お人好しアンデッドと フローラの旅は道連れ世は情け。 骨まで愛してる。

あべ鈴峰

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旅の目的

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親父から やっと解放されてジャックは 娘を自宅に連れてきたが、 リラックスした様子で テーブルを撫でたり 調度品を手に取る姿を見て 疑念を抱く。
「 ここが、ジャックの家なんだ。素敵ですね」
アンデッドの村に 単身侵入したことにも 驚いたが、 男の家にいるのに物怖じしてない事にも 驚く。
 いや はや 何と言うか・・。肝が据わっているのか、鈍感なのか、それとも作戦か?
 いったい何の為に この村に来たのか、その理由が気になるところだ 。

ジャックは娘に椅子を勧めると 自分は、お湯を沸かす。 コーヒーしか出せないが 何も出さないよりは、マシだろう。
「 どうして人間のお前が アンデッドの村に来たんだ?」
「えっ」
 どう考えても 財布を返しに来ただけとは思えない。 
もしそうなら、俺に渡した時点で 解決している。
(・・ 謝礼が欲しいのか?)
 ジャックは返してもらった財布の口を開くと 娘が押し止める。
「 違います! お金は要りません」
(お金は・・か)
やはり目的が あって来たんだ。

「 なら、何が欲しい?」
「それは・・」
 言い出せないようで、 自然と俯いて行く。
「その・・ですから・・」
 何度か言いかけるが その度に口をつぐむ。
 そんなに言い出しづらいことなのか?
 まさか犯罪がらみか!
(・・・)
 否、待て! 決めつけるのは早い 。
とにかく話を聞かないと 判断のしようがない。
「正直に話せば、悪いようにはしない。 俺を信じろ」
「・・・」
会ったばかりのアンデッドを 信じろなど 無茶な話だが そこから始めないと 前に進めない。

 娘が俺の顔をじっと見ていたが、決心が ついたようで 小さく頷くと 事情を話し始める。
「 実は・・3日前 お姉ちゃんが 拐われたんです。 その拐った奴隷商人が 、次に この村を訪ねると酒場の主人から話を聞いて きました」
 3日前、姉、奴隷商人・・ 。競りに出されるということか 。
どこかのバカなアンデッドが 人間を買ったと自慢したことで、 人身売買が横行するようになった。
 悪い習慣だ。

そう言う理由なら、 なりふり構っていられないのも 頷ける 。
自分自身も 止める親父たちを押し切って 親友を探しに行った経験がある。
「 本当に、この村にか?」
「 はい。酒場の主人の話では 奴隷商人たちの縄張りは決まっていて 同じルートしか回らないと 言っていました」
酒場の主人が言っていることは正しい。
 しかし、それは 競りに出す人間がいれば、ということになる。

 「んー、確かに奴隷商人が来るが、 競りが行われるかどうかは 分からないぞ 」
「どういう事ですか?」
 期待を裏切ることになるが 、ここは正直に言った方が娘のためなる。
「 俺たちの村は裕福じゃないから 、 人間を買う村人もほとんどいない。 だから奴らにとって、この村は 商売というより 次の村までの宿屋代わりと 言った方が正しい 」
「競りは行われなくても この村に来ることは来るんですよね?」
「 まあ一応は・・」
 食い下がってくる娘を見てジャックは口ごもる。 
この娘は どこまでの覚悟で、ここに来ているのだろう。 中途半端な気持ちなら 早々に諦めた方がいい。

「それなら問題ありません」
娘が自分に言い聞かせるように言う。その姿をジャックは マグを二つ並べてコーヒーを注ぎながら見つめる。
 今の娘には 希望が必要だろう。 自分も そうやって折れそうになる気持ちを堪えた。 
「 一人で探しているのか?」
「そうです。両親は死んでいて、家族は私だけです」
 固い口調に村の人に声をかけたが 断られたと読み取れる。 みんな奴隷商人と関わりを持つのが怖いんだ。 
もし、自分が頼まれても断るだろう。
「・・・」
人探しが甘いものでないことは、 身をもって知っている。しかし、姉を助けるために一人で何日もかけてやって来たんだから 力を貸してあげたい。

 だが、俺が言ったことも嘘ではない。
 だから、駄目だった時の心構えも大切。 過度の期待は禁物だ。
「奴らは不定期で、やってくる。 だから、お前の予想が当たっているか 、どうかは 分からないぞ。それでも良いのか?」
「 はい。それは覚悟しています」
 念押しすると娘が 深々と頷く。 真剣な表情から姉が見つかるまで 絶対に諦めないという強い意志が見える。 話をした限り たった一人の肉親だ。 諦める事など出来ないだろう。
「 三日経っても、来なかったら 次の 次の場所へ行くつもりです」
「 次の、次って・・ ルートを全部調べたのか?」 
「もちろんです」
「ふ~ん」
 当たり前だと胸を張る娘に 感心する。 後先考えずに感情だけで行動していると思っていた。
 ただの小娘かと思っていたが 根性があるし、計画性もある。

マグを渡すと娘がコーヒーに息を吹きかける。 何気ない仕草に、自分たちが もう 暑さや寒さに鈍感になっていると改めて思う。
 実際 アンデッドの姿に、なってから 空腹を感じない 。 食べ物は食べなくなったが 喉ごしの冷たさや 香りを楽しむように 酒を飲んだりタバコを吸ったりする。
ジャックは自分のマグに 目を落とす。
 こうしてコーヒーを飲むのも人間の頃の名残り。
俺たちのことを博士は 似非アンデッドだと言っていた。 まだ、人間なのか?・・・人間の真似をしているだけのアンデッドなのか?
 確かに言えることは 人間の心をまだ失くしていない。

「 お願いです。姉を助けるために協力してください」
娘の声に 物思いから覚めると両手合わせて懇願している。
「 ご迷惑はかけません。二晩だけ、この家に泊めてください」
「・・・」
 娘が重ねて行ってくる 。泊めるのは、やぶさかではないが ・・。そうなると 娘を恋人だと認めることになる 。
そう考えると即答できない。 躊躇っていると 娘が瞳を覗き込んでくる。
「 駄目ですか?」
「 そういう訳では・・」
 俺の家じゃなくて 叔母さんの家に事情を言って泊めてもらうか?たが、何と言う?
既に娘と俺は恋人同士だと知れ渡っている。 
喧嘩したとか言えば何とかなるか? 下顎骨を指骨で撫でる。
「う~ん。 何と言ったものか・・」

「あっ、 そうでした!私達恋人でしたね。 だったら・・私が泊まっても 平気ですね」
まあ、恋人イコール 結婚を前提とした交際と考えるのが 一般的だけど・・。
「その後は性格の不一致とかなんとか言って 別れれば問題無いですね」
問題は大アリだが、 娘の気持ちも分かる。
 それに直ぐに追い出したら 親父に、やれ 薄情だの、 やれ選り好みできる立場かとか、 小言を言われる。 最悪村を追い出されるかもしれない。
( 3日ぐらいなら、なんとかなるだろう)
「分かったよ」
「本当ですか?」
 OK すると 娘が 満面の笑みで立ち上がる 。
「でも、3日だけだぞ」
「 構いません」
テーブルを回ってくると 私の中指骨と基節骨 全部を つかんでる ぶんぶんと 上下に振る。
「ありがとうございます。 断られると思っていたので、すごく嬉しいです」
「わっ、 分かった。分かった。 分かったから離せ」
 ジャックは、良いから、良いからと 娘の手から自分の指骨を引き抜こうとする。
 そうしないと、柔らかくて暖かい手を 離したくなく なってしまう。
「 はい 」
(あっ・・)
素直に娘が応じると物足りない。 もう ちょっとぐらい 良いのに・・。 そんな自分の気持ちを隠して 何事もなかったような態度をとる。
 骸骨というのは こういう時便利だ。 顔から表情が読まれ無い。

「 俺の婚約者という事で この村で生活をしてもらう」
同じ家に居るには、 それなりの理由が必要。
 前もって打ち合わせをしておかないと。 偽装だとばれたら 元も子もない。
「 婚約者?恋人では、駄目なんですか?」
「 残念ながら、この村の住人は 500年前の人間だ。 つまり、手を出したら即結婚の時代の人間ばかりなんだ」
 時は流れても、 考え方は死んだ時のまま 。
 まあ、この400年結婚自体する者は、いないけど。

 すると、分かる、分かると娘が頷く。
「 同じです。 私の村も似たり寄ったりですから分かります。 それでは、改めましてフローラと言います。 三日間 お世話になります」
「ジャックだ。分から無い事ばかりだと思うから 何でも聞いてくれ」
 お互いに自己紹介してフローラと握手する。
 話は決まったが、何から手をつけたらいいのか・・。

 すり合わせは後に するとして。 
 野宿で疲れてるだろうから フローラを休ませるか。
「 フローラ。部屋に案内するよ」
「はい」 
ついてくるように指骨を動かす。
 シーツのかえは、あったはずだけど・・。 どこに しまったかな ?
そうだ! 食事も用意しないとな。 
初めての二人暮らし、 やる事がいっぱいだ。

***

フローラはジャックの後をついて2階に上がる。
「 この部屋を使ってくれ」
手前の部屋の ドアを開けると、ジャックが私を 招き入れる。
フローラはぐるりと部屋を見渡す 。
多少、殺風景だが 居心地が良さそうだ 。
ジャックの家は、どこも親しみを覚える。

ジャックが鎧窓を開ける。 すると温かな光が 部屋に差し込む。 
(日当たりも良い)
 次に窓を 開けようとした ジャックの手が止まる。
「ジャック?」
ジャックが振り返ると 私に向かって指を口に当てる。
「しーっ」
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