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思いがけない再会
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目を覚ましたジャックは 自分の腕枕で 人間の女の子が寝ていて驚く。
騒がれるまえに 逃げ出そうとしたが 無防備な寝姿に 欲望を駆り立てられて 女の子の胸に 指骨を刺してしまう。
ドクドクと心臓の鼓動と 流れる血の熱さに うっとりと目を閉じる。
( あ~熱さで指骨が溶けそうだ )
夢中になって気づけば 中節骨まで押入れていた。
ヤバい!
慌てて指骨を引き抜くが 女の子の胸から血が出ない。 赤い円形の痣が出来ているだけ。 女の子が痛がる事もなく すやすやと寝ている。
どういう事だ? まさか!死にたて?
否、心音を感じた。
それじゃあ、どうして 血が流れない?
こんな人間初めてだ。 どういう事だろう・・。
分からない事だらけだが、 今は女の子が目を覚ます前に さっさとここを離れよう。
そうすれば・・・ この事は永遠の秘密になる。
** ようこそアンデッドの村へ **
目を覚ました フローラは 抱きしめていたモノが無くなっていている事に 目をパチクリする。
在るべきモノが無い。 私の青磁ちゃんは何処?
どこへ行ったのかと 起き上がるとパサリと何かが 体から滑り落ちる。
外套?
見覚えがある。何で これだけ残ってるの?
まさか、横取りされた?
立ち上がって辺りを探ると 遠くにアンデッドが歩いてる姿が見える。 間違いない。一緒に寝ていたアンデッドだ。 同じ服を着ている。
( 生きてたんだ・・)
それなのに襲われなかった。どうして?
それに どうして 外套だけ ここにあるの ?
フローラは首を捻る。
もしかして・・ 私の為にかけてくれた?
アンデッドが 人間の私に?
その行動が理解できない。 でも本当だ。
何のつもりで 私を見逃したの?
色々と知りたい事が 次々と浮かぶ。
もう一度 視線を向けると アンデッドの姿が無い事に ハッとする。
( こうしちゃ いられない。 考えるのは後々 )
アンデッドが消えた方向からして 目的の村だ。 見失う前に 追いかけよう。
急いでカバンをかけると アンデッドが置いていった外套を着る。
( これが あれば ゾンビ犬避けになる )
すると、 チャリチャリと 音がする 。
ポケットをまさぐると 巾着があった。
触っただけで、お金が入ってると分かる。
大変だ!早く 返しに行かないと。 盗まれたと勘違いされたら 殺されるかも。
死にたくないと 後を追うが、 なかなか追いつけない。
「 歩くの速いー!」
こっちは走ってるのに。 それでもなんとか姿を見失わずに アンデッドの村にたどり着く。
**
とうとう、ここまで来た。
フローラは村の入り口で 自分を勇気づけるように頷く。
( お姉ちゃん。もうすぐだからね )
人間だとバレないように フードを目深にかぶり 村の中に入ると それとなく様子を伺う。
着ている服が正しければ 大人も子供も 男も女もいる。
細かく見ると それぞれ骨の色が微妙に違う。
マットな白だが、うっすら赤かったり 黄色かったりする。 同じアンデッドでも 個人差がある。 その事に妙に納得する。
建物も道も村人の様子も 人間となんら変わらない 。
売っている物も同じ、店には食べ物が並んでいる。生活様式は 大して差がない。 昼間でも普通に生活している。
親子?連れらしい二人が 仲良く歩いている。
店先では おばさんらしい人たちが井戸端会議をしている。
こうしてアンデッドの村を歩いているのに 自分の村を歩いているような錯覚をする。
本当に不思議だ。 もっと恐ろしい所だと思ってたのに・・。
違うのは人間か、アンデッドかだけ。 そう言えば 元は人間だったと聞いたことがある。
だからか 違和感が無い。
でも、決定的に違う所がある。 それは 生きているの定義。
何を指して言うんだろう。 肉体が在ること?
心が在ること? それとも両方あること?
私たちの死が ここでは当てはまらない。
『生きる』の 意味を考えているうちに 例のアンデッドを見失ってしまった。
フローラは立ち止まると 手で庇を作って その姿を探す。 しかし、 同じ服も あの形のいい後頭部も 見つからない。 完全に、はぐれてしまった。
(何処行ったんだろう・・)
誰かに聞く事も出来ないし。どうしよう・・。
だからと言って折角、無事侵入出来たのに出て行くのは悔しい。
競りが あるまで、後2日。
それまで何処か隠れる場所を探そうと ウロウロしていると肩を叩かれる。
ドキン!!
余りの驚きに心臓が飛び出して地面で 痙攣している。
私の命も ここまでか・・。
( お姉ちゃん、ごめん)と、心の中で謝る。
返事も出来ずに俯いたまま固まっていると 肩を叩いたアンデッドが右側を指差す。
「あそこの大きな家が、そうだよ」
なんと!道を教えてくれた。
ありがとう。と 見知らぬアンデッドにペコペコと頭を下げる。
親切なアンデッドも 居るものだ。
でも、どうして私が例のアンデッドを探してる事が分かったんだろう?首を傾げる。
(・・・)
まあ、いいや。例のアンデッドを見つけるのが先だ。
教えられた方を見ると見覚えのある後ろ姿が。
居た!
しかし、建物の中に入ってしう。 後に続いてドアを開ける。
「 こんにちは・・ 」
ガランとしていて誰もいない。
金持ちの家だ。 内装や 置いてある調度品が 高価だ。
部屋数も多そう。
( どこに居るんだろう? )
足音を立てないように 歩き回っていると 話し声が聞こえる 。
開け放たれたドアから ぞっと覗くと例のアンデッドの姿が見える。
あの後頭部 間違いない。
身をのりして 中を見ると椅子に座った アンデッドに 何やら怒られている。
上座だし、偉そうな態度に この家の主人だろう。
だったら ここの使用人?
「 黙ってないで 、さっさと答えろ。 どうしたんだ?」
二人の間には 険悪な雰囲気が漂っている。
これは間違いない。 お金を失くしたことを 叱られているんだ。 可哀想に・・。
「 言っても信じないでしょ」
例のアンデッドが 反論する。
こういう声なんだ・・。 その少し低い声音は 私の心に何故か 響く。
「 お前は、いつもそうだ。 今日こそは 理由を言うまで家に返さないぞ」
「・・・」
心地よさに聞き惚れていたが 我に返る。
助けに行かないと。 このままだと、ずっと責められる。フローラは、もう一人のアンデッドに 見つからないように背を低くして 近くの柱まで移動する。 もう一人のアンデッドが よそ見をした隙に 忍び足で近づくと 例のアンデッドの手に巾着を押し付ける。
***彼女との再会**
中手骨に 押し付けられた物を反射的に 握ると、 ずしりとした感触に 外套に入れて置いた財布だと気づく。
でも、誰が届けに来たんだ?
振り返ると 背の小さいモノが 自分の外套を着て立っている。しかし、 フードをかぶっていて誰かわからない。 視線をそのまま下げると 履き古した女物の靴が目に入る。
女物の靴。 この背丈。 俺の外套・・。
「 ! 」
意外な人物の登場に 下顎骨が外れそうになる。
朝、隣で寝ていた 人間の女の子だ。
どうして、この村に?
普通の人間なら 俺たちの姿を見たら 一目散に逃げ出す。 もしアンデッドに見つかったら、 ただでは済まないと分かっているのに 何故?
危険を冒してまで アンデッドの村に侵入したことが 解せない。
まさか財布を届けに?
それとも俺がやった事がバレた?
そんなバカなと思いながらも それ以外の理由が見つからない。
罪悪感に俯く。すると、娘がフード越しに自分を見る。 初夏の木々を思わせる 緑色の瞳に木漏れ日のような 黄色の光彩がちりばめられている。
(ああ、 こんな瞳をしていたんだ ・・)
自分をまっすぐ見る女の子の瞳と 目が合うと 晴れの笑顔が浮かぶ。
何がそんなに嬉しいのか ジャックには理解不能。
しかし、 敵意を向けられなかった事に 安堵する。
犯人だとバレて無い。
***
フローラは まじまじとアンデッドの彼を見て驚く。
人間と 同じ目をしている。
寝る時は真っ黒で 何もなかった。
もしかして オセロのように ひっくり返ると 色が変わるのだろうか?
でも、その瞳は 春の空に穏やか。厳しい冬を乗り越えた ご褒美のように優しく暖かい。
その瞳が大きく見開かれている。 私が ここに居る事に 心底驚いている。
フローラはニッコリと笑うと 彼の手を掴んでしっかりと巾着を握らせる。
( 私は正直者だ。猫ババ はしない)
彼が自分の手のひらにある巾着と 私を交互に見る。
外套 入ってたから届けに来たの。だから、早くこれを渡してと フローラは何度も頷いて 椅子に座っているアンデッドに 視線を動かす。
***
ジャックは娘の視線に 落とした財布を届けに来たのだと 理解したが。 的外れの親切に 困惑する。アンデッドの自分に とって 人間のように、金は大切じゃない。
『どうしたんです? 早く受け取ってください 』
善意で来たんだから 助けてあげないと。
この場を切り抜け様と考える。
何か言いたそうな娘に 第7頸椎の隆椎と頭蓋骨を小さく動かして黙らせる。
『そういう事じゃないんだ・・』
「 お前の後ろにいるのは誰だ?」
父親の声にジャックは 娘は背中に隠すと、 すっとぼける。
「 何の事ですか ?」
幸い娘は小柄だから 親父の視線からは ハッキリと確認出来ない。人間を連れてきたのだと知られたら その後が面倒だ。
娘が上着を引っ張って耳打ちする。
『 返さなくて良いんですか?』
『 気にしなくて良いから』
娘が不満そうな顔をする。 説明してあげたいが 今は無理だ。
「 何を言ってる。 その者からは お前の臭いがプンプンする」
「・・ そんな事ある訳ないじゃないか」
ドキリとするが、 ただのカマだと流す。
もぞもぞと動く気配に 後ろを見ると 親父の言葉を真に受けた娘が 外套の袖の匂いを嗅ぐ。
失敗作の俺たちは そんな能力は無い。
「 ジャック。・・ 俺は物分かりの悪い親父ではないと思っているんだけどな」
親父が大腿骨の上に 肘頭を置くと 手をくんで下顎骨を乗せるて、俺を見る。プレッシャーをかけてくるが、 話せない事もある。
「 親父さん。見間違いだよ。人間が 居るはず無いだろう 」
「・・・」
「 じゃ、俺はこれで 」
早々に話を切り上げて ジャックは娘を背に隠したまま 少しずつ後ずさりする。
兎に角 この部屋から出ないと。
そう思っていると 大声で喋りながら よりによって 叔父さんが来る。
「 兄さん。おめでとう。 ジャックが恋人を連れてきたんだって? 」
叔父さんは入ってくるなり 俺たちの前を素通りして 親父を抱いて背中をバンバン叩く。
恋人? この娘のことか?
振り向くと娘が 激しく首を振る。
どうやら いつものように早とちりだな。 これは厄介な事になった。叔父さんが来たということは 村のみんなに知れ渡っているな。
「 ジャック。紹介してくれないのか?」
叔父がクルリと振り向くと 俺に迫ってくる。
すると、娘が俺の上着をぎゅっと掴む。
怖いくせに来るからだ。
大丈夫。守ってあげると 握っている娘の手を包み込む。
「 隠すなー。隠すなー。 紹介しろー」
恥ずかしがっていると誤解した叔父が 右側から覗こうとするのを すかさず体をずらして阻止すると 無音でお互いに見つめ合う。
「・・・」
「 ・・・」
叔父が今度は 左側から覗こうとするのを 同じように阻止すると、 もう一度 無言でお互いに見つめ合う。
「・・・」
「・・・」
叔父が右側から覗こうとして 逆の左側から覗く。 フェイントに引っ掛かり 娘のフードに叔父の手が伸びる。 慌てて手を払いのけたが 時すでに遅し。
パサリと娘の金髪が肩に当たってたれる。
「ひゅー。 随分可愛い娘だな」
娘の素顔に叔父が口笛を吹く。 ジャックは下品な態度をとる叔父を睨みつけると 娘にフードを被せる。
これ以上怖がらせたくない。
「 お前の外套を着て娘が村にやってきたって事は・・」
親父が下顎骨を指骨で撫でていたが ポンと大腿骨を叩く。
「 結婚か!」
この叔父にして この親父あり。 全く話が飛躍し過ぎなんだよ。
「 この娘は道に迷っただけだよ」
人間とバレたからには この言い訳しか思いつかない。 色々と突っ込まれる前に 何としても出て行こう。 強引に逃げ出そうと 娘の手を握る。
しかし、次の言葉に ジャックの頸椎が固まる。
「 嘘つけ! だったら、その娘の胸にある痣は何だ?」
騒がれるまえに 逃げ出そうとしたが 無防備な寝姿に 欲望を駆り立てられて 女の子の胸に 指骨を刺してしまう。
ドクドクと心臓の鼓動と 流れる血の熱さに うっとりと目を閉じる。
( あ~熱さで指骨が溶けそうだ )
夢中になって気づけば 中節骨まで押入れていた。
ヤバい!
慌てて指骨を引き抜くが 女の子の胸から血が出ない。 赤い円形の痣が出来ているだけ。 女の子が痛がる事もなく すやすやと寝ている。
どういう事だ? まさか!死にたて?
否、心音を感じた。
それじゃあ、どうして 血が流れない?
こんな人間初めてだ。 どういう事だろう・・。
分からない事だらけだが、 今は女の子が目を覚ます前に さっさとここを離れよう。
そうすれば・・・ この事は永遠の秘密になる。
** ようこそアンデッドの村へ **
目を覚ました フローラは 抱きしめていたモノが無くなっていている事に 目をパチクリする。
在るべきモノが無い。 私の青磁ちゃんは何処?
どこへ行ったのかと 起き上がるとパサリと何かが 体から滑り落ちる。
外套?
見覚えがある。何で これだけ残ってるの?
まさか、横取りされた?
立ち上がって辺りを探ると 遠くにアンデッドが歩いてる姿が見える。 間違いない。一緒に寝ていたアンデッドだ。 同じ服を着ている。
( 生きてたんだ・・)
それなのに襲われなかった。どうして?
それに どうして 外套だけ ここにあるの ?
フローラは首を捻る。
もしかして・・ 私の為にかけてくれた?
アンデッドが 人間の私に?
その行動が理解できない。 でも本当だ。
何のつもりで 私を見逃したの?
色々と知りたい事が 次々と浮かぶ。
もう一度 視線を向けると アンデッドの姿が無い事に ハッとする。
( こうしちゃ いられない。 考えるのは後々 )
アンデッドが消えた方向からして 目的の村だ。 見失う前に 追いかけよう。
急いでカバンをかけると アンデッドが置いていった外套を着る。
( これが あれば ゾンビ犬避けになる )
すると、 チャリチャリと 音がする 。
ポケットをまさぐると 巾着があった。
触っただけで、お金が入ってると分かる。
大変だ!早く 返しに行かないと。 盗まれたと勘違いされたら 殺されるかも。
死にたくないと 後を追うが、 なかなか追いつけない。
「 歩くの速いー!」
こっちは走ってるのに。 それでもなんとか姿を見失わずに アンデッドの村にたどり着く。
**
とうとう、ここまで来た。
フローラは村の入り口で 自分を勇気づけるように頷く。
( お姉ちゃん。もうすぐだからね )
人間だとバレないように フードを目深にかぶり 村の中に入ると それとなく様子を伺う。
着ている服が正しければ 大人も子供も 男も女もいる。
細かく見ると それぞれ骨の色が微妙に違う。
マットな白だが、うっすら赤かったり 黄色かったりする。 同じアンデッドでも 個人差がある。 その事に妙に納得する。
建物も道も村人の様子も 人間となんら変わらない 。
売っている物も同じ、店には食べ物が並んでいる。生活様式は 大して差がない。 昼間でも普通に生活している。
親子?連れらしい二人が 仲良く歩いている。
店先では おばさんらしい人たちが井戸端会議をしている。
こうしてアンデッドの村を歩いているのに 自分の村を歩いているような錯覚をする。
本当に不思議だ。 もっと恐ろしい所だと思ってたのに・・。
違うのは人間か、アンデッドかだけ。 そう言えば 元は人間だったと聞いたことがある。
だからか 違和感が無い。
でも、決定的に違う所がある。 それは 生きているの定義。
何を指して言うんだろう。 肉体が在ること?
心が在ること? それとも両方あること?
私たちの死が ここでは当てはまらない。
『生きる』の 意味を考えているうちに 例のアンデッドを見失ってしまった。
フローラは立ち止まると 手で庇を作って その姿を探す。 しかし、 同じ服も あの形のいい後頭部も 見つからない。 完全に、はぐれてしまった。
(何処行ったんだろう・・)
誰かに聞く事も出来ないし。どうしよう・・。
だからと言って折角、無事侵入出来たのに出て行くのは悔しい。
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それまで何処か隠れる場所を探そうと ウロウロしていると肩を叩かれる。
ドキン!!
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( お姉ちゃん、ごめん)と、心の中で謝る。
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ありがとう。と 見知らぬアンデッドにペコペコと頭を下げる。
親切なアンデッドも 居るものだ。
でも、どうして私が例のアンデッドを探してる事が分かったんだろう?首を傾げる。
(・・・)
まあ、いいや。例のアンデッドを見つけるのが先だ。
教えられた方を見ると見覚えのある後ろ姿が。
居た!
しかし、建物の中に入ってしう。 後に続いてドアを開ける。
「 こんにちは・・ 」
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金持ちの家だ。 内装や 置いてある調度品が 高価だ。
部屋数も多そう。
( どこに居るんだろう? )
足音を立てないように 歩き回っていると 話し声が聞こえる 。
開け放たれたドアから ぞっと覗くと例のアンデッドの姿が見える。
あの後頭部 間違いない。
身をのりして 中を見ると椅子に座った アンデッドに 何やら怒られている。
上座だし、偉そうな態度に この家の主人だろう。
だったら ここの使用人?
「 黙ってないで 、さっさと答えろ。 どうしたんだ?」
二人の間には 険悪な雰囲気が漂っている。
これは間違いない。 お金を失くしたことを 叱られているんだ。 可哀想に・・。
「 言っても信じないでしょ」
例のアンデッドが 反論する。
こういう声なんだ・・。 その少し低い声音は 私の心に何故か 響く。
「 お前は、いつもそうだ。 今日こそは 理由を言うまで家に返さないぞ」
「・・・」
心地よさに聞き惚れていたが 我に返る。
助けに行かないと。 このままだと、ずっと責められる。フローラは、もう一人のアンデッドに 見つからないように背を低くして 近くの柱まで移動する。 もう一人のアンデッドが よそ見をした隙に 忍び足で近づくと 例のアンデッドの手に巾着を押し付ける。
***彼女との再会**
中手骨に 押し付けられた物を反射的に 握ると、 ずしりとした感触に 外套に入れて置いた財布だと気づく。
でも、誰が届けに来たんだ?
振り返ると 背の小さいモノが 自分の外套を着て立っている。しかし、 フードをかぶっていて誰かわからない。 視線をそのまま下げると 履き古した女物の靴が目に入る。
女物の靴。 この背丈。 俺の外套・・。
「 ! 」
意外な人物の登場に 下顎骨が外れそうになる。
朝、隣で寝ていた 人間の女の子だ。
どうして、この村に?
普通の人間なら 俺たちの姿を見たら 一目散に逃げ出す。 もしアンデッドに見つかったら、 ただでは済まないと分かっているのに 何故?
危険を冒してまで アンデッドの村に侵入したことが 解せない。
まさか財布を届けに?
それとも俺がやった事がバレた?
そんなバカなと思いながらも それ以外の理由が見つからない。
罪悪感に俯く。すると、娘がフード越しに自分を見る。 初夏の木々を思わせる 緑色の瞳に木漏れ日のような 黄色の光彩がちりばめられている。
(ああ、 こんな瞳をしていたんだ ・・)
自分をまっすぐ見る女の子の瞳と 目が合うと 晴れの笑顔が浮かぶ。
何がそんなに嬉しいのか ジャックには理解不能。
しかし、 敵意を向けられなかった事に 安堵する。
犯人だとバレて無い。
***
フローラは まじまじとアンデッドの彼を見て驚く。
人間と 同じ目をしている。
寝る時は真っ黒で 何もなかった。
もしかして オセロのように ひっくり返ると 色が変わるのだろうか?
でも、その瞳は 春の空に穏やか。厳しい冬を乗り越えた ご褒美のように優しく暖かい。
その瞳が大きく見開かれている。 私が ここに居る事に 心底驚いている。
フローラはニッコリと笑うと 彼の手を掴んでしっかりと巾着を握らせる。
( 私は正直者だ。猫ババ はしない)
彼が自分の手のひらにある巾着と 私を交互に見る。
外套 入ってたから届けに来たの。だから、早くこれを渡してと フローラは何度も頷いて 椅子に座っているアンデッドに 視線を動かす。
***
ジャックは娘の視線に 落とした財布を届けに来たのだと 理解したが。 的外れの親切に 困惑する。アンデッドの自分に とって 人間のように、金は大切じゃない。
『どうしたんです? 早く受け取ってください 』
善意で来たんだから 助けてあげないと。
この場を切り抜け様と考える。
何か言いたそうな娘に 第7頸椎の隆椎と頭蓋骨を小さく動かして黙らせる。
『そういう事じゃないんだ・・』
「 お前の後ろにいるのは誰だ?」
父親の声にジャックは 娘は背中に隠すと、 すっとぼける。
「 何の事ですか ?」
幸い娘は小柄だから 親父の視線からは ハッキリと確認出来ない。人間を連れてきたのだと知られたら その後が面倒だ。
娘が上着を引っ張って耳打ちする。
『 返さなくて良いんですか?』
『 気にしなくて良いから』
娘が不満そうな顔をする。 説明してあげたいが 今は無理だ。
「 何を言ってる。 その者からは お前の臭いがプンプンする」
「・・ そんな事ある訳ないじゃないか」
ドキリとするが、 ただのカマだと流す。
もぞもぞと動く気配に 後ろを見ると 親父の言葉を真に受けた娘が 外套の袖の匂いを嗅ぐ。
失敗作の俺たちは そんな能力は無い。
「 ジャック。・・ 俺は物分かりの悪い親父ではないと思っているんだけどな」
親父が大腿骨の上に 肘頭を置くと 手をくんで下顎骨を乗せるて、俺を見る。プレッシャーをかけてくるが、 話せない事もある。
「 親父さん。見間違いだよ。人間が 居るはず無いだろう 」
「・・・」
「 じゃ、俺はこれで 」
早々に話を切り上げて ジャックは娘を背に隠したまま 少しずつ後ずさりする。
兎に角 この部屋から出ないと。
そう思っていると 大声で喋りながら よりによって 叔父さんが来る。
「 兄さん。おめでとう。 ジャックが恋人を連れてきたんだって? 」
叔父さんは入ってくるなり 俺たちの前を素通りして 親父を抱いて背中をバンバン叩く。
恋人? この娘のことか?
振り向くと娘が 激しく首を振る。
どうやら いつものように早とちりだな。 これは厄介な事になった。叔父さんが来たということは 村のみんなに知れ渡っているな。
「 ジャック。紹介してくれないのか?」
叔父がクルリと振り向くと 俺に迫ってくる。
すると、娘が俺の上着をぎゅっと掴む。
怖いくせに来るからだ。
大丈夫。守ってあげると 握っている娘の手を包み込む。
「 隠すなー。隠すなー。 紹介しろー」
恥ずかしがっていると誤解した叔父が 右側から覗こうとするのを すかさず体をずらして阻止すると 無音でお互いに見つめ合う。
「・・・」
「 ・・・」
叔父が今度は 左側から覗こうとするのを 同じように阻止すると、 もう一度 無言でお互いに見つめ合う。
「・・・」
「・・・」
叔父が右側から覗こうとして 逆の左側から覗く。 フェイントに引っ掛かり 娘のフードに叔父の手が伸びる。 慌てて手を払いのけたが 時すでに遅し。
パサリと娘の金髪が肩に当たってたれる。
「ひゅー。 随分可愛い娘だな」
娘の素顔に叔父が口笛を吹く。 ジャックは下品な態度をとる叔父を睨みつけると 娘にフードを被せる。
これ以上怖がらせたくない。
「 お前の外套を着て娘が村にやってきたって事は・・」
親父が下顎骨を指骨で撫でていたが ポンと大腿骨を叩く。
「 結婚か!」
この叔父にして この親父あり。 全く話が飛躍し過ぎなんだよ。
「 この娘は道に迷っただけだよ」
人間とバレたからには この言い訳しか思いつかない。 色々と突っ込まれる前に 何としても出て行こう。 強引に逃げ出そうと 娘の手を握る。
しかし、次の言葉に ジャックの頸椎が固まる。
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『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
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