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9 蒼side

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俺には何よりも・・・家族や自分よりも大切な存在がいる。

家が隣同士で幼馴染の伊織だ。伊織さえいれば何もいらないくらいに伊織が好きで好きでたまらなかった。俺の人生は全部伊織中心だった。親に言われたインターナショナルスクールのことも伊織が英語ができるようになるの?かっこいい!と言ったから入学を決めたし、スカウトされた時にすごい!俺ファン1号になる!って言ったからモデルを始めたし、モデルをし始めてから伊織がテレビを見るたびに蒼もこんな風になるのか?って目をキラキラさせて言うからアイドルの話も受けたし俳優業にも力を入れた。全ては伊織にかっこいいって思ってもらうため。ただそれだけだった。

でもそのせいで伊織の辛い時にそばにいてやれなかった。伊織が俺に助けを求めていたのに助けられなかった。

「蒼、おかえり。」

伊織と一緒に暮らしてからはその言葉を聞くのが嬉しくて仕方なくて、伊織が触れたい時にすぐに触れられる場所にいるのが嬉しくて仕方なくて、伊織と離れていた間生きている心地がしなかったのが嘘かのように毎日が充実していた。伊織が俺といつかは離れることを考えていることも、自分が俺に相応しくないって思っていることも知っている。それでも今はいい、そばにいてくれれば今はそれでいい。

結果として今は幸せだし、伊織と暮らせている。でも、俺は4年前のことを一生後悔し続けて一生俺自身を憎み続ける。

仕事が忙しい、伊織にかっこいいところを見せるために今は頑張る時だ。そう自身に言い聞かせてひたすら仕事に打ち込んだ。ハードなスケジュールに文句一つ言わず、仕事の内容にも事務所の求めたキャラクターにも何も文句は言わなかった。

伊織に会いたい気持ちはずっと溢れていた。常に限界だった。

仕事が終わって家に帰ったはずなのにいつのまにか東京駅にいて地元行きの新幹線に乗ろうとした時もあった。仕事に行き詰まってしまって眠れなくて深夜に伊織に電話しかけた日も何度もあった。

まだまだ子供の俺が入った芸能界という世界はこれまで俺が生きてきた世界とは違う。テレビで見ればキラキラしているかもしれないが、実際は足の引っ張り合いにプライドの張り合いに御機嫌取り・・・見たくもない大人の汚い部分が垣間見える世界だった。

伊織に会いたい。でも、伊織に頑張ると言った。伊織が応援してくれると言った。だから、頑張らなければ。

ただただその思いで日々を過ごした。

スマホを買ってもらった伊織とメッセージをやり取りしたり電話をするのは楽しかった。伊織はその日あったことを細かく教えてくれるから今でも近くにいるんじゃないかとその時だけは錯覚することができた。

中学では仲がいい友達が2人できたと名前も教えてくれた。文面では友達できてよかったな、今度俺にも紹介してなんて友達面しているが本心は真逆だった。

は?友達?仲がいい?クラス一緒?俺はこんなに会いたくても会えないのにそいつらは何もせずに伊織の近くにいれんの?ふざけんな、俺そいつら嫌いだ。伊織が嬉しそうにそいつら2人の話をすることも嫌で仕方ないし、そんな奴らの話より伊織と俺2人の話をしたい。なんで俺も伊織も中学生なんだろう・・・大人なら伊織を俺の家に閉じ込めて毎日顔を見れるのに。

そんな本心を隠して

「伊織の友達俺も会ってみてえな~。俺なんてこっちきて学校まともに行けてねえから友達なんてできねえしな~。」

そんな体のいい言葉をつらつらと口から吐き出す。

「そっか。蒼、無理してない?頑張りすぎないで・・・大変なのかもしんねえけど俺は芸能界とかわかんねえけど、休みたかったら休むんだぞ?」

頑張れっていうだけの周りの奴らとは違う。伊織はいつだって俺自身を見てくれる。俺って人間を見てくれる。いつだって俺の味方でいてくれた。だからこそ、俺は伊織に必要とされたくて、伊織にかっこいいって思われたくて、伊織のことが好きで好きでたまらなかった。

世間からは何にでも挑戦するアイドルなんて言われているけど、そんな大それた人間じゃない。伊織に言ったらどんな反応すんだろうなってそんな気持ちが8割だった。伊織がいなければ俺はそんなちっぽけな人間なんだ。

でも、伊織がいつまでも俺のファンでいてくれるために頑張ろうってそんな思いだけで毎日必死だった。

そんな中で伊織の様子が段々とおかしくなっているのを感じた。

中3に入ってからの伊織からのメッセージに少しの違和感を感じていた。でもその時は受験で忙しいんだろうってぐらいにしか思っていなかった。

あの時伊織のもとに行っていれば何か変わっていたんじゃないかってそう思っても過去には戻れない。

高1の秋、俺の初主演映画の公開日の日から・・・伊織からのメッセージが返ってこなくなった。俺のメッセージに既読はつくのに返信が全く返ってこなくなった。電話にも出なくて、まず最初に思ったのは俺のこと嫌いになったのかってことだった。

電話しまくるのも迷惑かもと思ったが、急にこんな形になるなんて耐えられなかった。毎日毎日電話をかけてメッセージを送り続けた。伊織の自宅にも電話した。

毎回おばさんが出たが

「ごめんね、蒼君。今はそっとしといてやって?」

毎回そう言われるだけだった。

でも俺は他のことに執着していない分、伊織のことに関しては諦めるなんてことできなかった。

12月に入ってすぐの金曜日、俺は3日間の休みをもぎ取り伊織の家へと向かった。
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