4 / 26
4 買い物中毒
しおりを挟む
明芽(ミンメイ)は 、暗瞬(アンシュン)様からの就職の前祝いにと 衣を買ってもらうことに。
ところが 、五軒も店を回ると言い出した 。
「ごっ、五軒?」
「 当たり前だ。 気に入った物が、最初の店で見つかると思うのか? 最低五軒は回らないと 後で後悔することになる」
怪訝に思って聞くと、とんでもない言葉が返っ来る。言いたい事は、分かるけど。
そんなに必要? どれだけ、こだわりがあるのだろう。 嫌な予感しかしない。
そんな私の背中を押して 店の中に入っていく。
案の定、直ぐに 暗瞬様が片っ端から 上衣をとっては次々と私に当てる。
「 こっちが良いか?」
「 それとも、あっちか ?」
と言いながら 売り子に どんどん渡していく。
「派手すぎます」
「 色が嫌いです」
明芽は 、それを売り子から奪い取って棚に戻す。
「 全部、似合って困ってしまう~」
「 さっきも 同じような物を選びました」
そんなやり取りをしているうちに、気づけば 店を一周していた。
「 これを全部包んでくれ 」
[毎度ありがとうございます」
暗瞬様の言葉に ハッとして売り子を見ると 、私が戻した衣を全部回収している。
「なっ」
売り子を 睨むと ニンマリと笑い返される。
「 駄目です。 1枚の約束です」
山と積まれた衣を 棚に戻す。 しかし、暗瞬様が 棚から取って売り子に渡す。
「 何を言っている。 他の店を見ているうちに買われてしまったら どうする気だ?」
「それは・・そうですけど・・。でも 」
「なら、問題ない」
ケロッと言って 売り子に代金を支払って 荷物をつかむと私の手を引いて次の店を指差す。
「今度は、ここに入ろう」
今度の店。 玉の店らしく 色とりどりの石の中に紫水晶もある。
(本当だったんだ・・)
並んだ たくさんの装飾品は 花や蝶に虫。果ては動物まで 掘られていて今にも動き出しそう。
凄い。
ただただ 、その緻密な美しさに圧倒される。
こんなに手の込んだ物は 自分には一生縁が ない。
「明芽。 こっちを見ろ」
暗瞬様の声に顔を向けると、両手を耳を押し付る。
何事かと見ると 暗瞬様の手の中には耳飾りがある。
(まったく!)
明芽は、暗瞬様の両手を掴むと 額を押し付けんばかりに顔を近づける。
「 駄目です。 一枚の約束です」
目を見ながら すっとぼけている暗瞬様に思い出させるように 言い聞かせる。
「 何を言っている。 これは一組だ 。1枚じゃない」
「っ」
そんなの屁理屈だ。 1枚も一つという事では同じだ。 それなのに、 この人は!
なんとか諦めさせないと、 キリがない。
「左様でございます。 一枚ではなく、一組です」
「ほら」
加勢 するように言ってきた店主の一言に、 暗瞬様が振り返ると そうだそうだと頷く。
明芽は、開いた口がふさがらない。
絶対 店主とグルだ 。
だからと言って 私は納得してしませんからね 。
「またのお越しを~」
「?」
文句を言おうと詰め寄ったはずなのに、 何故か気付いたら店主の声に 見送られて店の外に出ている。
明芽は、歩き出した暗瞬様の手を掴んで引き止める。
「 待って下さい。 肝心の玉の話が、まだです 」
「ああ、それなら聞いた。問屋か、細工師のところを訪ねるといいと言われた」
「 お店では買い取ってくれないんですね」
これでは約束のご馳走も出来るかどうか 怪しい。
では、先にその問屋へ行こうと言おうとした時には、 暗瞬様に担がれる。
「 明芽。 次は あの店に行こう」
「 下ろしてください !もう買い物は終わりです」
足をバタつかせても、 背中を叩いても 歯牙にもかける様子もなく 三軒目の店に向かう。
「 もう十分ですー」
「まだまだだ」
「 でも、でも 」
何とか止めようと必死だが 、暗瞬様は まだ買い足りないと 次の店に私を連れ込む。
「 ほら、座って」
椅子に座らされると暗瞬様が跪いて 靴を脱がし始める。
「まっ、待って下さい」
焦って止めようとするが、それより先に 靴が脱がされた。
「 しかし 、お前の足は小さいな」
そう言いながら 私の足を掴むと スポッと靴を履かされる。
「もう!いい加減にしてください」
靴を脱いで自分の靴を履こうと、もたついていると 暗瞬様が何やら店主と話をしている。
この流れは・・。
さっきの二の舞になると、止めに入る。
「 待ってください!」
「んっ? どうした」
暗瞬様が、 素知らぬ顔で首を傾げる。
そんな顔をしても、 私は欺こうとしていることは知っているんですからね。
仁王立ちすると 暗瞬様の顔の前で指を振る。
「 暗瞬様の魂胆は 見え見えです」
「 何を言ってるんだ? もう帰るぞ」
「えっ?」
さっさと出ていく暗瞬様の後ろを首をひねりながら 付いていく。
帰る? 本当に帰るの?
おかしい 。さっきの勢いをどこへ?
なんだかんだで、結局 あの後もお店に寄って 暗瞬様の当初の目標通り 五軒の店を回った。
喉がカラカラになるくらい断ったのに 完全に無視され続けた。
一生分の買い物をした気分だ。
満足いく買い物ができたのか 暗瞬様が上機嫌で お茶に誘ってくる。
「 少し休憩しよう」
やっと解放されると安堵する。 それに 名誉挽回できると胸を叩いて元気よく言う。
「 はい 。高い物はご馳走できませんが、 ここは私が払います」
勢いよく、店の戸を自ら開ける。
**
最悪 自分の分は、お茶で我慢しようと思っていたが 、お金が足りてホッとして注文を済ませる。 でも、お財布は空っぽになってしまった。暗瞬様への支払いを考えると頭が痛い 。
(ええと・・一軒目が5枚。 次の店が3点 で、 その次が・・)
頭の中で指折りを数えながら ざっと計算しただけでも、かなりの額になる。
今からでも返品できるだろうか ?
明芽は、大きな荷物を見ながら 困ったように声をかける。
「暗瞬様。本当に こんなに必要なんですか? 払い終わるのに 何年かかるか分かりません」
「心配症だな 。私は別に何年かかってもいいぞ 」
「そういう問題では、ありません」
「 固いなあ ~。そこまで言うなら 給金から月々払ってくれればいい。 そうすれば、お前に会う口実になるし私としては 一石二鳥だ」
その申し出は、私にとっても渡りに船。
知り合いの所へ着いたら お別れだと思っていたので 嬉しい。
これで毎月合える。明芽は、ぺこりと頭を下げる。
「はい。それで、お願いします」
「 おまちどうさま。 ゴマ団子と 豆沙包子です」
程なくして、店員が甜点心を置く。
目の前に出て来た豆沙包子を見て嬉しくなる。あまい物を口にするのは久々だ。
明芽は、大事そうに手に取ると、パクッと食べる。
いつもの餡子の甘さが、口に広がる。
(あぁ、 この味。この味)
至福の時を堪能していると 暗瞬様がゴマ団子を箸でつまんで口元に差し出す。
「明芽。 こっちも食べてみろ。 美味しいぞ」
「・・・」
ゴマの香ばしい匂いに、 ゴクリと唾を飲み込む。 山での生活では、 甘い物は年に一度食べられるか どうかの貴重品。
どちらにするか、さんざん悩んで 豆沙包子を選んだが 、本当は両方食べたかった。
そのチャンスが目の前にある。
「 ほら、 口を開けて。あ~ん 」
「ううっ」
明芽は、 誘惑に負けて パクリとゴマ団子を口にする。
仕方ないじゃないか、甘い物は女の子の必需品だものと言い訳をしながら、 もごもごと口を動かす。
ゴマと餡子が口の中で 融合する。
(あぁ~ 幸せ ・・)
あまりの美味しさに ほっぺが落ちそうだと頬を押さえる。
すると 暗瞬様がゴマ団子をもう一つ 私の皿に移す。
「 しかし、 どうして明芽は 買ってもらうのが そんなに嫌なんだ?会ったばかりの女だって 断ることなんかしないのに」
「私は、 物に釣られるような女ではありません」
2個目のゴマ団子を食べながら言う。
お店で綺麗な物も 精巧なつくりの物も 見たが、 良いなとは思うが 欲しいとまでは思わない。
所詮、物は物だ 。大切なの送ってくれる相手の気持ち。
「物 じゃないなら、 一体 明芽は何が欲しいんだ?」
理解できないと眉間に皺を寄せたまま 暗瞬様がゴマ団子を口に放り込む。
苦悩する姿にドキリとして 思わず口に手を当てる。
(素敵だ!)
「欲しい物は、ありませんが。 叶えたいことはあります」
「へー、 何を叶えたいんだ?」
「秘密です」
明芽は 追及されないように 横を向いて、お茶をすする。
( 私が叶えたいこと。 それは・・ 暗瞬様に私を好きになってもらうこと)
自分が思い浮かべた願いに 明芽は気恥ずかしさに、顔が ふにゃふにゃになる。
つい三日前までは 瞳の色しか知らなかったが 、今はこうして仲良くお茶を飲んでいる。
夢のようだ。
「 じゃあ、豆沙包子を追加するから、教えてくれ」
「 嫌です」
プイと 体ごとを横を向くと 暗瞬様がゴマ団子を私の皿に移す。
「分かった。 ゴマ団子もつける。 これで、どうだ?」
「暗瞬様!」
「 なかなか、しぶといな。 こうなったら・・おまけに肉まんを2個。・・ いや3個つける。これでどうだ!」
「もう!絶対 からかってますね」
胡乱な目を向けると 暗瞬様が首を横に振る。
そして、私に向かって指を振る。
「 真剣だよ。 それだけ 明芽のひ・み・つが、 知りたいんだよ」
「 そんな意味深な聞き方しても 教えません」
あっさりと断ると 暗瞬様が ストンと肩の力抜いて私を見つめる。
「やっぱり無理か~。 仕方ない。明芽が話したくなるまで、待つよ」
そんな風に信じてるという感じを 漂わされると困る。 ついつい乗せられてしまう。
「まぁ・・その気になったら、 話さないこともありませんけど ・・」
「 そうか 。なら期待してる」
ニッコリと笑われると 秘密を言いそうになる 。
つくづく自分は、暗瞬様に弱いと改めて思う。
*****
「子供だな」
暗瞬は 明芽の口元についた ゴマ団子の黒蜜を親指で拭うとペロリと舐める。
すると、明芽が慌てて 手巾で唇を拭く。
暗瞬は、明芽を見ながら餌付けに成功したと ルンルン気分でいた。
だか、 町人風の男と武官の 変わった組み合わせの二人組が こちらを見ながら ひそひそと喋っているのに気付く。
私たちは見ているのか? なぜ?
念のためにと、暗瞬は耳をそばだてて 胡散臭そうな 2人組の会話に集中する。
「 ここからだと 暗くてわからないな」
「 本当に紫色です。 この目で見たんです。 信じてください」
紫色・・。
まさか 、明芽の髪の秘密を知っているのか?
ところが 、五軒も店を回ると言い出した 。
「ごっ、五軒?」
「 当たり前だ。 気に入った物が、最初の店で見つかると思うのか? 最低五軒は回らないと 後で後悔することになる」
怪訝に思って聞くと、とんでもない言葉が返っ来る。言いたい事は、分かるけど。
そんなに必要? どれだけ、こだわりがあるのだろう。 嫌な予感しかしない。
そんな私の背中を押して 店の中に入っていく。
案の定、直ぐに 暗瞬様が片っ端から 上衣をとっては次々と私に当てる。
「 こっちが良いか?」
「 それとも、あっちか ?」
と言いながら 売り子に どんどん渡していく。
「派手すぎます」
「 色が嫌いです」
明芽は 、それを売り子から奪い取って棚に戻す。
「 全部、似合って困ってしまう~」
「 さっきも 同じような物を選びました」
そんなやり取りをしているうちに、気づけば 店を一周していた。
「 これを全部包んでくれ 」
[毎度ありがとうございます」
暗瞬様の言葉に ハッとして売り子を見ると 、私が戻した衣を全部回収している。
「なっ」
売り子を 睨むと ニンマリと笑い返される。
「 駄目です。 1枚の約束です」
山と積まれた衣を 棚に戻す。 しかし、暗瞬様が 棚から取って売り子に渡す。
「 何を言っている。 他の店を見ているうちに買われてしまったら どうする気だ?」
「それは・・そうですけど・・。でも 」
「なら、問題ない」
ケロッと言って 売り子に代金を支払って 荷物をつかむと私の手を引いて次の店を指差す。
「今度は、ここに入ろう」
今度の店。 玉の店らしく 色とりどりの石の中に紫水晶もある。
(本当だったんだ・・)
並んだ たくさんの装飾品は 花や蝶に虫。果ては動物まで 掘られていて今にも動き出しそう。
凄い。
ただただ 、その緻密な美しさに圧倒される。
こんなに手の込んだ物は 自分には一生縁が ない。
「明芽。 こっちを見ろ」
暗瞬様の声に顔を向けると、両手を耳を押し付る。
何事かと見ると 暗瞬様の手の中には耳飾りがある。
(まったく!)
明芽は、暗瞬様の両手を掴むと 額を押し付けんばかりに顔を近づける。
「 駄目です。 一枚の約束です」
目を見ながら すっとぼけている暗瞬様に思い出させるように 言い聞かせる。
「 何を言っている。 これは一組だ 。1枚じゃない」
「っ」
そんなの屁理屈だ。 1枚も一つという事では同じだ。 それなのに、 この人は!
なんとか諦めさせないと、 キリがない。
「左様でございます。 一枚ではなく、一組です」
「ほら」
加勢 するように言ってきた店主の一言に、 暗瞬様が振り返ると そうだそうだと頷く。
明芽は、開いた口がふさがらない。
絶対 店主とグルだ 。
だからと言って 私は納得してしませんからね 。
「またのお越しを~」
「?」
文句を言おうと詰め寄ったはずなのに、 何故か気付いたら店主の声に 見送られて店の外に出ている。
明芽は、歩き出した暗瞬様の手を掴んで引き止める。
「 待って下さい。 肝心の玉の話が、まだです 」
「ああ、それなら聞いた。問屋か、細工師のところを訪ねるといいと言われた」
「 お店では買い取ってくれないんですね」
これでは約束のご馳走も出来るかどうか 怪しい。
では、先にその問屋へ行こうと言おうとした時には、 暗瞬様に担がれる。
「 明芽。 次は あの店に行こう」
「 下ろしてください !もう買い物は終わりです」
足をバタつかせても、 背中を叩いても 歯牙にもかける様子もなく 三軒目の店に向かう。
「 もう十分ですー」
「まだまだだ」
「 でも、でも 」
何とか止めようと必死だが 、暗瞬様は まだ買い足りないと 次の店に私を連れ込む。
「 ほら、座って」
椅子に座らされると暗瞬様が跪いて 靴を脱がし始める。
「まっ、待って下さい」
焦って止めようとするが、それより先に 靴が脱がされた。
「 しかし 、お前の足は小さいな」
そう言いながら 私の足を掴むと スポッと靴を履かされる。
「もう!いい加減にしてください」
靴を脱いで自分の靴を履こうと、もたついていると 暗瞬様が何やら店主と話をしている。
この流れは・・。
さっきの二の舞になると、止めに入る。
「 待ってください!」
「んっ? どうした」
暗瞬様が、 素知らぬ顔で首を傾げる。
そんな顔をしても、 私は欺こうとしていることは知っているんですからね。
仁王立ちすると 暗瞬様の顔の前で指を振る。
「 暗瞬様の魂胆は 見え見えです」
「 何を言ってるんだ? もう帰るぞ」
「えっ?」
さっさと出ていく暗瞬様の後ろを首をひねりながら 付いていく。
帰る? 本当に帰るの?
おかしい 。さっきの勢いをどこへ?
なんだかんだで、結局 あの後もお店に寄って 暗瞬様の当初の目標通り 五軒の店を回った。
喉がカラカラになるくらい断ったのに 完全に無視され続けた。
一生分の買い物をした気分だ。
満足いく買い物ができたのか 暗瞬様が上機嫌で お茶に誘ってくる。
「 少し休憩しよう」
やっと解放されると安堵する。 それに 名誉挽回できると胸を叩いて元気よく言う。
「 はい 。高い物はご馳走できませんが、 ここは私が払います」
勢いよく、店の戸を自ら開ける。
**
最悪 自分の分は、お茶で我慢しようと思っていたが 、お金が足りてホッとして注文を済ませる。 でも、お財布は空っぽになってしまった。暗瞬様への支払いを考えると頭が痛い 。
(ええと・・一軒目が5枚。 次の店が3点 で、 その次が・・)
頭の中で指折りを数えながら ざっと計算しただけでも、かなりの額になる。
今からでも返品できるだろうか ?
明芽は、大きな荷物を見ながら 困ったように声をかける。
「暗瞬様。本当に こんなに必要なんですか? 払い終わるのに 何年かかるか分かりません」
「心配症だな 。私は別に何年かかってもいいぞ 」
「そういう問題では、ありません」
「 固いなあ ~。そこまで言うなら 給金から月々払ってくれればいい。 そうすれば、お前に会う口実になるし私としては 一石二鳥だ」
その申し出は、私にとっても渡りに船。
知り合いの所へ着いたら お別れだと思っていたので 嬉しい。
これで毎月合える。明芽は、ぺこりと頭を下げる。
「はい。それで、お願いします」
「 おまちどうさま。 ゴマ団子と 豆沙包子です」
程なくして、店員が甜点心を置く。
目の前に出て来た豆沙包子を見て嬉しくなる。あまい物を口にするのは久々だ。
明芽は、大事そうに手に取ると、パクッと食べる。
いつもの餡子の甘さが、口に広がる。
(あぁ、 この味。この味)
至福の時を堪能していると 暗瞬様がゴマ団子を箸でつまんで口元に差し出す。
「明芽。 こっちも食べてみろ。 美味しいぞ」
「・・・」
ゴマの香ばしい匂いに、 ゴクリと唾を飲み込む。 山での生活では、 甘い物は年に一度食べられるか どうかの貴重品。
どちらにするか、さんざん悩んで 豆沙包子を選んだが 、本当は両方食べたかった。
そのチャンスが目の前にある。
「 ほら、 口を開けて。あ~ん 」
「ううっ」
明芽は、 誘惑に負けて パクリとゴマ団子を口にする。
仕方ないじゃないか、甘い物は女の子の必需品だものと言い訳をしながら、 もごもごと口を動かす。
ゴマと餡子が口の中で 融合する。
(あぁ~ 幸せ ・・)
あまりの美味しさに ほっぺが落ちそうだと頬を押さえる。
すると 暗瞬様がゴマ団子をもう一つ 私の皿に移す。
「 しかし、 どうして明芽は 買ってもらうのが そんなに嫌なんだ?会ったばかりの女だって 断ることなんかしないのに」
「私は、 物に釣られるような女ではありません」
2個目のゴマ団子を食べながら言う。
お店で綺麗な物も 精巧なつくりの物も 見たが、 良いなとは思うが 欲しいとまでは思わない。
所詮、物は物だ 。大切なの送ってくれる相手の気持ち。
「物 じゃないなら、 一体 明芽は何が欲しいんだ?」
理解できないと眉間に皺を寄せたまま 暗瞬様がゴマ団子を口に放り込む。
苦悩する姿にドキリとして 思わず口に手を当てる。
(素敵だ!)
「欲しい物は、ありませんが。 叶えたいことはあります」
「へー、 何を叶えたいんだ?」
「秘密です」
明芽は 追及されないように 横を向いて、お茶をすする。
( 私が叶えたいこと。 それは・・ 暗瞬様に私を好きになってもらうこと)
自分が思い浮かべた願いに 明芽は気恥ずかしさに、顔が ふにゃふにゃになる。
つい三日前までは 瞳の色しか知らなかったが 、今はこうして仲良くお茶を飲んでいる。
夢のようだ。
「 じゃあ、豆沙包子を追加するから、教えてくれ」
「 嫌です」
プイと 体ごとを横を向くと 暗瞬様がゴマ団子を私の皿に移す。
「分かった。 ゴマ団子もつける。 これで、どうだ?」
「暗瞬様!」
「 なかなか、しぶといな。 こうなったら・・おまけに肉まんを2個。・・ いや3個つける。これでどうだ!」
「もう!絶対 からかってますね」
胡乱な目を向けると 暗瞬様が首を横に振る。
そして、私に向かって指を振る。
「 真剣だよ。 それだけ 明芽のひ・み・つが、 知りたいんだよ」
「 そんな意味深な聞き方しても 教えません」
あっさりと断ると 暗瞬様が ストンと肩の力抜いて私を見つめる。
「やっぱり無理か~。 仕方ない。明芽が話したくなるまで、待つよ」
そんな風に信じてるという感じを 漂わされると困る。 ついつい乗せられてしまう。
「まぁ・・その気になったら、 話さないこともありませんけど ・・」
「 そうか 。なら期待してる」
ニッコリと笑われると 秘密を言いそうになる 。
つくづく自分は、暗瞬様に弱いと改めて思う。
*****
「子供だな」
暗瞬は 明芽の口元についた ゴマ団子の黒蜜を親指で拭うとペロリと舐める。
すると、明芽が慌てて 手巾で唇を拭く。
暗瞬は、明芽を見ながら餌付けに成功したと ルンルン気分でいた。
だか、 町人風の男と武官の 変わった組み合わせの二人組が こちらを見ながら ひそひそと喋っているのに気付く。
私たちは見ているのか? なぜ?
念のためにと、暗瞬は耳をそばだてて 胡散臭そうな 2人組の会話に集中する。
「 ここからだと 暗くてわからないな」
「 本当に紫色です。 この目で見たんです。 信じてください」
紫色・・。
まさか 、明芽の髪の秘密を知っているのか?
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
私をもう愛していないなら。
水垣するめ
恋愛
その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。
空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。
私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。
街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。
見知った女性と一緒に。
私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。
「え?」
思わず私は声をあげた。
なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。
二人に接点は無いはずだ。
会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。
それが、何故?
ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。
結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。
私の胸の内に不安が湧いてくる。
(駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)
その瞬間。
二人は手を繋いで。
キスをした。
「──」
言葉にならない声が漏れた。
胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。
──アイクは浮気していた。
【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる