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脇役女優登場
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アランは 新しい彼女を見せびらかせたい 友人のドナルドに連れられて いやいや劇場に来ていた。 自分たちの席に向かっているとドナルドの不意の一言に アランは 歩みを止めそうなる。
「シャーロットも 連れて来ればいいのに。 気を利かせて二席用意したんだぞ」
すっかり 忘れていた。
シャーロットとは婚約中だった。 一人で来たのは まずかった。自分のミスに焦ったが、なんとか とり作ろう。
「えっ、あぁ、でも 式まで一か月ないだろう。女は 何やかんだで 忙しいんだよ」
「 そうだな。だったら、今夜は 男同士て楽しく過ごそうぜ」
適当な言い訳だったが、ドナルドは変に思わなかったようだ。 内心 ホッとしながら 次 こんなことがあった時の為に それらしい理由が必要だと頭の中で考え始める。
誰かと会う時は 気を緩められない。
芝居の幕が上がるとドナルドが 馴れ馴れしく私の肩に腕を置いて舞台を指差す。
「 アラン。紹介する。今度の恋人は女優のマリアベルだ。 知ってるだろう?」
マリアベル? 誰だ?
しかし、ドナルドの自慢げな口調から そこそこ有名なのだろうと推測する。
「ああ・・名前は」
本当は 全く知らないが、 知らないと言えば いかに素晴らしい女優なのかと 事細かく説明しだすので嘘をつく。 ドナルドの自慢話など耳障りなだけだ 。それに、どうせすぐ次の女に乗り換えるんだ。 覚える必要などない。
「 ほら、あの娘だ」
アランは ドナルドの腕を外して指差した方を見る。
すぐわかる。金髪に茶色の目だ。
何が 良いのか知らないが 毎回金髪で茶色の目の娘を恋人にする。そして、なぜかドナルドは恋人を 全員『バンビちゃん』と呼ぶ。
昔 その理由を1度聞いた事がある 。
本物のバンビを見た時の あまりの可愛らしい目が 忘れられないからだと言う。
全く 動物の愛らしさを人間に求めるなど バカすぎる。
マリアベルにも芝居にも関心などない。
寝てしまいたい ところだが ドナルドの手前 芝居を見るしかない。 きっと感想を求められるだろう。 そのことを考えただけで、うんざりする。 批評家じゃないんだから、私が何を言っても 客の入りには関係ないのに。
仕方なく芝居を見ていたが、出演者の中の一人が気になって仕方ない。
( あの娘と何処かで・・)
仕草や歩く姿に見覚えがある。 女優の知り合いなど いないはずなのだが ・・。誰だ?
しかし、確かめようにも舞台化粧をしていて 素顔を想像するのは難しい。それでも 首をひねりながら その女優を凝視する。 分からないとモヤモヤする。 目で追っていると 相手の女優も 私を意識していることに気づく。 やはり知り合いらしい。 一体誰だ?
思い出そうと眉間に皺を寄せる。 自宅と仕事場の往復で 女性と 知り合うきっかけなど・・。
次に目があった刹那の時間 誰なのか思い出す。
あっ!
そうだ。チケットを譲ったストロベリーブロンドの娘だ 舞台に感動して大泣きしていた姿を思い出す。
( 女優だったのか・・)
「あー、やっぱり気づいたか」
小馬鹿にしたような物言いにアランは意味が分からず ドナルドを見る。
「 あの娘はマロニアと言って キャメロン男爵の娘だ」
アランの脳裏に赤毛の男の姿が浮かぶ。
ドナルドが、それでわかるだろうと言う 言い方には悪意が感じられる。 どうして見下す。下級貴族だからか?
「ひどい大根役者だろう。 でも 男爵がスポンサーだから 仕方なく起用してるんだ。 そのせいで芝居が台無しだよ」
(なるほど・・)
芝居など ほとんど見たことがない私から見ても 彼女の演技が 上手くないことは 分かる。だから 男爵のコネで 役をもらっているのか?
しかし、大金持ちの父親がいるんだから 働かなくても食べていけるのに なぜだ。 結婚までの暇つぶしか? それとも 本気で女優になるつもりなのか?もしそうなら、あまりにも無謀な考えに驚く。
「 真剣に取り組んでるのか?」
「知らなーい」
気になって聞くと興味ないとドナルドが肩をすくめる。
アランは、その後も下手くそだけど なぜかキラキラしているマロニアの その姿ばかり見ていた。
*****
マロニアは父を探すふりをして、実は あの人を探して議会の建っている敷地をうろうろしていた。
昨夜 あの人が、ラングフォード伯爵が 見に来てくれた。しかし、 返す返すも残念なのは 今回のお芝居で私は端役だったことだ。 出番は多くても、セリフは ほとんどなかった。
でも、どうして来たんだろう・・。
芝居のチラシに私の名前は無いのに。これは偶然 ?それとも・・。
どこに居るんだろうと、あちこち歩いているとやっと彼の姿を見つけた。
やっと会えた。
手鏡で素早く服装をチェックをすると 鞄を開けて中身を確認する。 ちゃんとハンカチもある。 これを口実にして話しかけよう。
ワインセラーの時を違って 今日は服装にも気を使っているから大丈夫。 気づかれないことはない。
何より、この前の芝居の時は ずっと見られてた気がする。だって何度も目が合ったもの。
きっと彼も私のことを気になってたんだ。
マロニアは弾むように彼に駆け寄る。
*****
アランは議会の仕事が終わり家に帰ろうと 回廊を歩いていると 中庭を挟んでマロニアを見つける。
「マッ・・」
一瞬 呼び止め落としたが、やめた。 そもそも 知り合いと言えるような関係ではない。
人付き合いなど煩わしいだけだ。それに何を話すと言う。 話ししたとしても芝居の批評しか出てこない。 しかも、酷評だ。
首を振って考えるのを止めて歩き出すと、いきなり ぬっとマロニアが目の前に現れる。
「こんにちは」
「なっ」
完全に油断していた。 ぎょっとして立ち止る。 さっきまで、反対側の回路を歩いていたのに いつのまに こちらに来たんだ? 全く気付かなかった。
驚いている私のことなど、お構いなしに マロニアが、しっぽを振る子仔犬のように無邪気に笑いかけてくる。 なんで そんな目で私を見るのか知らないが、 こんなに好意を向けられたのは初めてだ 。そんな目で見られたら 撫でたくなる。
しかし、飼うなら血統書付きでないと。
男爵令嬢でなければ、考えるんだが 残念だよ。
「 何の用だ」
懐かれては困ると、つっけんどんに言う。
すると、マロニアが鞄から薄い化粧箱を取り出して 私に向かって恭しく差し出す。
しかし、アランは受け取らずに 胡散臭そうに箱を見る。 なんだ、賄賂なのか? 男爵に頼まれたのか?
「これは 何だ?」
「この前 借りたハンカチです」
ああ、 そうだった。人前で みっともなく泣いていたから せめて涙は拭けと渡したんだった。
アランは蓋を開けて中身が ハンカチだけしか入っていないのを確認すると安心して受け取る。 「間違いない。私のものだ」
ハンカチをポケットにしまうと、これで用は済んだ取ろうと歩き出す。 しかし、マロニアが断りもなく横に並んで歩く。
何でだ?同じ方向なのか ?
マロニアの行動の意図が分からないが 気にしないことにする。つまらぬ世間話などに付き合うつもりはない。すると、マロニアが 人懐っこい笑顔で話しかけてくる。
「 この前 お芝居にしてくれたでしょう。 私の演技どうだった?」
なぜ私に聞く? 父親とは面識があっても、お前とは初対面と言っていい。 返事に窮したアランは無視して歩く。 それでも、話しかけてくる 。父親にいてしつこい。
「 家族以外の人で見に来てくれたのは 彼方が初めてだったの 。だから、正直な感想が聞きたいわ」
マロニアに前に回りこまれて 必然的に立ち止まることになった。
これは・・感想言わないと駄目か?
泣かれたら困るんだが・・。
こう言うとき、 どんなに相手が悪くても女を泣かせた途端男が悪者になる。 理不尽なことだ 。
「どんな厳しい意見でも いいから言ってください」
厳しい意見 ?
そんな事を真剣な顔で聞くマロニアが哀れだ。
まさか、努力すれば演技が上達すると思っているのか? 練習すれば、するほど自分が凡人だと悟るだけなのに。 持って生まれた才能との距離は縮まらない。 無駄なことに、お金と時間を浪費することになる。 自分の力量を全くわかっていない。
これは完全に周りの物の責任だ。 きっと今まで誰も真実を言ってくれなかったんだろう。
アランは、 マロニアを見下ろす。 そろそろ現実をしてもいい頃だろう。 早くそのことを自覚させて、別の道を進ませた方がマロニアのためだ。
「才能の欠片も無かった」
バッサリと切り捨てる。すると、 アロニアが睨みつけてくる。なんだ。プライドが傷ついたか?
言い返してくると思ったが、 それは違うというようにマロニアが私に向かって指を振る。
「 そんな事ないわ。 だって、私のことを見てたもの。 私の芝に魅了されたからでしょ?」
「・・・」
マロニアの指摘にアランは眉間の皺を深くする。 確かに見るには見ていたが・・。
それは あまりにひどい演技だから、目が離せなかったと 言えば、とどめをさすことになる。
シャーロットみたいに気の強い女を泣かせるのは楽しいが、マロニアに言うのは弱い者いじめに近い 。それに、男爵とは顔を合わせる機会が多い。 傷つけるような事を言えば、男爵の耳に入るかもしれない。 だからといって世辞を言うのは流儀に反する。 仕方なく首を振って否定する。
「違う」
「 違わない」
それでも信じないとマロニアも首を振る。
(・・・)
アランは本心を探るようにもアロニアの瞳を覗く。はしばみ色の瞳には、一点の曇りもない 。
プライドを守るために意地になっているようでもない。 だったら、その自信はどこから来るのか興味が湧く。
「 なぜ、そうだと言える?」
「 だって、今度のお芝居では脇役が決まっているから。 それって努力の賜物でしょ」
賜物というより、男爵の上納金上乗せしただけでは?
自信に満ちた顔を見るに努力してきたのは、本当のことだと思う。 だが、努力してあの程度なら芽が出ることは一生ないと断言できる。
さっさと見切りをつければいいのに。
女優にこだわって何の得がある。
行き遅れの脇役女優なんて いくら男爵の娘でも貰い手がない。
「 悪いことは言わない。 女優の道を諦めて結婚でもしろ」
「 嫌・で・す 」
子供のように言葉を区切っていうマロニアに苛立つ。 人のアドバイスを頭から受け入れようとしない。 だったら、最初から聞くな!
「 どうして?ちやほやされたいのか?」
大方 女優になるなど、有名になって自分を高く売り込むためだろ。
いかにも令嬢の考えそうなことだ。
「 そうじゃ・・ありません。・・他に道がないからです・・」
道?強く否定して おいて最後の方が 呟き声になった。 何か切実な理由がありそうだが 、その道は断崖絶壁につながっている。
見るとマロニアが唇を引き結んでいる。
その上 私の視線を避けるように俯く。
いかにも理由を聞いて下さいと誘っているようなものだ。そう思っているとマロニアが 口を開く。
「 私は」
「シャーロットも 連れて来ればいいのに。 気を利かせて二席用意したんだぞ」
すっかり 忘れていた。
シャーロットとは婚約中だった。 一人で来たのは まずかった。自分のミスに焦ったが、なんとか とり作ろう。
「えっ、あぁ、でも 式まで一か月ないだろう。女は 何やかんだで 忙しいんだよ」
「 そうだな。だったら、今夜は 男同士て楽しく過ごそうぜ」
適当な言い訳だったが、ドナルドは変に思わなかったようだ。 内心 ホッとしながら 次 こんなことがあった時の為に それらしい理由が必要だと頭の中で考え始める。
誰かと会う時は 気を緩められない。
芝居の幕が上がるとドナルドが 馴れ馴れしく私の肩に腕を置いて舞台を指差す。
「 アラン。紹介する。今度の恋人は女優のマリアベルだ。 知ってるだろう?」
マリアベル? 誰だ?
しかし、ドナルドの自慢げな口調から そこそこ有名なのだろうと推測する。
「ああ・・名前は」
本当は 全く知らないが、 知らないと言えば いかに素晴らしい女優なのかと 事細かく説明しだすので嘘をつく。 ドナルドの自慢話など耳障りなだけだ 。それに、どうせすぐ次の女に乗り換えるんだ。 覚える必要などない。
「 ほら、あの娘だ」
アランは ドナルドの腕を外して指差した方を見る。
すぐわかる。金髪に茶色の目だ。
何が 良いのか知らないが 毎回金髪で茶色の目の娘を恋人にする。そして、なぜかドナルドは恋人を 全員『バンビちゃん』と呼ぶ。
昔 その理由を1度聞いた事がある 。
本物のバンビを見た時の あまりの可愛らしい目が 忘れられないからだと言う。
全く 動物の愛らしさを人間に求めるなど バカすぎる。
マリアベルにも芝居にも関心などない。
寝てしまいたい ところだが ドナルドの手前 芝居を見るしかない。 きっと感想を求められるだろう。 そのことを考えただけで、うんざりする。 批評家じゃないんだから、私が何を言っても 客の入りには関係ないのに。
仕方なく芝居を見ていたが、出演者の中の一人が気になって仕方ない。
( あの娘と何処かで・・)
仕草や歩く姿に見覚えがある。 女優の知り合いなど いないはずなのだが ・・。誰だ?
しかし、確かめようにも舞台化粧をしていて 素顔を想像するのは難しい。それでも 首をひねりながら その女優を凝視する。 分からないとモヤモヤする。 目で追っていると 相手の女優も 私を意識していることに気づく。 やはり知り合いらしい。 一体誰だ?
思い出そうと眉間に皺を寄せる。 自宅と仕事場の往復で 女性と 知り合うきっかけなど・・。
次に目があった刹那の時間 誰なのか思い出す。
あっ!
そうだ。チケットを譲ったストロベリーブロンドの娘だ 舞台に感動して大泣きしていた姿を思い出す。
( 女優だったのか・・)
「あー、やっぱり気づいたか」
小馬鹿にしたような物言いにアランは意味が分からず ドナルドを見る。
「 あの娘はマロニアと言って キャメロン男爵の娘だ」
アランの脳裏に赤毛の男の姿が浮かぶ。
ドナルドが、それでわかるだろうと言う 言い方には悪意が感じられる。 どうして見下す。下級貴族だからか?
「ひどい大根役者だろう。 でも 男爵がスポンサーだから 仕方なく起用してるんだ。 そのせいで芝居が台無しだよ」
(なるほど・・)
芝居など ほとんど見たことがない私から見ても 彼女の演技が 上手くないことは 分かる。だから 男爵のコネで 役をもらっているのか?
しかし、大金持ちの父親がいるんだから 働かなくても食べていけるのに なぜだ。 結婚までの暇つぶしか? それとも 本気で女優になるつもりなのか?もしそうなら、あまりにも無謀な考えに驚く。
「 真剣に取り組んでるのか?」
「知らなーい」
気になって聞くと興味ないとドナルドが肩をすくめる。
アランは、その後も下手くそだけど なぜかキラキラしているマロニアの その姿ばかり見ていた。
*****
マロニアは父を探すふりをして、実は あの人を探して議会の建っている敷地をうろうろしていた。
昨夜 あの人が、ラングフォード伯爵が 見に来てくれた。しかし、 返す返すも残念なのは 今回のお芝居で私は端役だったことだ。 出番は多くても、セリフは ほとんどなかった。
でも、どうして来たんだろう・・。
芝居のチラシに私の名前は無いのに。これは偶然 ?それとも・・。
どこに居るんだろうと、あちこち歩いているとやっと彼の姿を見つけた。
やっと会えた。
手鏡で素早く服装をチェックをすると 鞄を開けて中身を確認する。 ちゃんとハンカチもある。 これを口実にして話しかけよう。
ワインセラーの時を違って 今日は服装にも気を使っているから大丈夫。 気づかれないことはない。
何より、この前の芝居の時は ずっと見られてた気がする。だって何度も目が合ったもの。
きっと彼も私のことを気になってたんだ。
マロニアは弾むように彼に駆け寄る。
*****
アランは議会の仕事が終わり家に帰ろうと 回廊を歩いていると 中庭を挟んでマロニアを見つける。
「マッ・・」
一瞬 呼び止め落としたが、やめた。 そもそも 知り合いと言えるような関係ではない。
人付き合いなど煩わしいだけだ。それに何を話すと言う。 話ししたとしても芝居の批評しか出てこない。 しかも、酷評だ。
首を振って考えるのを止めて歩き出すと、いきなり ぬっとマロニアが目の前に現れる。
「こんにちは」
「なっ」
完全に油断していた。 ぎょっとして立ち止る。 さっきまで、反対側の回路を歩いていたのに いつのまに こちらに来たんだ? 全く気付かなかった。
驚いている私のことなど、お構いなしに マロニアが、しっぽを振る子仔犬のように無邪気に笑いかけてくる。 なんで そんな目で私を見るのか知らないが、 こんなに好意を向けられたのは初めてだ 。そんな目で見られたら 撫でたくなる。
しかし、飼うなら血統書付きでないと。
男爵令嬢でなければ、考えるんだが 残念だよ。
「 何の用だ」
懐かれては困ると、つっけんどんに言う。
すると、マロニアが鞄から薄い化粧箱を取り出して 私に向かって恭しく差し出す。
しかし、アランは受け取らずに 胡散臭そうに箱を見る。 なんだ、賄賂なのか? 男爵に頼まれたのか?
「これは 何だ?」
「この前 借りたハンカチです」
ああ、 そうだった。人前で みっともなく泣いていたから せめて涙は拭けと渡したんだった。
アランは蓋を開けて中身が ハンカチだけしか入っていないのを確認すると安心して受け取る。 「間違いない。私のものだ」
ハンカチをポケットにしまうと、これで用は済んだ取ろうと歩き出す。 しかし、マロニアが断りもなく横に並んで歩く。
何でだ?同じ方向なのか ?
マロニアの行動の意図が分からないが 気にしないことにする。つまらぬ世間話などに付き合うつもりはない。すると、マロニアが 人懐っこい笑顔で話しかけてくる。
「 この前 お芝居にしてくれたでしょう。 私の演技どうだった?」
なぜ私に聞く? 父親とは面識があっても、お前とは初対面と言っていい。 返事に窮したアランは無視して歩く。 それでも、話しかけてくる 。父親にいてしつこい。
「 家族以外の人で見に来てくれたのは 彼方が初めてだったの 。だから、正直な感想が聞きたいわ」
マロニアに前に回りこまれて 必然的に立ち止まることになった。
これは・・感想言わないと駄目か?
泣かれたら困るんだが・・。
こう言うとき、 どんなに相手が悪くても女を泣かせた途端男が悪者になる。 理不尽なことだ 。
「どんな厳しい意見でも いいから言ってください」
厳しい意見 ?
そんな事を真剣な顔で聞くマロニアが哀れだ。
まさか、努力すれば演技が上達すると思っているのか? 練習すれば、するほど自分が凡人だと悟るだけなのに。 持って生まれた才能との距離は縮まらない。 無駄なことに、お金と時間を浪費することになる。 自分の力量を全くわかっていない。
これは完全に周りの物の責任だ。 きっと今まで誰も真実を言ってくれなかったんだろう。
アランは、 マロニアを見下ろす。 そろそろ現実をしてもいい頃だろう。 早くそのことを自覚させて、別の道を進ませた方がマロニアのためだ。
「才能の欠片も無かった」
バッサリと切り捨てる。すると、 アロニアが睨みつけてくる。なんだ。プライドが傷ついたか?
言い返してくると思ったが、 それは違うというようにマロニアが私に向かって指を振る。
「 そんな事ないわ。 だって、私のことを見てたもの。 私の芝に魅了されたからでしょ?」
「・・・」
マロニアの指摘にアランは眉間の皺を深くする。 確かに見るには見ていたが・・。
それは あまりにひどい演技だから、目が離せなかったと 言えば、とどめをさすことになる。
シャーロットみたいに気の強い女を泣かせるのは楽しいが、マロニアに言うのは弱い者いじめに近い 。それに、男爵とは顔を合わせる機会が多い。 傷つけるような事を言えば、男爵の耳に入るかもしれない。 だからといって世辞を言うのは流儀に反する。 仕方なく首を振って否定する。
「違う」
「 違わない」
それでも信じないとマロニアも首を振る。
(・・・)
アランは本心を探るようにもアロニアの瞳を覗く。はしばみ色の瞳には、一点の曇りもない 。
プライドを守るために意地になっているようでもない。 だったら、その自信はどこから来るのか興味が湧く。
「 なぜ、そうだと言える?」
「 だって、今度のお芝居では脇役が決まっているから。 それって努力の賜物でしょ」
賜物というより、男爵の上納金上乗せしただけでは?
自信に満ちた顔を見るに努力してきたのは、本当のことだと思う。 だが、努力してあの程度なら芽が出ることは一生ないと断言できる。
さっさと見切りをつければいいのに。
女優にこだわって何の得がある。
行き遅れの脇役女優なんて いくら男爵の娘でも貰い手がない。
「 悪いことは言わない。 女優の道を諦めて結婚でもしろ」
「 嫌・で・す 」
子供のように言葉を区切っていうマロニアに苛立つ。 人のアドバイスを頭から受け入れようとしない。 だったら、最初から聞くな!
「 どうして?ちやほやされたいのか?」
大方 女優になるなど、有名になって自分を高く売り込むためだろ。
いかにも令嬢の考えそうなことだ。
「 そうじゃ・・ありません。・・他に道がないからです・・」
道?強く否定して おいて最後の方が 呟き声になった。 何か切実な理由がありそうだが 、その道は断崖絶壁につながっている。
見るとマロニアが唇を引き結んでいる。
その上 私の視線を避けるように俯く。
いかにも理由を聞いて下さいと誘っているようなものだ。そう思っているとマロニアが 口を開く。
「 私は」
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