僕はまた君に会いにいく

tattsu君

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 硬すぎず柔らかすぎもしないベットの上でずっと寝てないといけないのは、思っていた以上に辛いことだと綾瀬湊(あやせみなと)は思った。
 気分転換にランニングをすることはできないし、何か食べたいと思っても自分で病院の売店に買いに行くこともできない。病院食も毎日似たようなものばかりで飽きてしまった。
 それに、ずっと寝っ転がってるわけだから夜が来ても全然眠くならない。元々、読書とかゲームとか、そういった趣味を持ち合わせてないサッカー少年な僕は、体を動かすことができないこの生活に飽き飽きしていた。
 こんな生活を虐げる原因になった足を見る。プラスチックのような部品で固定され、包帯でぐるぐる巻きになった足は、その持ち主である自分から見ても痛々しいものだ。でも、以前のように少し動かすだけで激痛が走るというようなこともなく、無理をしない限りでは動かすのも苦ではなくなっていた。医者に聞いてみれば松葉杖を使って出歩けるように近々なるらしい。
 まぁ、それでも入院し続けなくてはならないことに変わりはないわけで、どちらにしても寝っ転がって過ごす日々は変わらないのだから楽しみでもなんでもない。

「はぁ…」

 ため息を吐くつもりではなかったが、自然と溢れてしまった。

「どうしたのおにいちゃん?」

僕のため息を聞いて首をかしげるこの子の名前は綾瀬郡(あやせこおり)。仕事で忙しい両親に変わって毎日、見舞いに来てくれる優しい妹だ。

「いや、ずっとこうしてるのも暇だなって思ってさ」
「しょうがないよ。足が治るまでは安静にしてなきゃ」

そう言いながら郡はさっき皮を剥き終わったりんごをフォークに刺して「あーん」と促してくる。

「自分で食べられるからいいって」
「こうすると看病してますって感じが出ていいでしょ?」
「それをな共同部屋でされる僕の気持ちにもなってほしいんだけど」
「そんな恥ずかしがる必要もないでしょ?兄弟なんだからさ」
「はいはいわかったよ。ほらあーん」

 それでよろしいと言わんばかりの満足顔をしながら郡は僕の口にりんごの一欠片を入れる。
 郡にはこういうことを平気でしてくる一面がある。高校生になった今でも、一緒に出かけたりすると「手つなご?」って言ってきたり、怖いテレビなんかを見ると「1人で寝れない!」って言って一緒に寝ようとしたりと、なんというか年頃の女の子にしては少し足りないところがある気がするのだ。
 まぁ、その度、断りきれない僕にも原因があるのかもしれないが…。でも、お互い高ニと高一。兄弟を異性と意識することはないとしても、恥じらいぐらいは出てもおかしくないと思う。

「そういえば郡、勉強はいいのか?もうそろそろテストあるだろ?」

 もうそろそろ一学期の中間試験があるはずなのだが、妹は毎日、それもどんなに短くても1時間は滞在している。妹は昔から頭が良く優良生と言われ先生にも評判がいいらしいが、それでも、この時期にこんなところで時間を潰してても大丈夫なのかと疑問に思う。

「うん、今週の水木金であるよ」
「明後日からじゃん。勉強しないと流石にまずいだろ?」
「ううん。大丈夫。勉強も大事だけどお兄ちゃんだって大事だもん。ここにいるぶん、ちゃんと勉強してるから心配しないで」

 ほんとに出来た妹だと思う。こういう思いで妹が来てくれてると思うと感謝の気持ちでいっぱいになる。忙しい両親だって、仕事の合間で来てくれることだってあるし、面会時間ギリギリでも来てくれることがあるから、僕は家族に大事にされてるんだなって感じる。

「そっか、ありがとな」

 だから、僕もこうして素直に想いを伝えるようにしてる。隣に座ってる妹の頭を軽くそっと撫でると妹は、軽く頬を赤く染め俯きながら「どういたしまして」と返す。

 それからほどなくして面会時間は終わり「また明日」と妹は帰っていった。共同部屋と言っても6つあるベットのうち僕を含めて3人しかおらず、それも10代、30代、50代と年齢もばらばらで話すこともほとんどない。その為、面会時間が終わると誰も話すことなく静かになる。
 特にすることもなかったので眠くはなかったが取り敢えず目を閉じることにした。

 今日という1日もこうして特に変わったこともなく終わったのだった。

  
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