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4 買い物中毒

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明芽(ミンメイ)は 、暗瞬(アンシュン)様からの就職の前祝いにと 衣を買ってもらうことに。
 ところが 、五軒も店を回ると言い出した 。
「ごっ、五軒?」
「 当たり前だ。 気に入った物が、最初の店で見つかると思うのか? 最低五軒は回らないと 後で後悔することになる」
 怪訝に思って聞くと、とんでもない言葉が返っ来る。言いたい事は、分かるけど。
 そんなに必要? どれだけ、こだわりがあるのだろう。 嫌な予感しかしない。

 そんな私の背中を押して 店の中に入っていく。
 案の定、直ぐに 暗瞬様が片っ端から 上衣をとっては次々と私に当てる。
「 こっちが良いか?」
「 それとも、あっちか ?」
と言いながら 売り子に どんどん渡していく。
 「派手すぎます」
「 色が嫌いです」
明芽は 、それを売り子から奪い取って棚に戻す。
「 全部、似合って困ってしまう~」
「 さっきも 同じような物を選びました」
 そんなやり取りをしているうちに、気づけば 店を一周していた。
「 これを全部包んでくれ 」
[毎度ありがとうございます」
暗瞬様の言葉に ハッとして売り子を見ると 、私が戻した衣を全部回収している。

「なっ」
 売り子を 睨むと ニンマリと笑い返される。
「 駄目です。 1枚の約束です」
山と積まれた衣を 棚に戻す。 しかし、暗瞬様が 棚から取って売り子に渡す。
「 何を言っている。 他の店を見ているうちに買われてしまったら どうする気だ?」
「それは・・そうですけど・・。でも 」
「なら、問題ない」
 ケロッと言って 売り子に代金を支払って 荷物をつかむと私の手を引いて次の店を指差す。
「今度は、ここに入ろう」

今度の店。 玉の店らしく 色とりどりの石の中に紫水晶もある。
(本当だったんだ・・)
並んだ たくさんの装飾品は 花や蝶に虫。果ては動物まで 掘られていて今にも動き出しそう。
凄い。  
ただただ 、その緻密な美しさに圧倒される。
 こんなに手の込んだ物は 自分には一生縁が ない。

「明芽。 こっちを見ろ」
暗瞬様の声に顔を向けると、両手を耳を押し付る。
 何事かと見ると 暗瞬様の手の中には耳飾りがある。
(まったく!)
 明芽は、暗瞬様の両手を掴むと 額を押し付けんばかりに顔を近づける。
「 駄目です。 一枚の約束です」
 目を見ながら すっとぼけている暗瞬様に思い出させるように 言い聞かせる。
「 何を言っている。 これは一組だ 。1枚じゃない」
「っ」
 そんなの屁理屈だ。 1枚も一つという事では同じだ。 それなのに、 この人は!
 なんとか諦めさせないと、 キリがない。
「左様でございます。 一枚ではなく、一組です」
「ほら」
加勢 するように言ってきた店主の一言に、 暗瞬様が振り返ると そうだそうだと頷く。

明芽は、開いた口がふさがらない。
 絶対 店主とグルだ 。
だからと言って 私は納得してしませんからね 。
「またのお越しを~」
「?」
 文句を言おうと詰め寄ったはずなのに、 何故か気付いたら店主の声に 見送られて店の外に出ている。

明芽は、歩き出した暗瞬様の手を掴んで引き止める。
「 待って下さい。 肝心の玉の話が、まだです 」
「ああ、それなら聞いた。問屋か、細工師のところを訪ねるといいと言われた」
「 お店では買い取ってくれないんですね」
 これでは約束のご馳走も出来るかどうか 怪しい。
では、先にその問屋へ行こうと言おうとした時には、 暗瞬様に担がれる。
「 明芽。 次は あの店に行こう」
「 下ろしてください !もう買い物は終わりです」
足をバタつかせても、 背中を叩いても 歯牙にもかける様子もなく 三軒目の店に向かう。
「 もう十分ですー」
「まだまだだ」
「 でも、でも 」
何とか止めようと必死だが 、暗瞬様は まだ買い足りないと 次の店に私を連れ込む。

「 ほら、座って」
 椅子に座らされると暗瞬様が跪いて 靴を脱がし始める。
「まっ、待って下さい」
 焦って止めようとするが、それより先に 靴が脱がされた。
「 しかし 、お前の足は小さいな」
 そう言いながら 私の足を掴むと スポッと靴を履かされる。
「もう!いい加減にしてください」
 靴を脱いで自分の靴を履こうと、もたついていると 暗瞬様が何やら店主と話をしている。
 この流れは・・。
 さっきの二の舞になると、止めに入る。
「 待ってください!」
「んっ? どうした」
暗瞬様が、 素知らぬ顔で首を傾げる。

 そんな顔をしても、 私は欺こうとしていることは知っているんですからね。
 仁王立ちすると 暗瞬様の顔の前で指を振る。
「 暗瞬様の魂胆は 見え見えです」
「 何を言ってるんだ? もう帰るぞ」
「えっ?」
 さっさと出ていく暗瞬様の後ろを首をひねりながら 付いていく。
帰る? 本当に帰るの?
 おかしい 。さっきの勢いをどこへ?

 なんだかんだで、結局 あの後もお店に寄って 暗瞬様の当初の目標通り 五軒の店を回った。
 喉がカラカラになるくらい断ったのに 完全に無視され続けた。
 一生分の買い物をした気分だ。

 満足いく買い物ができたのか 暗瞬様が上機嫌で お茶に誘ってくる。
「 少し休憩しよう」
 やっと解放されると安堵する。 それに 名誉挽回できると胸を叩いて元気よく言う。
「 はい 。高い物はご馳走できませんが、 ここは私が払います」
 勢いよく、店の戸を自ら開ける。

**

 最悪 自分の分は、お茶で我慢しようと思っていたが 、お金が足りてホッとして注文を済ませる。 でも、お財布は空っぽになってしまった。暗瞬様への支払いを考えると頭が痛い 。
(ええと・・一軒目が5枚。 次の店が3点 で、 その次が・・)
頭の中で指折りを数えながら ざっと計算しただけでも、かなりの額になる。
今からでも返品できるだろうか ?

明芽は、大きな荷物を見ながら 困ったように声をかける。
 「暗瞬様。本当に こんなに必要なんですか? 払い終わるのに 何年かかるか分かりません」
「心配症だな 。私は別に何年かかってもいいぞ 」
「そういう問題では、ありません」
「 固いなあ ~。そこまで言うなら 給金から月々払ってくれればいい。 そうすれば、お前に会う口実になるし私としては 一石二鳥だ」
 その申し出は、私にとっても渡りに船。

知り合いの所へ着いたら お別れだと思っていたので 嬉しい。
これで毎月合える。明芽は、ぺこりと頭を下げる。
「はい。それで、お願いします」
「 おまちどうさま。 ゴマ団子と 豆沙包子です」
程なくして、店員が甜点心を置く。
目の前に出て来た豆沙包子を見て嬉しくなる。あまい物を口にするのは久々だ。
明芽は、大事そうに手に取ると、パクッと食べる。
いつもの餡子の甘さが、口に広がる。
(あぁ、 この味。この味)
 至福の時を堪能していると 暗瞬様がゴマ団子を箸でつまんで口元に差し出す。
「明芽。 こっちも食べてみろ。 美味しいぞ」
「・・・」
ゴマの香ばしい匂いに、 ゴクリと唾を飲み込む。 山での生活では、 甘い物は年に一度食べられるか  どうかの貴重品。

 どちらにするか、さんざん悩んで 豆沙包子を選んだが 、本当は両方食べたかった。
そのチャンスが目の前にある。
「 ほら、 口を開けて。あ~ん 」
「ううっ」
明芽は、 誘惑に負けて パクリとゴマ団子を口にする。
 仕方ないじゃないか、甘い物は女の子の必需品だものと言い訳をしながら、 もごもごと口を動かす。
 ゴマと餡子が口の中で 融合する。
(あぁ~ 幸せ ・・)
あまりの美味しさに ほっぺが落ちそうだと頬を押さえる。
すると 暗瞬様がゴマ団子をもう一つ 私の皿に移す。
「 しかし、 どうして明芽は 買ってもらうのが そんなに嫌なんだ?会ったばかりの女だって 断ることなんかしないのに」
「私は、 物に釣られるような女ではありません」
 2個目のゴマ団子を食べながら言う。

 お店で綺麗な物も 精巧なつくりの物も 見たが、 良いなとは思うが 欲しいとまでは思わない。
 所詮、物は物だ 。大切なの送ってくれる相手の気持ち。
「物 じゃないなら、 一体 明芽は何が欲しいんだ?」
 理解できないと眉間に皺を寄せたまま 暗瞬様がゴマ団子を口に放り込む。
 苦悩する姿にドキリとして 思わず口に手を当てる。
 (素敵だ!)

「欲しい物は、ありませんが。 叶えたいことはあります」
「へー、 何を叶えたいんだ?」
「秘密です」
明芽は  追及されないように 横を向いて、お茶をすする。
( 私が叶えたいこと。 それは・・ 暗瞬様に私を好きになってもらうこと)
 自分が思い浮かべた願いに 明芽は気恥ずかしさに、顔が  ふにゃふにゃになる。

 つい三日前までは 瞳の色しか知らなかったが 、今はこうして仲良くお茶を飲んでいる。
夢のようだ。
「 じゃあ、豆沙包子を追加するから、教えてくれ」
「 嫌です」
プイと 体ごとを横を向くと 暗瞬様がゴマ団子を私の皿に移す。
「分かった。 ゴマ団子もつける。 これで、どうだ?」
「暗瞬様!」
「 なかなか、しぶといな。 こうなったら・・おまけに肉まんを2個。・・ いや3個つける。これでどうだ!」
 「もう!絶対 からかってますね」

胡乱な目を向けると 暗瞬様が首を横に振る。
 そして、私に向かって指を振る。
「 真剣だよ。 それだけ 明芽のひ・み・つが、 知りたいんだよ」
「 そんな意味深な聞き方しても 教えません」
あっさりと断ると 暗瞬様が ストンと肩の力抜いて私を見つめる。
「やっぱり無理か~。 仕方ない。明芽が話したくなるまで、待つよ」
そんな風に信じてるという感じを 漂わされると困る。 ついつい乗せられてしまう。
 「まぁ・・その気になったら、 話さないこともありませんけど ・・」
「 そうか 。なら期待してる」
 ニッコリと笑われると 秘密を言いそうになる 。
つくづく自分は、暗瞬様に弱いと改めて思う。

*****

「子供だな」
暗瞬は 明芽の口元についた ゴマ団子の黒蜜を親指で拭うとペロリと舐める。
 すると、明芽が慌てて 手巾で唇を拭く。
暗瞬は、明芽を見ながら餌付けに成功したと ルンルン気分でいた。
だか、 町人風の男と武官の 変わった組み合わせの二人組が こちらを見ながら ひそひそと喋っているのに気付く。

 私たちは見ているのか? なぜ?
 念のためにと、暗瞬は耳をそばだてて 胡散臭そうな 2人組の会話に集中する。
「 ここからだと 暗くてわからないな」
「 本当に紫色です。 この目で見たんです。 信じてください」
 紫色・・。
まさか 、明芽の髪の秘密を知っているのか?
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