上 下
48 / 52

内開き? 外開き?

しおりを挟む
 リチャードは馬車の中で ドミニクの手下の資料をトニーに手渡した。
「本当に4人だけなんですか?」
そうだと頷いた。
金が惜しいのか、家の管理を怠っているのか、男ばかり四人。全員 二十代は始めだ。
トニーから資料を取るとその中の一枚を一番上にした。
「注意して欲しいのはこの男だ」
その言葉に全員が注目する。
「ナイフを所持してるから気をつけるように」
ゲイル(ドミニク 唯一の親族)の孤児院仲間の一人だ。子供の頃からの盗みなどを働いていて札付きの不良。短気なようで 些細なことで問題起こしている。しかし、いくら 凶暴でも子供だ。できたら 穏便に済ませたい。
だが、抵抗してきたなら戦うしかない。
そう覚悟してのるか全員が険しい表情を浮かべていた。


✳✳✳

  一方リサは、自分を誘拐した犯人が マーカスの尊敬する人物だと知って、複雑な気持ちになった。
「世界動物図鑑の作者!」
「正確には監修者だ」
マーカスが会いたいと言っていた人だ。その人が誘拐犯だとしたらショックを受けそうだ。
「知られているとは光栄だ」
ドミニクが頷く。自分を知っている事に驚いたようだ。
「マーカスに見せてもらった事があるんです」
「なるほど」
ドミニクがフムフムと頷いた。手紙を送っていたと言っていたけど、ちゃんと目を通しているらしい。どうりで同じ匂いがすると思った。(ん? と言う事は……)
誘拐した理由が分かった。監修者と言っていたから、私の生体とかそう言うの調査したいのだろう。だったら、簡単には殺さないだろう。

 ザブマギウムに関してはプロだ。ここで別人だと言っても信じないだろう。私がザブマギウムだと確信があるから攫ったのかもしれない。そう言う事なら、リチャードもこのドミニクが誘拐犯だと確信しているはずだ。
それにここはどう見ても自宅だ。建物の大きいから見つけやすい。
だったら作戦変更だ。
私がする事はリチャードが来るまでの時間稼ぎ。余裕があるように足を組んで微笑む。こう言う学者タイプの人間は否定するとむきになるから反抗的な態度だと良くない。だからと言って褒めるのも良くない。たまに 逆効果になる時がある。
う~ん。
………知識をひけらかすのが好きだ。おだてて気分良くさせれば 多くの情報も引き出せるかもしれない。
「八十年前にザブマギウムに会ったって話は本当なんですか?」
「勿論だ」
そう 質問すると深く頷いた。ドミニクの目が少年のようにキラキラしだした。
スイッチを入れたみたに、あっと言う間に八十年前に戻っている。今でも忘れられない大切な記憶なんだろう。
「どうして、分かったんですか? リチャードの話によると、その前は百年以上も出現していなかったんでしょ」
すると、ドミニクが見下すように鼻で笑う。イラッと来るが我慢だ。
「まったくバンドール家は四季の森の守護者なのに何も知らない」
やれやれと首を横に振る。
知らないのはあなたの方だ。ちゃんと代々記録は引き継がれている。
今すぐ殴りたい。
偉そうに言うけど、遭難する度 助けているのはバンドール家の人でしょ!

「ザブマギウムの文献は昔からずっと奇跡として残っているんだよ」
「そんなの知っています。でも見た目は猫でしょ」
食い気味に言いたい事を先に言うと、
「ふー」
「なっ」
老人が深い溜め息をつく。完全に舐められている。唇を引き結んで 目を細める。
完全に怒った。すると、ドミニクがズイッと顔をを近づけてくると自分の目を指差した。
「目だよ。目。猫の目の瞳孔は縦長でタぺタムがある。しかし、ザブマギウムはそれがない」
「タッ……タぺタム?」
知らない言葉に眉を顰める。
人間と猫の瞳孔が違うのは知っている。
リチャード達も言っていた。でも、それは近くで見てわかること。ドミニクとは初対面だ。
「夜に会った動物の目が光るだろう。あれだ」
ああ……あれか、知っている。明かりに反応して光る奴だ。夜、その目を見てビックリした事がある。
「八十年前に会ったザブマギウムも人間の目をしていたの?」
「ああそうだ。最初にその事に気付いたのは私だ」
自慢げにドミニクが 胸を張る。
(本当なんだ……)
人間がザブマギウムとして この世界に生きていたんだ。自分の他にも居たと知って安心した。私は特別な存在じゃない。少し珍しいだけだ。
「空色の綺麗な目だった……」
昔を懐かしむような遠い目をしてポツリと呟いた。
(青い目をした猫か……)
ザブマギウムになっても瞳は人間の時と同じだ。と 言う事はアメリカとかの欧米人だったんだろう。どんな人だったんだろう。私の先輩は。すごく興味はわいてきた。
もしかしたら私の奇跡の力のヒントになるかもしれない。
「綺麗たったんでしょうね。どんな人だったんですか?」
「 優しくて、大人しくて……心配性だった」
「そうなんだ……」
見た目は猫でも心は人間だ。
私のように 拾ってくれた令嬢の世話をしてたみたいだ。共感する。写真は無理でも何か残っているかも。

「見てみたかったな~。絵とか残ってないんですか?」
「ああ、ある」
そう言うと宝物を見せるみたいに喜々として探し始めた。
「どこに置いたか?」
夢中になっている。
その姿は、どう見てもただのオタク老人だ。
こう言うところがあるからマーカスみたいで怖さを感じない。
「ああ、あった。あった」
分厚い本を取り出して捲り出した。スクラップブックと言ったところだろう。
結構枚数がある。所々新聞の切り抜きが張られている。この本には八十年前の事件がまとめてあるに違いない。
(マーカスが喜びそうだ)
「あった! これだ」
本をクルリとこちらに向けた。初めて自分以外のザブマギウムを見た。本当に人間の目をしている。
「あなたの言う通り凄い美人ね」
カラーの挿し絵で、私の毛は青みがかった白だけど、この子はピンクがかった白だ。
そして、人間の青い瞳をしてきた。他のページをめくると写真付きの新聞記事が見つかった。イカにも貴族という家族写真。七歳くらいの女の子が猫を抱っこしている。この子が拾った女の子かな?
その緊張した表情に自然と笑みが浮かぶ。
素直そうな子供だ。
しかし ページをめくるたびに 物騒な見出しが増えてきた。『✕✕✕氏、一億円の値段をつける』、『教皇 所有権を主張』。
(………)
私も存在がバレてたらこうなったんだろうか。いかに自分が幸運だったのか実感した。

ドミニクが淡く微笑む。
「ああ、本当に綺麗だった」
ドミニクがページを捲って行きながら解説を始めた。
「最初は賢い猫としか思っていなかったが 人の言葉が分かると言う事に気付いたんだ。大人は信じなかったが 目が人間と同じだろうと言うとみんな驚いた」
「確かにこんなに可愛い子なら誰もが欲しがったはずね」
途中でメモ書きを見つけた。その紙には拙い字で名前が書かれている。
(サーシャ)
「これって名前?」
「そうだ。私が付けた」
「そうか、先輩は猫のままだったんだ……」
だから本名を伝えられなかったんだ。もし、バンドール家に最初から引き取られていたらもっと大事にされただろう。
巡り合わせが悪かったんだ。
「まさか本当に人間になるとは思わなかった」
「えっ?」
急に声の調子が変わった。パッとそっちを見ると、思い出に浸る少年の顔から好奇心を満たそうとする博士の顔になった。
あっ!!
その瞬間全てを悟った。人間になるためには 人間の男の恋人が必要だ。そのことについて何も言及しなかったし、 人間の姿の絵は一枚もなかった。
(ああ、私ったら)
自分を蹴飛ばしたい。
自分で自分がザブマギウムだと認めたようなものだ。ドミニクが名付け親と言った時に気付くべきだった。ザブマギウムが変身出来る事はドミニクが知っていてもおかしくない。
だけどその方法については知らないはずだ。
そして、その秘密を探ろうとしている。
危険を察知してスッと距離を置く。私とドミニクの間にあるのは机一つ分。
「それじゃあ……本物かどうか確かめないと」
「なっ、何言っているの。私が本物だと知っているから攫ったんじゃないの?」
ドミニクが首を左右に振る。
どういうこと?
「半信半疑だった」
「なっ、それなのに 誘拐したの? 信じられない」
「例え偽物でも確かめるためには、会わないと。検証のためには仕方がないことだ」
肩をすくめる その姿は 大したことではない。
そういう態度だ。私のことを物のとしてしか思っていない。私の感情など意味がないんだ。どんな実験をされるか、たまったもんじゃない。
「さあ、変身して見せてくれ」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したのでこっちから婚約破棄してみました。

ぴえろん
恋愛
私の名前は氷見雪奈。26歳彼氏無し、OLとして平凡な人生を送るアラサーだった。残業で疲れてソファで寝てしまい、慌てて起きたら大好きだった小説「花に愛された少女」に出てくる悪役令嬢の「アリス」に転生していました。・・・・ちょっと待って。アリスって確か、王子の婚約者だけど、王子から寵愛を受けている女の子に嫉妬して毒殺しようとして、その罪で処刑される結末だよね・・・!?いや冗談じゃないから!他人の罪で処刑されるなんて死んでも嫌だから!そうなる前に、王子なんてこっちから婚約破棄してやる!!

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

どうやら私(オタク)は乙女ゲームの主人公の親友令嬢に転生したらしい

海亜
恋愛
大交通事故が起きその犠牲者の1人となった私(オタク)。 その後、私は赤ちゃんー璃杏ーに転生する。 赤ちゃんライフを満喫する私だが生まれた場所は公爵家。 だから、礼儀作法・音楽レッスン・ダンスレッスン・勉強・魔法講座!?と様々な習い事がもっさりある。 私のHPは限界です!! なのになのに!!5歳の誕生日パーティの日あることがきっかけで、大人気乙女ゲーム『恋は泡のように』通称『恋泡』の主人公の親友令嬢に転生したことが判明する。 しかも、親友令嬢には小さい頃からいろんな悲劇にあっているなんとも言えないキャラなのだ! でも、そんな未来私(オタクでかなりの人見知りと口下手)が変えてみせる!! そして、あわよくば最後までできなかった乙女ゲームを鑑賞したい!!・・・・うへへ だけど・・・・・・主人公・悪役令嬢・攻略対象の性格が少し違うような? ♔♕♖♗♘♙♚♛♜♝♞♟ 皆さんに楽しんでいただけるように頑張りたいと思います! この作品をよろしくお願いします!m(_ _)m

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

ゲームの序盤に殺されるモブに転生してしまった

白雲八鈴
恋愛
「お前の様な奴が俺に近づくな!身の程を知れ!」 な····なんて、推しが尊いのでしょう。ぐふっ。わが人生に悔いなし! ここは乙女ゲームの世界。学園の七不思議を興味をもった主人公が7人の男子生徒と共に学園の七不思議を調べていたところに学園内で次々と事件が起こっていくのです。 ある女生徒が何者かに襲われることで、本格的に話が始まるゲーム【ラビリンスは人の夢を喰らう】の世界なのです。 その事件の開始の合図かのように襲われる一番目の犠牲者というのが、なんとこの私なのです。 内容的にはホラーゲームなのですが、それよりも私の推しがいる世界で推しを陰ながら愛でることを堪能したいと思います! *ホラーゲームとありますが、全くホラー要素はありません。 *モブ主人のよくあるお話です。さらりと読んでいただけたらと思っております。 *作者の目は節穴のため、誤字脱字は存在します。 *小説家になろう様にも投稿しております。

【完結】推しの悪役にしか見えない妖精になって推しと世界を救う話

近藤アリス
恋愛
「え、ここって四つ龍の世界よね…?なんか体ちっさいし誰からも見えてないけど、推しから認識されてればオッケー!待っててベルるん!私が全身全霊で愛して幸せにしてあげるから!!」 乙女ゲーム「4つの国の龍玉」に突如妖精として転生してしまった会社員が、推しの悪役である侯爵ベルンハルト(通称ベルるん)を愛でて救うついでに世界も救う話。 本編完結!番外編も完結しました! ●幼少期編:悲惨な幼少期のせいで悪役になってしまうベルるんの未来を改変するため頑張る!微ざまあもあるよ! ●学園編:ベルるんが悪役のままだとラスボス倒せない?!効率の良いレベル上げ、ヒロインと攻略キャラの強化などゲームの知識と妖精チート総動員で頑張ります! ※推しは幼少期から青年、そして主人公溺愛へ進化します。

悪役令嬢に転生したと思ったら悪役令嬢の母親でした~娘は私が責任もって育てて見せます~

平山和人
恋愛
平凡なOLの私は乙女ゲーム『聖と魔と乙女のレガリア』の世界に転生してしまう。 しかも、私が悪役令嬢の母となってしまい、ゲームをめちゃくちゃにする悪役令嬢「エレローラ」が生まれてしまった。 このままでは我が家は破滅だ。私はエレローラをまともに教育することを決心する。 教育方針を巡って夫と対立したり、他の貴族から嫌われたりと辛い日々が続くが、それでも私は母として、頑張ることを諦めない。必ず娘を真っ当な令嬢にしてみせる。これは娘が悪役令嬢になってしまうと知り、奮闘する母親を描いたお話である。

悪役令嬢、第四王子と結婚します!

水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします! 小説家になろう様にも、書き起こしております。

処理中です...