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しおりを挟む俺と蒼は家が隣同士の幼馴染だった。親同士仲良かったこともあって、生まれてすぐの頃から一緒に育ってきた。俺にとって蒼がいつも一緒なのは当たり前だし、蒼にとっても俺は当たり前の存在だった。
俺たちのターニングポイントは3つある。
1つ目は蒼がインターナショナルスクールに通うことになったこと。
同じ幼稚園にいたのに蒼と小学校がバラバラになってしまった。蒼のお父さんは帰国子女だったから、蒼の家の方針で蒼はインターナショナルスクールに入学したんだ。
ターニングポイントと言ってもこのことは俺たちにはそれほど大きな問題はもたらさなかった。放課後はいつも俺の家でお互い宿題をするのがお決まりだったし、土日もどちらかの部屋で過ごしていた。蒼と会わなくなるなんてこともなかったし会う時間が減ったと感じることもなかった。
2つ目のターニングポイントは蒼がスカウトされたことだ。小学5年の時に街で声をかけられ、モデルとしてデビューすることになったんだ。俺は自分のことのように蒼の活躍を喜んだ。最初は小さく載っていた蒼がだんだん大きく写るようになって、雑誌に掲載されるたびに、つまり毎月毎月蒼と2人でお祝いをした。
そんなある日、
「なあ伊織。俺さ、東京に行こうかと思ってる。」
「・・・え?」
蒼がなんて言ったのか理解するのにすこじ時間がかかった。蒼が、東京へ行く?
「事務所から3年後にアイドルグループデビューさせる話があって、俺がそのメンバーに選ばれた。」
「す、すごいじゃん!!蒼ならすごい人気になるよきっと!!」
最初に浮かんだ---嫌だ離れたくない---なんて気持ち伝えられるわけなくてすぐに笑顔を貼り付けて応援の言葉を送った。
蒼は同年代の中でも少しずつ人気が出てきていて、ファンレターも事務所にたくさん届いているって聞いていた。だから、いつか俺なんか手が届かない存在なるって思ってた。そうなったら俺はもう蒼と一緒にいることはできないんだろうなって。蒼のいない人生を覚悟しなくちゃいけないって日々自分に言い聞かせた。
でも、まだ覚悟なんてものはできていなかった。こんなに早く遠くなるなんて思っていなかった。大人になるまでにゆっくり蒼離れしようと考えていた。
心の底から応援したい。いや、応援はしている。でも、蒼と離れたくないって気持ちが強すぎて心が真っ黒に染まっていくような感覚だ。
「東京には行くけど、伊織とはずっと連絡取るよ。メールするし電話もする。伊織、俺のこと応援してくれるか?」
「当たり前じゃないか!!僕は蒼のファン1号でしょ?僕が誰よりも蒼のこと応援してるもん!!!」
「伊織!ありがとう!!俺頑張るからな!」
事務所は蒼がデビューした時からずっと東京行きを考えていたため東京に行くことを蒼が決めてから引っ越してしまうまではあっという間だった。
俺は蒼のいない日々を過ごすことになった。小学校の卒業式も中学校の入学式も人生の中で大切な行事のはずなのに何も楽しくなくて、蒼に会いたい、寂しい。そんな気持ちが心を占めていてそれ以外の感情がなかなか生まれてくれなかった。
蒼は毎日欠かさずに朝と夜にメールを送ってくれる。その日どんな仕事をしたとか、今行っている学校のこととか、レッスンのこととか。蒼の日常を俺にたくさん教えてくれる。
蒼は1年後のデビューに向けてレッスンが忙しい中でも以前と同様に雑誌の専属モデルとしても活躍している。一緒にデビューするメンバーとも仲良くやれているようで、5人で撮った写真を送ってくれた。写真の中の蒼はいつもみたいなニヤッとした表情で写っていて少し伸びた髪がなんだか大人びて見えて芸能人みたいだなって思った。アイドル雑誌の1枚って感じ。
俺はというと、中学で友達もできたがそれだけでは蒼のいない寂しさなんて埋めることはできなかった。それでも新しい環境に少しずつ慣れ、蒼に比べたら平凡すぎる日々だったがそんな日常を蒼に報告するのもなんだかおもしろかった。
忙しいだろうに、電話をしてくれる日も作ってくれてありがたくも申し訳ないって気持ちが高まる。電話している途中に蒼が寝てしまうってことも何度かあって。蒼の寝息を何時間も聞きながら眠るのが電話の時の1番の楽しみにもなっていた。
次の日の朝にはいつの間にか電話は切れていて、蒼からメッセージで
--寝ちゃってた。伊織寝言言ってたぞ?ハンバーグだってさ---
なんて言われてちょっと恥ずかしくはなるけれど、この瞬間だけは蒼と2人の時間だから。あの頃みたいに2人で揶揄いあってふざけ合う時間だから。
でも、デビューが1ヶ月後に迫ったころからは電話なんてできるわけなかった。蒼は毎日忙しそうにしていて、家に帰った途端に寝てしまうと言っていた。蒼が大変そうなのに俺は何もできないのが辛かった。
俺にできることは何か必死に考えた。その結果、俺は蒼のアイドルグループをみんなに布教することにした。デビュー発表の日からみんなにどんなにかっこいいか伝えるんだ。蒼にたくさんのファンがつくように、ほんのちょっとでも蒼の力になりたい。
そう思った。
蒼のことを知ってもらいたくて、俺の大好きな蒼を、俺の自慢の大親友を、知ってもらいたかっただけだった。
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