嫌な男アランの結婚までの30日

あべ鈴峰

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想定内?

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マロニアが 自分が女優をする理由を話そうと口を開く。 そして、顔を上げて私を見る。
「 私は」
( やばい。面倒事に巻き込まれる)
 悩みを言いそうな気配にアランは、 すかさず続きの言葉を遮るように謝る。

「 自分の人生だ。他人の私が とやかく言うことではなかった」
 こんなところで人生相談に付き合うなど 不毛でしかない。安易に立ち止まった自分を呪う。
 ここは、議会場で 人目もある。
マロニアに 泣かれて、男爵との関係が 悪化するのも困るし、 逢引していると勘違いされても困る。 さっさと、切り上げよう。
しかし、さっき みたいに勝手に付いてくるかもしれない。 まとわりつかれないように、餌を与えて、その隙に逃げよう。
「お詫びに、花を贈る」
「えっ?」
 一方的に喋ると 目をパチパチしてポカンとしているマロニアの返事を待たずに 立ち去る。

女は、花が好きだ。 これで機嫌が なおるだろう。 そしたら、今日の事を男爵に話さない。
 善は急げだ。帰りに花屋に寄ろう。


「 ちょっと・・」
風のように去って行くアランを見送りながら 首をかしげる。 困らせるようなことを言った?
ううん。言ってない。
 どういうこと? なんだか煙に巻かれたみたい。 花をプレゼントしてくれると 言っていたけれど・・。 本気? でも、何のお詫び?
 最後の欠片も無いと言ったこと? でも、大根女優と言われているのは 慣れている。
 何で贈ってくれるんだろう。 全く 理由が思い当たらない。

***残り21日

ドアの開く音に起こされたアランは 薄目を開ける。
( もう、そんな時間か?)
 しかし、一緒に持ってくるはずは紅茶の匂いがしない。僅かに開いた瞳には、 絨毯の模様さえ分からないほど暗い部屋が うつる。
まだ、起きるには早い。アランは目を閉じて、もう少し寝ようと布団を引き上げる

「アラン様 」
しかし、声をかけられた。
「・・・」
「アラン様 。起きてください 」
枕元で 私を起こそうとする 小間使いを無視して 、寝返りを打つ 。無言の返事だ。
「アラン様 。お願いでございます 。起きてください 」
それなのに、回り込んでまで、しつこく 言ってくる 。ここまで 、うるさくては 寝ていられない。
片目だけ開けて 騒ぎ立てる 小間使いの様子を伺う 。いつも以上に 縮こまって 、眉間のシワも深い。
 
 仕方ないと、もぞもぞと 起き上がると 殺気のこもった声で言う 。
(これで 、どうでもいいような 用件だったら 殺す!)
「何だ!」
「グラハム伯爵様から 使いの者が来ています 。火急の用だそうです 」
「 伯爵が? 」
小間使いの言葉に ナイトテーブルに 置いてある 置時計を掴むと 時間を確かめた 。
(5時 ・・)
これは 、ただならぬ事が  起きたに違いない 。
「出かける 。さっさと用意しろ!」

***

グラハム伯爵の呼び出しに 応じて来てみれば 、案の定悪い知らせだった 。

シャーロットが 昨日から行方不明で、使用人総出で 情報を集めているが、  何一つ 有力な情報が 得られ無かったと言う。
気づいたら すぐ連絡を寄越せば いいものを。
 あれほど 念押ししたのに。
 伯爵が自力で探そうとしたばかりに 何をするにも時間が経ちすぎている。
 駄目な人間は、何をやっても駄目だ。

 しかも、 シャーロットが いなくなった時間も、 家を出た時の服装も、 持ち出した物さえ 分からないと言う。本当に 話を聞けば 聞くほど 頭が痛くなると、こめかみを押さる。
『 それでも父親か!』 と、言いたいところだが、 今更 そのことで怒っても無駄に体力を使うだけだ。
 それに、 憔悴しきっていグラハム伯爵夫妻を
 前にして、未来の婿としては グッと耐えるしかない。 義理の両親になるんだから、 顔を立てるのも務めだ。

役に立ちそうにない伯爵夫婦に代わって アランは、  シャーロットが 今どうしてるかについて
イライラと 部屋を動き回りながら考えてみる。 

一晩経っても役人が来てないことを考えれば、 トラブルに巻き込まれて 死んだり、 怪我をしているわけでは ないだろう。

自殺ということも考えられるが・・。
 シャーロットは、私のことを最低な男だと思っている。 その最低な男から逃げるために 自殺?
 あのプライドの高いシャーロットが?
 そんな事ありえないと、首を振る。
絶対生きている。 もし、自殺するにしても 私を殺してからだろう。 

となると・・。 考えたくは ないが、 自暴自棄になって 身を売っている可能性はある。 
まあ、それならそれで構わない。 私に必要なのは 自分の子供を産んでくれる女でも、 一緒に暮らす女でも無い。
金を持ってきてくれる女だ。
 一番 大事なのは、シャーロットが 生きて見つかることだ。

アランは 冷めきった紅茶を口に運ぶ。
ほんの7日前は 嬉しい出来事で華やいでいた この応接室も 今は悲しみに暮れている。
シャーロットが 家出することは想定していた。
だから 、 その為に この半月ほど シャーロットが頼ろうとする人物を一軒、一軒、 手土産を持参して苦悩の表情を浮かべて 同情を買うように仕向けた。 シャーロットに対して理解のある婚約者のふりをして 靴が すり減るほど尋ねまわった。
 自分でも 涙ぐましいほどだ。
それなのに、何の連絡も無い。
(・・・)
まだ、家出して半日ほどだ。 これから連絡が来るかもしれない。


しばらくすると小間使いが戻ってきた。
 グラハム伯爵家には任せられないと 自分の家の小間使いたちに再度調べさせていたのだ。
「旦那様 。シャーロット様の 友人や親戚の家を 当たりましたが 、どの家にも 来ていないとのことです 」
私の包囲網を 掻い潜ったのか?

 それとも、知人たちが 私の言葉ではなく シャーロットの言葉を信じたのか?
(・・・)
 それは 無いな。 皆 シャーロットの白黒つけたがる性格を知っている。そのせいで 大なり小なり 皆が トラブルに巻き込まれている。
(正義感。つまらぬ感情だ)

コイツらの探し方が悪いだけだ。
アランは、もう一度 探しにいけと小間使いを手で払う。
「いいから、探せ」
「 知人の家まで 手を広げるとなると、 私たちの人数では 限界があります」
 アランは 口答えする 小間使いに、 お前の意見は聞いていないと睨みつて黙らせる。

煙のように消えたわけでは無いんだ。誰かが目撃してるはずなのに・・。
「どうして分からないんだ!」
 アランは 苛立ち紛れに 机をバンと叩く。その音に、 小間使たちが  びくりと 縮こまる 。
(どいつもこいつも 使えない)
 自分の思うように 物事をすすめられないことが 、もどかしい 。


**

 役立たずどもには 任せられないと アランは、手がかりを探すために シャーロットの お付きのメイド2人に部屋を案内させる。
「 こちらが、シャーロット様の部屋です」
 白と青を基調としたシンプルなデザインの部屋で、小物が 良いアクセントになっている。
 性格は最悪だが、趣味は良い。

しかし、普通の令嬢の部屋だ。 取り立てて特別な物が、あるわけでもない。
 中に入ると早速、 文机の引き出しを開けて漁る。 手紙の束を見つけたアランは、 一通一通、差出人を確かめる。 
どの相手も既に手は打ってある。
この手紙の相手に、シャーロットが家出したと素直に言えば 協力してくれるだろう。 
しかし、そんなことを言えば赤っ恥をかくだけだ。何が何でも自分で探し出す。
 
シャーロットだって馬鹿じゃない。
後先考えずに 飛び出したとは 考え難い。
どこだ。どこかに手がかりが あるはずだ 。
アランは部屋の中央に立つと もう一度 部屋にある物をひとつ、ひとつ確かめる。

 その中で、無造作に椅子に かけてある枕カバーに目が留る。 それが、何故か 気になって手に取ってみる。
「・・・」
「それは 花嫁道具にしようと シャーロット様が作っていた物です」
 メイドの説明に疑問が確信に変わる。
 私との結婚が嫌で 家出するくらいなのに 嫁入り道具? そんなこと考えられない。
 絶対、これに秘密が隠されている。

 ジャコビアン刺繍で 格子模様が刺繍されて その中に花が刺繍されている。
 しかし、どこか歪だ 。
色の配色に偏りがある。だから バランスが変で違和感を感じるんだ。 それに、枕カバーなのに 真ん中に刺繍があるは おかしい。
これでは、せっかくの刺繍が すぐに擦りきれてしまう。 そんなこと誰だって知っている。
それなのに、何故?

使っている色は、赤、青、黄色。 
花びらの数が、 1、2、3、4、5・・5。
数を数えていたが途中で止る。  5枚? このデザインなら、花びらが6枚揃ってないと花として成立しない。それなのに、どの花も 花びらが欠けている。 何故こんな中途半端な刺繍なんだ?

眉間に皺を寄せて枕カバーの謎を解こうと考え込んでいると。
またもメイドの一人がヒントをくれた。
「 それは、未完成です」
「未完成?」
 「ええ、所々刺繍していないところが あったので 。どうしてなんですか と聞いたら、式 まで まだ時間が あるからだと言ってました」
 未完成?否、 これで、シャーロットの中では完成している。

花が完成しているのは左の1列だけ。 
ここだけ、枠の中の花の刺繍が2段になっている。 よく観察すると、枠が下に進むたびに花びらが1枚増えている。 そして6枚の花びらが揃った花が二つ並ぶと、 今度は花びらが1枚から始まっている。

 6弁の花が二つ。 つまり12枚の花弁。
 そして、次の枠から1枚・・。1?
 時計だ。

急いで横の枠を数える。
 1、2、3、4、5、6、7・・7!つまり一週間。
 縦が時間、横が曜日だ。そして、花びらが1枚10分。 ならこの 欠けた花たちは 10分から50分を表している。 これはタイムテーブルだ。
「くそっ!」
やられたと 枕カバーを床に投げ捨てる。
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