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大きくなったので 2

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10の鐘が鳴る頃。
トラキチは一人でギルドにきていた。
サエは疲れているようで、トラキチが一人でも狩りできるようにと収納鞄を持たせたのである。
サエはアクセサリーショップが開いたと同時に収納鞄を買い、トラキチの首にかけてみおくったのであった。
本来ならかなりの高額な鞄も、トラキチなら大丈夫と買い与えたものである。
ギルドに入るといつもの職員を見つけ、じ~っと目を見ると、流石にできる職員、依頼の受付に来たのだと気が付いた。

「あら、今日はひとりなのね?」

言葉がわかるのかわからないのか知らないが、トラキチはゆっくり頷いて見せた。

「なんだか少し大きくなったかしら?」

仕事はできるのに少し天然である。
トラキチはうなずいて前足をカウンターに置いて、数度かるく叩いた。
どうやら依頼を急かしているようだ。

「これなんかどうかしら?」

いつもの森の近くで出る鹿の魔獣の納品だと説明した。
数は1頭。トラキチは「ガウッ」と吠えて右足を1回叩くとそれにつられた職員が書類に印を押した。
もう一度「ガウッ」と吠えるとギルドをのそのそ出て行った。
おそらく行ってくると挨拶したのだろう。流石仕事のできる職員だ、普通なら魔獣に依頼はしないが、なんとなく出来そうだという判断でトラキチに依頼を出してしまったのである。「いってらっしゃ~い」と手を振りトラキチを見送るのであった。
もちろんサエが依頼を受けたことになる。


颯爽と草原を駆けるトラキチは、兎を咥えては鞄に入れを数度繰り返し、いつもの森の近くに来る。
耳をピクピク動かしながら鼻を数度ひくつかせ、2本足で立って遠くを見まわした。
耳のピクピクが止まったと思えば、突然ダッシュで走り出す、また止まったかと思えば隠密で歩き出す。

「ガウッ」

鹿の魔獣の群れだろうか、一番大きい鹿を一発の風槍で倒し、2番目に大きい鹿を爪で切り飛ばし、3番目に大きい鹿を威嚇し首に噛みつき魔力を流した。
他にも数頭の鹿がいたがあっという間に逃げて行ってしまった。


午後の二つの鐘が鳴る頃。
のそのそと入ってくるトラキチに気が付いた職員が手をふる。
そして近くにいる冒険者がびくっとする。
トラキチのアクセサリーを見て安心する冒険者がそのまま様子を見ている。
職員の前に行きトラキチが小さく吠えると、鹿を受け取る場所にトラキチを案内しトラキチは鹿を2頭納品した。
一通り手続きを終え書類にサインをお願いすると、トラキチの肉球を見てかわりに肉球の印をおすのであった。

「ガウッ」

また来るという挨拶だろうか、職員もまたよろしくお願いしますとトラキチを見送り、終始トラキチを見ていた冒険者はただ茫然と口をあけていた。


宿に戻るとサエはなぜかおばちゃんのお手伝いをしており、トラキチが返るともふもふハグで出迎えた。
鞄を見てみるが何も入っていないのでただ散歩してきたのかと思い、一緒に部屋に戻るのであった。


翌日。
ただ狩りにだしたつもりでいたサエは依頼書の控えを渡され、肉球の印があることに気づき、職員に尋ねると、トラキチが受けたのだという。
頭の中が???になるが詳しく聞くと、トラキチを見ていた冒険者のように口をあけ、ただただトラキチを見つめるのであった。



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みんなの感想(1件)

2018.05.05 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

くぉろ
2018.05.05 くぉろ

ありがとうございます。
初コメントとてもうれしいです。

解除

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