南にすべきか?
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古くからの伝を頼ってフローラの姉を買ったと思わしき人間たちの情報を入手したジャックは フローラと手分けして聞き込みする事にした。
先に 聞き込みを終えたジャックは物陰で、人目につかないように フローラを待っていた。すると 約束の時間を少し過ぎてフローラが 手を振りながら戻ってくる。
そんな笑顔を見せるフローラに、まるでデートの待ち合わせのようだと、呆れる。
(どうして聞き込みしてるのか、分かっているのか?)
などと思っていたが、気づけば自分も 手根骨を振っていた。
ジャックは 慌てて前腕骨の尺骨と橈骨を下ろすと、フローラのペースに持っていかれるなと、自分を叱りつける。
「 お待たせしました」
気を取り直して場所をカフェに移すと コーヒーを飲みながら、お互いの情報をすり合わせる。
真昼間に男女が こそこそしていては逆に目を引く。 ここは 旅行者のふりをしたほうが得策だ。
「 グランドの宿の方は若い貴族。 サウザンドの宿は、グリッド村の 中年の金持ちだった」
「グリッド村!?」
急にフローラが 大きな声を上げる。
田舎育ちのフローラが知っているなら 有名な村なのか? 残念ながら 南部の方へは行ったことがないので グリッド村が、どんな村か知らない。
「 なんだ。知ってるのか?」
「あっ、いえ、名前だけです。どうぞ 先を続けてください」
フローラが気にしないでと手を振る。
どんな村なのか 気になるが、 今は村の情報より捜索の方が大事だと 合点が いかないまま話を続ける。
「・・ どちらも若い娘が出入りした痕跡はあったが、 人物の特定は無理だった。そっちは、どうだった?」
そう聞くとフローラも顔を曇らせる。
その様子に、そっちも駄目だったようだと察する。
フローラの姉が 買われて一週間。
まだ皆の記憶が残っていても いいはずなんだが・・・
やはり、密かに売買された事が捜索を難しくしている。 フローラがマグを弄びながら話し始める。
「それが・・庶民的な店の方も 高級店の方もそれぞれメイドが洋服一式を買いに来たそうです」
「 どっちも?」
「はい。ちなみに豪華なドレスを買った客はハイランドと言う名前の貴族です。 もう一人の方はメイドが直接 持って帰ったので名前は 分かりませんでした。買ったドレスは・・まぁ・・男性が好きそうな服でした」
「・・・」
これは意外に大変かもしれない。ホテルの従業員に色々聞いてみたが、それ以上の情報は手に入らなかった。 もっと聞き込みしてもいいが、そうなると経費がかさむし、時間がかかる。
何より一番の問題は、若い貴族が北、中年の金持ちが南 と 方向が真逆なことだ。
ジャックは腕組みしてフローラを見つめる。
人探しは時間との戦いでもある。 1日過ぎるごとに 再会できる確率も生存率も低くなっていく。
これだけの材料で選ばせるのは 酷なようだが
どちらを先に 調べるか 選ばせるしかない 。
「フローラ。これ以上 調べるのは難しそうだ。
だから、どっちを先に行くか、お前が決めるんだ。ハズレだった場合 戻るの一週間は、ロスする。それは覚悟しろよ」
「はい」
フローラが 俺の言葉に口元を手に押し付けて考え込む。ジャックは、 考える時間を与えようとコーヒーを口にする。
(美味しい )
やはりドリップしたコーヒーは旨い。
コーヒーミルを持ち歩いた方が いいかもしれない。そんな事を考えてるいると フローラが、俺を見る。決まったようだ。
「 だったら、南へ。お姉ちゃんが貴族に見初められる可能性は小さいと思うんです」
ジャックは適切な判断だと 同意して頷く。
奴隷のために、豪華なドレスを買い与えるとは、考えてられない。
「それじゃあ、今夜は ここに泊まって明日出発しよう」
「いいえ。野宿で構いません。少しでも 節約しないと」
旅が長くなるのは本当だが、だからといって野宿するほど 金には困ってない。
いくら 体が丈夫でも、野宿ばかりでは、健康に良くない。
ジャックは、反対だと第七頚椎の隆椎と頭蓋骨を小さく左右に動かす。
「ここは、大きな村だから、ちゃんとした宿屋がある。それにグリッド村まで、 三つ村を越えないといけない。 その間にアンデッドの村もあるから 必然的に野宿することになる。 だから、休める時に休まないと体が持たないぞ」
「でも・・」
事実、最初の村と次の村は問題ないが、その次はアンデットの村だ。 俺は いいとしてフローラは 受け入れてもらえないかもしれない。
俺の村は比較的温厚な方だが 人間連れだと よく思わない連中も多い。元は同じ人間なのに残念なことに、 いつのまにか いがみ合う関係になってしまった。
「駄目た。これだけは 譲れない」
病気に なったら それこそ問題だ。
我が儘は 認めなと確固たる意識を見せようと フローラを睨み付ける。
「わかりました。でも、一つだけお願いが あります」
フローラが上目遣いで俺を見る。 こういう目をする人間の願いは決まって厄介だと分かってる。
でも 無下には出来ない。
「何だ。言ってみろ」
「眠るまで 手を握っていて欲しいんです」
「えっ?」
フローラの願いに面食らう。
手を握る?怖い時や寂しい時 子供が親に言うセリフだ。日頃のアクティブな姿からは想像できない。しかし、そのか細い声音には本音が透けてみえる。 明るく振る舞っていても、本当は たった一人の肉親を探しているんだから 不安で仕方ないんだな。 それは、解る。しかし だからといって簡単には承諾できない。
「 そう言われても・・俺は、その・・アンデッドだ 。それに、一応 男だし・・」
ジャックはフローラの気持ちをはかりかねる。
この前だって2回やらかしてる。眠ってたけど 跡は残っているんだから、 気づかない わけがないと思うのだが・・。
「 いいんです。別に気にしません」
フローラに、きっぱりと言い切られると アンデッド? 男?どっちが?と聞きたくなる。
しかし、確かめる勇気はない。
縋るように見上げるフローラの不安そうな目が俺の心を鷲掴みにする。
「 お願いです」
「・・・」
そう言われたら叶えてやるしかあるまい。
それに前の宿に泊まった時のフローラの様子を思い出した。 何があったか 言わなかったが、きっと今回も同じような事が起こるかもと心配なんだ。 安全確認も兼ねて部屋を訪ねよう。
隣の部屋の客が悪人かもしれない。
「 わかった。でも、寝るまでだぞ。いいな」
姉の代わりにはなれないが 兄の代わりにはなれるだろう。 頭にボンと手を置くと嬉しそうに笑い返してくる。こうやって 甘えてくると、まるで子猫のようだ。 しかし、つくづく俺も甘いと思う。
厳しくしようと思っても すぐ言いなりだ。
「分かりました。鍵を開けて待ってますね」
「おっ、・・おう」
フローラの返事に、まるで夜這いの約束を取り付けたような気分になる。無自覚なので尚更困る。
そわそわする気分を悟られないように、フローラの肩に手をおくと 第七頚椎の隆骨と頭蓋骨を左右に動かす。
「いいや。後から部屋を訪ねるから戸締りはしておけ」
*****
「まだかな~」
ベッドの上で寝転びながら 今や遅しとジャックを待っているとコンコン小さなノックの音がする。
(来た!)
ノックなんて、良いのに。私たちの間に遠慮は無用だ。
ベッドから飛び降りると ドアを開けると、ジャックが、辺りを警戒している。そんなジャックの腕を掴むと素早く中に引き入れる。
念のため左右を確認して誰にも見られていないことを確認してドアを閉める。
振り返るとジャックが 居心地悪そうに キョロキョロしている。
よく考えれば女の子の部屋だ。
若い男女が一つの部屋の下と言うのは体裁が悪い。 親にも結婚するまでは清い交際をしろと躾けられた。
でも、すでに婚約しているし ジャックは信用できる。もし ジャックが 不埒な考えを持っていたなら 最初の晩に操を汚されている。
それに、ジャックの事だ 無理強い しないだろ。
ジャックを困らせてしまったと申し訳ない気持ちになる。 もちろん 子供じゃないんだから、一人で寝れる。『眠るまで手を握っていて欲しい』と、言ったのは ただ安心が欲しかっただけだ。
ジャックはアンデッドだから知らないだろうが、 「グリット村 」は 男なら一生のうちに一度は行くべき場所だと 誰もが口を揃えていう超有名なエッチな村だ。 1000人の美女がいるとか、 村娘は全員素っ裸だとか、 ワインの風呂があるとか。兎に角 いかがわしい場所だ。
その村の住人に姉が連れて行かれたと思うと気が気でない。前に 一人で 泊まったとき みたきに 悪いことばかり浮かんできて寝れそうにない。 だから、気を紛らわしたくてジャックを頼ってしまった。
「 寝るには 早いですし、少しお話しましょう」
「どうして?手を握るだけの約束だろう」
「いいから、いいから」
困惑するジャックの背中を押して半ば強引にベッドに座らせると、水差しからマグに水を2つ注いで一つをジャックに渡すと隣に並ぶ。
「フローラ・・」
「いいじゃないですか、夜は長いんですから」
ジャックが、どんな子供時代を過ごしたか興味がある。 どんなことをして遊んだのか? 食べ物は何が好きで 何が嫌いだったのか? 前に話してくれた親友とは その後どうなったとか?
「・・・」
いろいろ聞きたいのにジャックが 話したくないのか、真顔で私を見つめる。
それでも、ねだってみる。
「 ちょっとだけ。ねっ?」
「駄目た。明日も早いんだから、寝ろ」
駄々をこねるが首を縦には振ってくれない。
私からマグを取り上げられると 寝ろとベッドを顎でしゃくる。
(真面目なんだから・・)
「 分かりました。寝ます」
不貞腐れてベッドに入ると 握ってくれとジャックに向かって手を差し出す。 すると、約束通り握ってくれた。 固くて 強くて何でもしてくれるジャックの手。
フローラは その手を握り返す。
こうしてると落ち着く。フローラは体の力を抜くと 目を閉じる。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
(・・・)
フローラは、本当に居るのかと目を開けて横を見ると、そこにジャックの顔がある。
居てくるのが 嬉しく自然と口角が上がる。
「いいから、寝ろ」
「はい」
素直に目を閉じるが、薄目を開けてジャックを確認する。
心を許せる人が 傍に居てくる。その安心をもう一度 手に入れた。そう思うと 心が満たされる。
ジャックが、布団を引き上げるとポンポンと叩く。その 何気無いことが 眠りを誘う。
*****
鳥の声目を開けるとジャックは 凝り固まった骨を元の位置に戻す。
少しでも動くと引き戻されて、結局 朝まで手を離してくれなかった 。そんな自分の苦労も知らずに、すやすやと寝ているフローラを見て ジャックは下顎骨を上げる。 指骨でフローラの髪をすく。こうやって何度も朝を迎えていたら、本当に夫婦になった気分になる。 でも それは今だけだ。
人間のフローラとはいずれ別れがくる。
そう思えば、この苦労もいい思い出になる。
先に 聞き込みを終えたジャックは物陰で、人目につかないように フローラを待っていた。すると 約束の時間を少し過ぎてフローラが 手を振りながら戻ってくる。
そんな笑顔を見せるフローラに、まるでデートの待ち合わせのようだと、呆れる。
(どうして聞き込みしてるのか、分かっているのか?)
などと思っていたが、気づけば自分も 手根骨を振っていた。
ジャックは 慌てて前腕骨の尺骨と橈骨を下ろすと、フローラのペースに持っていかれるなと、自分を叱りつける。
「 お待たせしました」
気を取り直して場所をカフェに移すと コーヒーを飲みながら、お互いの情報をすり合わせる。
真昼間に男女が こそこそしていては逆に目を引く。 ここは 旅行者のふりをしたほうが得策だ。
「 グランドの宿の方は若い貴族。 サウザンドの宿は、グリッド村の 中年の金持ちだった」
「グリッド村!?」
急にフローラが 大きな声を上げる。
田舎育ちのフローラが知っているなら 有名な村なのか? 残念ながら 南部の方へは行ったことがないので グリッド村が、どんな村か知らない。
「 なんだ。知ってるのか?」
「あっ、いえ、名前だけです。どうぞ 先を続けてください」
フローラが気にしないでと手を振る。
どんな村なのか 気になるが、 今は村の情報より捜索の方が大事だと 合点が いかないまま話を続ける。
「・・ どちらも若い娘が出入りした痕跡はあったが、 人物の特定は無理だった。そっちは、どうだった?」
そう聞くとフローラも顔を曇らせる。
その様子に、そっちも駄目だったようだと察する。
フローラの姉が 買われて一週間。
まだ皆の記憶が残っていても いいはずなんだが・・・
やはり、密かに売買された事が捜索を難しくしている。 フローラがマグを弄びながら話し始める。
「それが・・庶民的な店の方も 高級店の方もそれぞれメイドが洋服一式を買いに来たそうです」
「 どっちも?」
「はい。ちなみに豪華なドレスを買った客はハイランドと言う名前の貴族です。 もう一人の方はメイドが直接 持って帰ったので名前は 分かりませんでした。買ったドレスは・・まぁ・・男性が好きそうな服でした」
「・・・」
これは意外に大変かもしれない。ホテルの従業員に色々聞いてみたが、それ以上の情報は手に入らなかった。 もっと聞き込みしてもいいが、そうなると経費がかさむし、時間がかかる。
何より一番の問題は、若い貴族が北、中年の金持ちが南 と 方向が真逆なことだ。
ジャックは腕組みしてフローラを見つめる。
人探しは時間との戦いでもある。 1日過ぎるごとに 再会できる確率も生存率も低くなっていく。
これだけの材料で選ばせるのは 酷なようだが
どちらを先に 調べるか 選ばせるしかない 。
「フローラ。これ以上 調べるのは難しそうだ。
だから、どっちを先に行くか、お前が決めるんだ。ハズレだった場合 戻るの一週間は、ロスする。それは覚悟しろよ」
「はい」
フローラが 俺の言葉に口元を手に押し付けて考え込む。ジャックは、 考える時間を与えようとコーヒーを口にする。
(美味しい )
やはりドリップしたコーヒーは旨い。
コーヒーミルを持ち歩いた方が いいかもしれない。そんな事を考えてるいると フローラが、俺を見る。決まったようだ。
「 だったら、南へ。お姉ちゃんが貴族に見初められる可能性は小さいと思うんです」
ジャックは適切な判断だと 同意して頷く。
奴隷のために、豪華なドレスを買い与えるとは、考えてられない。
「それじゃあ、今夜は ここに泊まって明日出発しよう」
「いいえ。野宿で構いません。少しでも 節約しないと」
旅が長くなるのは本当だが、だからといって野宿するほど 金には困ってない。
いくら 体が丈夫でも、野宿ばかりでは、健康に良くない。
ジャックは、反対だと第七頚椎の隆椎と頭蓋骨を小さく左右に動かす。
「ここは、大きな村だから、ちゃんとした宿屋がある。それにグリッド村まで、 三つ村を越えないといけない。 その間にアンデッドの村もあるから 必然的に野宿することになる。 だから、休める時に休まないと体が持たないぞ」
「でも・・」
事実、最初の村と次の村は問題ないが、その次はアンデットの村だ。 俺は いいとしてフローラは 受け入れてもらえないかもしれない。
俺の村は比較的温厚な方だが 人間連れだと よく思わない連中も多い。元は同じ人間なのに残念なことに、 いつのまにか いがみ合う関係になってしまった。
「駄目た。これだけは 譲れない」
病気に なったら それこそ問題だ。
我が儘は 認めなと確固たる意識を見せようと フローラを睨み付ける。
「わかりました。でも、一つだけお願いが あります」
フローラが上目遣いで俺を見る。 こういう目をする人間の願いは決まって厄介だと分かってる。
でも 無下には出来ない。
「何だ。言ってみろ」
「眠るまで 手を握っていて欲しいんです」
「えっ?」
フローラの願いに面食らう。
手を握る?怖い時や寂しい時 子供が親に言うセリフだ。日頃のアクティブな姿からは想像できない。しかし、そのか細い声音には本音が透けてみえる。 明るく振る舞っていても、本当は たった一人の肉親を探しているんだから 不安で仕方ないんだな。 それは、解る。しかし だからといって簡単には承諾できない。
「 そう言われても・・俺は、その・・アンデッドだ 。それに、一応 男だし・・」
ジャックはフローラの気持ちをはかりかねる。
この前だって2回やらかしてる。眠ってたけど 跡は残っているんだから、 気づかない わけがないと思うのだが・・。
「 いいんです。別に気にしません」
フローラに、きっぱりと言い切られると アンデッド? 男?どっちが?と聞きたくなる。
しかし、確かめる勇気はない。
縋るように見上げるフローラの不安そうな目が俺の心を鷲掴みにする。
「 お願いです」
「・・・」
そう言われたら叶えてやるしかあるまい。
それに前の宿に泊まった時のフローラの様子を思い出した。 何があったか 言わなかったが、きっと今回も同じような事が起こるかもと心配なんだ。 安全確認も兼ねて部屋を訪ねよう。
隣の部屋の客が悪人かもしれない。
「 わかった。でも、寝るまでだぞ。いいな」
姉の代わりにはなれないが 兄の代わりにはなれるだろう。 頭にボンと手を置くと嬉しそうに笑い返してくる。こうやって 甘えてくると、まるで子猫のようだ。 しかし、つくづく俺も甘いと思う。
厳しくしようと思っても すぐ言いなりだ。
「分かりました。鍵を開けて待ってますね」
「おっ、・・おう」
フローラの返事に、まるで夜這いの約束を取り付けたような気分になる。無自覚なので尚更困る。
そわそわする気分を悟られないように、フローラの肩に手をおくと 第七頚椎の隆骨と頭蓋骨を左右に動かす。
「いいや。後から部屋を訪ねるから戸締りはしておけ」
*****
「まだかな~」
ベッドの上で寝転びながら 今や遅しとジャックを待っているとコンコン小さなノックの音がする。
(来た!)
ノックなんて、良いのに。私たちの間に遠慮は無用だ。
ベッドから飛び降りると ドアを開けると、ジャックが、辺りを警戒している。そんなジャックの腕を掴むと素早く中に引き入れる。
念のため左右を確認して誰にも見られていないことを確認してドアを閉める。
振り返るとジャックが 居心地悪そうに キョロキョロしている。
よく考えれば女の子の部屋だ。
若い男女が一つの部屋の下と言うのは体裁が悪い。 親にも結婚するまでは清い交際をしろと躾けられた。
でも、すでに婚約しているし ジャックは信用できる。もし ジャックが 不埒な考えを持っていたなら 最初の晩に操を汚されている。
それに、ジャックの事だ 無理強い しないだろ。
ジャックを困らせてしまったと申し訳ない気持ちになる。 もちろん 子供じゃないんだから、一人で寝れる。『眠るまで手を握っていて欲しい』と、言ったのは ただ安心が欲しかっただけだ。
ジャックはアンデッドだから知らないだろうが、 「グリット村 」は 男なら一生のうちに一度は行くべき場所だと 誰もが口を揃えていう超有名なエッチな村だ。 1000人の美女がいるとか、 村娘は全員素っ裸だとか、 ワインの風呂があるとか。兎に角 いかがわしい場所だ。
その村の住人に姉が連れて行かれたと思うと気が気でない。前に 一人で 泊まったとき みたきに 悪いことばかり浮かんできて寝れそうにない。 だから、気を紛らわしたくてジャックを頼ってしまった。
「 寝るには 早いですし、少しお話しましょう」
「どうして?手を握るだけの約束だろう」
「いいから、いいから」
困惑するジャックの背中を押して半ば強引にベッドに座らせると、水差しからマグに水を2つ注いで一つをジャックに渡すと隣に並ぶ。
「フローラ・・」
「いいじゃないですか、夜は長いんですから」
ジャックが、どんな子供時代を過ごしたか興味がある。 どんなことをして遊んだのか? 食べ物は何が好きで 何が嫌いだったのか? 前に話してくれた親友とは その後どうなったとか?
「・・・」
いろいろ聞きたいのにジャックが 話したくないのか、真顔で私を見つめる。
それでも、ねだってみる。
「 ちょっとだけ。ねっ?」
「駄目た。明日も早いんだから、寝ろ」
駄々をこねるが首を縦には振ってくれない。
私からマグを取り上げられると 寝ろとベッドを顎でしゃくる。
(真面目なんだから・・)
「 分かりました。寝ます」
不貞腐れてベッドに入ると 握ってくれとジャックに向かって手を差し出す。 すると、約束通り握ってくれた。 固くて 強くて何でもしてくれるジャックの手。
フローラは その手を握り返す。
こうしてると落ち着く。フローラは体の力を抜くと 目を閉じる。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
(・・・)
フローラは、本当に居るのかと目を開けて横を見ると、そこにジャックの顔がある。
居てくるのが 嬉しく自然と口角が上がる。
「いいから、寝ろ」
「はい」
素直に目を閉じるが、薄目を開けてジャックを確認する。
心を許せる人が 傍に居てくる。その安心をもう一度 手に入れた。そう思うと 心が満たされる。
ジャックが、布団を引き上げるとポンポンと叩く。その 何気無いことが 眠りを誘う。
*****
鳥の声目を開けるとジャックは 凝り固まった骨を元の位置に戻す。
少しでも動くと引き戻されて、結局 朝まで手を離してくれなかった 。そんな自分の苦労も知らずに、すやすやと寝ているフローラを見て ジャックは下顎骨を上げる。 指骨でフローラの髪をすく。こうやって何度も朝を迎えていたら、本当に夫婦になった気分になる。 でも それは今だけだ。
人間のフローラとはいずれ別れがくる。
そう思えば、この苦労もいい思い出になる。
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