お人好しアンデッドと フローラの旅は道連れ世は情け。 骨まで愛してる。

あべ鈴峰

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二人の旅立ち

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姉の情報を求めて聞いたが
「ん~と、確か4日前に 売られた」
「売られた!?」
予想外の返事に面食らう。4日前ということは、拐われた次の日には売られたということになる。 でも、自分たちの村から、この村の間に アンデッドの村は無い。
酒場の おじさんの情報が間違っていて、他のアンデッドの村に先に寄ったの・・。

思いもよらぬ状態に 不安になる。しかし、すぐに自分を元気付ける。
でも、大丈夫。アンデッドの村なら、ジャックが 知ってる。聞けば済む。
「何て言うアンデッドの村なの?」
「アンデッドに、買われたんじゃなくて、人間だよ」
 「人間?」
フローラは驚いて声が裏返る。人間が人間を買った?そんな話、聞いたことも無い。

「セレス村で、ご飯を食べた時、あんたの姉さんだけが、檻から出されたんだ。 どうしたのかと気になって 檻の隙間から見てたら、 見たことない男がアイツらに お金渡してどっかに連れてっいかれたんたよ」
「そんな・・」
せっかく先回りしたのに、無駄足に なってしまった。あんなに調べたアンデッドの村の情報も必要なくなる。 何で、 何一つ自分の思い通りにならないの?

すると、落ち込んでいる私を娘が励ます。
「よかったじゃない。人間なら」
 そういう問題ではない。誰に、買われたかではなく、買われること自体良くない。
無神経な発言にイラだったが、切り替える。
そこ事をここで 言い争っても 無駄だ。それより、とにかく今は少しでも その時の状況を聞きだそう。
 セレス村?聞いたことが無い。遠くの村なのかな?
「その姉を買った人は、どんな見た目の人だった。名前とか、聞かなかった?」
 もし、大きな村なら、買った人を探すのにも苦労しそうだ。
「名前を言わなかったし、体は、中肉中背の茶色い髪の人だったよ」
名前も分からないし、平凡な容姿では、 手がかりになりそうにない。
村に直接行って聞き込みするしかない。

 他の娘達に視線を移すが皆が、首を振る。
 これ以上情報は得られそうにないと立ち上がると、娘たちが食べるのやめて私を見つめる。
分かっている。ここから 救い出して欲しいのだ。
救いだしたくても 私に、その力は無い。
「ごめんね」
フローラは首を振って謝ると、せめてもにと、鞄から自分のために取っておいた食料をバスケットの中に入れる。切ない思いを抱えたまま、
フードを被りなおして外へ出る。
すると、ジャックが傍に来る。

「 随分 遅かったな心配したんだぞ」
「ごめんなさい」
「・・話は家に帰ってきたらだ」
 何かを察したのかジャックが私の手を取って歩き出す。
(今日で 終わると思ったのに・・)
 引っ張られるように、ついていきながらフローラの心は沈む。それでも、姉が生きていることが分かっただけでも良かった。
まだ、希望はある。

****

ジャックは、一人でフローラが、戻ってきたことから やはり姉が 居なかったんだと察する。
しかし、どうも様子が変だ 。
喜んでいるようにも 悲しんでいるようにも 見えない。きっと 何か不測の事態が起きたんだ。
家に戻ったら 話をちゃんと聞こう。

 俯いて元気がなかったフローラだったが、家に着く頃には 面を上げていた。 その決意した表情に ジャックは感心する。
 めそめそ泣かれたら、どうしようかと思っていた。
 やはり単身 姉を探そうとするくらいだから 根性がある 。 何があったか分からないが 助けてあげたい。
(だったら・・)

**
 
家に 戻ったジャックは、早速 元気がない その理由を フローラに聞いた。

その娘の話を信じるなら、死んではいないが行方不明と言う事になる 。
「それで、これからどうするんだ?」
「もちろん。姉を探しにセレス村に行きます」
 フローラは、持ち前の 行動力で 探しに行くと言う。すべて予想通り。
ジャックは、フローラにコーヒー渡すと自分の席に つく。
「そうか、だったら俺も一緒に行く」
「駄目です。これ以上 迷惑かけられません」

 フローラが即座に断る。それも想定内。 ここからは フローラが重荷に思わないように話を進めよう。
「 そんなこと気にするな」
「だって・・人間の村ですよ。 正体がバレたら、どんな目に合うか・・」
 その理由を言い淀む。 フローラが、そう心配するのも当然だ。
「 まあ、酷い目に遭うだろうな」
「だったら、なおさらです」
 だが、人間に酷い目に合わされるのは 初めてじゃない。 死なないと 分かっているから、人間は えげつない事をやってくる。 フローラが 想像もしない様な、ありとあらゆる方法で いたぶられた。

 だが、それも最初だけ。 やられたら やり返す。
 お陰で、ずいぶん強くなった。
「 死ぬかも しれないんですよ」
「 もう、死んでる」
「 もう!そういう事を言ってるんじゃありません 」
怒ったフローラが、椅子を倒して立ち上がる 。

ジャックは 宥めるように手根骨を何度も降る。
言葉のあやでも 自分の身を心配してくれるのは、ありがたい。フローラみたいな人間ばかりなら平和なのに・・。
「そんなに 心配しなくていい。 お前の想像する10倍・・いや 20倍は長生きしてるんだ。それなりに人間に ばれないノウハウはある」
「 それは・・そうでしょうけど・・」
 唇を突き出して不満げなフローラを残してジャックは自分の部屋から お面と手袋を持って、戻ってくる。

「これを、こうして フードをかぶれば 見つからない」
フローラの目の前で手袋と陶器の面をつけてみせる。手袋は ありふれた物だが、面の方は特注品で 村長代理として村から村へ旅をするために、仕立てた物だ。
 頬骨の出っ張りに嵌め込めるので、外れにくい。 肌色に着色されて人間の顔のように凹凸もある。 前頭骨全体、横は外耳道の辺りまで あるので 面というよりマスクに近いかもしれない。
 それに、フードで影が 出来るから見分けづらい。

「 すごい。よく出来てますね。でも、これでバレ無いんですか?」
 半信半疑のフローラが俺の周りを回りながら、じろじろと見てくる。 フローラが思っているほど 人は他人に無関心なものだ。 違和感を感じなければ誰も顔を確かめようとはしない。
だから、目立たぬように行動すれば大概のトラブルは回避できる。

「心配ない。これで、いつも旅をしている」
「旅?」
フローラが首を傾げる。
 そういえば、どんな仕事をしているか 言っていなかったな。 しかし、村長代理だと言ったら気を使うかもしれない。 ここは黙っていよう。
「 俺は色々と・・出歩いているんだ。 だから、姉さんを探すのに力を貸せる」
 フローラが俺の顔をじっと見る。その目は何か言いたそうだ。 見つめ返すと、フローラが目を伏せる。
「 フローラ?」
「 ジャックは、どうして そこまでしてくれるんですか?」
「・・・」
 そう聞かれたジャックは どう説明すれば いいのか言葉を探す。 人探しの苦労は誰よりも知っている。 俺の場合はアンデッドの友だったから、 たとえ 雲をつかむような話だったとしても 死ぬという心配は 無いから、 タイムリミットがなかった。 でも、フローラが探してるのは人間。 
しかも、姉だ。 言葉には しないが最悪の結果だって考えられる。
 必死に姉を探すフローラを ここで突き放すなどできない。 

正直に言えばフローラに 自分を重ねているのかもしれない。 自分が果たせなかったことを成し遂げて欲しいと。 それに ここで別れたら、気になって目覚めが悪い。 何より今のフローラには、側にいて相談に乗ってくれる者が必要だ。
「 俺も人探しの経験があるからだ。連れて行けばその時の事が役に立つ」
「 そうなんですか。 それで、見つかったんですか?」
「んっ、ああ」
 屈託なく聞いてくるフローラの問に、ジャックは 言葉を濁す。 もし、俺が人間だったら 顔を強張らせているだろう。 トニーとの最期の別れが浮かぶ。 あの時 本気で止めていれば・・。
 今更考えても結果は変わらないのに。 どうしても考えてしまう。

「 良かったですね 」
「だから、大船に乗ったつもりで任せろ」
「 はい」
 そう言って肋骨を叩くとフローラが 笑顔で大きく頷く。 フローラの その笑顔を守りたい。


 **旅立ち**:

 朝霧の中、玄関先に佇み。
ジャックの父のトーマスは 仲良く並んで村を出ていく二人を心配気に見送る。
 昨夜 突然ジャックが来て、 フローラの姉に結婚の許しを得るために 旅に出ると言ってきた。

「このままだとフローラの村の連中が押しかけてきて、連れ戻そうとする村の人たちと喧嘩になるかもしれない。 もし それで村の誰かが怪我でもしたら フローラは この村に来たことを すごく後悔するはず。 彼女に、そんな思いはさせたくない」
「・・・」
「 男なら責任を取れと言ったのは、おやじだぞ、頼む」  

 頭を下げる息子を見ながら フローラを本気で好きに なってしまったのかと疑う。
 ジャックは 根がお人好しだ。
生きている時も、死んでからも 他人の世話ばかりで 浮いた話ひとつなかった。
 本当に恋人同士なら、とっくに紹介している。 だから、何か理由があってフローラを連れてきたと思っていたんだが・・。

 まさか、承諾をもらいにフローラの姉に会いに行くと言い出すとは 想像もしてなかった。
 本音を聞きたいところだが、父親の儂では、言わないだろう。 こんな時に 女房が生きていれば、頼りになるんだが・・。
 オトガイ孔を 右手の親指と人差し指の末節骨で 何度も擦る。
フローラが心変わりをしないことを願うばかりだ。

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