相談内容 月に向かって祈ったら、悪魔が召喚されました。どうしたらいいでしよう?

あべ鈴峰

文字の大きさ
上 下
21 / 22

21 救世主?

しおりを挟む
何が、ちょっと穴開けるだけよ!
ミリアは、顎を掴んでいるピエロの手を外そうともがくが、びくともしない。絶体絶命のピンチ!
 (このままでは……)
未練とともに、次々と色んな人の顔が浮かぶ。最後に現れたのはダリルだった。私を こんな目に合わせた元凶。悪魔と関わりを持ったばっかりに……。良い事なんか、一つも無かった。
(来世では信仰心を持とう)
そんな風に諦めかけた時 服の中から何が飛び出してピエロの指に噛みついた。

それはキュルだった。忘れてた。
噛みついたまま威嚇の声を出している。
「キュル!」
これで助かる。そう思ったが、
「ちっ!」
ピエロが舌打ちして手を振るとキュルが床に叩き落とされしまった。
「……キュル?」
「とんだ邪魔者が入ったな」
ぐったりとして、ピクリとも動かない。お願い。 死なないで……。  
傍に行こうとするが、足が空を蹴るだけ。
「放して!キュル!」
 何も出来ない自分が悔しくて 涙がこみ上げる。
(私を守ろうとしたばっかりに……)

「大人しくしろ。でないと別の場所にも穴が開くぞ」
「っ」
嬉しそうなピエロの顔に 蒼白になる。死の影がちらついて体が震える。 それでも 命がけで私を守ってくれたキュルの為にも、こんなところで死んでは駄目だと、くじけそうになる自分を支える。まだ最後の切り札が残っている。
(大丈夫。ダリルは私を見捨てたりしない。多分……きっと……)
まだ希望はあると、全ての願いを込めて大声で叫んだ。
 「ダリル! 私はここよ! 助けて!」
何度でも 、声が枯れても、届くまで、その名前呼び続けるしかない。
そんな私をバカにするようにピエロが 首を振る。
「無駄だよ。ここから王都まで、どのくらい距離があると思っているんだ。 そう簡単に来れはしない。諦めるんだな 」
そんなの分からない。 今までだって、指をパチンと鳴らしただけで魔法を使ってたんだから。
(今回だってパチンと鳴らしてるはずよ)
だから、諦めない。
「ダリル ー! 私はここよー!」
しかし、その間もピエロの指が どんどん近づいてくる。 
(まずい。まずい。まずいー!)
早く来てと、もう一度叫ぶ。 
「ダリル ー!助けてー!なんでも言うこと聞くからー」
すると、不意にピエロの手が緩む。
チャンス!
素早く、ピエロの魔の手から逃げ出した。しかし、追って来ない。
どうしたのかと見ると、何かに気を取られている。ピエロの視線の先にあるのは天井。
(天井?)
どうして見てるの。気になる。
それを知ろうと目を凝らした。すると、何か黒くて大きなものが天井を横切ったかと思うと、バリバリと言う轟音を立てて天井が裂かれる。
「なっ、何?」
怖すぎて目が離せない。

 怯えたようにピエロが後ずさる。
あのピエロが恐怖している。つまり、上に居るのはそれ以上に強い悪魔だ。ゴクリと喉をならす。
その亀裂から金色に縦長の瞳孔がギロギロと動く。何かを探してる。
その眼がと私を捉えた。
あの眼はダリル。
(来てくれた……)
 安堵すると、ほろりと涙が頬を伝う。『 大丈夫。ダリルを信じる』と、言い聞かせていたけど、心の奥では見捨てらたかもと心配していた。
だって、私の仕事はドアを開けるだけだから……。
 「見つけた!」
雷鳴のように 空気を震わす声が響くと同時に、一陣の風を纏いながらダリルが降りてくる。
「ダリル。来てくれたのね」
嬉しさに 駆け寄ろうとした足が、ピタリと止まる。
羽が生えている。
人間の姿じゃない。悪魔の姿?
ダリルの身長と同じくらいの大きな黒い羽根が生えている 。
(こっ、これは……本物?)
羽一本、一本が、光を受けて青く煌めいている。 こんな美しい羽、見たことない。綺麗だ……。
さっきまでの恐怖など忘れて、うっとりと見とれる。

***

ダリルは、ミリアをピエロから守るように二人の間に降り立った。
突然 ミリアの姿が消えて肝を冷やしたが、キュルの気配を追って ここまでたどり着けた。
探すのに手間取ったから 駄目かも知れないと 内心ヒヤヒヤしていたが 無事な姿に安堵する。
もっと時間が、かかっていたら間に合わなかった。本来なら正体を晒すのは 避けたいのだが、ミリアのために羽を解放した。

あの時もっと警戒していれば、ミリアが怖い思いをしないで済んだはず。
「遅くなった 」
後悔しながら、まだ乾ききっていないミリアの涙を指で拭う。
情けない。大口叩いてたくせに 女一人満足に守れないなんて。
すると ミリアが平気だと言うよに首を振る。
「大丈夫です。 間に合いましたから」
「間に合った?」
これは……何かあったな。アイツ、いったい私のミリアに何をしたんだ?
ミリアを背に隠すとギロリとピエロを睨み付ける。
「この落とし前は高くつくぞ 。分かてるんだろうな!」
「テッ、テッ、テネブラ様。なっ、 何もしてません」
恫喝すると、逃げるそぶりを見せたピエロとの距離を 一気に詰める。
「嘘をつくな!」
その首を掴んだ吊し上げる。
「しっ、信じら……れないなら……ほっ、 本人に……聞いてくだ……さい」
 ピエロが もがきながら 言い訳を口にする 。
「悪魔の言葉を信じる悪魔が どこにいる」
しっかりとピエロの目を見ながら 嘲るように笑みを浮かべた。
本当は ピエロにも分かっている。
命乞いしても無駄だと。
悪魔に慈悲などない。しかし、死を前にして、そうせざる得ないのが性だ。
「いったい誰の命令だ? それを言えば 命だけは助けている」
「 ……… 」
ピエロの目が 激しく揺れる。
どう答えたら助かるか、目まぐるしく考えているのが 手に取るようにわかる。ダリルは 決心するのを手助けしようと、ピエロの胸に自分の手を突き刺す。まるで刃物のように何の抵抗もなくピエロの体に入ると、その心臓をつかむ 。

「ぐはっ……はぁ……はぁ……」
力が強かったのか、ピエロの口から血が噴き出して、衣装に赤い模様が追加される。
足元にポタリ、ポタリ、と落ちて血だまりを作る。指先に鼓動が伝わってくる。 
(何度聞いても、いい音だ)
命をもてあそぶのは楽しい。つい笑ってしまう。それを見たピエロの顔が恐怖で歪む。 
そろそろ頃合いか?
「言え!」
「いっ……言えば……こっ、殺され……る」
苦痛の表情を浮かべながら ピエロが 何かを訴えるように 首を動かす。
視線の先にある服を裂くと、胸に何か刻印されていた。 ダリルは その文字を見て息を呑む。
(この文字は……)

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主役の聖女は死にました

F.conoe
ファンタジー
聖女と一緒に召喚された私。私は聖女じゃないのに、聖女とされた。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】ある二人の皇女

つくも茄子
ファンタジー
美しき姉妹の皇女がいた。 姉は物静か淑やかな美女、妹は勝気で闊達な美女。 成長した二人は同じ夫・皇太子に嫁ぐ。 最初に嫁いだ姉であったが、皇后になったのは妹。 何故か? それは夫が皇帝に即位する前に姉が亡くなったからである。 皇后には息子が一人いた。 ライバルは亡き姉の忘れ形見の皇子。 不穏な空気が漂う中で謀反が起こる。 我が子に隠された秘密を皇后が知るのは全てが終わった時であった。 他のサイトにも公開中。

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

捨てられた妻は悪魔と旅立ちます。

豆狸
恋愛
いっそ……いっそこんな風に私を想う言葉を口にしないでくれたなら、はっきりとペルブラン様のほうを選んでくれたなら捨て去ることが出来るのに、全身に絡みついた鎖のような私の恋心を。

先にわかっているからこそ、用意だけならできたとある婚約破棄騒動

志位斗 茂家波
ファンタジー
調査して準備ができれば、怖くはない。 むしろ、当事者なのに第3者視点でいることができるほどの余裕が持てるのである。 よくある婚約破棄とは言え、のんびり対応できるのだ!! ‥‥‥たまに書きたくなる婚約破棄騒動。 ゲスト、テンプレ入り混じりつつ、お楽しみください。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...