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マーカスの誕生日

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 リサは話を聞いて腹が立って腹が立って仕方がない。子供の事を何だと思っているのよ!
まさに毒親だ。自分が酷い事をしているいう自覚がない。もしかしたら自分の事を被害者だと思ってるかもしれない。
「大体、マーカスに暴力を振るってたくせに今になって機嫌をとろうとするなんて信じられない!」
「そうです! だから、私たちも全力でマーカス坊ちゃまを守ろうとしているんです」
子供のへの愛情や謝罪も無いのに、会おうとするなんて、そんな母親を持った
マーカスが不憫で仕方ない。
誕生日が来ると母親からプレゼントが届く。
そのせいで自分や周りの人が酷い目に遭う。
聡い子だから、怖い思いも、辛い思いもあっただろう。この家の全員がその日を憂鬱な気持ちで待っているんだ。理由は分かったけど、それでがマーカスの誕生日を祝わない理由にはならない。
今のままじゃ駄目だ。
それでは まるで生まれてきた事が悪いことみたいだ。それに 母親がマーカスを諦めなかったら、死ぬまで続く。このまま辛い思いをさせたままでは可哀想だ。普通の子供のように、誕生日は恐ろしい日じゃなくて、楽しい日にしないと。
(そうやって年を取って欲しい)
今年は今までの分も祝ってあげなくちゃ。
執務室で仕事をしているリチャードを訪ねると
「リチャード。相談があるの」
と、言って自分の計画を話した。
そして、パーティーの件は次の日には屋敷中の者に伝わった。

 リチャードも、それに合わせてリサへのサプライズも用意しようと考えて、早速執事のニックを呼び付けた。

*✳✳

 リサはマーカスの事を思って誕生日まで毎晩一緒に寝る事にした。少しでも気持ちを楽にしてあげたかった。リチャードは寂しがったがマーカスの為だと言うと渋々納得した。

 リサはベッドの上に飛び乗ると、
(私が守ってあげる)
うなされたら直ぐ起こせるように、マーカスの隣で膝を曲げて座ると丸くなる。


✳✳✳

 ドミニクは 村の酒場で 見取り図を見せながら 今回雇った者たちに最後の確認をしていた。
ゲイルたちとは違う。
プロだ。細かく話をしても伝わる。
これぐらい 仕事ができるなら期待出来る。

✳✳✳

 エリザベート は不安そうの顔で部屋の中をウロウロと 歩き回っていた。とうとう 明日だ。
大丈夫だろうか? あの老人の話に乗ったのは正解だったのだろうか?
「………」
でも今さらとには引けない。成功するのを祈る
しかない。



 こうして、それぞれがそれぞれの思いを抱いてマーカスの誕生日を迎えた。
朝から みんな持ち場について荷馬車が来るのを待ち構えていた。そんな中、マーカス だけが起きてこない。毎日起こされる前に起きてモリモリご飯を食べて楽しそうにしていたのに、今日に限っては真逆。時間になっても起きて来ない。気持ちは分かるけど、逃げていては何の解決にもならない。
猫の姿でマーカスを起こしに行くことにした。
人間の姿より小回りがきくし、どうなっているのか見に行くことも簡単に出来る。もしもに備えて あえ猫の姿を選んだ。
レバーを下げて出来た隙間に頭を押し込んで開けて中に入ると、ベッドにこんもりとした山が一つ。寝ていると思ったが、もぞもぞと動いている。
(ふーっ、さて起こしますか)
ベッドに飛び乗ると頭から布団に侵入すると、鼻先をマーカスのほっぺに押し付けた。
「うわっ。止めてよ」
冷たさにマーカスが逃げた。
そうはさせないと、追い駆けまわした結果、布団は何処かに行き、パジャマ姿のマーカスの背中に乗っていた。

  その後は、マーカスを着替えさて食堂に連れて来た。しかし、せっかく 用意したスクランブルエッグを突きまわしている。行儀が悪いとフォークを持った手を叩く。すると、恨めしそうな顔をする。
(………)
なるべく何時も通りにしたいのに、上手く行かないものだ。だけど、今日の為に全員が出払っていてマーカスの面倒を見られるのは私だけだ。しっかりしないと。

  落ち着きなくマーカスが部屋を右往左往
している。それをただ見守っていた。
大好きな本にも触れようともしないくらい不安なんだ。
毎回トラブルがあると聞く。
裏から侵入しようとしたり、プレゼントとの中に人が入っていたりとか。色々なこともあったそうだ。とにかくマーカス を捕まえようとする気だったらしい。それでは、マーカスも気が気でないだろう。

 もうお昼だ。いったい何時までこんな時間が続くのか……。嫌な事が起こると分かっているのに待つ以外する事が無い。皆がナーバスになるのも分かる。神経をすり減らしているマーカスの気を少しでも紛らわせようと、傍に行こうとしたが物音に耳をピンと立てた。
来た! 
急いで 窓に向かう。
「リサ⁉」
通りを見ているとガタゴトと馬車の音が聞こえて来た。どんな輩か確かめたい。
様子を見ようと外に行こうとしたが、その途中でマーカスが私を抱き上げた。
抱き上げた腕が震えている。
『ニャーウ?』(マーカス?)
今にも泣きそうな顔をしている。それだけではない。瞳に影がさしている。それは初めて見る顔だった。私たちは全員騙された。
辛い経験をして大人にも心配をかけまいと、自分の気持ちを隠すのが上手になってしまったんだ。
(マーカス……)
そんなマーカスを見て自分も泣きそうになる。
毎年の事でも慣れるものでは無い。
見せたくないと何処かへ避難という方法もあるけど、突き止められたらなす術がない。結局、土地勘のある自宅が一番安全だ。慰めようとマーカスの頭をポンポンと叩いた。

 外からは、どちらがプレゼントを家の中に入れるかで押し問答している。マーカスが私を抱きかかえると頭からすっぽりと布団を被った。
今朝と同じ。だけど、腕はまだ震えている。
ギュッと目を瞑っている目から涙が滲みだす。マーカスの涙に胸が痛くなる。
自分の誕生日が一年で、一番、最悪な日になるなんて子供には可哀想過ぎる。
そんなマーカスの気も知らずに、人の争う声が続いている。どちらも頑な態度を崩さない。
声はドンドン大きくなり話す内容も暴力的になって行く。こんな事を聞かされたら私だってざわついて落ち着かなくなる。マーカスにしてみたらもっと辛いはずだ。これ以上聞かせたくない。グイッと前脚でマーカスの耳を塞ぐ。
シェルターみたいに全ての音が遮断出来る場所があれば良いのに。これでは嫌でも耳に入って来る。すると、マーカスが涙目で私に微笑みかける。どんな気持ちで、この小さな体で耐えているんだろう。
ポロリと頬を伝った涙をペロリと舐める。
しょっぱい味がした。 
(ああ本当に、誠心誠意あなたを愛すると誓う)
一秒でも長く幸せにしたい。
くすぐったいとマーカスが泣きながら笑う。
こんなに心根の優しい子が居るなんて……。
甘えるようにマーカスの懐に押し入る。
すると、マーカスが私を守るように抱き締めた。その温かさが互いに慰めになる。

 暫くして外が静かになった。
終わったのかな?
確かめたいけどマーカスの傍を離れてはイケない気がする。これも油断されるための作戦かもしれない。
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