嫌な男アランの結婚までの30日

あべ鈴峰

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暴力メイド? 残り16日

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シャーロットを匿っているのが元使用人のティアスだと 知ったアランは、その事実に納得出来なかった。
一文無しで、 頼る相手の居ない ただの小僧だった。それが どうして ?

 普通に考えれば チャンスを与えられるのは貴族しかいない。 だが、アイツは 貴族に嫌いだ 。
もしかして・・私が嫌いだから、貴族が嫌い?
それで折角の商売のチャンスを棒に振っているのか? 短絡的すぎる。 貴族だって色々・・。
 そこまで考えて、ハッとして アランは、うちまかれた調査票を次々と手に取ると お目当ての紙を探す。
「違う。違う。違う。 あった!」

『 スチュワート伯爵の推薦で大学に入学』
「・・・」
 そうだ。思い出した。
死にかけのアイツを助けようとシャーロットが、しゃしゃり出てきた時 お供の者が 居た。
だから、グラハム家の使用人だと思っていたが、 あの日は 祖母であるスチュワート伯爵夫人と一緒に遊びに来ていた。 勘違いしていた。 あのお供の者は シャーロットの家の使用人ではなく。
 スチュワート伯爵家の使用人だ。 
つまり、スチュワート伯爵が後ろ盾なのか?
 アランは自分が導き出した答えに爪を噛む。

 なんと言う事だ。 今日は 人生で一番不愉快な日だ 。今もアイツがスチュワート伯爵家と交流があるなら、シャーロットとの結婚が恋愛結婚でないと言う事がバレる。
 議会の上座に陣取っている伯爵の顔が浮かぶ。 妹とは疎遠と聞くが、姪のシャーロットとは どうなんだ? 伯爵の口から姪であるシャーロットの話題が上がった事はないが、 遺産の件もあるから 気に留めているかもしれない。

 となると・・拉致などという強引な手段は使えない。
(・・・)
 こうなったら、こちらも構ってられない。
 最終兵器の母親であるグラハム伯爵夫人をシャーロットが匿われている家に送り込もう。
 それで、帰ってくるように説得して もらおう。いくら、シャーロットでも言う事を聞くだろう。 結婚の話は白紙にするといえばティアスのところから自宅に戻る。
そして、そのタイミングでグラハム家に神父様を待機させて 式を前倒しするしかない。
まさか 帰った当日に式を挙げるとは思わないだろう。 そうなれば、こっちのものだ。 

 その為にも一日も早く居場所を突き止めたい。 今 小間使いたちに調べさせているが 商人として成功しているティアスが 匿っているんだ。
そう簡単には見つからないだろう。 このまま小間使いに 任せておくのも不安だ。
(・・・)

 *** 残り16日 ***


 この前は浮かれていたが、冷静になって よくよく考えてみれば、 私に会いに来たんではなくて、お芝居を見に来ただけだと言う事に気づく。

 だから、あの人を忘れるため マリアベルのアドバイス通り 失恋には新しい恋をと言うことで ティアスの家に来ていた。
 下級貴族の私では あの人とは釣り合わない。
 今まで身分の差を嫌と言うほど経験してきたから知っている。貴族にとって婚約は契約のようなもの。ちょっと やそっとの事じゃ破談にならない。
 夢中になっても捨てられるだけだ。 
よくて愛人。そんな 惨めな人生しか送れない。

 だったら、自分にふさわしい相手にすればいい。 その相手とは街一番の豪商の ティアス・ カークランド。 市井の人だから私と対等の関係を築いてくれる。 父と仕事の関係で知り合ったが 寡黙でワイルドという印象だった。

 この家を訪ねるのも半年ぶりだ。 懐かしく思いながらアプローチを歩いていると ちょうどメイドが落ち葉を掃いている。 本人が居るか どうか聞いてみよう。
「 ちょっと、 ティアス居る?」
「こちらには いらっしゃいません」
 すました顔でメイドが答えるけど 前に居留守を使われた経験がある。
 だから 簡単には信じない。

マロニアは眉を上げて疑わし そうに もう一度聞く。
「 本当に?」
「本当ですわ! ですから、お待ちいただいても時間の無駄ですわ」
「っ」
 メイドのくせに急に大声を出したことに驚く。
どうも、立ち振舞いが メイドという感じがしない。 どんな嫌な客でも主の面子のため 丁寧に接するのに、このメイドには それがない。 と言う事はやはりティアスが居るのかもしれない。
「ふ~ん」
あなたの考えなどお見通しだとメイドを見る

 どうも 怪しいと思っているとメイドが箒を 放り投げると  断りもなく  私の腕を掴んで何処かへ連れていこうと 歩き出した。
「 何するのよ!」
「 門まで ご案内します」
(このメイド何なの?)
いきなり帰れと実力行使に出るなんて。 どこまでも 強気なメイド に、さすがにムッとして腕を 振りほどく。

「そんなこと 貴女に 案内されなくても場所ぐらい知っているわ」
「・・でしたら 私は ここで」
メイドが 頭を下ると 私を一人残して、さっさと 家に戻ろうとする。 
ここまで馬鹿にされたのは初めてだ。 このまま見逃すわけには 行かなと、メイドの  肩を掴んで引き戻す。 下級貴族でも貴族に変わりはない。
「 ちょっと!何 、その態度。 私が誰だかわかってるの?」
「・・・ 」
不当な扱いをされる覚えはないと腕組みして 睨む。 一言 謝罪の言葉が欲しい。 それなのに黙ったままだ。 このメイド謝る気がない。 その態度に呆れ果てる。何様のつもりなの。

「 あなたは・・ キャメロン男爵の令嬢の・・偽者・・でしょう」
するとメイドが、さっきと打って変わって おどおどした喋り方になった。絶対 演技だ。
 女優である私の前で、お芝居?
なに考えてるの?
「 何よそれ? 」
しかも、シナリオが 最悪。
偽者? 今までの態度は、私が偽者だと勘違いしていたからとでも言いたいの?
 馬鹿馬鹿しい。
 私は正真正銘 男爵令嬢よと髪を払う。

「 まさか 本人ですか?!」
 メイドが目を見張って 驚くふりをした後 、手をかざして 私の後方を確認する。
なんなの?どこまで芝居を続ける気なの。
「 またまた 。ご冗談を。 未婚の 令嬢が お供も連れずに 独身男性の家に押しかけるなんて」
「なっ、何よ」
痛いところを突かれてマロニアはメイドの言葉に、どきりとする。
 確かに、この事が両親に知られたら叱られる。 私の事を信頼して一人で行動するのを許してくれている。この件が お父様の耳に入ったら、
供の者 をつけられる。 そしたら、ティアス
を探すことが出来なくなる。

「もし 本当なら前代未聞です。もしこの事が 男爵の耳に入ったら・・」
「・・・」
 想像するだけでも 恐ろしいと メイドが耳を塞ぐ 。 確かに、恐ろしい。
機嫌を損ねたら 何も出来なくなる。
「ちょ、ちょっと 言いつける気!」
そんな脅しは 効かないという態度を取りたかったのに、声が 上ずってしまった。 メイドに弱みを握られるなど悔しい。

「 男爵に告げ口されたくなれば、  とっとと帰れってことですわ!」
メイドがビシッと門を指さして 啖呵を切る。
その迫力に気圧されそうになる。でも、このまま負けっぱなしで帰るのは癪だ。
「 そっ、 そんな態度を とっ、とるなら、ティ、ティアスに言ってクビにしてもらうんだから」
「・・・」
 貴族としてのプライドが許さない。
 その事が 意固地にさせる。こうなったら、絶対私の力を見せつけてやる。
 
「ほっ、本当よ。嘘じゃないわ」
「そう言う事でしたら、 男爵に この事を報告しますわ」
メイドからの思わぬ反撃を食らってカッとする。
「この!」
身の程を弁えさせてやると平手打ちしたかった。しかし、メイドにさっと避けられて しまって 空振りして よろける。
(なんなのよー!)
心の中で地団駄を踏む。
メイドに 負けるなんて悔しい。
もう一度だ。そう思ってメイドを見ると箒を高々と持ち上げて迫ってくる。

「 ほら、ほら 。さっさと帰らないと 泥だらけになりますわよ。 よろしくて」
驚いて目を見開く。
( 嘘・・)
このメイド狂ってるわ。 客を返すために、ここまでする?マロニアは、暴力メイドを前に信じられないと 首を振りなから 後ずさる。
完全に戦意喪失した。 関わってはいけないタイプの人間だ。
「おっ、 覚えてなさいよ」
 ひどい目にあう前に逃げよう。 捨て台詞を言うと慌てて門に向かって走る。

***

「はぁ、はぁ、はぁ」
全力疾走で 門まで逃げて来た。
肩で息をしながら、後ろを振り返る。
メイドが追いかけてこないことを確かめて やっと安堵できた。

 なんなの あのメイドは?
無駄に綺麗だから、余計に怖かった。
箒で追いかけ回されるなんて、こんな酷い扱いを受けるのは初めてだ 。ティアスの家のメイドの質も落ちたものだ。 乱暴すぎる。
メイド恐怖症に、なりそうだ。 自分を安心させるように両腕をさせる。

 この家も違った。 もう何件も探してるのに いつになったらティアスに会えるだろう?
 このまま会えなかったら、どうしよう。
 そしたら、このまま痛む胸を抱えて 生きていかなくてはいけない・・。
「・・・」
 駄目、駄目。弱気になる自分を叱る。
必ず会えるわ。

 ティアスに早く会いたい。そしたら、あの人への気持ちが 自分の思い違いだと。ちょっとした、気の迷いだったと思えるはず 。だって、ティアス
とは何十回も会ってるけど。 彼と会ったのは数回だけだもの大丈夫。

 明日はティアスの会社の方へ顔を出してみよう。 その方が安全だ。
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