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21 明芽の告白

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お父様が、『アンシュン』は 何者だと永春(エイシュン)に、尋ねた。
『アンシュン?』
「あー、それは明芽の恋」
明芽(ミンメイ)は、ハッとして永春様が、答えようとするのを止めに入る。
私の片思いなのに適当な事を言われては困る。
「待って!待って!永春様、待って」

すると 蚊帳の外だった角英が怒鳴る。
「俺を無視するんじゃない!」
その声に皆が一斉に振り向きと、 こめかみに青筋を立てている。そうだった。角英が自分では 術が作れないから買ったと言う話しをしているところだった。

ところが、お父様が別の事を言い出す。
『お前のその格好・・』
「なっ、何だ」
 気にすることなく お父様が角英を値踏みする。
角英が、何を言うつもりだと 身構える。
『 似合ってないぞ。 稚児が大人の服を着たみたいだ』
「やはり、育ちは隠せないですね」
その通りだと 永春様も賛成する。
 (それは火に油!二人とも止めて)

 完全に見下したお父様たちの発言に角英が顔を真っ赤にして私を 睨み付ける。
「えっ、私?」
 驚いて明芽は自分を指差す。
 どう考えても悪いのは、お父様と永春様で 私は一言も貶していない。 
それなのに、どうして私?
 そんなの理不尽すぎる。

「約束を果たしたんだから 今度は、そっちが約束を守る番だ」
「えっ?そっち」
部が悪いと思ったのか角英の急な話題変更に面食らう。
『 約束? 明芽 こいつとどんな約束をしたんだ?』
 何を勝手なことを。自分が逃げるついでに私を強引に連れてきただけだ。

「 お父様。心配しないでください。 そんな約束した覚えは ありません」
明芽は片手を出して、お父さんを制すると 角英に向かい合う。
もう何一つ奪わせない。
 明芽は凛とした声で言うと 角英が信じられないという顔をする。
「 何を言っている。幽鬼達を解放したら その代わりに私の子供を産むと約束しただろう」

『子を産む!絶対ダメだ』
 「承諾した覚えは、ありません」
『 そうだ。こんな奴の言うことを聞くんじゃない 』
お父様が嬉しそうに囃し立てる。すると角英が幽鬼たちの前で両手を広げる。
「ここにいる蒼の国の民の前で よく言えたものだ」
「・・・」
黙ったままの私に角英が見せしめにと 次々と幽鬼を 掴んでは投げ捨てる 。

「それで良いのか? こいつも、こいつも 誰一人助からないんだぞ」
なんて酷い奴。 自分の野望を叶えるためなら 死者だって利用するのね。
『 止めないか! この猿が!』
幽鬼たちが 目の前でカラカラと 音を立てて壊れていく。胸が詰まって 「止めて!」と、 屈したくなってしまうのを 歯を食いしばって耐える。
 ここで、言いなりに、なるわけにはいかない。
 
『止めろと言っているんだ』
 「 五月蝿い! 死に損ないが!」
 お父様が角英の腕をつかんで止めようとするが、逆に 突き飛ばされて転倒する。
「お父様!」
駆け寄って 助け起こすと ボトリとお父様の腕が肩から外れて地面に落ちる。
 大変だわ。 早く治さなくちゃ 。
明芽は 落ちた腕を拾って なんとか、くっつけようと 試みるが
『大事ない。 腕が取れただけだ。 気にするな 』
そう言って私から腕を取り返すと 自分の懐にしまう。
(大事ない・・)
明芽は、唖然としてお父様を見る。
 無頓着なのか 、私を心配させまいとしているのか、死んで 達観しているのかわ、からないが 。なんとも 豪胆な言動だ。

「自分だけ助かろうとするなんて 浅ましい考えだと思わないのか?  誰のおかげで生き延びられたと思っているんだ」
「っ」
角英の言葉が 胸に突き刺さる。
それには、何一つ 言い返せない。
泣きそうになって俯くと お父様が 慰めるように 私の頭をわしゃわしゃと撫でる。
『 気に病むことはない。 ここに居る全員、 お前に犠牲に なってもらいたいとは 思っていない』
「 お父様・・」

 面を上げると 笑顔のお父様が 頷く。 それを見て笑みを返す。
『 それに、コイツは詐欺師だ。 この私が証人だ 。だから惑わされるな 』
お父様が自分の胸に手を置く。 
(ありがとう。お父様・・)
迷いが吹っ切れた。 例えここで 命を落としても後悔しない。
「私は、あなたの言いなりなりません」
 諦めの悪い角英に印籠を渡すべく、まっすぐ見て断言する。 しかし、それでも 角英語が食い下がる。
「よく考えろ。 断れば死ぬんだぞ。 それでいいのか? 」

明芽は、構わないと頷いて お父様を見ると お父様も頷く。
「まさか、幽鬼の親父が守ってくれるなどと  甘い考えを持っているんじゃ ないだろうな」
角英が哀れんだ目で 私達親子を見る。
そんな事は期待していない。

暗瞬様に一目逢いたかったけど、私の出した結論を認めてくれるはずだ。
「お前が死んだら 誰一人助けらないんだぞ」
 角英の言う通り ここでは死だら無駄死になるだけだ。
 でも、不思議と 私の願いを暗瞬様が 引き継いでくれるという自信がある。
「 大丈夫です。 私が死んだら 代わりに暗瞬様があなたを退治して 蒼の国の民を解放してくれます」
覚悟しろと角英を指差す。
「 はっ?何を言っているんだ。家族でもないのに人間の望みなど 叶える者が どこに居る?」
私の揺るぎ無い信頼に 角英は明らかに混乱している。
角英も嘘だと思いたいらしい。 
しかし、そこへ 加勢するように 永春様が賛同する。

「暗瞬なら やりかねない。明芽は お気に入りだから」
永春様が、私に向かって片目を瞑る。明芽は 知られているのかと、恥ずかしくて 頬を染める。
角英が 私達の真意を探ろうと 顔色を伺う。
 唐突に お父様が私の腕を突く。
『・・明芽。 さっきから何度も出てくる アンシュンとは誰だ?』
「 えっと・・それは・・」
 お父様の質問になんと返していいのか 答えが見つからなくて口ごもる。 私たちの関係を一言で説明するのは難しい 。

「いいや、違う。アイツは妖魔だ。 お前が そう信じても、 そうするはずが ない 」
『 妖魔だって!明芽。アンシュンは妖魔なのか?』
お父様が驚く。それは そうだ。 妖魔と親しい関係だと知れば心配するのは無理もない。 本来なら時間をかけて 理解してほしいところだが、 今は それどころではない。
この場を収めるように 取り繕う。

「お父様。心配しないで。暗瞬様は 確かに妖魔だけれど とても優しいの。信用できるわ」
「 あっはっはっは!優しいだって?可哀想に 美丈夫だから のぼせ上がったか?これだから田舎娘は困る」
角英が愚かだと嘲笑う。明芽 は ムッとして睨みつける。 私は そこまで単純では ない。
現に街でも 沢山の人々を見た。 その中には 暗瞬様に、お呼びはしないが 美丈夫だと思われる男の人もいた。 でも、暗瞬様以上の男性には 巡り合っていない。

「 違います。 美丈夫だからじゃありません。 初めて好きになった人だからです」
(あっ!)
自分の口を塞ぐ。
『なっ』
思いがけず お父様の前で告白してしまった。
自分でも頬が赤らむのが分かる。

『そっ、そうか・・そんな年頃なんだな・・』
 首を動かして、お父様を見ると肩を落としている。
妖魔を好きだなんて。
ガッカリさせてしまったかもしれない 。
「 まあ、まあ」
永春様が、お父様の肩を叩いて慰めている。
 でも、撤回する気はない。

「 はっ?妖魔が好きだと? 馬鹿らしい。 そんな嘘に私が騙されると思うのか」
「 確かに、妖魔と人間です。 でも、想いが通じて 出会うはずのなかった私たちが出会ったんです。私は、その幸運に感謝しています」
物心ついた頃から その寂しそうな姿を見ていた。  その横顔を見るといつも 切なくなって 胸が締め付けられたものだ。

 抱きしめてあげたかった。 一人じゃないよと 髪を撫でてあげたかった。 少しでも笑顔に してあがたかった。あの時 私は子供で 側に行く術も何もなかった。
 でも、今は違う。
 その好機が巡ってきたのだ。
『そこまで、相手の事を・・』
「何が幸運だ。 人間ごときが 何様のつもりだ!」
角英が、吐き捨てるように言う。
私だって 暗瞬様でなければ、ここまで信用しない。

「 妖魔にとって 人の一生は瞬きするほどの時間かもしれません。 でも、良いんです。 あの方が、ふとした時に 私は思い出して 笑ってくだされば。 それだけで 十分なんです」
 言葉の通り多くを望んでいるわけではない。
 ただ、楽しい思い出として 私を忘れないでいてほしいだけ。
 しかし、角英が私の気持ちを馬鹿にする。

「 15年間も山で暮らしていた世間知らずの小娘に 何がわかる。 お前は騙されてるんだ」
「いいえ! 騙されてません 。あなたが何と言おうと私は 私が見てきた暗瞬様を信じます」
「くっ」
 真正面から角英を見て強く反論する。
 一緒に過ごした時間は短い。 でも、その時間は誰よりも濃密な時間だったと 確信している。私に対する態度に 嘘偽りはなかった。
 それは私を見る その瞳が一度も輝きを失わなかったからだ。 角英が、 ヒクヒクと頬を痙攣させる 。

「アイツと何が違う。 同じ妖魔だ。 一緒に居た時間 だって私と大差ない。 それなのに、どうしてアイツを信じて 私を信じない」
『 それで そのアンシュンとやらの 歳は何歳だ? 家族は、いるのか? 仕事は何をしている?』
「えっと・・」
認めてくださったのか、お父様が 根掘り葉掘りと聞いて来る。 しかし、どれもこれも 答えにくい。

 角英が 頭をかきむしりながら、行ったりきたりする。
「 アイツは瘴気の王だぞ。 間違いない」
『 ショウキの王?そんな国が 何時のまに出来たんだ』
「 お父様、そうでは無くて」
 『裕福な国に嫁ぐのなら 食べるのに苦労しない。何よりだ。 だが、一番は愛情だ。 そいつは お前のことを愛しているのか?』
「えっと・・それは・・その・・」
 確信をついた、不意のお父様が質問に 明芽は動揺する。

私と暗瞬様との関係・・。私が一方的に「好き」の一言に尽きる。 好きだと言ってもらった事はないが 、とても親切にしてくださる。 
その気持ちが育てば、やがて好きに変わると願っている。
「 大切にして貰っています」
『 そうか。なら安心して お前を嫁がせられるな』
「嫁ぐ!そっ、そんな気の早い・・」
恥ずかしさにモジモジしていると角英か水を差す。

「そんなの今だけだ。 お前だって飽きられたら終わりだ」
『今だけ?気の多い男なのか?』
「違います」
「違わない。 一緒にいられる時間も 僅かだ」
『僅か?死にかけているのか? いくら愛していても、それは駄目だ。 お前は、まだ若い 。自分から苦労するとわかっているのに 飛び込むのは許さない』
角英が詰め寄ってくる。 お父様も迫ってくる。
 二人の同調した行動に 両手を突き出して拒む。 一緒に来られても困る。
「 ちょっと待ってください」

「金か?金が目当てなのか? あいつに随分 貢いでもらっていたな」
『貢いでもらっていたのか? 』
「違うんです」
「金なら私の方がある。 欲しいものを言え 私が、その10倍でも 20倍でも買ってやるぞ 」
「いりません!」
 そんな女ではないと突っぱねる。

『 そんなに、すさんでしまうほど 苦労したのか・・。 済まなかった』
お父様の瞳には 後悔と罪悪感でいっぱいだ。
明芽は誤解を解こうと 両手でお父様の手を包み込むと 必死に首を振る。
「 聞いてください 。暗瞬様に 立て替えてもらっただけです。 ちゃんと返済することになっていますから 」
『そうなのか?』
「勿論です。ですから安心して下さい」

「何を言っている。 お前の着ている服一揃い 全部買ってもらったくせに」
角英の指摘に 明芽は自分の着物を見る。
 これは就職祝いだと言って 贈ってくださったもんだ。 決して強請った物ではない。
 何も知らないくせに! 適当なことを言うなと 角英を睨みつける。

お父様が私の 頭からつま先てみると 感心したように頷く。
『ふむ。服の趣味はいいと思うぞ。 お前に、とてもよく似合っている』
「はい。私も気に入っています」
暗瞬様のことを誉められて 鼻が高い。

「 顔か? 顔ならば術でいくらでも変えられる。 ほら、これでどうだ?」
角英が顔を手で何度か擦ると 顔が変わる。
しかし、それは 暗瞬様とは似ても似つかない 。10日ぐらい水でふやかしたような顔だ。
変な物を見せられて 顔をしかめる。

 すると、ずっと黙っていた 永春様が妙に納得した様子で喋る。
「成程。 これは本当の猿真似か。ふむ。ふむ」

こちらが説明しようとしても その時には次の話題に移っている。 一度に二人相手にするのが 精一杯なのに これ以上増えたら誤解が誤解を招きかねない。
「永春様。 勝手に話に入らないでください。 混乱します」
「もう 十分混乱してると思うけど?」
注意しても 言うことを聞かない永春様をジロリと睨んで黙らせる。
「きっ!」
分かった。分かったと 永春様が宥めるように両手を出す。 隣では不満げなお父様が しげしげと角英の顔を見ている。

『 こんな顔をしているのか?』
兎に角 何とか収拾しよう 。
「ですから」
「顔が同じなら何も問題はないだろう。 お前が望むなら一生この顔で生活してもいい」
「いいえ。 本物は何十倍も素敵です。 ここに来ますから、その時は お父様に紹介します。それまで待っていてください」
角英の話しを聞きかじりながら お父様が喋ってくるので 話が、ごちゃ混ぜになる。

『こっ、 ここに来るのか・・ 紹介 ・・』
お父様が、よろよろと後ずさって 胸元を押さえる。 
どうしたのかと近づこうとすると 角英が立ちはだかる。
「 何を言っている。 私の変化は完璧だ 。父親に見栄を張る必要が、どこにある?」
「 あなたの方こそ 怖くてまともに見てないくせに。よく言うわ 」
うろたえるお父様を 永春様がニコニコ顔でなだめるている。

『 ・・まだ、 心の準備が・・』
「大丈夫ですよ。 大した男ではありませんから」
「永春様!」
 この状況を楽しんでいる永春様に腹が立つ。
 角英の横を通り過ぎようとすると 腕を掴まれる。 
「 なっ、何を言う。わっ、 私は恐れてなどいない」
今度は何にと 角英を見ると 目を泳がせている。
 見栄を張っているは、どっちよ。
 明芽は、うんざりして腕を振りほどく。
 みんな勝手なことばかり言って まともに取り合っている私がバカみたい。

『 まさか、死んでから、こんな目にあうとは ・・』
「良いじゃないですか。 これぞ父親の試練です」
 他人事だと思って無責任な発言する 永春様をお父様が胡乱な目で見る。
『 お前も娘をもてば、私の気持ちが分かる。 その時吠え面かくなよ 』
「ははっ」
永春様が、 愛想笑いて誤魔化す。
『ところで お前は誰の味方だ。 角英の手下ではなかったのか?』
「 私ですか?私は」

明芽は目を閉じて イライラする気持ちを何とか 理性でも抑え込む落としたが もう限界だ 。
一人の質問に答えてる間に もう一人の別の者が質問してくる。 話は、あちこちに飛び もはや自分の手を離れつつある。
 おまけに皆好き勝手言って 解決にならない。 全然話にならない 。
「黙りなさい!!」
 声を荒げると 暫しの 静寂訪れる。
「・・・」
『・・・』
「・・・」
 皆が口を閉じて私を見ている。
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