嫌な男アランの結婚までの30日

あべ鈴峰

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ファン1号 * 残り21日

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アランは 家出した シャーロットの行方を捜すために 手がかりを求めてメイドたちに 部屋を案内させた。 
そこで、シャーロットが 堂々と タイムテーブルを作っていたと 知って アランは 怒りに任せて 枕カバーを床に投げつける。
「くそっ!」
 すると、メイドたちが 怯える。

 みんなのスケジュールを 刺繍にしてメモしてたんだ。 敵ながら あっぱれだ 。
アランは 枕カバーを拾うと、刺繍されていない空白の箇所をさがす。
( この日か?)
このところだけ 刺繍されていない枠が続く。
 木曜の1時半から 4時半。3時間・・・
 これだけ時間が あれば、どこへでも逃げる。
見つけ出すのは 骨が折れそうだ。

「 いなくなったのに 気づいたのは 昨日の木曜の4時半頃か?」
「 そうです。どうして、わかったんですか?」
 そう聞くと、メイドたちが目を丸くする。
メイドたちの あまりの鈍感さに 苛立つ。
 毎日、出来上がるのを見ていただろうに、どうして気づかない。 伯爵から いつもと違うことをしたら  報告しろと いい使っていただろうに。 
少しも 疑問に思わないとは。
 昨日、今日の付き合いでは ないだろうに・・。 それで、お付きのメイドと言えるのか? 
メイドの質の悪さを感じる。
 しかし、この程度のメイドでは シャーロットに歯が立たないか・・。

「他に変わったことは?」
「他・・ですか?」
「さぁ・・」
 知らないと、メイドたちが顔を見合わせる。
 この家の者はポンコツばかりだ。
「 何かあるはずだ。言ってみろ」
「そっ、 そう言われましても・・」
「そっ、そうです・・」
本当に知らないのかと詰め寄ると メイドたちが 手を取り合って後ずさる。

怖がらせてどうする。さっきだってヒントをくれたんだ。 本人たちが気づいていないだけだ。 
何か思い出すような事を言えば、いいんだ。
 アランは苛立ちを吐き出すように深呼吸すると なるべく柔らかい声を出すようにする。
「例えば・・家族以外の者と話をしたとか? 何か買い物をしたとか?・・何か あるだろう」

 これ以上 怯えさせないようにと 感情を見せないようにして、鈍いメイドたちの答えを辛抱強く待つ。 ここまで計画していたなら 他にも何かあるはずだ。
「あぁ、そういえば宝石商の人と話をしていました」
「 宝石商?」
 何か買おうとしたのか? それとも、店員を使って誰かと 連絡を取ろうとしたのか?
アランは、顎を擦りながら考え込むが 理由が絞り込めない。
「 店の 名前は かわかるか?」

*****

舞台では 台本を手に新作の稽古が、始まっていた。 出演者達が、読み合わせをしている。
 脇役としてのデビューのマロニアは、やる気に満ちている。 自分の出番を待ちながら、 少しでも上達したいと 他の出演者の演技を観察する。
 ページをめくりながら、セリフを追っていると 不意に名前を呼ばれる。
 「こちらに、マロニア・キャンベルさんは いらっしゃいませんか?」

 声のする方を見ると 花籠を持った店員が舞台に向かって歩いてくる。
 「あっ、はい。私です」
(嘘!)
驚きながらも 弾む足取りで店員から 花かごを受け取ると 受け取りのサインを書く。
 本当に約束は守って花を贈ってくれた。 貴族の令息だから、期待してなかったのに・・。
 やっぱり、あの人は特別だ。 上級貴族から こんな風に扱われたのは 初めてのことだ。
嬉しさに涙が 滲む。

 ありきたりなバラや赤い花では なくて クリーム色とオレンジ色の花に、特別感を感じる。
 わざわざ私のために 選んでくれたんだ・・。
(稽古中なのに、花を贈ってくるなんて、 待てなかったのかしら)
 届けられた花籠を見て微笑む。ただの花なのに、 こんなに嬉しいとは想像もつかなかった。こうやって花をもらうと 自分が女優になったと実感する。
「 ありがとう」
ペンを返すと花に揃えられている 白い封筒に入ったカードに 何て書いて あるんだろうとドキドキしながら開封する。
『 脇役 おめでとう』
「ふっ!」
カードに書かれてた内容に 思わず吹き出す。

初日を迎えていないから 仕方ないのかも しれないけれど、 もっと他の言葉が ありそうなものなのに・・。マロニアは笑みを隠すように花の香りを嗅ぐ。
「 あら、あら」
 背後からマリアベルの声がしてドキリとする。 きっと、何か言われる。
 マリアベルが 私の前に立つと 花かごと私を交互に見る。
「 主役の私を差し置いて、 脇役のマロニアちゃんに 花が届くなんて」
「 マリアベル・・あのね」
 そう言われると 気まずい。
確かに目立つ行為だった。 でも、贈ってくれるとは 思ってなかったから・・。 値踏みするように 花籠を見られて、マリアベルから 守るように後ろに隠す。
あの人からの花だ。けなされたくない 。

「誰が、贈ってくれたのかしら?とっても 気になるわ」
意味ありげな言葉で、私をじっと見る 。
その大きな茶色の瞳で 見られると 本当のことを言わないと いけない気分になる。
でも、贈り主のことは秘密に したかった 。
「えっと・・ これは・・」
すると、マリアベルが私の後ろを覗き込む。
マリロニアは 絶対渡さないと 花籠を ぎゅっと抱しめる。
マリアベルが、くすりと笑うと花かごの花をつついて、その指で、私の鼻も つつく。 
「 真面目なマロニアにも 恋の花が咲いたのね」
「ちっ、 違うわ。誤解しないで 」

からかわれてマロニアは、慌てて否定する。
恋も何も、数回しか会ってない。
「ふ~ん」
「ふ~ん。は、止めて」
 全てを見通しだというマリアベルの態度に 私の何を知っているのよと、そっぽを向く。
それでも自分の頬が赤くなるのがわかる。 このふわふわした気分は、とても心地いい。
人を好きになるのは楽しい。自分のことが好きになれる。
マリアベルは、こんな気持ちを何度も経験しているのね。なんとなくマリアベルの気持ちが わかる。
「 はい。はい。じゃあ、ファン1号ね。大事にするのよ」
「ええ もちろん」
 マロニアは 元気よく約束すると マリアベルが微笑む。 なんだ、マリアベルと仲良くなれた気がする。

 そうか、私のファンなんだ。 だから、お詫びとか言って花を贈ってくれたんだ。
( それなら、そうと言えばいいのに・・)
 素直じゃないんだから。今度サインを書いてあげようかしら。

*****

机を指でトントンと叩きながら 、 シャーロットの逃亡先を 考える。 家出が計画的なら、逃げる場所も すでに決めてある可能性が高い。
 人で ないなら 施設か?
教会、修道院、孤児院、あとは・・。
「大変です!大変です 旦那様 !宝石強盗をした 娘の容姿が シャーロット様と 同じです。この新聞に書いてあります 」
可能性の高さの場所を見つけ出そうと考えていると 新聞を手にしたグラハム伯爵家の使用人が部屋に飛び込んでくる。

「嘘よ !いくらなんでも 、そんな恐ろしいことを するはずが無いわ 」
俯いて泣いていた 伯爵夫人が 勢いよく立ち上がると、即座に否定する。 

なんと言う事だ。金に困ってく すねたのか?
「何だと!」
「巷では 美少女怪盗 現ると 囃し立ています 」
「よこせ!」
真意を見極めると  アランは 新聞をひったくるように奪い取ると 素早く記事に目を通す。

『宝石強盗した 美少女は 、不敵な笑みを浮かべて 役人に連行された 』
(不敵な笑み?・・)
この娘は、一体何を考えているんだ ? 
娘の行動に眉をひそめる。捕まったのに、何故 笑う。
写真は撮っていなかったが、 犯人の容姿が 細かく書かれていた。
 年のころは、17歳。身長160 CM 前後、 体重は 47キロぐらい。 金髪に 碧眼 。深緑色の ドレスに、ケープ。これだけか?

別に シャーロットと決めつける内容では無い。 名前らしきものも 載っていない。
どうして、 これをこの家の使用人は  シャーロットだと思ったんだ? 新聞を持ち込んだ使用人に、その 理由を問いただそうと思っていると
 「あなた ・・。これ 」
夫人が記事の一部を震える指で 指差した。
その指がドレスの色の文字を指している。

 いつのまにか 伯爵夫妻も隣で記事を読んでいた。
「ドレスの色だけで 、決めつけるのは早い 」
伯爵が 口では否定しているが 、その顔には 諦めの色が 浮かんでいる。
深緑色のドレスに何か 思い当たる事が あるのか?
「夫人、 教えてください。どうして、ドレスの色だけでシャーロットだと思ったんですか?」
そう問うと夫人が 話していいかと 伯爵の顔色を伺う。 伯爵が、ため息と共に頷く。
何か訳ありの品なのだろうか?

「そこに書いてある深緑色のドレスは 古くなったので、捨てさせた物なんです。 それなのにシャーロットが 焼却炉から拾ってきて・・」
夫人が当時のことを思い出しているのか 瞳に怒りが浮かぶ。 
「なんで、そんな物乞いのような事をするのかと、問い詰めとわ」

  伯爵令嬢の自分の娘が ゴミ漁りをしているなど、 許せないのだろう。
「 そしたら 物は大事にすべきだと言い返してきたの。 その上メイドが捨てたケープまで拾ってきて・・。 シャーロットには似合わないし、デザインだって古くさいのに・・。 捨てる、捨てないで  揉めたわ。でも、結局私が折れてしまったの 。でも、今にして思えば 変装道具だったのかも」
 つまり、貧乏くさい格好すれば 伯爵令嬢だとバレないと思ったわけか。
 後悔しても しきれないと 俯く夫人の肩を 伯爵抱き寄せる 。

なるほど、この一件を家の者が皆 知っているから それではあんな反応したのか。 総合的に考えて、この強盗犯は シャーロットだと考えて間違いない 。もちろん、何かアクションを起こすとは思っていたが ここまでやるとは・・。

全身傷だらけになろうとも、目的を果たすためなら、構わないと言う覚悟のようなものを感じる。 しかし、それが私との結婚を避けるためだと考えると 愚かすぎる。 そこまで身を落とす必要など、どこにある 。シャーロットの極端な行動には閉口する。 もっと、まともな方法があるだろうに ・・。戦争でもあるまいに。到底伯爵令嬢が考える策とは思えない。 
まるで ・・フィリップ・スチュワート。
シャーロットの 祖父である その名が頭にかぶる。

 もしかして、次の策も考えてあるのか?
しかし、私との結婚が嫌だからと犯罪者になるだと。 どこまで世間を舐めているんだ。 どうせ現実の 恐ろしくさを知って、泣きついてくるくせに。
(あのクソ女)
アランはキリッと 唇を噛んだ 。
分かった。 そっちが その気なら、 もう 容赦しない 。この私を見くびったことを 後悔させてやる。

***

バン!
アランは腹立たしげに新聞に、 手を打ち付ける。 この記事を書いた記者に殺意を覚える。
何が美少女現るだ。部数を増やすためとはいえ 面白く書きすぎだ。写真や名前が 無いことが、せめても救いだな 。
これ以上、記事が出るのは何としても避けたいが、 へたに記者に圧力をかけると藪蛇になりかねない。
 それに こう言うゴシップ記事は、市井の者が喜ぶから、すぐには収拾しにくい。

 もっと、こう・・市井 の関心が移るようなスキャンダラスな出来事が 起きれば いいんだが・・。
 そう タイミング良く事件は起きない。
 どうにか ならないかと考えていたアランは 指をパチンと鳴らす。


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