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「今日は肉じゃがか。美味そうだな、伊織は和食が得意だもんな。」

「うん。蒼の家来るまで料理したことなかったんだけどね。」

「いつもありがとうな。いただきます。」

僕が作ったご飯を食べる時、いつも必ずいただきますとありがとうを言ってくれる。僕の方が感謝しなくちゃいけないのに。

「伊織、自分の分少なくないか?」

「そんなことない、、。これくらいしか食べられないし。」

「そうか、、。体細すぎるんだし、もう少し食べないと。」

蒼はいつも僕にたくさんご飯を食べさせようとする。まぁ、181cm65kgで細身とはいえ筋肉がしっかりついている蒼に比べて170cm48kgとガリガリな僕が心配されてしまうのは必然か、、。

家から出られなくなったこととご飯がたくさん食べられないことは関係していて、なかなか治そうと思っても治ってはくれない。俺は、食事をすることに恐怖心がある。こんな自分おかしいなんてことはわかってるけど、蒼が、それでもいいって言ってくれるからそれに甘えている。

「伊織、来月からツアーがあって少し留守にする日が多くなるから。ごめんな?」

「ううん、大丈夫。毎年恒例の夏の全国ツアー頑張って。留守番してる。」

「あぁ。配信チケット渡しただろ?ちゃんと見ろよ?」

「うん。」

「伊織、寂しくないか?」

「大丈夫だよ。」

嘘だよ。死ぬほど寂しい。
いつも配信チケットをくれるから僕は全公演見ることができている。でも、画面の中にいる蒼が遠くにいってしまう感覚がする。たくさんの女の子の黄色い声を浴びているのをみると、隣には可愛くて美人な女の人が並ぶのが普通だと嫌でも思い知る。普段、ドラマやバラエティでもそう思う。

僕は知ってる。蒼が以前は受けていた恋愛ドラマや映画を僕とつきあってから断っていることを。

マネージャーさんと口論になっているのを聞いてしまったんだ。僕のせいで蒼の仕事に支障が出ている。でも、僕はそれが嬉しくも思ってしまうんだ。ダメなのに、そんなこと思っていい立場じゃないのに。

それでも、蒼に自分からいいよなんて言えない。だからせめて、寂しくないフリをして蒼を困らせないようにする。僕が寂しいって言ったらきっと蒼は疲れているのに電話をしてくれたり、近ければ帰ってきてしまうかもしれない。そんなのたくさんの人に迷惑がかかるし何より蒼の体の負担になる。

蒼がいない日にしかできないことだってあるんだ。

だから、大丈夫。

「そうか。夏のツアーが終われば秋は少し落ち着くから2人で伊織のハタチの誕生日祝おうな。」

「うん、ありがとう。蒼、今回のライブはチケットもう完売したんでしょ?すごいね。」

「CMもしてもらったし、ファンクラブの会員数もありがたいことに年々増えてるしな。」

「すごい、やっぱり蒼はすごいや。」

「そんな褒めんなよ、どうした?なんか不安になったか?」

「ううん、そうじゃないよ。」

「そっか。伊織、おいで?」

ご飯を食べ終わると蒼がソファで僕を抱っこしてくれる。お風呂も一緒に入るし、寝る時も一緒。

みんなのアイドルの蒼がこの瞬間だけは僕だけのもの。だから、この時間がたまらなく好きだし、この時間のために留守番してると言っても過言ではない。

「伊織、なんか不便なことはあるか?大丈夫か?」

「大丈夫。蒼は心配しすぎ。俺だって大人だし、自分のことは少しはできる。」

「あぁ、でも不安なんだよ。俺、あの街にいた頃のお前を思い出すとっ、、」

「うん、ありがと。あれはさ、俺も悪かったんだ。それに、俺自身誰にも助けを求めなかった。お前とは離れてたんだし、メールだけのやり取りで気づけるわけねえし、俺はお前に気づかれないように必死だったし。お前が気に病むことはない。今の俺を受け入れてくれるならそれで良い。」

「お前は悪くないっ、、、。お前は何にも悪くねえよ。俺は、どんな伊織も好きだ。愛してるから。」

蒼は、俺の過去に囚われてる。俺がこんなになるまで気づけなかった。ごめん。と何度も何度も謝った。

俺も、過去に囚われてる。蒼は悪くない。俺も周りも子どもだったんだ。今思えばただそれだけなんだけど、当時の俺にとってはかなり応えた。

俺が家から一歩も出れなくなった理由

それは、中学でのいじめが原因だ。



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