上 下
15 / 26

15 『十日業火』の真実

しおりを挟む
暗瞬(アンシュン)様が来るまでの時間稼ぎになるならと 明芽(ミンメイ)は、興味が あるふりをする。
「 どんな方法ですか?」
 すると、角英(カクエイ)が、とっておきの秘密を教えてあげると言うように 目を輝かせる。
「 体を乗っ取って自分の血を飲み続ければ、いいんだ。 そうすれば永遠の命で 無敵。 この世で一番強い。 誰からも馬鹿にされない 神のような存在になれる」
「・・・」
(乗っ取る?人間の私を?)
あまりに浅はかな考えに 言葉もない。

いくら不老不死になろうと思うも、 所詮 『神もどき』が、良いところ。  神などには絶対なれない。
 そんな事も分からないなって・・。憐れだ。
 角英が、行ったり来たりしながら 何かに憑かれたように 話し続ける 。

「 諦めかけた時 見つけたんだ。 黄家の存在をな。 自分の願いが通じたと私は歓喜した。 聞けば皇族だと言う事じゃないか、これほど条件の良い人間はいない 」
(見つけた? 黄家?皇族?)
蒼の国は とっくに滅んでいるのに まるで昨日の事のやように喋っている角英を見て、 明芽は 蒼白になる 。

もしかして・・ この馬鹿げた計画は、既に実行したことなの?
カタカタと体が 震える。
間違いであります様にと 祈る気持ちで聞く。
「あっ・・ あな、あなたが・・そ・・蒼のくっ、国を・・ほっ、滅ぼした・・犯人なの?」
「 そうだ」
 当事者である私が 目の前にいるのに 即答することがショックだった。

角英に とって誰が死のうが 国が亡くなろうが たいした問題ではないのだ。
 それほど 角英に とって 人の心など なんの意味もない。

「 俺の計画は完璧だった。 国に疫病を流行らせて その治療をして 帝の信頼を得てから 隙を見て王子の体を乗っ取る」
あまりに卑劣だ。 味方のふりをして油断させてから 寝首を掻くなんて。
お母様が既に亡くなっていることが せめてもの救いだ。 もし角英の顔をしていたら 耐えられないはずだ。

 私の大切な家族を殺めた犯人が 目の前にいる。 この手で殺してしまいたい衝動に駆られる。
 それが出来ないなら 泣き叫んで罵詈雑言の限りを尽くしたい。 でも その一方で、それを押し留める自分がいる。 全てを知りたかった。 今まで誰も教えてくれなかった真実を。

「それなのに あのクソ餓鬼! 自我が強くて上手く行かなかった。人間のくせに 抵抗しやがって。 だから殺した」
「  言うことを聞かなかったから 殺したの? 」
「 そうだ。乗り込んで、すぐ父親を殺した。 大人は面倒だからな。 それで乗っ取る体がなくなって しまった」

 角英が苦虫を噛み潰したように言う。
 お父様やお兄様の無念を思うと 胸が痛い。 何も悪くないのに 理不尽に殺されるなんて・・。
「 だから 俺の計画を台無しにした腹いせに 父親と息子の血を全部飲んで 皇族全員を根絶やしにしようと決めた」
「・・・」
明芽は、 胸をかきむしりながら 静かに涙を流す。

「血を飲んだ 俺は無敵だった 。お前にも見せてやりたかった。 腕を軽く振っただけで 屈強な武官たちが 木の葉のように飛んでいくんだ」
楽しそうに話す 角英を見ながら 拳を作る。
自分のうさを晴らすために 人の命を奪うなんて 許せない 。

「俺が歩くだけで 死体の山ができたんだ。 あれほど興奮した光景は 後にも先にも あの時だけだ・・・」
 懐かしむような 、残念がるよう様に 話す角英に  明芽は生まれて初めて 心の底から怒っていた 。
全身の血が煮えたぎっている。 こんな感情が自分の中に あったのかと 思うほどだ。

「皇后を探していると 産着を見つけた。周りのものを問い詰めると 二女がいることがわかった。 二人は部下の手引きで すでに王宮から出ていた。 だから、逃げられないように 国全体に術をかけた。 結局、逃げられたが」
 そのせいで無関係な 蒼の国の民が命を落とした。 彼らには、これぽっちも罪がないのに。

「 私たちが居ないと分かったなら 術をとけば良かったでしょ。 どうして 他人を巻き込んだのよ!」
「生かしておく必要がどこにあるんだ 。国中、キョンシーで 埋め尽くされてたんだ 。放っておいても 食われるなり 焼け死ぬなりして死ぬんだから 、 同じだろ。  しかし 天守閣から国が滅びるのは見るのは気分が良かった」
たった一匹の妖魔の為に 家族が、蒼 の国の民が 滅んでしまうなど  あってはならないことだ。

「 何て・・なんて酷い。・・ この人でなし!」
「 その通りだよ。 私は妖魔だからな。はっ、はっ、はっ」
 高笑いする角英を燃える瞳で睨みつける。
 もう聞いていられない。 我慢の限界だ。
 いくら妖魔だと言っても 残酷過ぎる。
 こんな男が何の罪に問われず 15年もの間 人間に化けて、のうのうと生きていたなんて 許せない!

人である私が 角英を殺すことは  無理だ。 それは分かってる。
 ( それでも、 それでも・・)
明芽は折れた膳の足を 角英に気付かれないように 手に取る。
「 覚悟しなさい!」
「おっと」
 一矢報いたいと叫びながら 切りつけるが 軽くかわされてしまう。

「 まるで猪だな。従者 の言いなりだと聞いていたが 猫をかぶっていたのか?」
「くっ」
 角英が呆れたように 床に転がっていて私を 見下ろす。  手も足も出ない自分への歯がゆさで悔し涙が滲む。
「まぁ、良い。 こっちへ来い」
明芽は、立ち上がると後ずさると膳の破片を 自分の首に押し当てる。

「 それ以上近づいたら死にます」
「なっ、早まるな」
死にたくはないが 暗瞬様が間に合わなかったら 死を選ぶ 。 それに これ以上、角英の思い通りには させたくない。
「天涯孤独で 金も無いお前が 何処へ 逃げる? まさか、呂のところか?」
「・・・」
「逃げられないんだから 諦めろ」
角英が わざと呂の事を言って私を逆撫でする。
言っていることは正しい。でも、私には切り札がある。

「いいえ。 諦めません」
近づこうとする角英を 牽制しながら  距離をとる。
「 暗瞬様が助けに来ているはずです」
 まだ来ていないが きっと来てくれる。 そう信じている。
「暗・・瞬・・?」
余裕だった角英が 暗瞬様の名前が出た途端 固まる。
「 どうして、お前が 瘴気の王の名前を・・まさか、 お前の従者とは 暗瞬なのか?」
私を見る角英の目には 驚きよりも困惑が浮かんでいる。

 瘴気の王? 
確かに自分が住んでいた山は 常に瘴気が 溢れている。15年 暮らしていたが、一度も他の生き物を見たことが無い。あの山で 生きていたのは 私たち家族だけた。
 それに 暗瞬様が住んでいるのは 反対側の山だ。
「いったい誰の事ですか?」

「いいから教えろ!」
 角英が怒鳴るが 、それは不安からくるようで さっきまでの勢いは無い。
 どうやら本気で恐れているらしい。
「 もしかして・・ 瘴気の王が畏いの?」

「そうだ。 仕方ないだろう。 触れただけで腐るんだぞ! 人も妖魔も 草木も、全てだ。 死ぬと分かっていて 関わりを持ちたい者が どこにいる!」
 残忍で非道な角英に 怖いモノがあるとは思えない 。
それなのに 怖いと認めた事に 少なからず驚く。 やはり自分の命は  惜しいらしい。

「暗瞬様が、瘴気の王なんて信じられません。 そんな恐ろしい妖魔が 人間の従者などに なりますか? あなたの勘違いです。 だって現に私は こうして生きています」
怪我ひとつないと 両腕を広げる。
 それに 角英の言う 瘴気の王の印象と 暗瞬様の印象が 重ならない。

ずっと一緒に行動していたが、 怖い思いなど ひとつもなかった。むしろ 楽しい事ばかり。
 普通に食事をしたりして 人間と変わりないし、 一人ぼっちになった私を何より心配してくれた。 そんな優しい 暗瞬様が 瘴気の王の訳が無い。

「 人など 取るに足りない存在だ。 だから、今は 放っておかれてるだけだ」
「・・・」
いずれ殺そうとする人間の願いを 叶えたり、衣を買うために 身銭を切るだろうか?
 食べるにしても 街ではなく山の方が 人目につかない。 なら、どうして 街へ連れてきた?
 どう考えても 角英の理屈に合わない。

「 はい。はい。 どうしてもと 言い張るなら証拠を見せてください」
 もし角英の言うことか 正しいなら。餌の私を横取りした角英から 絶対 奪い返しに来る 。
「・・証拠は無い」
「はっ?」
角英の 歯切れが悪い。明芽は そんな角英を見て唖然とする。
(噂に 怯えてたの?)
「 嘘じゃない。 本当にいる。 全身が真っ黒で赤い目をした 妖魔が、相手を腐らせるところをこの目で見たんだ 」

角英が自分の目を指差す。
きっと恐怖で キチンと見ていないんだ。
 確かに 瘴気の王は 存在するかもしれない。
 でも、 黒い衣を着ている妖魔など その辺にゴロゴロいる。

でも・・暗瞬様だという証拠には ならないが、 違うという証拠にもならない。
「 それだけで 私の従者と 瘴気の王が 同一人物とは 断定できません」
口ではそう言っているが 本当のところ不安が芽生える。私は、暗瞬様のすべてを 知っている訳ではない。 何より暗瞬様の 妖魔の姿を見たことがない。呂の事もあって 少々自信喪失中だ。
あんな 悪人だとは 全く気付かなかった。
だから、 信じきれるほど確信がある訳でもない。  初めて心が ぐらつく。
 暗瞬様のことを盲目的に信じすぎていたのかもしれない。でも・・・。

「それで良いのか? 俺の言っていることが本当で 正体がバレたら殺されるかもしれないんだぞ」
角英が 揺さぶりをかけてくる。
 瘴気の王。 名前だけ聞けば、とても恐ろしい。暗瞬様が 瘴気の 妖魔だったら・・・私は どうするの?



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?

石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。 ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。 ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。 「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。 扉絵は汐の音さまに描いていただきました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

処理中です...