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10 いざ!手相占いの店へ

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ダリルが 指を鳴らす音に ミリアは顔を上げる。すると コロリとキュルが 鞄から転がり出る。
服装に合わせて ダリルが、カバンも作り直したようだ。キュルが居ると 思わなかったらしく ダリルが 絶句している。
 食事中だったらしく ハムを咥えている。
「なっ」
服装に合わせて ダリルが、カバンも作り直したようだ。

 
 追い出されたキュルが、 きょとんとして固まっていたが 、ダリルと目が合うと 大急ぎで残りを口に押し込んで救けを求めて私に向かってくる。
ミリアは、ダリルに 酷い目に会う前にと 両手を出して迎え入れる。
「キュル!おいで」
 抱き上げると 安心させるように 背中を撫でる。
「 はい。はい。 もう大丈夫だからね」

 ダリルが 物言いたげにキュルを見た後、 私を見たが 呆れた様に首を振ると 窓の外を見る。
怒られなくて、良かったねと キュルの頬に自分の頬を擦り付ける。

***

 ダリルは ミリア達に付き合ってる暇はないと これからの計画を立てる。
問題は どこまで調査するからだ。
 ミリアもキュルも 役に立ちそうにない。
 仕方ない。最悪、ペンダントだけでも 入手できれば良しとするか。

*****

「 着きましたわ」
ダリルはミリアの声で目を覚ます。
 いつのまにか 眠っていたらしい。 気を抜いてしまうとは 私らしくない。よほど疲れが溜まっていたんだな。

バシャバシャの中から外を見ると、 そこは 煤けたような 黒いレンガの家が立ち並んでいて 一目で 貧困外だと分かる。
 目的の占いの店は 一番奥で、通り道の途中には 浮浪者らしき男が 酒瓶を持って寝ている。
隣でミリアが息を飲む。 ありふれた光景だが 、お嬢様育ちのミリアにとっては 未知の世界だろう。

 人気店だと言っていたが 人っ子一人いない。
まだ 開店前か?それだと 出直ししなくては 為らない。迷うところだが、 折角来たんだ。 行くだけ行ってみるか。
先に馬車を降りるとミリアを  エスコートしようと優雅に手を差し出す。しかし、それを台無しにするように ミリアが腕に しがみついて来る。
(まったく)
手の位置を直して、歩きだしたが ミリアが 引っ付いてくる。
歩きづらさに、くっつくなと言おうとしたが、 おどおどした様子のミリアを見て  口を噤む。
 こういった世界に 今まで一度も足を踏み入れたことがないから 怖くて仕方ないと 割り切って我慢して店まで行く。

 店の扉は開いていて、 黒いカーテンが手招きするように揺れている。  魔力も悪魔の気配も感じない。 ハーブの嫌な臭いがするだけだ。
 ここで例のペンダントが 販売されているなら 少しは感じてもよさそうなものだが・・。

ダリルは顎に手をやって 黙考する。
帰るか?しかし、 手がかりは ここしか無い。
 ガセかもしれないが 入るしかない。
「ミリ・・ア」
 ミリアを行かせようと 横を見ると姿が無い。
 振り返ると ミリアが、そろりそろりと 馬車に戻ろうとしていた。

 怖いの分かるが、 ここで尻込みされては困る。
ダリルは 素早く逃げようとしているミリア横に並ぶと 肩を引き寄せる。
「 何処へ 行くのかな?」
脅すように低い声で囁くと、ミリアが ビクリと飛び上がって、離れると私に 愛想笑いを浮かべながら  馬車に 戻ろうとする。
「 今日は、やめた方が良いかと・・」
 「 お前の意見は聞いていない。 今すぐ 店に入るんだ!」
「 嫌ですー」
そう命令すると 嫌がるミリアの手を掴む。ミリアが 行きたくないと 手を振りほどこうとするが、無視して 引きずって  店に向かって歩き出す。
「 一人で行ってください。 ドアが開いてるんですから 私は必要ないでしょう」
「 約束しただろうが 。反故にする気か?」

 ミリアが 必死に 抵抗するねが、 気を変える気はない。

「そっ、 そうですわ。あの人を使って下さい」
ミリアが 道端で寝ている浮浪者を指差す。
 言うに事欠いて あんな古布の塊を代わりにするとは。
「 お前はバカか! どうして私が あんなゴミを相手にしないといけないんだ」
「 だったら ダリルが入ってください」
 「様!占い師が悪魔だったら 逃げられるだろうが!」
相変わらずの頓珍漢な答えに イライラと吐き捨てると ミリアが泣きそうな顔をする。
「 それって 尚更 危険じゃないですか !」
「問題ない。 人間は客なんだから 殺さないさ」
「 でも~」
「 つべこべ言わずに さっさと入れ」
 ダリルは問答無用で 店の前で嫌がるミリアの背中を ドンと押して 強引に店内に押し込むと ダリルも後に続く。

***

  やすやすと店内に潜入することに成功した。
 中は薄暗く、 赤いテーブルクロスが かかった円卓の前に 黒い衣装を着た者が 蜜蝋の明かりに照らされている。 何も感じない。 ただの人間だ。悪魔と 契約しているようでもない。 
それなら、なぜ悪魔に協力している?

「まぁ!」
 ミリアの嬉しそうに驚く声が聞こえる。 さっきまで 全力で嫌がってたくせに。 全く 女はこれだから。 しかし、 囮のはずのミリアの姿がない。
( 一体どこにいるんだ?)
 見回すと ミリアが壁を見ている。 何に夢中になっているのかと視線を移す。
 壁、 床 、天井に至るまで びっしりと 大小様々な手形が押された紙が 貼られている。
「 これが 手相 なのね~」

ミリアが目を奪われたのが 手形の紙だったとは・・。 目的を忘れて 呑気に一枚一枚 念入りに見ている。
 (そんなの見ている場合か?)
まるで、ニワトリだ。すぐ 目的を忘れる。
ダリルは腹立たしげに、ミリアを睨む。
 詳しく命令しなかったが、 どうしてこの店に来たかは話してある。 それなのに 何故、占いをしてもらわないで 紙ばかり見ているんだと、苦々しく思う。 

ミリアの行動には 慣れたと思っていたが 、まだまだ だったらしい 。
色々と聞き出して欲しいのに・・。ミリアが 動かないと、このままでは どうにもならない。
ミリアのところに 行くには 占い師の傍を 通らないといけない。そうなると 私の存在に 気付かれる。
( 思い出せ! 本来の目的を思い出せ!)
 強く念じてみたが、 一向に思い出す気配がない。

 やはり、ミリアは当てに出来ないと さじを投げる。
 こうなれば 自分で何とかするしかないと 占い師に 気付かれ無いように そっと円卓に近づく。
( まずは 顔を拝ませてもらおうか)
 占い師は フードを目深にかぶっているので 口元しか見えない。
 顔を見ようと踏み出すと 下を向いていた占い師が 急に顔を上げる。 
(気付かれたか?)
ハッとして  警戒していると 占い師がミリアに向かって 朗々とした声で喋りだした。
「 お前が今日来ることは 分かっていた」

ミリアが紙ばかり見て無視されたから プライドが傷ついたのだろう。
 占い師は中年の女で 舞台に出るような派手な化粧をしている。 度肝を抜くという意味では成功しているが、 演技力は三流もいいところだと、がっかりする。 こんな者に引っかかる人間などいるのか?
「まぁ、 本当ですの?」
 ところが、ミリアが それに乗っかった。
 さも驚いたようにミリアが 両手で口元を隠す。 お嬢様全開で猫をかぶっているミリアを ダリルは冷めた目で見るが、内心 これで元の計画に戻ったと喜ぶ。

「 本当だ 。お前の悩みも分かっている」
 いそいそとミリアが座ると 女の前に両手を広げる。
「 確か、手相を見られるんですよね?」
「 どれどれ 、これは!・・何という事だ!」
 女がミリアの手のひらをチラリと見ただけで 大袈裟に驚く。

「私の手相が、どうかしたんですか?」
「 いや、待て!・・ こんな手相は初めてだ。 100年に一度あるかどうかの手相だ」
 女が、もう一度確かめると 首を横に振る。
 どちらにでも取れる曖昧な言い方。
 完全な詐欺だ。 人の不安を煽って 色々と買わせる。 昔からある霊感商法の典型だ。
 「 お願いです。 はっきり仰ってください! どんな事が起こるんですか?」
 「このままでは 大きな災いが お前に降りかかる。 それは 些細なことから始まる。放っておくと大変なことになるぞ」
「 そんなー。 どうすれば良いんですか?」
 すっかり騙されたミリアが 必死の形相で占い師の手を掴む。

 すると その占い師が 笑みをたたえて 懐からペンダントを取り出す。
「心配ない。 これを買えば災いから身を守ることができる」
(あれが、そうか?)
ダリルは、覗き込んで 同じ物か確かめる。
 間違いない 。あの死んだ男の物と同じだ 。
 この石の中に魔力が閉じ込められているのか? どの程度の量かと指を近づけると かすかだが魔力を感じる。

 しかし 、こうやって間近で見ると 叩き壊したい衝動に駆られる。 あまりにもチープ過ぎる。 
杏の種ほどの大きさの スクエアカットのエメラルドに 金らしきチェーンがついている。
 「これ・・ですか ?」
ミリアも出来の悪さに 嫌そうな顔をする。
 そんなミリアの気持ちも お構いなしに 占い師が両手を開いて金額を示す。
「 金貨10枚!」
「たっ、 高い! そんな、お金ありません」
 ミリアが首を振って買うのを拒む。
 それを見てダリルは 肝心の金を渡すのを忘れていた事に 気づく。
 何とかして、お金を渡さないと ミリアのことだ、このまま帰ってしまうかもしれない。
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