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1章:俺は魔王見習いのようです

第9話:勇者と密談する(1)

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 一応、言っておこう。
 俺が悪いとは思っていないが、言っておこう。

「この前はすまなかった」

 頭を下げるが、勇者は動かない。
 もしかして、苦情を言うためにきたのか?
 俺、許してもらえるんだろうか?

「えと……僕、その前にこの服脱いでもいいですか?」

「え!? 待って待って!! 俺たちまだ会ったばかりだよ! それは駄目だよ。……ただ、どうしてもというなら……」

 勇者がメイド服をぬぐと……その中からは……金属鎧が現れた。
 あまりの事に、目が点になる。
 期待とかそういう事以前に、収納できないだろ!?

「その鎧どうなってるんだ? 明らかにおかしいよね?」

「ああ、これね。どうって言われても、この鎧って伸縮自在ってことだよ。けっこう有名な鎧だけど、知らないの?」

 勇者の話し方がずいぶんと変わったけれど、それよりも鎧だ。
 当然、知らない!
 日本で売ったら、凄いことになるだろうな。

 だが……勇者に弱みを見せるのはよくないな。
 ここはハッタリをかまそう。
 俺は『魔王見習い』なのだから。

「し、知ってるともさ。ちょっと、鎧に傷がついているみたいだから、不思議に思ったんだ」

「え? どこ? どこについてるの?」

 遠慮なく肩から鎧を脱ぎにかかろうとする。
 さすがに今度は本体が出てくる。
 それはいけない。
 個人的には大歓迎なんだけど、『魔王見習い』と勇者に関係が!?
 なんてゴシップのネタには最高だし。

「見間違いだった。ごめんごめん」

 「そっか」とパチンと鎧を戻す勇者。
 ゴム製みたいに見えるな。
 
 それにしても……まったく羞恥心がないんだな、この勇者。
 男として育てられた……とかそういう訳があるのかな。
 気になるけど、今は深くは聞かないでおこう。

「はー、これで普通に話せる。あ、この前のは気にしてないよ。僕も人を殴っちゃってたし」

 そうなんだよな。
 バールのようなもので吹き飛ばしてたからな。

「ただ、不思議なのがリュウジのあの魔法なんだよね。僕は避けたつもりなんだけど、鎧の内側から湧き出てみたいに感じた。上手く言えないんだけど、スライムを服の中に入れていたら……あんな風になるのかなって。僕の鎧は大抵の魔法は跳ね返すし、例えば内側からの呪いも受け付けない……はずなんだけどな」

 その場の事を思い出したか顔を赤らめている。
 遠慮なく、『こんにゃく』を鎧の中にぶちこんだからなあ。
 スライムみたいにぬるんぬるんするのは当然の事だ。
 とは言え、なんだ……やっぱりやり過ぎたな。

「こ、これは俺の秘密の魔法だからな。殺傷能力はないけど、相手を無力化するには効果的なんだ」

「確かに、何度も鎧に詰め込まれていったら……なんか変な気持ちになっちゃって。力が抜けちゃって立ってられなくなった。せっかく勝負をしてくれたリュウジには悪かったんだけど」

 本当にすみません!
 勇者は、どうしたの? という顔でベッドに座っているけど、自己嫌悪が酷い。
 別にそういうプレイみたいなのをするつもりはなかったんだ!
 ただ必死に戦った結果が……
 あー、テントの支柱に頭ぶつけてしばらく気絶していたい。

「あとね。担架で運んでくれた医療班の人が鎧の中見てくれたんだけど、その時は何もなかったんだって。本当、リュウジは不思議な魔法使うね」


 良かった!
 消えろと命令していなかったから、そのまま残っていたかと思った。
 スタッフが美味しくいただきました!
 はやらなくてもよかったわけか。
 不幸中の幸いだ。

 それにしても、そこまであの戦いを気にしてないのなら良かった。
 話も普通に進められる。

「で……俺のところに来たいと言ったのは、どういう理由なのかな?」

 文句でもないなら、何だ?
 『魔王見習い』への挨拶か?

「じゃあ、本題話すね」

「僕はこれから勇者ではなく……人間――キラクとして、人間の君に頼み事をする。『魔王の見習い』じゃない。リュウジっていう人間に」

「わ、わかった」

 威圧感に気圧される。これが勇者……。

「リュウジは、僕が魔王と戦ったことは知ってるよね?」

「簡単にはな。魔王城、壊したのキラクなんだろ?」

「まあね。ちょっと魔王を警戒しすぎていた。まさかこんな事になっているとは思わなかったんだ」

 キラクが悲しそうにうつむく。
 おそらく、人間とモンスターの友好関係のことだろう。
 ここは、その友好関係が特に強い。

「僕の剣と魔王の魔力で城は崩壊した。幸いにも……と言っていいのかわからないけど、二人とも無事だったんだけど」

「普通、どちらかがやられるんじゃないのか?」

「手を抜いていたんだ、あいつ。いや違うかな。守ることに全力を尽くしすぎて、バリアの方に力を込めていた。それにギリギリで気づいて僕も剣の力を弱めることができた」

「そうか……魔王のやつがそんなことを……」

「あれ? 今リュウジってば魔王のやつとか言った?」

 あー、やっちまったかな。
 でも相手は勇者だからな。

「そういう風に言うリュウジなら、本当のこと言っても大丈夫かな」

「本当のこと?」

「そう。絶対に魔王には言ってはいけない事実……。君にそれを話して、魔王の一番近くにいる君にやってほしいことがある」

「ちょ、ちょっと待て。暗殺とかはできないぞ。俺弱いし」

 もちろん、『今は』の制限つきだけど。
 せっかくチートスキルがあるんだから『ある程度』は強くなる。

「違う。魔王を襲うなんてことじゃなくて、魔王の耳にある情報が入らないようにして欲しい」

 俺は鈍く光るキラクの鎧を見る。
 こんなに華奢なのに、魔王に一度は勝っている。
 そのような少女が俺に何を頼むんだ?

 彼女の次の言葉は、俺の想定外のものだった。
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