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次の日朝起きると母さんはもう来ていて、笑顔で俺に雑誌を渡してくれた。

「蒼君かっこよく写ってる?」

「うん。蒼はいつでもかっこいい。」

「あんたのその蒼君への感情って友情なの?それとも恋なの?母さんよく分かんないわ。」

それ普通息子に聞くかな。蒼への感情か・・・どっちなんだろう、俺にもよく分かんない。

「母さんは、伊織が好きな相手なら応援するからね。それに、蒼君が息子になれば目の保養だしねっ!」

「蒼には美人な女優さんとかモデルさんがお似合いだよ。俺なんか友達としてしか並べない。」

すんなりそんな言葉が自分から出てきたことで俺は蒼への気持ちを自覚した。なんだ、ずっと前から蒼のこと好きだったんじゃないか。恋人としてなんて隣に立てないから友達としては隣に立ちたい。そんな思いで必死だったんだ。

「蒼君の気持ちは蒼君にしか分かんないんだからね?あんたが勝手に決めつけちゃダメだからね?」

「うん。」

---コンコンッ

「はーい。」

母さんが開けた扉の先から入ってきたのは担任の先生だった。いつもは楽な格好しているのに今日はスーツで来ている。

「木村、元気そうでよかった。昨日連絡もらって驚いたんだぞ。」

「先生、こちらにどうぞ。」

「お母さん、今回は木村君が暴行を受けたとのことでお見舞いに来させていただきました。」

「先生?犯人は同じクラスの子達ですよね?学校では何も違和感はなかったんですか?」

「私が見ていた限りではクラス仲も良く問題ないように思えておりました。」

は、、?仲が良い?
今、仲が良いって言ったのかこの担任。

「嘘だ。俺は一度言った!!久保君にいじめられているからクラスを離してほしいって!なのにっ!!!」

「伊織、本当なの?先生っ!どういうことなんですか!この子が助けを求めたのに無視したってことですか?」

「いえっ!そんなことはありません!!あの時はその、、2人が喧嘩をしたのだと思い、2人の仲を回復するためにもと思いまして。」

俺が全身びしょびしょで授業に出たこともあったはずなのに。違和感を感じなかったなんて嘘ばっかりだ。

・・・もういいや。

「・・・もういいです。もう卒業したし、どうでもいいです。帰ってください。」

母さんはまだ話したかったようだけど、俺はもう先生の顔も見たくなくて帰ってもらった。

「伊織、本当にごめんね。母さん、気づけなかった。」

「大丈夫だよ、黙ってたのは俺なんだから。」

何度も母さんに謝らせてしまってるなんて俺は親不孝ものだな。

俺の背中と右の手のひらの火傷は跡が残ってしまうみたいだ。手のひらは薄くはなると思うけど、背中の根性焼きは手術しても完全に消すことは難しいみたいだ。

それを聞いてまた母さんは泣いてしまった。俺は大丈夫なのに。

母さんを涙もろくさせてしまった。いじめられていたことを知ったことで俺のこれまでのおかしな点が全部繋がってしまった。だから、食事の取れない俺を見て泣いてしまう母さんに申し訳なくて無理に口に入れて、吐いてしまってまた泣かして。

虚しくて悲しくて仕方なかった。

「母さん、4月からは環境も変わるから大丈夫だよ。俺、高校生活楽しみにしてるんだ。だから、大丈夫だよ。」

でも俺のそんな言葉は意味を為さなかった。4月の入学式の日、俺は家から出ることができなかった。

制服を買いに行ったり俺の卒業祝いの外食に行った時には出ることができたのに、入学式の日は外に出ようと靴を履いたのに玄関から一歩を踏み出せなかった。父さんも母さんも不思議そうに見ていたから早く早くと思ったのにだんだん苦しくなってきてその場にしゃがみ込んで動けなくなってしまった。

その日から、俺は一歩も家の外に出ることができなくなってしまった。自分でも分からなかった。いじめられていた時は学校に行けたのにいじめが終わったら学校に行けなくなったなんて。

その年の10月、俺は北高を自主退学した。何度も何度も行こうとしたがその度に過呼吸が起きた。

父さんと母さんから北高をやめて通信の学校に行かないかと提案をされた時はずっと流していなかった涙が流れた。

これまで頑張ってきたことが無駄になった気がした。それに何より俺の夢が叶わなくなってしまったことが悔しかった。

俺の何もかもがダメになってしまったようなそんな気がした。蒼に胸張って会えなくなってしまった。こんな俺があいつの友達だなんて言えない。

蒼の親友だって胸を張って言えた。嘘だと言われても嘘じゃないって自信を持って言えた。

でも、今は・・・あいつらに言われたように俺と蒼が親友なんて嘘なのかもしれない。

学校を退学してからはそんな思いが強くなって蒼からのメッセージをあまり返せなくなってしまった。それでも、蒼とのメッセージのやり取りは止めることはできなかった。

蒼のメッセージを見返したり蒼の雑誌を見たり、それが今の俺の唯一の生きがいになっていた。

「伊織?お昼ご飯できたわよ。」

「うん、ありがとう。」

「あ、さっき蒼君の映画のCMしてたわよ?」

「あ、そうだ映画・・・。葵の初主演の映画来週公開だ。」

公開日に映画見に行くって蒼と約束したのに。どうしよう、行ける気がしない。

「母さんが見てこようか?」 

「え?」

「蒼君の映画見る約束でもしたんでしょ。感想言いたいんでしょう?騙すようで心苦しいけど、伊織のしたいこと母さん協力するよ。」

「俺、頑張ってみる・・・外出れなかったらお願いする。ごめんね。」

だが結局、俺は公開日当日外に出ることはできなくて「細かいところまで見てくるね。」という母さんのそんな言葉に甘えて俺は蒼に嘘のメッセージを送った。最近の俺のメッセージは嘘ばかり。北高の年間スケジュールに合わせて今日はテストだったとか、体育祭だったとかそんな嘘ばっかりついていてそれが嫌で嫌で仕方なくて、今回映画の感想を送ったら蒼がすごい喜んでくれたことで俺の中の罪悪感がピークを迎えてしまいその日からはとうとう蒼にメッセージを送ることもできなくなった。


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