嫌な男アランの結婚までの30日

あべ鈴峰

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父の策略

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アランは夕闇迫る中 探偵が言っていた家へと馬車を走らせていた。
「・・・」
見るとはなしに窓の外を 見ながら アランは、こうなった経緯を思い出していた。
急に探偵がやってきて、確実な情報を手に入れたと切り出した。

探偵の話では 連日ティアスが訪ねているらしい。 それに天蓋付きのベッドや テーブルなど 乙女チックな家具が次々と運び込まれたと言う 情報もあると言う。だから、その家には シャーロットが住んでいる確率が高い。今回は自信があると探偵が太鼓判。押した。 ガセネタかもしれないが、行くしかない。もう本当に時間がない。

これでようやく シャーロットを確保できる。
それは ずっと願っていた事なのに 気持ちが塞ぐ。これで、予定通り。恥もかかなくて 良くなった。 出資した金も回収できる。
なにより念願のシャーロットの相続金が手に入る。 何が不満なんだと そんな自分を叱責する。
この馬車の目的地に居るのはシャーロットなんだから、そうすべきだし そうしない理由もない。

アランは、カーテンを引くと 真っ直ぐ前を見る。
 全てが 今日で終わる。

****

 マロニアは父に行くように言われた屋敷のベランダから オレンジ色に染まる空を見上げる。
(どうして、こんな事に・・)
私の度重なる外出の理由がティアスだと知った父が 、そこまで好きならと コネを利用して、この屋敷を突き止めてくれた。行く気はなかったが、婚約者の居る人を好きになったから、もう探していないとは 口が裂けても言えない。
だから 仕方なく 父の助言に従ったまでだ。
「 早く、帰りたい・・」

父が用意してくれた部屋を 覗くと ムードを出すためか 食事やキャンドルも用意されていた。
何が何でも私と 恋人同士になって欲しいという父の期待があらている。 
「はぁ~」
ため息しか出ない。
例えて、ティアスが、その気になっても 断るつもりだ。

マロニアはパンを小さく千切って ベランダの手すりに並べる。ほどなくして小鳥が ついばみ始める。もっと食べさせてあげようと無くなったそばから補充する。
別にティアスに会う必要はないし 、会いたいとも思わない。もう すっかり私の心は彼のものだ。
だから、適当に時間を潰して帰ろう。 そうすれば 会えなかったと言っても 父は変に思わないだろう。

父には申し訳ないけど 結婚は当分考えられない。マリアベルが必ずチャンスはあると言ってたけど・・。彼の結婚式まであと5日だから もう無理なのかもしれない。 それでも、彼が結婚するその時まで 奇跡を信じたい。
出来る事なら、たとえ失恋するにしても自分の思いをどうしても伝えたい。 小鳥が急に飛び立つ音に 我に返ったマロニアの耳に 馬車の蹄の音は聞こえる。
(ティアスが来た)
どうしよう。 思ったより早い。
こうなったら、気が重いけど 会わないわけにもいかない。 お父様が変なことを言っていないといいけど・・。憂鬱な気分で 馬車の到着を待つ。


マロニアは馬車から置いてきた人物に驚く。
 どうして彼が?
ティアスが来るはずじゃないの?
お父様の手違い? 
突然のことに慌てふためく。 うれしい驚きに身だしなみを整えようと髪を撫で付けて ドレスの埃を払う。 しかし、その手が止まる。
 大変!ティアスが来ることになっている。
(ああ、 どうしよう)

マロニアは忙しく、その場を歩き回る。
もし 鉢合わせになったら 、二股をしてると思われる。どうする?どうしたらいいの?
 見つからないように隠れた方がいい?
 それとも玄関に鍵をかける? 駄目だ。肝心の鍵がない。
どうしよう折角のチャンスなのに。
 チャンス・・ そうよ。これは、マリアベルが
言っていた 最後のチャンスだわ。 だったら、勝負するしかない。 全身全霊で婚約者から 彼を奪い取ってみせる。 そのためなら何でもする。

 今日は決戦の日だ!そう覚悟を決める 。どこで待ちぶせするのが、一番効果的かしら?

*****

 アランは玄関の前で 探偵から渡された鍵をもてあそぶ。中に入ったら後戻りできない。
脳裏に、ちらつく影を追いやって 鍵を差し込む。
(これでいいんだ。これで・・)
別に たいした事ではない。シャーロットと肉体関係を持つ必要も 説得する必要もない。
嫌がったら部屋に閉じ込めて おけばいい 。
一晩、一緒ったと言う 既成事実を作るだけだ。 それで、全てが元に戻る。

鍵を回すと ガチャリと 大きな音を立てて解錠
される。扉を開けて足を踏み入れる。
今まで、探し回った家と違って 生活感がある。
これは、本当かもしれない。やっと探偵が 役にたった。
しかし、数歩も行かずに立ち止まる。
「 この甘い香りは・・」
香りだけで、マロニアが居ることに気づく。何度も嗅いだ匂いだ。
 どうして、彼女が ここに?

会いたと思ってしまう自分を恐れてアランは シャーロットが 居ないんだから帰ろうと踵を返す。
(待て!)
 しかし、もう一人の自分が 引き止める。
まぶたに、見開かれたはしばみ色の瞳。弾むように揺れるストロベリーブロンドの髪。 押し当てられた胸が浮かぶ。
(・・・ 一目だけなら・・)
 これが、本当の本当の最後かもしれないと思うと 、どうしても姿が見たいという誘惑には 勝てない。

アランはマロニアを求めて2階へ上がる。
 どこだ?どこに居る?
手がかりを求めて家の中を探す。
ドアを開けるたびに 逢いたさが募る。 早くあの瞳に 映る自分がみたい。
角を曲がると 一部屋だけドアの下から明かりが漏れている。
 あそこだ 。

アランは、はやる気持ちを抑えて 音を立てないようにドアを指で少し押して 部屋の中を覗く。
 ベッドサイドの明かりが、彼女のストロベリーブロンドを輝かせている。
(ああ、 アロニアだ)
ドアに背を向けて寝ていて顔が見えないが、 見間違うはずがない。 その髪の柔らかさも知っている。

 少しだけなら起きないだろう。
アランは足音をたてないように、 マロニアを 起こさないように歩み寄る。
もうすぐ顔が見れると思うと喜びがこみ上げる。 ベッドサイドに立つと 息を殺して顔を覗き込もつと身をかがめる。 すると、待っていたかのようにマロニアが体を反転して 、こっちを向いたかと思うと抱きついてきた。 突然のことに驚きアランは そのままマロニアの上に倒れ込む。
「なっ!」
 押しつぶさないように肘をついて マロニアとの間に空間を作る。
しかし、それを嫌がるように マロニアが背中に腕を回して引き寄せた。

*****

絶対、彼を自分のものにする。
そう決意したから 恥ずかしいもなく ベッドに誘ってしまった。 初めて自分から触れた彼の体は 大きくて 固くて 温かい。そのぬくもりに目を閉じる。ああ、この時は待っていた。間違えて彼を連れてきてくれたお父様に感謝・・。
しかし、次の瞬間 冷水を浴びせられたようにマロニアは、父の策略を理解した。
 お父様が相手を間違えるはずがない。
罠だ。

 私を彼と結婚させようとしている。
 そうだ。なんで気づかなかったんだろう。父が市井のティアスと私を結婚させようなどと思ってない。 見合い相手は伯爵の令息ばかりだった。 
父は出世のために私を利用しようとしている。
でも、どうして彼なの?
女の私から男の人を誘惑しようとさえ思ったのに。父 のしようとしている事は私にとって、あまりにも残酷だ。結婚相手に彼を選んだ父が憎い。
 何もかもが 上手くいかない。どうして何一つ私の願いを叶えてくれないの。
マロニアは、生まれて初めて運命を呪う。

 どうして気づいてしまったんだろう。
気付かなければ、自分の胸の内を伝えられたのに。「好きだ」と「愛している」と言うたのに・・。
 これはチャンスなんかじゃない。 
きっと神が与えた罰なんだ。 私の想いはモラルに反する事だと言いたいんだ。

 気づいてしまった自分が恨めしい。
 このまま父の計画通りにすれば、 私は彼と結婚できるかもしれない。でも、それでは一生 彼の心が手に入らない。 私が欲しいのは伯爵夫人の身分じゃない。 彼の愛だ。
私の恋心は、父によって打ち砕いてしまった。

 父の計画を彼が知ったら、私を許してくれない。 私が知らなかったと言っても 信じてはくれない。私を共犯だと決めつけるにちがいない。
もう彼とうまくいく事は無い。
私は告白もできないまま失恋するしかない。
でも、そんな私にも一つだけ彼に してあげられる事がある。 父の策略か救うことだ。 

私は、ただ彼に 自分を騙そうとする人間だとだけは思われたくない。 でないとあなたへの想いまで 嘘だと思われてしまう。
あなたを好きになったのは打算じゃない。
だから、私は あなたが好きな女優のままでいい。 それが私にとっての幸せだから・・。
私は何も知らない。好きでも何でもない。
私は、ちょっと気になった相手をからかっただけ。怒ってもいい。嫌いになってもいい。
だから、今夜の事は ただの女の気まぐれだと思ってほしい。 

(アラン。何よりも、あなたの幸せを願っているわ)
悲しみも、辛さも飲み込んで 一世一代の芝居を打つ 。

だって 私は女優だから。
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