【完結】優しくしないで

にゃーつ

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【第一部】 5章

8 湊side

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こんなことあるんだろうか。
こんな奇跡、あるんだろうか。


俺も美織も、涙が止まらない。


30年前

俺と美織は若くして結婚したが、子どもになかなか恵まれなかった。
それでも夫婦2人仲良く暮らしていたし、組のみんなもいた。日常は幸せなものだった。

俺の組での仕事の1つに管轄の店周りがあり、その内の1つの店で俺は1人のキャバ嬢に好かれた。
その女の名前を牧野 由良といった。

由良はその店のNo.1でこれまで落とせない男などいなかったのだろう。
俺に必死になってアピールしていた。そして中々落ちないことに苛立っていた。
店外でも待ち伏せするようになり、胸を触らせてきたり、必要以上に電話もしてきた。

だが俺は断り続けていた。それでもやめない由良に悩んでいた頃、美織のお腹に俺たちの子どもがやってきてくれた。

美織と泣いて喜び、毎日話しかけた。
検診も毎回ついていき、生まれる日を今か今かと待ち望んでいた。

性別も男の子だとわかり、日々子どものことを考え生活をした。
由良が気味悪いほどに静かになったことを気に留めないくらいに子供に夢中だった。


美織と2人、買いすぎなくらいベビーグッズを買い、子どものためのもので部屋がいっぱいになった頃、美織に陣痛が来た。子どもに会える!

少し難産気味で、予想以上に長い出産だった。美織に頑張れとしか言えない俺。こういうとき、男は何もできない。


会いたくて会いたくて仕方なかった俺たちの息子にやっと会えた。
健康状態も問題なく、母子共に健康に生まれてきてくれた。

美織と同じ病室となった俺たちの息子。
美織も俺も飽きもせずに抱っこをし続けた。

「美織、本当にありがとう。」

「こちらこそ。この子に会えたならあんなの苦しくもなんともないなって思えた。」

名前も決めて退院もあと少し。
2人が家に帰ってきたら何をしようか。仕事もあるが、少しの間はセーブするつもりだ。
子どもの成長なんてあっという間だし。

これからの生活に心が躍っていた。


---プルルルッ


「梶田さんですか?今すぐに病院に来てください。息子さんが、攫われました。」




---バタバタッ

「美織!」

急いで病室に行くと、美織は取り乱して泣きじゃくっていた。

病院側から話を聞くと、美織が寝ている間に子どもがいなくなったという。

少し目が覚めて子どものベッドを見るともぬけの殻だったというのだ。

どういうことだ。なぜこんな病院ないで、しかも俺たちの子どもを??
待ち望んでいた、俺たちの大切な宝物。

「探し出せ。必ずだ。」

俺は下の奴らを動かして探した。


しかし見つからなかった。

防犯カメラに赤ん坊を抱いて出て行く姿は映っていたが、フードをかぶっていて顔が見えず、男か女かの判断も難しかった。

「私のせいで、、っっぁ、、」

「美織、必ず見つかるから。それに君のせいじゃない。」

それから1ヶ月、知り合いの刑事にも協力してもらい探したが、見つからず、俺たちはもう会えないかもしれないという不安と恐怖を抱えながら毎日を過ごした。


「若!!犯人わかりました!牧野 由良です!」

牧野 由良、、あいつが?

俺は子どもが連れ去られて1週間ほどしてきたメールを思い出した。

-あなたとの子どもができたの。一緒に育てましょう

その一言がきていた。


そのメールアドレスから探し出したが、携帯はもう解約されており、この街からも出ていて足取りも掴めなかった。

それからもう30年がたつ。
未だに見つけられていない。今回武田組と同盟を組むのは、捜索できる範囲が広がるから。
30年経ったって、何処かで元気にいてくれると信じて探していた。

「名前の札をらつけたまま攫われたから名前も俺たちがつけたままの可能性が高い。そう思って探してきました。」

「その、攫われた息子さんの名前は?」

恐る恐ると言った様子で向こうの組長が聞いてくる。


「梶田 千秋。12月1日生まれの男の子です。
へその横に生まれつきほくろがあります。」

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