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10 協力者の正体

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呂(ろ)たちが 居なくなり 、扉の前で 今や遅しと暗瞬(アンシュン)様の帰りを待っていた明芽(ミンメイ)は、その姿を見つけると駆け出す。
「暗瞬様!」
 その姿を見るだけで安心する。 もう すっかり暗瞬様が傍にいることが当たり前になっている。

 渋い顔で歩いていた暗瞬様が私の声に気づくと笑顔で待ちかまえる。
「 どうした。寂しかったのか?」
「 早く帰ってきてくださって良かったです」
明芽は暗瞬様の手を掴むと 家の中に引っ張っていく。
「 おやおや 今日は積極的だね~」

 私の気も知らないで、 呑気なことを言っている。 どんな事が あったか知ったら 腰を抜かす。 莞爾な顔の暗瞬様を見ながら、こっそり笑う。

***

明芽は、呂が国を再興するから力を貸して欲しいと言ってきたことを説明する。 話していくほど暗瞬様の顔が、厳しくなる。 それを見て明芽は 事の重大さを改めて感じる。

「 ところで 呂が、連れてきた白(ハク)という奴は 何者なんだ?」
「呂さんと同じく 蒼の国の武官だと言っていました。 ですが 、本人は一言も口を開きませんでしたので 何とも言えません」
「 それは可笑しいな。 普通なら呂と一緒に お前を説得しようとするはずなのに」
「 それは私も感じました。 何も喋らず ジッと見られて気持ちが悪かったです」

 呂からは再興したいという情熱が感じられたが、白からは何も感じられなかった。
「 その協力者のことは何か言っていたか?」
「 会ってからの お楽しみと言われました。 その方に任せれば全て うまくいくと思い込んでいるようです」
「・・・」
 滅んだ国が再興される。
 それは隣国の人達からしたら 寝耳に水だし。
 それを脅威に感じて戦になるかもしれない。
もし、負ければ 蒼の国は二度 滅んだことになる。 
それは絶対 避けたい。

*****

明芽の言葉に 暗瞬は首を捻る。
 この辺り一帯の事は全て掌握している。
 金や力は ともかく、 人となると話は別だ。
 山賊たちも大して人数は いない。 となると他国の異分子たちか? 奴らは潜伏していて実態がつかみづらい。

「 残念だが思い当たる人物はいないな」
「そうですか・・」
「 で 、明芽は何と返事をしたんだ?」
「 考えてください。と、言いました」
「 賢明だな」
いくら明芽が、黄家の血を引いていると言っても 周りの国が承認するとの思えない。
良く出来ましたと 明芽に向かって頷く。

 ちゃんと言いつけを守ってお留守番できたことに成長を感じる。
前の明芽なら 簡単に呂の口車に乗って、今頃は どこかへ連れ去られていだろう。
 しかし 何か言いたいことがあるのか、こちらを盗み見ている。
呂に 何か嫌なことでも言われたのか?

「 何だ。 言いたいことがあるなら 言えば言い」
「 私自身は再興することに反対です。 でも、それで 皆さんの夢を壊してしまうようで心苦しいです」
暗瞬は目を見張る。
 断ることは、 引き受けることの何十倍も決断するのに勇気がいる。
( もう自分で決めていたのか・・)

 大人になった事に頼もしさも覚えるが、 自分に何の相談もなかったことへの寂しさもある。
「・・ お前が そう思うなら そうすれば良い」
「 本当は・・公主として 協力しないと イケないんでしょうけど・・」
「 そう 気に病むことはない。 真剣に再興を考えていたなら、お前ではなく 皇后が必要だったはずだ。 髪の色だけで、公主だと言い張るには無理がある。皇后なら、顔を知られていすはずだから、その方が話が簡単に進む」
「そうですね」
「それに  呂達も純粋に再興を望んでいるわけではないだろう。 その協力者も 利があるから力を貸しているだけだ」
「 本当に そう思いますか?」
「ああ、 国の再興は並大抵の気持ちではできない。 今 お前が迷っているようなら 断って正解だ 」
「良かった・・」

安心したのか明芽の口角が上がる。
 その愛らしい微笑みに 暗瞬は ほっこりする。 
しかし、呂達が明芽の気持ちを尊重するとは思えない。 ヘタをすると強引な手に出るかもしれない。
 その時、守ってやれるのは私しかいない。
 手始めに、呂が戻ってきたら 白の正体を吐かせるか。

 しかし、その日の夜 呂は帰ってこなかった。

*****

 昼近くまで暗瞬様が、呂さんの帰りを待っていてくれたが、 用があると今日も出かけてしまった。
明芽は 姿が小さくなるまで見送る。
 本音を言えば、 ずっと暗瞬様に  側にいて欲しい。 
また、あの白に 一人で会うのかと思うと 気が重い。 
戸が開く音に振り返ると、 意外なことに 呂が一人で帰って来た。

 「という訳で、 再興の話は無かった事にして欲しいんです。 もちろん、 皆さんの気持ちには 感謝しています。 ですが、 私の意見を尊重してくださると嬉しいです」
「 そうですか・・」
食い下がって来るだろうと構えていたが、何も言ってこない。 肩透かしされた気分だ。 

どうしてだろう?
昨日は あんなに熱弁を振るっていたのに。 たった一晩で コロッと考えを変えるなんて 白に何か言われたんだろうか?
「明芽様。・・ 昨日、 会わせたい人がいると言っていましたよね」
何?何を言おうとしてるの ?
「ええ」
 警戒しながら頷く。 

「その人には、随分世話になったんです。 私から断ると、 恩を仇で返したようで・・。 お願いです。 私と一緒に その人のところに行って、明芽様の口から断ってもらえませんか?」
「それは・・・」
「 お願いします。でないと私が 嘘をついたことになります」
「・・・」
なるほど 既に、呂の中では再興の話に ケリが ついてるんだ。
だから、保身の為に 私が必要なのね。

白を連れて来たくらいだから、国の再興に協力してくれた人がいるのは、 間違いないだろう。 
呂の立場も理解できる。
でも、 会うとなると また話が蒸しかえりそうで 不安だ。
「 ・・・」
「 この通りです。 お願いします」
 拝み倒すように言ってくる呂を見て、 明芽は仕方なく妥協する。

「 分かりました。 私から話すのが礼儀でしょうから。 その方のところまで 連れて行ってください」
「ありがとうございます」
「ですが 、 暗瞬様が戻るまで待ってください」
責任を取るのが、嫌な訳ではない。
直ぐに 行かないのは 暗瞬様に何も言わずに この家を離れるのは 言い付けを破る事になるからだ。

 暗瞬様の名前を出した途端、 呂の機嫌が 急に悪くなる。
「暗瞬!暗瞬!・・ 明芽様に とって暗瞬という男は 何なんですか?」
呂からの思いがけない質問に明芽は目をパチパチする。
家族でも、恋人でも、友達でも無い。 
初恋の人と言ったら 馬鹿にされるだろうか。 

知り合いと言うほど 相手のことを知ってるわけでもない。
 でも、大切な人。 その事だけは確か。
 だって、貧乏なのは最初から知っているから、お金目当てでは無い。 若い男女が 3晩も同じ家に泊まったのに、 何もなかったから 体目当てでも無い。

 そこまで考えて明芽の心に疑問が生じる。
 どうして暗瞬様は、 会ったばかりの私の為に何の見返りも求めなで  親切にしてくれるの?
答えが知りたいと思うと同時に、 自分の心の中に希望が光りだす。 何とも思ってない人間に、 優しくしたりしないはず。

「明芽様。 答えてください」
呂の急かす声に、もの想いから覚めた明芽は、 頭に浮かんだ言葉を そのまま口にする。
「・・従者です」
苦しい言い訳だ。 数日前まで自分が公主だと知らなかったのだから。 でも、 いつも同行しているから、それなりの理由が必要だ。 

従者なのに敬称をつけているのは何故だと、内心聞かれるのではないかとヒヤヒヤしながら、チラリと呂を見る。
「 そうですか」
「そうです。 山で知り合った時から従者です」
追求してくるかと緊張していたが、 すでに興味を失ったようだ。
 明芽は 何度も頷きながら、 嘘はついていないと納得させる。 

「 何時頃帰ってくる予定ですか?」
「 えっ?・・どうしてですか? 」
返事に 困る。暗瞬が どこで何をしているか知らない。
それに、どうも戻ってきてからの 呂の様子が気にかかる。 
感情の浮き沈みと言うか・・。 考えに一貫性が感じられない。 何か 裏でもあるのだろうか。

「 実は、 この近くまで協力してくれた人が来ているんです。すぐに済みますので 行きましょう」
今にも立ち上がりそうな勢いの 呂をなだめる。
「いえいえ。 断るのですから 私の方から出向きますので 、その方の お名前と家を教えてください」

どんな人物か分からないのに 会うのは不安。 
それに、 暗瞬様の言うとおり 私利私欲から援助を申し出ていたなら、 断るということは、 儲けが不意になるということだ。 
(怒るだろうな・・。 きっと凄く・・)
呂たちが調子のいいことを 言っていないといいけど・・。

「これ以上持たせて、機嫌が悪くなるのは困ります」
「ですが、 何も用意していません。断るのに・・手ぶらでは・・」
確かに、待たせたままなのは申し訳ない。 せめて手土産が欲しいところだ。
「 すぐに済みます。 暗瞬には書置きをおけば良いでしょう」
「・・・」
そうは言っても・・。
 わざわざ怒られに行くのは・・。
少しでも先延ばししたいのに。 呂がグイグイとせめてくる。
 断ったことに立腹して手下達に取り込まれた自分の姿が、 容易に想像できる。
 そうなったら・・。

「従者なら私でも 務まりますので 、護衛の方は、 お任せください。行きましょう」
「・・・」
従者と 言った手前、 これ以上 暗瞬様を待っては いられない。 適当な言い訳も思いつかない。
 それでもグズグズしていると、呂がサラサラと 、地図を書くと卓に置く。
 これで問題ないでしょうと 押し切られて、明芽は後ろ髪引かれる気持ちで 仕方なく重い腰を上げる。
家臣の責任を取るのも、 公主としての仕事の一つだ。

***協力者は・・

 呂に連れられて来たのは、 街道を外れた山道の奥にある塔のような建物だった。 昔は繁栄を極めたような豪華な造り。
しかし、今は、 いつ崩壊してもおかしくないほど、荒れ果てている。 建物の周りは 雑草だらけで、人の出入りが あるように見えない。
( 本当に ここ?)

「明芽様。 ご心配なく。 外観は壊れていますが、 中は きちんといます。さあ、中へどうぞ」
呂が得意げに言うと、 両開きの戸を開ける。
いくらそう言われても 不安でしかない。
 本当に 中に入っていいのだろうか?


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