88 / 199
【第一部】 6章
10 空side
しおりを挟む
ぼんやりした頭の中に
千秋がいなくなった。
その言葉だけが聞こえた。
必死で目を開けろと僕自身に叫ぶ。
さっきまで人の声がしていたのに目が覚めた時には誰も病室にいなかった。
撃たれたことは覚えている。どのぐらい寝ていたんだ。千秋はどのぐらいの間1人だったんだ。
きっとまだ動かせる状態ではないだろう自分の体を必死に動かす。
今無理しないでどうするんだ。
何度も転びそうになりながら、進む。
千秋が居る場所なんてすぐわかる。
千秋待ってて。僕ちゃんと側に行くから。
そう思って屋上への階段を必死に上がる。
どうにかしてドアの前にたどり着いた。
ここは病室のある棟の屋上ではなくて病院の敷地内で1番高い建物の屋上。
ここなら何も邪魔されずに空が見えるもんね。
ここにいるんでしょ?千秋。
ドアを開けると屋上の外に足を出した状態で座って空を見上げている千秋がいた。
「千秋!!!!!!!!!!」
声を発するのは久しぶりだが全力で叫ぶ。
こちらを振り向いた千秋は、もう限界だった。
うまく動かない足を動かして、悲鳴を上げる体を無視してどうにか近づく。
千秋もトボトボとこちらに近づく。
ようやく僕の腕に包まれた千秋は静かに、静かに涙を流しながら、もう離さないと言いたいのか病院着を強く握りしめる。
泣く時はいつも少し声をあげて僕の名前を呼ぶ千秋が静かに泣いている。まるで子供のように僕に縋っている。
ごめんね千秋。こんな君を1人にしてごめん。
千秋の心が限界だったことは容易に考えつく。
屋上に来たことも、空を見る以外に目的があったのかもしれない。昔も海で死のうとしたのは空と繋がってるみたいだったから。って言ってたしね。
千秋が落ち着いたのを見てから病室に戻る。
病室に戻ると僕までいなくなったと大騒ぎになっていた。でもみんな僕と千秋が一緒に戻ってきたのを見て安心したみたいだ。
千秋はずっと片手で僕の手を握り、もう片手で僕の服を握りしめて顔は背中に埋めている。
病室に戻ってくる間もずっと一言も話はしていない。
病室に戻ってからは一緒にベッドに潜り込み僕の腰に顔を埋めている。
僕は明先生に診察をしてもらい食事の時間になったので特別に千秋のご飯も用意してもらった。
父さんから聞くには僕が目覚めるまでの1週間、僕の名前を呼ぶ以外は声を出していないし、食事もほとんど取らなかったみたいだ。だから、僕と同じメニューの食事を一緒に取り始めることにした。
一緒に食べようと言っても手をつけないが、僕が口まで持っていくと口を開けて食べる。
一口食べるごとに偉いねって言って頭を撫でると嬉しそうにまた口を開けてくれた。
千秋が眠った後、明先生から話を聞く。
「今の千秋は幼児退行的な症状だろうな。千秋が診てもらっていた先生に病室に来てもらうか?」
と言われたが僕は断った。
「今の状態の千秋に診てもらいたい意思を聞くのは難しい。千秋がやりたいことならさせるけど、わからないことはさせない。」
「だが空、千秋がそのまま戻らなかったらどうするんだ。」
「そうだよ空君。早めに医者に診てもらった方がいいんじゃないかと私も思うんだが。」
僕たちのお父さんは心配性だね、千秋。
そんな心配いらないのに。
「別にいい。千秋がどんな状態になっても僕は離れないし、一生千秋を養っていけるだけ稼げる自信もある。僕は千秋っていう存在があればそれでいいんだから。」
そう言って眠っている千秋の頬を撫でる。
千秋がいなくなった。
その言葉だけが聞こえた。
必死で目を開けろと僕自身に叫ぶ。
さっきまで人の声がしていたのに目が覚めた時には誰も病室にいなかった。
撃たれたことは覚えている。どのぐらい寝ていたんだ。千秋はどのぐらいの間1人だったんだ。
きっとまだ動かせる状態ではないだろう自分の体を必死に動かす。
今無理しないでどうするんだ。
何度も転びそうになりながら、進む。
千秋が居る場所なんてすぐわかる。
千秋待ってて。僕ちゃんと側に行くから。
そう思って屋上への階段を必死に上がる。
どうにかしてドアの前にたどり着いた。
ここは病室のある棟の屋上ではなくて病院の敷地内で1番高い建物の屋上。
ここなら何も邪魔されずに空が見えるもんね。
ここにいるんでしょ?千秋。
ドアを開けると屋上の外に足を出した状態で座って空を見上げている千秋がいた。
「千秋!!!!!!!!!!」
声を発するのは久しぶりだが全力で叫ぶ。
こちらを振り向いた千秋は、もう限界だった。
うまく動かない足を動かして、悲鳴を上げる体を無視してどうにか近づく。
千秋もトボトボとこちらに近づく。
ようやく僕の腕に包まれた千秋は静かに、静かに涙を流しながら、もう離さないと言いたいのか病院着を強く握りしめる。
泣く時はいつも少し声をあげて僕の名前を呼ぶ千秋が静かに泣いている。まるで子供のように僕に縋っている。
ごめんね千秋。こんな君を1人にしてごめん。
千秋の心が限界だったことは容易に考えつく。
屋上に来たことも、空を見る以外に目的があったのかもしれない。昔も海で死のうとしたのは空と繋がってるみたいだったから。って言ってたしね。
千秋が落ち着いたのを見てから病室に戻る。
病室に戻ると僕までいなくなったと大騒ぎになっていた。でもみんな僕と千秋が一緒に戻ってきたのを見て安心したみたいだ。
千秋はずっと片手で僕の手を握り、もう片手で僕の服を握りしめて顔は背中に埋めている。
病室に戻ってくる間もずっと一言も話はしていない。
病室に戻ってからは一緒にベッドに潜り込み僕の腰に顔を埋めている。
僕は明先生に診察をしてもらい食事の時間になったので特別に千秋のご飯も用意してもらった。
父さんから聞くには僕が目覚めるまでの1週間、僕の名前を呼ぶ以外は声を出していないし、食事もほとんど取らなかったみたいだ。だから、僕と同じメニューの食事を一緒に取り始めることにした。
一緒に食べようと言っても手をつけないが、僕が口まで持っていくと口を開けて食べる。
一口食べるごとに偉いねって言って頭を撫でると嬉しそうにまた口を開けてくれた。
千秋が眠った後、明先生から話を聞く。
「今の千秋は幼児退行的な症状だろうな。千秋が診てもらっていた先生に病室に来てもらうか?」
と言われたが僕は断った。
「今の状態の千秋に診てもらいたい意思を聞くのは難しい。千秋がやりたいことならさせるけど、わからないことはさせない。」
「だが空、千秋がそのまま戻らなかったらどうするんだ。」
「そうだよ空君。早めに医者に診てもらった方がいいんじゃないかと私も思うんだが。」
僕たちのお父さんは心配性だね、千秋。
そんな心配いらないのに。
「別にいい。千秋がどんな状態になっても僕は離れないし、一生千秋を養っていけるだけ稼げる自信もある。僕は千秋っていう存在があればそれでいいんだから。」
そう言って眠っている千秋の頬を撫でる。
111
お気に入りに追加
1,639
あなたにおすすめの小説

ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?


見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる