相談内容 月に向かって祈ったら、悪魔が召喚されました。どうしたらいいでしよう?

あべ鈴峰

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18 新たな手がかりを求めて

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ミリアは 魂を回収しに来た悪魔が居なくなりホッとした。エリザベスも 気を失ってる。これで、一件落着。
ダリルもそう思ってるのか、部屋を出て行こうとする。しかし、ウィルが行く手を遮る 。
「 待て! 貴様たは、 一体何者だ。事と次第によっては許さない」
 ウイルが  ダリルから目を逸らさずに対峙している。 その一歩も引かない 毅然とした姿にミリアは感動する。
( いつのまにか 大人になったのね…… )
ウィルの強気な態度に、ダリルがどう反応するか分からない。
ミリアは、二人を ハラハラしながら 見守る 。
(止めに 入った方が良い? )
「 ……… 」
「 ……… 」
 ところが、ダリルが 降参というように両手を上げる。
その姿にミリアは、あんぐりと口を開ける。嘘でしょ!何時もの傍若無人なダリルは、何処へ?
「お前は召喚したのは、ジェニーだ。 理由を知りたければ本人に聞け」
肩をすくめると ジェニーを顎でしゃくる。ミリアはダリルがウイルを 相手にしたことに驚く。 
(絶対、 無視すると思っていた。何か変なものでも食べたの? )

「へっ?」
まったく違う返事に戸惑った上に、思いもよらぬ答えに頭が追い付かず、ウィルが間の抜けた声を出す。
 それはそうだ。誰が見ても 悪者はダリルだ。ウイルが決めてかかったのも仕方ない。
「ほっ、本当に? 」
「ウィル……」
正しいのか確かめるように、ウィルがジェニーを見る。しかし、ジェニーは、その視線を避けるように俯く。
「 ジェニー。どうして俺を呼び出したんだい? 」
「ごっ、 ごめんなさい。わっ、私……不安で……。どうしても、 ウイル の気持ちを……たっ、確かめずにいられなかったの ……」
ジェニーが 今にも泣きそうなほど、か細い声音で語る。
二人は、告白して恋人同士になったが。まだ、ジェニーのご両親に交際を認めてってない。そうしないと、正式に付き合っているとは言えない。 

その前に他から結婚の申し込みに来てしまうのではと、気を揉んでいた。
結婚を決めるは親だ。決まってしまったら、婚約破棄するなのは難しい。
「ごっ、ごめんなさい。……こっ、こんなことになるとは……思わなくて……本当に、ごめんなさい」
「しー」
ひゃっくりを上げ泣きながら謝るジェニーの肩を ウィルが抱き寄せる。 
そして、 ジェニーの唇に指を立てて首を振る。
「分かってるから、何も心配しないで。 もう少しだけ待ってて。ねっ」
ウィルが約束すると ジェニーが泣きながら微笑む 。そこには揺るぎない絆が感じられた。
( ジェニー、良かったわね)
祝福の鐘が鳴る。

ところが、それを無視して ダリルが、ツカツカと幸せいっぱいの二人に水をさしに行く。
「時間切れだ。誰か来る」
しかし、二人は 見つめ合ったままは名残惜しそうにして離れそうにない。
ダリルがウイルの落とした帽子を拾って本人に返すと、何も言わずに指をパチンと鳴らす。
瞬時にウィルの姿が消える。
「ウィルは? ウィルはどうなったんですか?」 
「元いた場所に戻っただけだ」
「本当ですか? 本当に 本当ですか? 」
うろたえるジェニーをよそに、ダリルが私に命令する。
 「それより、アレの事は任せたぞ」
ダリルが顎でしゃくった先には、気を失ったエリザベスが倒れている。

そんなの困る。また暴れだされたら、私たちの力では どうにもできない。
「ちょ、ちょっと困ります。ダリルが、何とかしてください」
せめて大人の人が来るまで、 行かないでほしいと縋りついたが、 すげなく手を払われる。
 (助ける気は無いらしい )
なんと言う男だと、 胡乱な目を向けると、ダリルが鋭い視線を向けてくる。
(えっ? 何? 何かした? )

たじろいでいるとダリルが私の耳を引っ張る。
「様だ! ダリル様! 何度言えば治るんだ。これは何だ? 耳だ! 耳は人の話を聞くためにあるものだ。お前のは飾りか? 」
「 痛い! 痛い! 分かりましたから。 様。様。様。 ダリル様! 」
そう言うとやっと手を離した。
呼び捨てにしたくらいで、怒らなくてもいいのに。 もう少しで、 引きちぎられるところだったと 耳を撫でる。
「自分で蒔いた種だ。自分で何とかしろ」
「そっ、 それはそうですけど……。ここは広い心で。ねっ、ダリル様~」
ミリアは両手を組むと ダリルに向かって、愛想を振りまく。
「疲れた。私は帰る」
「えっ」
せっかく 媚たのに 私の話を、これぽっちも聞かないで 指をパチンと2回鳴らして消えた。
 引き止め用と伸ばした手は 空をつかむ。
「あっ、ちょっと……」
 ミリアは力無く腕を下ろした。
ダリルが 消えた後に残ったのは、絵画を無理やり外してできた壁のひびと、破れた絵画。そして、諸悪の根源のエリザベス。
どんな詐欺しても、この惨状では 皆を納得させる言い訳は思いつかない。

ミリアは、 腹立ちまぎれに空に向かって叫ぶ。
「 もうー!面倒なことだけ押し付けてー」
「 ミリー……」
弱々し声に横を見ると ジェニーが、寄りかかってきたので 慌てて支える 。
「ジェニー大丈夫 ?」
「ちょっと……ダメみたい」
「ちよっ、ジェニー! 」
 そう言って目を閉じる。ジェニー にまで気絶されたら困る。
腕を掴んで揺さぶると ジェニーが瞼を開けて、じっと私を見つめる。その目が何故かキラキラと光っている。
 「大丈夫よ」
「そう……」
「あの男の人と、どういう関係か聞くまでは 気を失うわけにはいかないもの 」
「 ……… 」
これは厄介なことになりそう。

ダリルが悪魔だということは絶対秘密にしないと。ミリアは素知らぬ顔でとぼける。
「あの人は、通りすがりの親切な人よ」
「 変ね。通りすがりなのに、名前を呼んでいたみたいだけど」
「そっ、 空耳よ」
「ふ~ん」
 完全に信じてない。
それでも、ミリアは 引きつった笑みを浮かべる。
もう一つ 言い訳 を考えなくてはいけないのかと、内心 うんざりする 。

***

  自宅に戻ったダリルは、 エリザベスから奪ったペンダントをロールに渡すと、お気に入りのカウチに腰掛けて 出されたワインに手を伸ばす。
ポンと軽やかな音を立ててワインの栓が抜ける。コルクの匂いを嗅ぐと、うっとりと目を閉じる。
やはりワインは赤に限る。

魂との追いかけっこが面倒で、わざと宝石を壊したが、来たのは回収専門の小物だった。
 (とんだ無駄骨だ)
あの後 占いの店に行ったが、すでにもぬけの殻。こちらが嗅ぎまわっていることに 気づいたらしい 。
しかし 、それにしても行動が早すぎる。 わずか半刻ほどしか経ってないのに……。
時間をかけて魂を奪う。 
証拠隠滅専用の悪魔。 
秘密を守るための術。
どうやら自分たちが考えているより、 はるかに大掛かりな組織なようだ。 
たぶん黒幕は 魔界にいる。 そして 、エスティー が想像しているより多くの魂が すでに集められている。
 (報告したほうが、いいかもしれないな)

「ダリル様 。こんばんはミリア嬢に教えていただいた 仔羊のオレンジソースをご用意しました」
「 ……… 」
 理由は分からないが 、事あるごとに ロールがミリアのことを持ち出してくる。何か、貰ったのか?

***

私はピンピンしているが 、ジェニーは疲れが出たようで 今日学校休んだ。

ミリアは お見舞いがてキュルを紹介する。
 「それで、この仔欲しさに悪魔の手伝いをしているの?」
 ジェニーがそう言ってキュルを見る。
ミリアは もう隠せなくなったので 正直に頷く。
実は昨夜、ダリルが訪ねてきた。

**

ミリアは 自室でキュルが 家の者に見つかっても、誤魔化せるようにと カモフラージュのぬいぐるみをせっせと作っていた 。
コンコン!
外からの物音に窓を見るとダリルが立っている。ミリアは、窓を開けようと 椅子から立ち上がったが、それより先に 窓を通り抜けて勝手にダリルが入ってくる。

ここで会ったが百年目と ダリルを迎え撃つ。
 「もうあの後、大変だったんですからね 。エリザベスのことを あれやこれが聞かれるし、ジェニー にまでダリルのことしつこく聞いてくるし」
「 ……… 」
「エルザ先生にした説明を、学院長に話して 、その後も次から次へと 同じ 話をして 顎が疲れました。…… 聞いてます?」
文句 をまくしたてていると、 驚いた顔で私を見ていたダリルが こめかみを押さえる。
「しまったぁ! 」
「どっ、どうしてんですか? 」
「私としたことが、 二人の記憶を改ざんするの忘れていた 」

「ああ、そういえば 。どうしてジェニーは ダリルのことを覚えてたんでしょう? 」
悪魔は普通の人間には声も 聞こえないし姿も見えない。
「誰のせいだと思ってるんだ! 堂々とみんなの前で、しかも大きな声で 私の名前呼んだから 忘れたのか!」
そうだったと 思い出してトンと手を打つ。
助けが欲しくて名前を呼んでいたことをコロッと忘れていた 。
「仕方ないじゃないですか 。頼れる人がダリルしかいなかったんですから」
 ダリルか、私の両頬をつまんで引っ張る。
「様 !お前は危機感がなさすぎる。 あの二人にも、よく言い聞かせておけ。 全く このままだと 国中の人間に 名前が知れ渡ってしまう」
「大げさな。まだ二人じゃないですか 」
「五月蝿い。 今度やった、らただじゃおかないからな 。わかったか」
そう言うと つまむ力を強めた。
あまりの痛さにダリルの手を叩く。
「痛い。痛い 。分かりましたから、分かりましたから」
「フン」
気が済んだのか やっと指を離してくれた。
 
**

 ミリアはあの時の痛みを思い出して頬をさする。 私のせいで ウイルとジェニーもダリルの  存在が認知されてしまった。

キュル が、お見舞いに持ってきたクッキーを 食べようとするが、 ジェニーの視線に気づく。
すると、どうぞとクッキーを差し出すと ジェニーの頬が緩む。
「ありがとう。  この子は確かに可愛いけど 。あの人は本物の悪魔でしょ。 怖くないの?」
キュル が新しくクッキーを掴むと 私の所に持ってくる 。
 頭を撫でると 嬉しそうに喉を鳴らす。

言われてみれば ……。どうしてだろう?
ミリアは腕組みして考え込んだ。
「う~ん。 そうねぇ~ 怖いと思ったことは無いわ」
第一印象は 綺麗、 傲慢 ……変態 。
見た目が人間ぽいし 、服が好きだし、 しょっちゅう怒るけど 殺されると思ったことはない。

「 機嫌を損ねたら、 あっさり殺されてしまうかも知れないのよ」
 理由は思いつかないが 、何故かダリルは 私を殺さないと確信している。
正確には 私が裏切らない限りだけど。

プライドが高くて 扱いにくいし、尊敬できるところも、 優しいところも何もない。なのにどうしか、 許してしまう。
「良く分からないけど 、一緒にいると楽しいからかな。すごく物知りだから 勉強にもなるし」
キュル が皿の前に陣取ると カリカリと音を立ててクッキーを食べだした。
ジェニーが何か言いたいことがあるのに 黙って ニヤニヤしながら私を見る 。
「何よ。その目は?」
「別に」
聞いても、はぐらかす 。 ミリアは そんなジェニーを 訝しむ。

何がそんなに楽しいのか 皆目見当も付かない 。キュルが口の周りに食べかすをつけたまま 2枚目のクッキーを口に運ぶ。

***

名前を言った罰として  ミリアはダリルと一緒に、 ロイヤルストリートを散策していた。
その名の通り 皇室御用達の店ばかり、並ぶのは 全て高級品。

 こんな貴族しか出入りしないねようなところに、 あの安物のペンダントを 売っている店があるの ?
ミリアはダリルのカンを怪しむ。
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