嫌な男アランの結婚までの30日

あべ鈴峰

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偶然ではなく必然

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探偵に言われて尋ねた家には シャーロットでは無くマロニアが居た。
人違いだと帰ろうとしたが、どうしても顔が見たくなったら アランは、部屋を探し回りマロニア
を見つけ出した。身を屈めて 顔を覗き込むとするとマロニアが抱きついてきて ベッドに倒れ込む。

*****

 寝ぼけてるのか、起きているのか 判断に困ってじっとしていると マロニアが背中に回した手を 私の胸に押し付ける。 ボタンを外そうとするのかとドキリとする。 寝たふりをしてたんだ。
つまり、私を誘惑する気だ。そこまで私に好意を持っているかと思うと 悪い気はしない。
しかし、その手が私を押し戻そうとする。
(はぁ?)
 自分から抱きついてきたくせに、マロニアのつれない態度に プライドが傷つく。
 人に気を持たせておいて、その態度は何だ。
マロニアの 心変わりに 不快になる。

このままマロニアを帰す わけにはいかない。
( お仕置きが必要だな)
アランは冷笑を浮かべるとマロニアの両手首を掴んで抑え込む。
「なっ、なっ、ちょっと」
マロニアが体の下で放せともがく。
逃げ出せないと気付いたのか 顔も心なしか強張っている。 男を弄ぶ代償が、どんなものか これで分かっだろう。
「どうして、ここにいるのか 理由を言ったら放してやる」
「私の方こそ どうしてここに来たか知りたいわ」

マロニアがプイと顔を背ける。生意気な態度に もっと動けないように体重をかける。 
しかし 脅しのつもりで やったのに、 さっきと違って抵抗してこない。 それでも口を尖らせて怒るマロニに アランは首を傾げる。 どうも、よく分からない。抱きついてきたくせに 突き放す。 
手首を掴んで組み伏してるのに、抵抗をあっさりと止めた。その上、マロニアの言い方で 本当に私が悪いことをしたと思っている。
(・・・)

「 何のことだ?」
「 見に来たでしょ?」
「はっ?」
マロニアが目だけに動かして私を見ながら言う。
 見に来た?マロニアを見に行った?
 アランの脳裏に2日前の芝居の事が甦る。
「とぼけたって無駄よ。舞台の上から見えたんだから 」
気付かれていたのかと思うと ばつが悪くて耳が赤くなる。自分の気持ちをマロニアに 知られるのが嫌で、アランは からかうように言い返す。
「大勢いたのに 私だとよく気づいたものだ」
「なっ、違うわ。 舞台からは客席が よく見えるのよ」
 私の指摘にマロニアが慌てて掴まれている手を振り回す。 その慌てふためきように ニヤリと笑う。それなりのキャパがあり、 客席は薄暗い。
来ていると知らないのに 私を見つけ出したと言う事は・・。

やはり、マロニアは 大なり小なり 私に対して好意があるからだ。 でなければ 見つけ出すなど
無理なことだ。
「 そう言うことにしておくよ」
「もう、 本当なのに・・」
 それならマロニアの期待に応えないと。 ぶつぶつ文句を言うマロニアにキスをすると唇を近づけたが、キスを甘さを知ってしまえば 引き返せなくなる。そう自覚して寸でのところで止める。
無理やり大人にする必要は無い。恋に恋する乙女のマロニアを男の欲望の道具にしたくない。
マロニアには、このまま善良でいてほしい。

 帰りなさいと言うように ゆっくりと掴んでいた手を放す。こうすることがマロニアの為だ。
「・・・」
「・・・」
 身を起こすとマロニアが無言で私を見つめる。
その瞳に輝きは無く。深く傷ついているように 見える。
何故だ?
からかっただけで  開放しようとしているのに。 まるで、そうしないでくれと 言っているようなものだ。アランはその視線が 理解できず、眉をひそめる。

マロニアが 言葉が出てこないように唇を噛み締めている。目も表情も何かを伝えたがっている。
それなのに ベッドから降りると 急ぎ足でドアへと向かう。
別れの言葉も何もない。 まるで、セリフを忘れた女優のように 舞台袖と急いでいる。 そのそっけなさに、自分に好意があるはずだと自惚れていた自分が恥ずかしい。しかし、マロニアの矛盾する行動に どうしても そうとは思えなかった。
本当に私の 独りよがりなのか確かめたくなった。

「マロニア。本当の理由は何だ?」
 そう声をかけるとマロニアが立ち止まった。
そして、ゆっくりと振り返る。その顔は強張っていて 無理やり口角を上げている。
作り笑いする姿は 今までと明らかに違う。
感情を隠せないくせに、平静を装っている。
「なっ、何のこと?」
「 嘘をついているのを私が見抜けないと思うのか?」
「なっ、なっ、なっ」
 私の言葉に動揺してが青い顔で後ずさるマロニアを見て、アランは内心ため息をつく。ちょっと揺さぶっただけで馬脚を現す。脇役をゲットしても、やはり大根女優。アドリブは苦手らしい。

 総合的に考えて 何か私に知られたくない事が  あるらしい。しかし、私とマロニアとの間に何がある? 思い当たる事など、全然ない。
「いっ、 言いがかりだわ。うっ、嘘なんてついてないわ」
アランは、ベッドに足を組んで座ると膝を抱えて、すべてを見通したと 余裕のある振りをす。「だったら、言い換えよう。何か私に秘密にしたいことがあるんだろう」
「っ」
マロニアが驚いて目を見開く。けれど 目をそらして、私を見られないのか こちらを見ようとしない。ただ、 シワができるほどスカートを握りしめ
ている。 その仕草に、よほどの理由があるんだろうと察する。

「 話してくれないのか?」
 そう聞くと俯いていたマロニアが、私をひたと見つめる。その瞳に切実さを感じる。
マロニアが 私に向かって 両手を 動かしなが切々と訴えてくる。
「アラン。あなたを守るためなの。だから、何も聞かないで」
守る?誰を?私を?マロニアが?
あり得ないと 首を横に振る。
「私は、お前に思っ 守ってもらうほど弱くない」
「本当よ。だから私を信じて」
戯れ言だと、 取り合う つもりなど、なかったが マロニアの真剣な表情に その理由が聞きたくなった。
「だったら、私を納得させてみろ」
「 それは・・」
「いいから話しなさい」

躊躇うマロニアに催促するように手を払う。
マロニアが何に悲しみ、何にに悩んでいるのか知りたった。
「・・・」
「マロニア」
大丈夫だからと 視線を送ると マロニアが 微かに頷いて絞り出すように話し始める。
「・・これは、お父様が仕組んだことなの」
「男爵の?」
そうだとマロニアが頷く。その瞬間、男爵の思惑が分かった。

なるほど。この場にシャーロットが居ないことを考えれば これは罠だ。
偽の情報で私をおびき寄せたんだ。 多分、計画を持ちかけたのはシャーロットで 実行したのが男爵。 あの二人なら、それくらいやりかねない。 今頃 あの女はマロニアに私を押し付けることで厄介払いできたと浮かれていることだろう。
しかし、自分の幸せのために他人を利用しようとするとは、 恐ろしい女だ 。それに比べてマロニアは、自分のことより他人のことを考えている。 馬鹿正直すぎる。打ち明けなければ、愛人ぐらいにはなれものを。

「男爵は 君との既成事実を作って 私と結婚させようとしているわけだ」
「ええ、 たぶん。両親は私を伯爵家に嫁がせようと躍起だったから・・」
 だったら、シャーロットの提案は渡りに船か。
マロニアの態度が統一してなかったことも頷ける。マロニア本人の中に 私をだまして結婚することへの躊躇いが、あったんだろう。
「 でも、どうして君はここに来たんだ?」
「それは・・」
いくら父親に言われたからと言っても何も考えずに行くほど 子供じゃない。

それに男爵がマロニアに対する私の気持ちを 知る由もない ・・。それとも、男爵が自分の 娘をエサとして差し出したのか?
「あっ、あのね」
「もしかして、男爵に私とを知り合いだと話したのか?」
もじもじと何か言いたそうなマロニアの言葉を遮って質問する。
 「いいえ。何も言ってないわ」
マロニアが慌てたように 首を振る。確かに男爵の性格からして、知ってたなら とっくに難癖をつけて 家に乗り込んで結婚を迫るだろう。

 額に手を当てて、その理由を考えていると マロニアが申し訳なさそうな顔で口を開く。
何か心当たりがあるのか?
「 誤解しないで聞いて欲しいんだけど・・実は、ティアスに会いたくて出掛けてたの」
「っ」
アランは、ハッとしてマロニアを見たが、すぐにクスリと笑う。これは奇跡では無い。
からくりが分かれば、こんなものだ。 二人が会うのは必然。 つまりそういう事だ。奇跡かもと思っていたなんて、 なんて愚かなんだ。

マロニアはティアス。私はティアスの家にいるシャーロットを探してるんだから、 二人が何度も会うのは当然と言えば当然。
 そういう事なら、ここに用はない。
 一刻も早くこの家を出て行こう。
シャーロットたちの思惑通りなどに なるものか。
部屋を出て行こうと歩きだしたが、その足が ある事実に気づいて立ち止る。 この部屋も壁紙も天井も床も 新しく張り替えられていて 置いて家具も
新品だ。 
よく見るとベッドサイドにムードを盛り上げるような小物まで置いてある。アランは、今まで見た部屋を思い出す。
どの部屋も ちゃんと 設えてあった。
(・・・)

 アランは思わず自分の額を打ち付ける。
乾杯だ。 
昨日、今日の思いつきではない。何日もかけた計画だ。隙がない。私が、不審に思わないように完璧に仕上げてある。玄関の鍵を私に持たせたのも、今までのように不法侵入して窓からマロニアの姿を見せない為だ。
きっと、 確実に計画を成功させるために 門は閉まっているだろう。
男爵に抜かりはあるまい。

まさか、自分と同じ計画を仕掛けてあったとは。
「ふぅ~」
どうしたものかと、ため息をつくと 現状について考えをまとめようと部屋を歩き回る。
出し抜かれるなど腹立たしい限りだが、こうなったら今ある条件で 一番いい選択をするしかない。
 思いつく方法は三つだ。

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