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20 父side
しおりを挟む手術中のランプがついた。
このランプが消えて、退院すれば奏多は人生を歩み始める。そのために私は尽力しなければならない。これまで奏多に辛い思いばかりさせてしまったことはどれだけ悔いても時間は戻ってこないから。
そんな私のことをいまだにお父さんと呼んでくれる奏多のためにも出来る限りのことはしなくてはならない。
私は手術室に背を向け、自宅へと戻った。今日は家族全員家にいるように言っていた。
「2人ともリビングに行きなさい。話がある。」
妻とみちるにそう言い、2人に向かい合い話を始めた。
「今日、奏多が心臓移植の手術を受けている。それが終わり、退院したら私は奏多が自立したいと自分から言うまで一緒に暮らそうと思っている。」
「!?なんですって?どうして!?あなたの家はここでしょう?それに、あの子はずっと入院していて自立できるような職につけるわけないじゃない!」
「落ち着きなさい。全くここに帰ってこないと言うわけではない。何度かは帰ってくるが、基本的な私の生活の基盤は奏多と暮らす場所にする。これは決定事項だ。もちろん、お前やみちるに負担をかけることもあるだろう。だが、私はこれまで寂しい、辛い思いをしてきた奏多のそばにいてやりたい。」
「そんなこといったって!「うん、いいよ。父さん、僕は大丈夫。奏多兄ちゃんの側にいてあげて?僕、小さい時に数回会っただけだけどずっと病院で1人だったんでしょ?父さんの部屋にある奏多兄ちゃんの描いた絵見たんだ。あんなに家族大好きな兄ちゃんがずーっと1人だったんだから、これまでの分一緒にいてあげてよ。僕は体弱いこともなく兄ちゃん2人が経験できなかった学生生活すごい謳歌してるしさ。」
私の部屋にある絵。
奏多が1年生の頃に描いた絵だ。
家族4人で仲良さそうにしている絵。
あの頃の奏多は家族が大好きで、お父さん、お母さん聞いてと何でも話してくれて、遊星の面倒もよく見てくれて、夕飯の後は奏多のヴァイオリンを聞かせてもらうのが日課だった。
「・・・みちる、ありがとうな。それとかおり、遊星のことは一生忘れられない。だが、遊星が死んだのは誰かのせいじゃない。奏多のせいでもないし、かおりのせいでも、私のせいでもない。私とかおりは親だから責任はあると思うが、せいじゃない。奏多は、私たちが奏多が死ぬことを望んでいると思っていたよ。親の言葉は子供にはよく突き刺さる。あの日奏多に言ってしまった言葉、私たちがとってしまった行動は一生悔やまれることだ。初めての子供を亡くしてしまった悲しみはわかる。でも、奏多には当たらないでくれ、今後も。それが約束できないなら私は奏多をお前たち2人に会わせる気は一生ない。」
2人の目を見ながら、そう言い切った。
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