相談内容 月に向かって祈ったら、悪魔が召喚されました。どうしたらいいでしよう?

あべ鈴峰

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17 ペンダントの中の悪魔

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エリザベスに突き飛ばされたミリアは、流れる景色の早さに ぶつかる覚悟をする。
(このスピード……無理だ)
ぎゅっと目を閉じて衝撃に備えていた。ところが、何か 柔らかい物に優しく抱きとめられる。
「えっ?」
どうして、痛くないの?
 不思議に思いながら目をパチクリと開けると、ダリルの厳しい横顔があった。
(嘘!……。私を助けたの?)
何時も私の事を物としか思わないのに。邪険に扱われるのが当たり前だったのに、今日に限って優しい。
何か裏があるのではと怖くなる。

警戒していたが、本人はエリザベスに釘付けになっている。
「気が触れるのも、時間の問題だな」
 ダリルの言葉に エリザベスを見ると、ジェニーからペンダントを取り上げていた。不味い。ペンダントがエリザベスの手に渡ってしまった。
「ジェニー。もう良いから渡して」
「でも……」
それでも、ジェニーが取り戻そうとする。あのペンダントが、本物かどうかジェニーは半信半疑だろう。それでもエリザベスの豹変ぶりに、渡しては いけないと考えたのだろう。だけど、それも命あってのものだねだ。
「ジェニー、無理しないで、命の方が大切よ」

私の言葉にジェニーの気がそれる。その隙をついてエリザベスがジェニーを突き飛ばす。
「ジェニー!」
体をくの字にして ジェニーが床を滑っていく。その先には大きなチェストが。このままぶつかれば 大怪我をしてしまう。
「ダリル!」
何とかしてと叫んだが、それより早く チェストの前に乗馬服を着た男が 上から降ってくる。
「えっ?」
上を見るが天井に穴は空いてない。
誰?悪魔?悪魔なの?……否、人間だ。そこへタイミング良く、ジェニーが 鈍い音を立ててぶつかる。
何処から来た人か分からないが、 助かったと ほっとして息を吐いたのも束の間、 帽子が脱げて顔が見えた。
「ウイル?」
 (どうして ここに?)
ミリアは 突然の弟の登場に驚く。
もしかしてダリルが 召喚したの? 
でも 会ったこともないのにどうやって?それともエリザベスが、召還したの?訊ねるようにダリルを見るが、その目は まだエリザベスを見ている。

「痛てて!ジェニー?」
 ウイルが、痛さに顔を顰めながら 自分が抱きしめている人物を見る。
ジェニーも 振り返る。
「ウィルこそ。どうしてここに?」
「俺こそ知りたいよ。気付いたら、ここに居たんだ」
ここは何処だとウイルが、辺りを見回す。
 「やったわ!」
混乱するなか、エリザベスがペンダントを勝利品のように掲げる。
「これでまた お父様に、ほめてもらえる」
その場にいた全員が エリザベスに注目する。

エリザベスが 自分のペンダントを引きちぎって 捨てると 嬉しそうに奪い取ったペンダントを 首にかける。
エリザベスが 恍惚の表情を浮かべている。願いが叶って さぞ嬉しいだろう。
力が及ばなかった。
今のミリア達は それを指をくわえて見ているしかない。 ウィルが、エリザベスの 異様な雰囲気を感じ取って、ジェニーを庇うように前に出る。
「ジェニー、下がって」
ジェニーがウイルの言葉に従って背後に隠れる。

ミリアは油断なくエリザベスから目を離さない。
このまま 大人しくしてくれたら良いけれど……。
残念だけど、後はダリルに任せよう。そう考えた矢先に、耳元でダリルの声がする。
「今から、お前を 向こう側の壁にある 絵画の処まで飛ばすから、エリザベス目掛けて落とせ。分かったな」
「えっ?えっ?」
聞き間違いでなければ、私にとんでもない事をさせようとしている。
「いや、無理。無理。無理。無理。無理。無理」
そんなの出来ないと連呼する。

私を掴もうとするダリルの手を両手を振り回して弾く。
「つべこべ言うな」
いや。いや。 つべこべ言いたい。
私に何かさせるより、 悪魔なんだから 自分で何とかして欲しい 。
「最初の願いが決まったわ。ジェニー、あなたよ」
「なっ、なっ、私が、何したって言うのよ」
「そうだ。ジェニー弾くは悪くない」
嫌だと言おうとするのを エリザベスの声に黙らされる。
 ゾクリ!とする。
 溢れ出るエリザベスの殺意に 誰もが飲み込まれてしまう。 視線を向けられて ジェニーが、涙ぐみながら ウイルにしがみつく。
 「ここで死んで。だって そうしないと 奪いに来るでしょ?」
「しっ、しないわ。やっ、約束する」
ジェニーが止めてと 哀願する。 しかし 、無情にも信じないとエリザベスが首を横に振る。

「不味いな……」
「ええ、どうにかしないと」
力は未知数だか、本物にかわりない。
死なないにしても、良くない事が起きるのは間違いない。
エリザベスがペンダントは握る。なんとしても阻止しないと。と、立ち上がるとダリルに腰を掴まれる。
「えっ?」
何をするんだと振り返ったときには、ダリルに体を持ち上げられていた。
「私が、だまされると思うのか」
「おっ、お願い。 なっ、何でも 言うことを聞くから止めて」
ジェニーがいくら哀願してもエリザベスが首を縦には振らない。
「やるなん、一言も言ってません。下ろして下さい」
「ジェニーが殺されても良いのか?」
「それは、良くありません。だけど」
「なら、やれ」
そのまま体が、ダリルの頭上に 体が掲げられている。と、次の瞬間 槍のように壁めがけて 問答無用で投げ飛ばされた。

あれ?この 感じ……。
前にもあった 。そんなことを思い出す暇もなく 壁が迫ってくる。
(考えるのは、後あと)
 今、このピンチをなんとかできるのは 私だけだ。 何としても ジェニーを助けなくちゃ。
使命感に駆られたミリアは 絵画の上の壁に両手をつくと 額縁に足をかけて、そのまま重力に任せる。 ガタンと大きな音を立てて 絵画が外れる。
続いて指が2回鳴らされると 絵画が向きを変えて エリザベスに向かう。
「ギャッ」
 襲ってきた絵画から逃れようとするエリザベスに向かって ダリルが指をパチンと鳴らす。すると、 絵画に描かれている薔薇から つるが伸びて鞭のようにエリザベスを叩く。
それをミリアは下へ落ちながら、ことの成り行きを見守っていた。
「なっ、なんなの?」
逃げても逃げても追いかけてくる鞭にエリザベスが身を守ろうと体を縮こませる。すると、
今度は鞭が エリザベスの体に ぐるぐると巻きつく。 
最後には棒のようになって バタンと顔から倒れて気を失った。

着地したときには、全て終わっていた。エリザベスと絵画との攻防は わずか数秒で勝敗が決まった。
(終わった)
ミリアは安堵して ジェニーの元へ行こうと振り返ると、顔を真っ赤にしたウイルと鉢合わせする。
「ミリア!」
えっ?怒ってる?
ウイル の怒気を含んだ声に 怯えながら後ずさる。
 一難去って、また一難。
何で怒ってるの? ジェニーを助けたのは私なのに 。褒められこそすれ、どうして叱られる。ジェニー が後ろから ウイルのジャケットを引っ張って止める。
「待って! 待って!」
「一体何を考えてるんだ! はしたない! 令嬢としての自覚はないのか 」
「あります。あります。凄~く、あります」
令嬢? はしたない?
 ……あっ! スカートで空を飛んだことか。やっと合点がいく。
「嘘をつくな!」
でも、あれはジェニーを助けるため。仕方無かったことだ。私がやらなければ、ジェニーが殺されてたかも知れないんだから、目くじらを立てなくても。
「ウイル  お願い。私を助けるためだったんだから。今回は許してあげて」
「そうそう。仕方なく。 緊急事態だったんだから 大目に見てくれないと」
ジェニーが必死に取りなす。しかし、ウイルの機嫌は治らない。きっぱりとはねつけるように首を左右に振る。
「何が大目だ。いくら、緊急事態だったとはいえ、もっと違う方法があっただろう」


「 まあ、まあ」
「 何が『まあ、まあ』だ 」
ミリアは両手を突き出して諌めようとしたのに、余計に怒らせるだけだった。怒りの収まらない ウイルを何とかしようとするが 一向に収まる気配がない。ジェニーも困っている。
(どうしよう……)
このままだと、家に帰っても続く。

 ピシリ!

 3人は何かが割れる音に振り向く。
見ると、ダリルがエリザベスの投げ捨てた黒いペンダントを踏みつけている。
(何してるの?)
すると、ひびの入ったところから黒い煙が立ち上がって 次第に形を作り出す。どんな形になるのかと固唾を飲んで見つめる。その煙に手足が出来て羽が生えた。人ではない。
「なんだ。これは?」
「気持ち悪い形をしているわ」
ウイル達が、 驚きの声を上げる。
しかし、ミリアは、その形に見覚えがあった。どこで見たんだろう……。
「あっ!ガーゴイルだ」
 博物館などの雨樋にいる ガーゴイルを小さくしたような悪魔だ。初めて見る悪魔っぽい悪魔に興奮する。
この見た目。これこそ、ザ・悪魔。
自分の膝ぐらいしか 背丈がないせいか 恐怖より可愛らしさが勝った。
「悪魔だ」
 ガーゴイルが私の声に反応して 近づいてこようとするが 、途中でぴたりと動きを止める。
そして、まるでぜんまい仕掛けの人間のように ギギギと首を上に動かしてダリルを見る。
「キッー!」
 途端に、ガーゴイルが飛び上がると悲鳴を上げて逃げ出す。しかし、ダリルが 指をパチンと鳴らすと、首根っこを掴まれていた。

 「ジェニー、ジェニー。しっかり」
 動き出したガーゴイルを見てジェニーが 気絶した。それをウイルが介抱する。 
そんな二人を尻目に、ミリアは、ダリルとガーゴイルと言い争いを見ていた。これが悪魔語なの?
「キッー。キッー。キッー」
「キッキッー。キッーキッー。キッキッー」
 耳を澄ましてみたが ミリアには、『キッー、キッー』としか聞こえない 。しかし、ジェスチャーだけでも二人のやり取りが解る。

ガーゴイルが何を言っても、ダリルは なかなか納得しない。そんなダリルに向かってガーゴイルが両手を振り回しながら必死に説得する。その姿は まるで自分のようで同情する。 それでも諦めずにガーゴイルがダリルに何か言っていたが、突然青い炎に包まれて消えてしまう。
 忌々しげにダリルが舌打ちする。
「殺したの?」
「違う。情報が漏れないように 口封じに殺された。何か仕掛けがあったんだろう」
「可哀想に……」
「ふん」
悪魔に同情する私を馬鹿にするように ダリルが鼻を鳴らすと、部屋を出て行こうとする。それをウイルが 回り込んで止める。
「待て! 一体何者だ。事と次第によっては許さない!」
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