お人好しアンデッドと フローラの旅は道連れ世は情け。 骨まで愛してる。

あべ鈴峰

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新たな真実

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姉を拐った奴隷商人を見つけ出したフローラは、ジャックの協力のもと救出しようとしていた。

騒いでいる村人たちを奴隷商人の男が、両手を広げて静かにさせる 。
「お忙しい中、集まってくださって ありがとうございます」
また、悪事をはたらこうとしえいる。
お前たちが 売ろうとしているのは、同じ人間の女だと言うのに 良心は 痛まないの。
(絶体、許さない!)
あの日から今日まで 悲しみと怒りが、渦になって全身を焼いている。

「とびきりの娘たちを用意しました。 どうぞご覧ください」
奴隷商人の男が、振り返ると仲間の 大柄な男が檻の幕を剥ぎ取る。
よく見ようと村人達が、檻を取り囲む。
 檻の中の 娘たちが、悲鳴を上げることも出来ないはど、怯えている。
 アンデッドを見るのが、初めてじゃなくても。 これだけの数に囲まれたら私だって怖い。
とうとう 耐えきれずに娘たちが、すすり泣く。

「 どうだ居たか?」
「わかりません」
「そうか」
ジャックの問に首を振る。
娘たちは 皆 、俯いて団子のように固まっていて 肝心の顔が見えない。 金髪か どうかも、ここからでは見分けがつかない 。それに、こうも村人が多いと見にくい。
「 もう少し近づけば、なんとかなると思うけんですけど・・」
馬車の辺りは、アイツらが陣取っていて近づけない。下手に見に行ったら、姉と同じように 拐われてしまうかもしれない。
(どうしよう・・)

「・・姉さんは、フローラに似ているのか?」
「 どうしてですか?」
急に 姉に関心を持ったジャックを訝しげに見る。
「 俺が フローラの代わりに娘たちを見てくる」「 本当ですか!」
「ああ」
ジャックの申し出は 願ってもないことだ。
ジャックならアンデッドだから、アイツらに怪しまれない。 フローラは、ジャックに姉の容姿について細かく説明する
「 金髪に緑色の目で・・。 そうです。左目の下に涙黒子が あります」
「 左目だな。行ってくるから、ここで待ってろ」
 そう言うとジャックが馬車に向かって歩いて行く。 
よかった。これで姉に会える。

そう、安心したのもつかの間、ジャックに気付いた おばさんたちが、何しに来たのかと取り囲む。
「 ここで、何してるんだい」
「ちょっと見たいだけだ」
「 浮気しようとしてるんだね」
「 とんでもない男だ」
 多分親戚だと思われる叔母さん達が、文句を言いながら ジャックの体をバシバシ叩く。

「 違う。違う。買うつもりは無い」
「 だったら、どうして見たのさ」
「 それは・・」
「 やっぱり、美人がいたら乗り換える気だね」
「 そんなことじゃ。捨てられるよ」
 ジャックが、いくら言い訳を言っても 浮気だと思い込んでるから 叔母さん達は容赦ない。
 彼が、叩かれるたび自分のことのように顔をしかめる。 
本当なら私が 叩かれるはずだったのに・・。

ジャックが馬車の周りを回る間中 おばさん達の攻撃が続く。
物陰から痛そうだと思いながら見ていると ジャックが逃げ出すように こっちに来る。
私のために ひどい目にあわせてしまった。
 フローラはジャックを迎えに一歩前に出た。 
ところが手前の路地で曲がる。
 場所を忘れたのかと 追いかけようとすると、 それを止めるように誰かに 肩を掴まれる。

ぎくりとして息が詰まる。
まずい見つかった!
 フローラは命綱のようにカバンを握る。必死に言い訳を考える。何と言えば怪しまれない。
しかし、そう簡単に思いつくものでもない。
どうしたら・・。
(ジャック助けて!)
祈る気持ちでジッとしていると 
「俺だ。フローラ」
ジャックの声に安堵して振り返る。
 どこを通ってきたか知らないが、後ろに居る。
時間にしたら数秒だろう。それでも長く感じられた。 フローラ 警戒を解くと、早速答え求める。

「それで、どうでした?」
「居ない。 ほんとだ。二度見た。そもそも金髪が居ないんだ」
ジャックが首を横に振る。ジャックが言ってるんだから 本当のことだろう。
「 そんな・・バカな・・」
 では、姉はどこに? まさか殺されたの?
足の力が抜けて、その場に崩れ落ちそうになるの ジャックが支えてくれる。

「ジャック。どうしよう・・」
縋るように訪ねてる。
「フローラ・・」
 ここまで来たのに、間に合わなかったの?
姉との日々が次々と浮かんでくる。 両親が死んでから、ずっと二人で支えあって生きてきた。 その姉が死んだ?そんなの信じない。
お姉ちゃんの死体をこの目で確認するまで信じない。
(絶体、生きてる!)

 フローラはジャックの腕を掴むと強く揺さぶる。
「私を檻まで 連れて行って」
「・・・」
しかし、ジャックは黙って私を見るだけだ。
もう一度 頼もうとした時、広場が騒がしくなる。 振り返って見に行くと村人たちが ぞろぞろと広場から 帰ろうとしている。
「 フローラ。競りが終わったんだ。ここにいたら見つかる」
「 でも・・」
「 とにかく、この場を離れよう」
後ろ髪引かれる気持ちのままジャックの言う通りにする。

***

泣きそうになるのを我慢しているフローラを見て、ジャックの心が痛む。
自分の目で確かめたいという気持ちは分かる。
 時間が経てば、経つほど見つかる確率は、どんどん小さくなっていく。
だが、フローラを 娘たちと接触させるのは・・。

*****

家に戻ったフローラはジャックに 協力してくれと もう一度 頭を下げた。 しかし、ジャックに姉の 消息 を知りたいのは分かるが、娘達と直接会うのは危険だと反対された。
「でも、姉の情報を持っているのは、彼女たちだけなんです」
「 だったら、娘たちに、助けてくれと言われたらどうする?」
「それは・・」
確かに人間の私を見たら、助けてくれと頼んでくるだろう。話を聞くだけ聞いて、ハイおさらばとは いかない。 騒がれたら私も捕まってしまう。そう考えると、自分のしようとしている事が ひどく利己的で悪いことに思える。

でも・・。
行き詰ってしまった状況に 涙が滲む。
どうしたら いいの?私は、ただお姉ちゃんに会いたいだけなのに・・。
「 全く・・」
ジャックが 困ったように言う。見ると 頭をポリポリと掻いている。
「ジャック?」
「一つだけ、事を穏便に済ませる 方法がある」
フローラは首をかしげてジャックを見る。
 私にアンデッドにでもなれというのだろうか。

「それは、 何ですか?」
 「それは・・その ・・」
ジャックが言いにくそうに横を向くと頬を指で掻く。
「言って下さい」
 「俺の・・妻だと言えば いい」
「 妻?」
「そっ、そうだ。自分と同じような境遇に同情して 差し入れを持って行けば良い。 そうすれば向こうも協力的になるし 何も言われずに 帰ってこれる 」
 フローラはジャックの思いつきに目の前が開ける 。すでに村人たちに、そう思われているから 私が娘達に会っても咎めはしないだろう。

「 ジャック。ありがとう!」
「なっ、なっ」
 フローラはジャックに飛びつく。すると、 ジャックが反射的に私を抱きしめる。 骨ばって硬い体は 大木のように、どっしりとして頼りがいがある。ジャックは、 やっぱり私の味方だ。

****

ジャックの手引きで、宿へ向かいながら言い聞かされた事を考える。
私が売られる娘たちを見て同情すると心配していた。 実際、目の当たりにしたら 私の心が揺れるだろう。 でも、割り切るしかない。
 娘たちを同情する余裕は 私には無い。


宿屋の裏に馬車が止まっている。
 ジャックに見張りを頼んで フローラは幕をめくって中に入る。
檻の下に藁が 引いてあるが 替えていないのか 汚れていている。
男達の酷い扱いに怒りがこみ上げる。
 しかし、ここで怒っても役に立たないと気持ちを切り替える。

  誰が 来たと怯える娘たちに指を口に当てて静かにさせる。外套のフードを外すと人間の娘だと気付いて、隅っこで固まっていた5人の娘たちたが 近寄って来た。
 フローラは、娘たちを手招きする。
どの顔も期待に満ちている。
 全員の顔を確かめたが、やはり姉が居ない。
おかしい。拐われて 5日なのに・・。殺されてしまった?
悪い方に考えそうになる自分を否定する。
 いや、売り物だもの、そんなことをしない。
きっと、猿轡でもされて、どこかに隔離されてるんだ。

「 あんた誰?」
「助けてくれんの?」
娘たちが、 柵を掴んで少しでも近づこうとする。
「 ごめん、私はこの村のジャックの花嫁なの 」そう言うと娘たちに失望の色が浮かぶ。
「でも、差し入れを持ってきたから 食べて」
持参したバスケットの蓋を開けると娘達が、ごくりと唾を飲み込む。
どうやら食事も まともに食べさせてもらってないらしい。

フローラは パイを餌に情報を聞き出す。
「 ちょっと聞きたいんだけど、5日ぐらい前にカーラって言う 私に似た20歳ぐらいの女の子見なかった?」
 「ううん。見てない」
「そんな名前、聞いた事ない」
娘たちが我先にとパイを奪い合いながら返事をする。
誰も お姉ちゃんのことを知らないんだろうか・・。あの後、すぐに売られた?
(・・・)
「ねえ、どうしてその女の子を探してるの?」
娘の質問に我に返る。

「姉なんだけど・・。 一緒にさらわれたから行方が知りたくて」
さらわれたのは姉一人だけど、あの日からの妹の私の心も一緒にさらわれた。 娘たちが気の毒そうに私は見る。フローラは固い笑みを返す
 (お姉は どうなったの・・)

「私たちが、捕まったのは3日前だから・・」
手前にいた二人組が、お互いに顔を見合わせて来る。
「そうなんだ・・」
残りの人からも情報を聞きたくてフローラは、 手を伸ばしてバスケットを奥へ差し出す。
すると、様子見だった3人が近づいてくる。

その中の一人が手を上げる。
「私 知ってる」
「本当に!どこにいるの?」
良かった。これで手がかりがつかめる。
手を上げた娘が思い出そうと空を見る
「ん~と、確か4日前に 売られた」
「売られた!?」

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