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【第一部】 1章
8
しおりを挟む翔太さんに殴られたあの日から世界から色が消えたみたいに何も感じない。でも、知らない人は怖い。それだけはわかる。
女の人だけが怖いんだと思ってた。お母さんにしか殴られたことないから、女の人は殴るんだってそう思ってた。だけど、男の人も殴ることを知った。
男の人に殴られるとお母さんに殴られるよりも痛かった。
明先生って人が診察するたびに触っていいかって聞いてくる。変なの。勝手にすればいいのに。
明先生は俺が手首切っちゃってたのに気付いてて、無理にやめなくていいから、消毒だけさせてくれって言って傷の手当てをしてくれた。
明先生からは若やみんなと同じ感じがする。
その若やみんなも毎日来て話しかけてくれた。
みんなが話しかけてくれるのに、何も答えられなくて、何も出来なくて、そんな自分が嫌で、心がいっぱいいっぱいになったらまた血が見たくなって、また手を思いっきり噛んじゃう。
そんな自分を若たちに見せたくなくてまた引きこもる。そんなことを繰り返してるうちに退院になって、明先生にちゃんと飯食えって言われて、京平さんがご飯のリクエスト聞いてくれたけどまた話せなかった。
屋敷に戻ると俺の部屋は変わっていて、あの嫌な記憶のある部屋ではなくて、屋敷の1番奥。あまり人とは会わずに住む場所に部屋を移してくれたみたいだ。
噛み跡のある手を見て若が悲しそうな顔をするからバレないようにハサミでうっすら傷をつけるのに変えた。でもみんなにはバレバレで。寝てる間に手当てをしてくれてた。みんなにありがとうって言いたいけど、ごめんねが先に出てきて、ごめんねしか言えない。
蒼真さんが部屋に来てくれた日、もうすぐ若の子供が生まれるって教えてくれた。双子なんだって。
焦った。子供が生まれたらめんどくさい俺なんてすぐに捨てられちゃう。体が拒否するのがわかったけど無視して、
「そう、ま、さ、」
びっくりした顔して蒼真さんが慌てて部屋を出て行った。
戻って来たと思ったら若やみんなが驚きを隠せない顔で入ってきた。
言葉を発すれば、捨てられないのかもしれない。
「若、」
若は嬉しそうに食べたいものあるかって聞いてきたけど、それには答えられなかった。
でも、怒られなかった。
若は部屋を出る時に頭撫でてくれた。殴られるかと思ってちょっとびっくりしたけど、嬉しかった。
でも、若たちがいなくなってから吐いてしまった。
なんでこんなに弱いんだろう。
その日の深夜、屋敷内がバタバタしていた。
---コンコンッ
「千秋?起きてるか?若や俺たちは病院行ってくる。1人で留守番できるか?一緒に来たきゃ来てもいいぞ。若の子どもが生まれる。」
そんなとこに行きたくなくて首を振った。
生まれちゃう。俺いらなくなっちゃう。
そうだ。勉強すればいいんだ。
勉強して、若の役に立つようになればいらないって言われないかもしれない。
それでもだめなら、殴っていいからここに置いてって言おう。
その日から俺は必死に勉強した。
寝るまま惜しんで、食事もまともに取れなかったけど、バレないように無理矢理食べては吐いてを繰り返していた。
若の子どもは双子の男の子で、嵐と空と名付けられたみたいだ。
もちろん一度も会ったことない。
愛されて望まれて生まれてきた若の子どもと望まれず生まれてきたことも生きてることも何もかもが間違いな俺とじゃ生きる世界が違う。俺なんかが近づいていい存在じゃない。
なのに、出会いは突然やってきた。
この出会いが俺の人生を180°変えるものになるなんて思いもしなかった。
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