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フローラと言う人間
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フローラはジャックに案内されて部屋に入る。
「 この部屋を使ってくれ」
良い感じの部屋だと 見回していると窓を開けようとしたジャックが振り返る。
用があるのかと 声をかけようとするとジャックが 指を口に当てて 静かにするようにと 頷く。
何かあるのだろうか?
不安なままコクリと頷き返すとジャックが、ガラッと窓を開ける。
ドシーン!
「うわぁ」「ひゃあー」「ひーぃっ」
大きな音と一緒に複数の悲鳴が聞こえる。
驚いて窓から下を見ると 数人の男たちが 梯子と一緒に倒れている。
「 ごめん。ごめん」「俺たちは、これで退散する」「 いや、たまたま通りかかっただけだよ。たまたま」
「 まったく!とっとと帰れ」
ジャックの友達らしき人達が口々に言い訳しながら 這々の体で逃げ出して行く。 その姿にクスリと笑う。 向き直ったジャックが頭を下げる。
「 許してやってくれ、悪気はないんだ。アイツらなりに俺のことを心配してるだけなんだ」
「 それは分かります。 私も友達が、結婚すると言ってアンデッドを連れて来たら 心配しますから」
気にしてないと手を振る。
相手の顔が見たかっただけで 私に危害を加えようと思っているわけではない。
ただの好奇心だ 。
「そうか、なら良かった」
「 ジャックー。居るんでしょ、どこ?」
そう言ってジャックが安心したように笑う。
が、一階からの声に真顔に戻る。
声を聞いただけで 誰か分かるなら 親しい相手なのだろう。 家族だろうか?
「 誰が来たんですか?」
今度は誰だろうと聞くと ジャックが真剣な顔で私の両肩に手を置く。
「 いいか、絶対 部屋を出るなよ。 声も出しちゃダメだぞ」
分かったと 頷いたのに 何度も振り返っては 私に念押ししながら ドアを閉めて出て行く。
女の人の声だったけど、よほど 私と合わせてたくないらしい。
別段 紹介して欲しい思わないけど・・。
一人になったフローラはベッドに座ると ふーっと息を吐く。とうとう ここまで来た。
「 お姉ちゃん。もうすぐだよ。待ってて」
本当にジャックが良いアンデッドで良かった。 もし悪いアンデッドだったら昨日の夜のうちに 喰い殺されていた。
アンデッドは人間を喰うと 言っていたけれど ・・。
ジャックは 何を食べるんだろう?
さっき飲んだコーヒーは 私たちが飲んでいるものと変わりなかった。その前に見たアンデッドはタバコを吸ってし・・。
人間と同じ物を食べるんだそうか?
なんだか、自分が想像していたアンデッドと違う。
コン!コン!
「フローラ!開けてくれ」
ドアを開けると ジャックが大荷物を抱えて入ってくるなりベッドに置く。
「 どうしたんですか?これ 」
「叔母が来てフローラにって」
ベッドの上には着替えやタオルなど 色々と日用品が並ぶ 。私達の結婚することが決まりらしい。 その荷物を見てジャックが頭をポリポリと掻く。
「 しかし参ったなぁ・・。こんな目に遭うなんて」
「ふふっ」
フローラは忍び払いを漏らす。
知り合いが、結婚すると、聞いたら何か贈りたいと考えるのが普通だ。
特におばさん達は 世話を焼きたがる。それは、人間もアンデッドも同じらしい。
「ジャック!居る?」
下から また声がする。
さっきと違う声にジャックが、うんざり顔で返事をする。
「 今行くから!」
おばさん達は相手の都合などお構いなしに 押しかけてくると相場が決まっている。
「ぷっ」
こらえきれず吹き出すと ジャックが 他人事だと思ってと 私を恨めしそうに見る。 フローラは、ごめんなさいと口を手で押さえる。
ジャックが、諦めたように肩を落とすと
「 ちょっと行ってくる。何か用があったら呼んで 」
そう言うとドタドタと音を立てて階段を下りていく。
1階から相手を邪険にできないジャックが 丁寧に話している声がする。
それか、ジャックの人柄を表すていて微笑ましい。
アンデッドも人間も 義理人情があって 変わらない。
そう思うと肩の力が抜ける。
人を 喰うとか、慈悲もないとか聞いていたけれど。
すんなり村に受け入れられてしまうと 噂は所詮噂ということになる。
もちろん人間に悪い人がいるように アンデッドの中にも居ることは自覚している。
でも、この村の人は良いアンデッドばかり。
*****
ジャックは食卓のテーブルに突っ伏す。 こんなに沢山の人を相手にしたのは初めてだ。
( くたびれた ・・)
覗きの次は押しかけ。 次から次へと親戚や知人が ひっきりなしに訪ねてきては どこから引っ張り出したのか 新婚生活の必需品だと言って 色々と持ってくる。
(そんなの頼んでないのに・・)
要らないと言っても叔父も叔母も 強引に押し付けてくる。 正直 女物の服や食器はありがたいが、叔母さんたちを騙すようで申し訳ない気持ちになる。
しかし、タオル一枚 コップ一個で 何十分も居座られたら、堪ったもんじゃない。 しまいには喋ったこともない者まで押しかけてくる始末。
見たいのは分かるけど 少しは気を使ってほしい。
「 お疲れ様 」
コトリと音を立ててマグが置かれる。 見上げるとフローラが微笑んでいる。
淹れたてらしく 煎った豆の匂いがする。
アンデッドの俺に 肉体疲労があるかどうかは分からないが、 精神的には疲労しているから 癒される。
「 ありがとう」
こういう気遣いを受けるのは 母親が死んで以来だから 数百年ぶりだ。 たまには こうやって面倒を見てもらうのも悪くない。
さっそく一口飲む。 他人が入れてくるコーヒーは、どうしてこうも旨いんだろう。
味わうようにもう一口飲む。
「 暫くは皆の注目の的になると思う。 そこは我慢してくれ 」
「それくらい平気です」
「 なら、良いけど・・」
フローラが簡単に了解する。 田舎の恐ろしさを知らないな。
極力部屋を出ないようにするか?
でも、そうなると明日も皆が押しかけてくる。
デートだと言って出かけるか ?そうすれば無駄な気を使わなくて済むし。 不用品が増えるのも防げる。
でも、デートか・・。
どこへ連れて行けば喜ぶんだ?
頭の中に、それらしい場所を思い浮かべる。
でも、人間の彼女に害の及ばない場所となると 限られるな・・。 フローラの好きな物も知らないし、 どうしたものかと悩む。
ジャックは戸締りを2度確認して やっとベッドに横になった。
一目、フローラを見ようと 村中の者が家の周りをうろついている。 何で、何もしていない俺達が 隠れなくちゃいけないんだ。
まるで、犯罪者になった気分だ。
*****
「お姉ちゃん!」
自分の叫び声で目を覚ましたフローラは 見知らぬ天井を見て夢だったと気づく。
助けられなかった・・。
あとちょっとで荷馬車に追いついたのに・・。
フローラは自分の手のひらを見つめる。
転ばなければ お姉ちゃんが拐われる事はなかったのに・・。
何度も、あの日を思い出しては 後悔する。
どうして、お姉ちゃんを一人にしたの?
どうして、お姉ちゃんの叫び声に気付くのが遅かったの?
どうして?
どうして?
どうして?
いくら考えても堂々巡り。 過去が変わるわけではない。 分かっていても・・・。
こみ上げる涙をシーツで拭う。
そんな悲しい気持ちの私など お構いなしに コーヒーの匂いが漂ってくる。
下から聞こえるジャックの出す生活音にフローラば 笑みを浮かべる。
(そうだ。ここはジャックの家だ)
良い香りだと目を閉じて匂いを嗅ぐ。
もう一人じゃない。ジャックが いる。
そのことが勇気と希望を与えてくれる。
ジャックが待っている。
涙を拭うと勢いよく布団をはぐ。
階段降りていくとジャックが振り返る。
「 おはようございます」
「ああ、 おはよう」
こうして挨拶を返してくれる人がいることに 幸せを感じる。 たとえそれがアンデットでも。
席に着くとコーヒーと一緒に 焼きたてのパンが出てきた事に驚く。
ジャックがパンを焼いたとは思えない。
「 これ、どうしたんですか?」
「ああ、 マリー叔母さんが持ってきてくれたんだ 」
そういえば、昨日の昼から 何も食べていない。 パンを見た途端空腹を感じる。
「アンデッドは ご飯を食べるんですか?」
「 俺たちは食べない」
「 えっ?じゃあ・・これ・・」
フローラは食べようとしたパンを見る。
それじゃあ、私のために朝早く起きて、わざわざ焼いてくれたんだ。 昨日 来たばかりで私の顔さえ知らないのに・・。
その気遣いに感動する。
*****
食べずにパンを見ているフローラを見て 心を隙間風が通り抜ける。 服を着ても、ベッドで寝ても 村の外の人間からしてみれば アンデッド以外の何者でもない。
頭では 仕方ない事と分かっていも 受け入れてもらえない事に傷つく。
フローラが悪いわけじゃない。 でも、アンデッドに対する偏見が あるのか・・。
「 大丈夫だ。ちゃんとしパンだから。今は こんな見た目だが、昔は人間だったんだ」
「 本当に・・このパン食べても良いんですか?」
「ああ、 食べれる」
フローラに、もう1度聞かれてジャックは苛立ちを感じる。 俺に協力を頼んでおいて、実は信用してきないのか?
裏切られた気分になる。
フローラがパンに鼻を近づけて思い切り息を吸い込む。
「 パンを食べるの久しぶりです。う~ん、 この香り・・」
「えっ?」
フローラが、パンをちぎって口に放り込むと目を閉じて頬を押さえている。
「 美味しいですー」
フローラが美味しそうにパンを食べている姿を見て、偏見を持っていたのは俺の方だ。 疑った自分が情けない。人間だとしても フローラは、フローラとして考えないと。
「 いつもは何を食べてるんだ?」
「う~ん。 だいたい豆のスープか、じゃがいもですね。 小麦は贅沢品ですから」
(贅沢品か・・)
何とも言えない気持ちになる。
「ごちそうさま」
フローラが手を合わせる。 でも、ほとんど食べていない。
「 まだ残ってるぞ。 美味しくなかったか?」
「いいえ、もったいないから少しずつ食べます」
フローラがハンカチを広げてパンを乗せる。
フローラが裕福でないことは分かっていたが、ここまで来ると不憫だ。
パンを鞄にしまおうとする。 その手を自分の中指骨をのせる。
「ジャック?」
「まだパンは、あるから全部食べろ」
「 でも・・」
嘘だ。後でマリー叔母に頼んで焼いて貰おう。
躊躇うフローラに 言葉を続ける。
「 本当だ。パンを焼くときは一個のはずないだろ」
「じゃあ、遠慮なく」
そう言うとフローラが納得してハンカチを開く。ジャックはコーヒーポットを取りに立ち上がって振り返るとフローラがペロリとパンを平らげている。
そんなフローラは見て クスリと笑う。
よほどお腹が空いていたんだな。
ジャックは無言てフローラのマグにコーヒーをつぎたす。
こうして誰かと食卓を囲むのは、いつ以来だろう。 懐かしくもあり、新鮮でもある。
それは彼女だからなのか・・。
どうだろう。わからない。
「ジャック。マリー叔母さんに、お礼を言いたいです」
「えっ」
フローラが身を乗り出すと俺の中手骨を掴んで 真摯に頼んで来る。突然の申し出に驚いたが 彼女は そういう人間だ。
落としたものを届けたり、行方不明の姉を探したり。 全てが善に包まれている。
「ここまで歓迎してくれているのに 無視するのは、人としてダメです」
「 でもなぁー 」
「いくら、すぐ居なくなると言っても 礼は尽くさないと。 お願いします」
俺に向かって 頭を下げるフローラを見ながらジャックは悩む。 フローラの気持ちも分かる。
だか、マリー叔母さんと親しくなる事は避けたい。何故なら、 俺は芝居だと知っているが、叔母 は知らない。 仲良くなって、からあれは芝居だったと知れば傷つく。
「俺から言っておくから、我慢してくれ」
「 そうですか・・仕方ないですね」
肩を落として腰下ろす。 フローラも この村に滞在するのは 3日だけだと自覚している。
マグに手を伸ばしたフローラが俺を見る 。
「でも、噂は本当だったんですね」
「噂?」
「 この部屋を使ってくれ」
良い感じの部屋だと 見回していると窓を開けようとしたジャックが振り返る。
用があるのかと 声をかけようとするとジャックが 指を口に当てて 静かにするようにと 頷く。
何かあるのだろうか?
不安なままコクリと頷き返すとジャックが、ガラッと窓を開ける。
ドシーン!
「うわぁ」「ひゃあー」「ひーぃっ」
大きな音と一緒に複数の悲鳴が聞こえる。
驚いて窓から下を見ると 数人の男たちが 梯子と一緒に倒れている。
「 ごめん。ごめん」「俺たちは、これで退散する」「 いや、たまたま通りかかっただけだよ。たまたま」
「 まったく!とっとと帰れ」
ジャックの友達らしき人達が口々に言い訳しながら 這々の体で逃げ出して行く。 その姿にクスリと笑う。 向き直ったジャックが頭を下げる。
「 許してやってくれ、悪気はないんだ。アイツらなりに俺のことを心配してるだけなんだ」
「 それは分かります。 私も友達が、結婚すると言ってアンデッドを連れて来たら 心配しますから」
気にしてないと手を振る。
相手の顔が見たかっただけで 私に危害を加えようと思っているわけではない。
ただの好奇心だ 。
「そうか、なら良かった」
「 ジャックー。居るんでしょ、どこ?」
そう言ってジャックが安心したように笑う。
が、一階からの声に真顔に戻る。
声を聞いただけで 誰か分かるなら 親しい相手なのだろう。 家族だろうか?
「 誰が来たんですか?」
今度は誰だろうと聞くと ジャックが真剣な顔で私の両肩に手を置く。
「 いいか、絶対 部屋を出るなよ。 声も出しちゃダメだぞ」
分かったと 頷いたのに 何度も振り返っては 私に念押ししながら ドアを閉めて出て行く。
女の人の声だったけど、よほど 私と合わせてたくないらしい。
別段 紹介して欲しい思わないけど・・。
一人になったフローラはベッドに座ると ふーっと息を吐く。とうとう ここまで来た。
「 お姉ちゃん。もうすぐだよ。待ってて」
本当にジャックが良いアンデッドで良かった。 もし悪いアンデッドだったら昨日の夜のうちに 喰い殺されていた。
アンデッドは人間を喰うと 言っていたけれど ・・。
ジャックは 何を食べるんだろう?
さっき飲んだコーヒーは 私たちが飲んでいるものと変わりなかった。その前に見たアンデッドはタバコを吸ってし・・。
人間と同じ物を食べるんだそうか?
なんだか、自分が想像していたアンデッドと違う。
コン!コン!
「フローラ!開けてくれ」
ドアを開けると ジャックが大荷物を抱えて入ってくるなりベッドに置く。
「 どうしたんですか?これ 」
「叔母が来てフローラにって」
ベッドの上には着替えやタオルなど 色々と日用品が並ぶ 。私達の結婚することが決まりらしい。 その荷物を見てジャックが頭をポリポリと掻く。
「 しかし参ったなぁ・・。こんな目に遭うなんて」
「ふふっ」
フローラは忍び払いを漏らす。
知り合いが、結婚すると、聞いたら何か贈りたいと考えるのが普通だ。
特におばさん達は 世話を焼きたがる。それは、人間もアンデッドも同じらしい。
「ジャック!居る?」
下から また声がする。
さっきと違う声にジャックが、うんざり顔で返事をする。
「 今行くから!」
おばさん達は相手の都合などお構いなしに 押しかけてくると相場が決まっている。
「ぷっ」
こらえきれず吹き出すと ジャックが 他人事だと思ってと 私を恨めしそうに見る。 フローラは、ごめんなさいと口を手で押さえる。
ジャックが、諦めたように肩を落とすと
「 ちょっと行ってくる。何か用があったら呼んで 」
そう言うとドタドタと音を立てて階段を下りていく。
1階から相手を邪険にできないジャックが 丁寧に話している声がする。
それか、ジャックの人柄を表すていて微笑ましい。
アンデッドも人間も 義理人情があって 変わらない。
そう思うと肩の力が抜ける。
人を 喰うとか、慈悲もないとか聞いていたけれど。
すんなり村に受け入れられてしまうと 噂は所詮噂ということになる。
もちろん人間に悪い人がいるように アンデッドの中にも居ることは自覚している。
でも、この村の人は良いアンデッドばかり。
*****
ジャックは食卓のテーブルに突っ伏す。 こんなに沢山の人を相手にしたのは初めてだ。
( くたびれた ・・)
覗きの次は押しかけ。 次から次へと親戚や知人が ひっきりなしに訪ねてきては どこから引っ張り出したのか 新婚生活の必需品だと言って 色々と持ってくる。
(そんなの頼んでないのに・・)
要らないと言っても叔父も叔母も 強引に押し付けてくる。 正直 女物の服や食器はありがたいが、叔母さんたちを騙すようで申し訳ない気持ちになる。
しかし、タオル一枚 コップ一個で 何十分も居座られたら、堪ったもんじゃない。 しまいには喋ったこともない者まで押しかけてくる始末。
見たいのは分かるけど 少しは気を使ってほしい。
「 お疲れ様 」
コトリと音を立ててマグが置かれる。 見上げるとフローラが微笑んでいる。
淹れたてらしく 煎った豆の匂いがする。
アンデッドの俺に 肉体疲労があるかどうかは分からないが、 精神的には疲労しているから 癒される。
「 ありがとう」
こういう気遣いを受けるのは 母親が死んで以来だから 数百年ぶりだ。 たまには こうやって面倒を見てもらうのも悪くない。
さっそく一口飲む。 他人が入れてくるコーヒーは、どうしてこうも旨いんだろう。
味わうようにもう一口飲む。
「 暫くは皆の注目の的になると思う。 そこは我慢してくれ 」
「それくらい平気です」
「 なら、良いけど・・」
フローラが簡単に了解する。 田舎の恐ろしさを知らないな。
極力部屋を出ないようにするか?
でも、そうなると明日も皆が押しかけてくる。
デートだと言って出かけるか ?そうすれば無駄な気を使わなくて済むし。 不用品が増えるのも防げる。
でも、デートか・・。
どこへ連れて行けば喜ぶんだ?
頭の中に、それらしい場所を思い浮かべる。
でも、人間の彼女に害の及ばない場所となると 限られるな・・。 フローラの好きな物も知らないし、 どうしたものかと悩む。
ジャックは戸締りを2度確認して やっとベッドに横になった。
一目、フローラを見ようと 村中の者が家の周りをうろついている。 何で、何もしていない俺達が 隠れなくちゃいけないんだ。
まるで、犯罪者になった気分だ。
*****
「お姉ちゃん!」
自分の叫び声で目を覚ましたフローラは 見知らぬ天井を見て夢だったと気づく。
助けられなかった・・。
あとちょっとで荷馬車に追いついたのに・・。
フローラは自分の手のひらを見つめる。
転ばなければ お姉ちゃんが拐われる事はなかったのに・・。
何度も、あの日を思い出しては 後悔する。
どうして、お姉ちゃんを一人にしたの?
どうして、お姉ちゃんの叫び声に気付くのが遅かったの?
どうして?
どうして?
どうして?
いくら考えても堂々巡り。 過去が変わるわけではない。 分かっていても・・・。
こみ上げる涙をシーツで拭う。
そんな悲しい気持ちの私など お構いなしに コーヒーの匂いが漂ってくる。
下から聞こえるジャックの出す生活音にフローラば 笑みを浮かべる。
(そうだ。ここはジャックの家だ)
良い香りだと目を閉じて匂いを嗅ぐ。
もう一人じゃない。ジャックが いる。
そのことが勇気と希望を与えてくれる。
ジャックが待っている。
涙を拭うと勢いよく布団をはぐ。
階段降りていくとジャックが振り返る。
「 おはようございます」
「ああ、 おはよう」
こうして挨拶を返してくれる人がいることに 幸せを感じる。 たとえそれがアンデットでも。
席に着くとコーヒーと一緒に 焼きたてのパンが出てきた事に驚く。
ジャックがパンを焼いたとは思えない。
「 これ、どうしたんですか?」
「ああ、 マリー叔母さんが持ってきてくれたんだ 」
そういえば、昨日の昼から 何も食べていない。 パンを見た途端空腹を感じる。
「アンデッドは ご飯を食べるんですか?」
「 俺たちは食べない」
「 えっ?じゃあ・・これ・・」
フローラは食べようとしたパンを見る。
それじゃあ、私のために朝早く起きて、わざわざ焼いてくれたんだ。 昨日 来たばかりで私の顔さえ知らないのに・・。
その気遣いに感動する。
*****
食べずにパンを見ているフローラを見て 心を隙間風が通り抜ける。 服を着ても、ベッドで寝ても 村の外の人間からしてみれば アンデッド以外の何者でもない。
頭では 仕方ない事と分かっていも 受け入れてもらえない事に傷つく。
フローラが悪いわけじゃない。 でも、アンデッドに対する偏見が あるのか・・。
「 大丈夫だ。ちゃんとしパンだから。今は こんな見た目だが、昔は人間だったんだ」
「 本当に・・このパン食べても良いんですか?」
「ああ、 食べれる」
フローラに、もう1度聞かれてジャックは苛立ちを感じる。 俺に協力を頼んでおいて、実は信用してきないのか?
裏切られた気分になる。
フローラがパンに鼻を近づけて思い切り息を吸い込む。
「 パンを食べるの久しぶりです。う~ん、 この香り・・」
「えっ?」
フローラが、パンをちぎって口に放り込むと目を閉じて頬を押さえている。
「 美味しいですー」
フローラが美味しそうにパンを食べている姿を見て、偏見を持っていたのは俺の方だ。 疑った自分が情けない。人間だとしても フローラは、フローラとして考えないと。
「 いつもは何を食べてるんだ?」
「う~ん。 だいたい豆のスープか、じゃがいもですね。 小麦は贅沢品ですから」
(贅沢品か・・)
何とも言えない気持ちになる。
「ごちそうさま」
フローラが手を合わせる。 でも、ほとんど食べていない。
「 まだ残ってるぞ。 美味しくなかったか?」
「いいえ、もったいないから少しずつ食べます」
フローラがハンカチを広げてパンを乗せる。
フローラが裕福でないことは分かっていたが、ここまで来ると不憫だ。
パンを鞄にしまおうとする。 その手を自分の中指骨をのせる。
「ジャック?」
「まだパンは、あるから全部食べろ」
「 でも・・」
嘘だ。後でマリー叔母に頼んで焼いて貰おう。
躊躇うフローラに 言葉を続ける。
「 本当だ。パンを焼くときは一個のはずないだろ」
「じゃあ、遠慮なく」
そう言うとフローラが納得してハンカチを開く。ジャックはコーヒーポットを取りに立ち上がって振り返るとフローラがペロリとパンを平らげている。
そんなフローラは見て クスリと笑う。
よほどお腹が空いていたんだな。
ジャックは無言てフローラのマグにコーヒーをつぎたす。
こうして誰かと食卓を囲むのは、いつ以来だろう。 懐かしくもあり、新鮮でもある。
それは彼女だからなのか・・。
どうだろう。わからない。
「ジャック。マリー叔母さんに、お礼を言いたいです」
「えっ」
フローラが身を乗り出すと俺の中手骨を掴んで 真摯に頼んで来る。突然の申し出に驚いたが 彼女は そういう人間だ。
落としたものを届けたり、行方不明の姉を探したり。 全てが善に包まれている。
「ここまで歓迎してくれているのに 無視するのは、人としてダメです」
「 でもなぁー 」
「いくら、すぐ居なくなると言っても 礼は尽くさないと。 お願いします」
俺に向かって 頭を下げるフローラを見ながらジャックは悩む。 フローラの気持ちも分かる。
だか、マリー叔母さんと親しくなる事は避けたい。何故なら、 俺は芝居だと知っているが、叔母 は知らない。 仲良くなって、からあれは芝居だったと知れば傷つく。
「俺から言っておくから、我慢してくれ」
「 そうですか・・仕方ないですね」
肩を落として腰下ろす。 フローラも この村に滞在するのは 3日だけだと自覚している。
マグに手を伸ばしたフローラが俺を見る 。
「でも、噂は本当だったんですね」
「噂?」
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