『双子石』とペンダント 年下だけど年上です2

あべ鈴峰

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双子石

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クロエは、ネイサンに犯人がヒビを入れたペンダントを証拠として提出した。しかし、そこからネイサンの意味不明な行動に振り回されることに……。そして、最後にペンダントの話しになった。


「夫人にペンダントをプレゼントした事を覚えているか?」
「えっ?……あっ、はい」
あまりにも意外な質問に眉をひそめる。このペンダントは 母の誕生日に贈った物だ。
(それなのに何でわざわざ確認を?)
その事はネイサンも知っている。
だって、ペンダントに使った輝石はネイサンから貰った物だ。

事件と何の関係があるの?
それが重要な話なのか、意味が分からず困惑するばかりだ。
「はい。覚えています」
コクンと頷くと、ネイサンが何かを隠すように瞳を伏せた。でも、もう一度こっちを見たときには、その瞳に強い決意が伺える。
でも私は、いったい 何が知りたいのか、ちっとも分からない。
「分かっている。こんな状況でこんな話を伝えるのは酷だ。だが、聞いて欲しい」
酷? ペンダントの話が? 
ペンダントトップに使っているが、医療用魔法石の失敗作だと言う事は知っている。それ以上の秘密が隠されているのだろうか?

真剣なネイサンの眼差しにクロエは訳が分からないまま頷く。
どうしても、言いたいと言うのだから、よほど大切なことなのだろう。
それならば、聞かなくてはいけない。だけど、何を告白するのかと不安になる。ゴクリと喉を鳴らす。
「なっ、何ですか?」
「あのペンダントに使った魔法石は、双子石からの術を跳ね返せる術式が入っているんだ」
(あっ)
ネイサンの言葉にハッとする。
思い出した。そう言えばネイサンが、魔法石に術式を取り込むのに成功したら血のように真っ赤になると言っていた。色が綺麗だからと何も考えずに 失敗作の中から気に入った物を選んで母様に贈ったが。そんな石だったとは知らなかった。
(えっ、待って、と言うことは……)
ただの犯罪じゃない。双子石を使った犯罪だ。スウーッと血の気が引く。


「そっ、それじゃあ……」
恐怖で喉が塞がれたように声が掠れる。何で気付かなかったんだろう。
魔法石を使う時はヒビを入れる。
当たり前のことなのに、忘れていた。 
やっと、ネイサンの伝えたい事を理解した。
(原因をつき止めようと思ったのに、犯罪に巻き込まれていたなんて……)
背中を冷たい物が流れる。
「つっ、つまり……誰かが 母様に双子石を使おうとしたと言う事ですか?」
「結果だけみるとそうなる」
双子石は、可愛い名前とは違って恐ろしい魔法石だ。
『あなたが私で、私があなた』と言う単純な入れ替わりとは違う。
本当に魂を交換できるか分からないが、『記憶』をコピーして入れ替えることが出来ると、言われている。

厄介なのは2人分の記憶があるということだ。 私が本人だといくら訴えても自分だと証明 できない。
被害者にとっては 自分と言う存在が曖昧になるんだから、一種の殺人だ。
双子石を使う犯罪者たちは二つのタイプに分かれる。
罪を逃れるために他人になりすます。
もう一つは、その人と入れ替わるため。双子石があれば国王にだってなれる。睡眠薬を使った事を考えれば、犯人は何が何でも母様と入れ替わりたいと思っていたんだ。
成功していたら犯人を母様と思って、何の疑いもなく生活していただろう。

もし、母様にプレゼントしていなかったらと、想像するとゾッとする。
「どう言う事ですか? 詳しく話して下さい」
クロエはネイサンの両腕を掴むと揺さぶる。輝石を貰った時、魂を守ると言っていたから、心の平安を保てる効果だとばかり考えていた。
(まさか、そんな言葉通りだったとは)
そんな説明聞いていない。
ネイサンが私の手を掴んで外すと、そのまま手を握る。
「私が双子石を追っていたのは知っているだろう」
「はい」
勿論知っている。一緒に売人を捕まえに行ったんだから。
「実は、それと双子石の力を無効にする魔法石を作ろうと考えていたんだ」



ネイサンからあの魔法石を作ったいきさつを聞いたが、安心は出来なかった。もらったあの輝石は失敗作だと言っていた。
(それなら……もしかして……)
クロエの脳裏に双子石の被害者の顔が浮かぶ。一様に人形のようにただ眠っていた。魂は守られても、一生寝たままでは、いくら生きてても救われない。
「じゃあ、母様は……」
「それは無い。ペンダントの力で術を弾き返した。ただ未完成品だから、回復ふるのに時間が掛かってるだけだ」
祈るようにネイサンを見ると首を振って否定してくれた。
「夫人は大丈夫だ。さっき脈を診たが他の被害者と違って脈も強く、安定していた」
「良かった……」
ホッとして肩の力を抜く。双子石の被害者だと聞いたときは、生きた心地がしなかったけど、眠っているだけなら平気だ。また、母様に会える。
(神様。ネイサン様。ありがとう。私にチャンスをくれて)

ネイサンの確かな答えに、クロエは安心感からズルズルとしゃがみ込む。
「クロエ!」
「大丈夫です……ちょっと……気が抜けて」
心配するネイサンに、向かって首を左右に振る。
すると、ネイサンが柔らかい笑みを浮かべて私の頭をポンポンと叩く。その笑顔を見て自分も微笑む。
しかし、安心もしていられない。
双子石を使ってまで母様と入れ替わろうとしている人間がいるんだから。

「母様は誰かに狙われたと言うことですか?」
すると、ネイサンが深刻そうに頷く。
「そうだ。何者かが夫人に双子石を使った。それは紛れも無い事実だ」
いったいどうして母様が選ばれたんだろう。
( ……… )
その理由は何?
もしかしたら社交界で母様を羨んだ人がいて、その人が犯人? それに関しては社交界のドンであるエミリアのお母さんに聞けば分かる。
だけど、 地位を奪うなら若くて綺麗な令嬢の方がいいに決まってる。
母様は、30近いし、11歳の子供も居る。綺麗は 綺麗だが 正直、田舎の伯爵夫人だ。

だったら、父様の財産目当て?
しかし、土地だって広いだけで、特産品も鉱脈も無い。危険を冒してまで欲しがるような土地ではない。もしそうだとしても、権利を持っているのは父様だ。実家も伯母が相続していて遺産相続の問題も無い。
それなのに何故? 

いくら首を捻っても、思い当たる事が一つも無い。
「……… 」
だけど、そもそもどうやって犯人は双子石を入手したんだろう。
「確か……もう、双子石は売られて無いのですよね?」
訊ねるかように視線を向けると、そうだとネイサンが頷いた。
「ああ、売人の手元にあった石は回収したし、魔法石を作っていた研究者たちを兄上が討伐して、残っていた双子石は全て破棄した」
「破棄ねぇ……」
(でもそれが、嘘の報告ならどうだろう)
クロエは顎を押さえながら左右に首を振る。私たちが売人を
摘発して一年余りになる。

捕まえた事で資金も人材もなくなった。もう作る人間は居ないと思うんだけど……。
担当したのが第一王子なら、指揮だけとって、実務は部下に任せたはず。
双子石一組で豪邸が建つと聞くし。
その部下が、くすねたのか、横流ししたとも考えられる。   
「もしかしたら、既に買っていたのかもしれない」
ネイサンが一つの可能性を話す。
それも考えられる。しかし、今後のためにと前もって高価な物を買うだろうか? 私だったら今すぐ使いたい。確率的には低いと思う。ネイサンを見ると真剣に考え込んでいる。

気持ちは分かる。解決したと思った事件が実は未解決だったんだから。
(無くなったはずの双子石がこんな形で発見されてショックだろう)
何としても真犯人を捕まえないと、思うだろう。
もしかしたら第2、第3の被害者が出るかもしれない。
王都に乗り込んで調査したいところだが、伝の無い我々には難しい。
父は辺境伯だし、ネイサン自身も十六年も王都に帰って無い。王都育ちのジェームズさんも 歳が歳だから、知り合いは死んでいるかも知れない。

この双子石の出所が気になる。
ところだが今は後回しだ。 それより気になることがある。
「ところで……母様はいつ頃目覚めるんですか?」

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