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【第一部】 6章
16 空side
しおりを挟む「父さんありがとね、千秋に表の仕事させてくれて。」
千秋がトイレでいない間に少し父さんと話す。
「それはかまわねぇが、お前が希望したって言わなくていいのか?」
そう。これは僕が父さんに頼んだ。
今回のことがあって千秋がこのまま組の仕事をすればいつ千秋のみに危険があるのかがわからない。
いつ、僕の前からいなくなるのかもわからない。
千秋は父さんの近くで仕事をしたいはずなのに、僕のわがままで組の仕事を辞めさせてしまった。
通さんから言われれば千秋は受けるって僕はわかってたのに。
僕が希望したって言えば千秋は断るかもしれない。僕に嫌気がさすかもしれない。だから、父さんに秘密裏に頼んだ。
「言わないで。絶対に。本当にごめん。側近だったのに、ごめん。」
「あいつなら会社の方でも上手くやるさ。しかも、あいつは俺の役に立ちたいってのばっかりで本当は何がしたかったのかは言ってくれねえしな。さっき話した時の顔見たら、あいつは自分みたいな子ども助けてえって顔してた。だから、あいつはあいつのやりたいように生きていってくれるさ。」
そうかもしれないけれど、僕が千秋の未来を狭めているのに変わりはない。
千秋は付き合う前も付き合った後も僕の未来を潰しちゃうって、そう言っていたけどそれは僕の方だ。
千秋がこれまで10年以上してきた仕事を奪ったんだから。
若に頼られて嬉しいって、そう言って喜んでいたのを知っているのに。
組の仕事で上手くいくと機嫌がよくなるのも知っているのに。
千秋が努力して、やっと今の場所にいることも知っているのに。
千秋が父さんの側近になるために拾われた直後からずっと勉強して、資格を取ってってしてきたのを知っているのに。
僕は、自分のわがままで千秋の約20年の努力を奪ったんだ。
千秋には絶対に言わない。墓場まで持っていく。
ごめんね千秋、僕がこんなんで幻滅するよね。僕も自分自身に幻滅してる。
でも耐えられないんだ。
千秋が目の前から消えてしまう可能性は全部潰す。
13年前と8年前に千秋を失いかけたり、目の前からいなくなったりの経験で僕はそのことを誓ったんだ。
こんな僕で本当にごめんね。
「僕の方が千秋の未来、潰してる。
千秋はきっと父さんの側近でいたかったと思うよ。」
「空、考えすぎだ。不安なことがあるならしっかり千秋と話せ。千秋なら話せばわかってくれるはずだろうが。お前と千秋はそんな生ぬるい関係じゃねえだろ。俺から千秋にバラしたりはしねぇが、千秋が気づいたり、他人から知る前に自分で言った方がいいんじゃねえのか?」
そんなこと、わかってる。
でも、無理だ。
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