上 下
49 / 74

49☆

しおりを挟む


「はぁぁぁ、楓君可愛すぎるよな~。」

「社長、仕事してくださいよ。あと、オーストラリアのインテンド社の方から大事な話があるとの連絡をいただきました。できるだけ早くアポを取りたいとのことです。」

「インテンド社?それはまた大企業からの連絡だな。話の内容は?」

「それが、直接話したいことなのでとはぐらかされてしまいまして・・・」

「そうか、明日なら時間が取れると連絡しておいてくれ。」

インテンド社はオーストラリアに本社を構える外資系企業だ。ヨーロッパ、アメリカにも手を伸ばしていて成長速度が早く世界中から注目されている。日本にも進出するのかもしれないな。

そんなことを考えていた次の日

「こんにちは、インテンド社の米田と申します。」

「柊です。よろしくお願いします。」

「実は我々は日本の企業と手を取り新たな事業を進めたいと考えていまして。そこでこの会社と提携させていただきたく思っています。社長は若くしてインテンド社を立ち上げました。あなたが会社を立ち上げた年齢が社長が起業した年齢と同じだったのであなたに近しいものを感じたようです。」

かなり喜ばしい提案だった。インテンド社と手を取ることができれば俺の会社の成長にもつながるし何より俺自信新しいことに挑戦できることが嬉しかった。

「そのお話、受けさせてください。」

「ありがとうございます!・・・ただ、社長はあなたに1年ほどオーストラリアに来て欲しいと言っています。新規事業の立ち上げのためお互いの社長が共に先頭に立ちたいと。」

「オーストラリアにですか・・・」

1年離れるくらいは会社的には大丈夫だ。優秀な社員たちもいるし、俺がしなければいけないことはリモートでも済む。

ただ・・・

いや、これもいい機会なのかもしれない。オーストラリアに行って自分自身の気持ちにも区切りをつけられるかもしれない。楓君が好きだ、でも俺は兄さんの弟。気持ちを伝える資格なんてない。兄さんたちの罪を償うため彼を支えると自分で決めたのに俺の中で欲がどんどん膨らむのをここ最近は強く感じる。

だから、

「お受けしますよ、オーストラリア行き。必ず成功させましょう。」

早速だが年明けからオーストラリアに旅立つことになった。時間もない中で必要な引き継ぎを終わらせなければいけないし忙しくなりそうだが少し楽しみな自分もいた。

楓君のことは逃げるようなことをしてしまうけれど、彼を幸せにするのはきっと俺じゃないほうがいい。俺が幸せにしたい、笑顔にしたい、そんな気持ちが無いわけじゃ無い。でも、好きだからこそ彼には笑っていて欲しいし幸せでいて欲しいから。

逃げる自分だけれど、オーストラリアに行くまでは楓君に会いに行っていいだろうか。楓君のご飯を食べてもいいだろうか。

迷う暇もなく俺は会社帰りに楓君の家を訪ねた。

---ピンポーン

インターホンを鳴らし中から出てくるのを待つ。ガチャっとドアが開いた先には楓君がいて少し驚いたようだが出迎えてくれた。

「どうしたんですか?お仕事帰りですよね?」

「楓君、俺年明けから1年ぐらいオーストラリアに行くことが決まったんだ。新規事業のためにね。」

「え・・・・、オーストラリア?外国?」

「うん。楓君と優のこと近くで支えたかったんだけど仕事で急に決まってね。伝えておこうと思って。」

「そうなんですね・・・少し寂しくなりますね。」

「楓君たちのことは松本先生もいるし、幹也先輩もいつでも力になるって言ってたから困ったら頼りなね。俺も出来ることはするけど物理的な距離があるから近くの人を頼るといいよ。」

「理玖おじさん、1年もいなくなるんだ。ときどき一緒に出かけるの楽しかったのに~。」

「ははっ、また帰ってきたらどっかいこうな。っていっても俺が帰ってくる頃には優はもう中学生になるもんな。日和も小学生になるか・・・きっと今よりみんなでかくなってんだろうな。楽しみにしているよ。」

「おじさん1年もオーストラリア行ってたら婚期逃すんじゃない?あ、それかオーストラリアで美女の彼女作るとか?」

「おっ、それいいな!きっと綺麗な人いっぱいいるだろうしな!!」

向こうにいる間に楓君を忘れられたらいいけど、どうだろうな。俺には難しいかもしれねえ。

物理的な距離で忘れられなかったら俺一生独身じゃねえの?それでもいいか、可愛い甥っ子姪っ子がいるしな。

そう思えると少し楽になる。

「理玖さん、出発はいつですか?」

「一応1月の2週目ってだけ決まってるよ?また日が決まったらおしえるね。」

「はい。あの、理玖さんにはすごくお世話になったからお礼したいんですけど何がいいですか?」

「お礼なんていいんだよ。当たり前のことをしただけなんだから。」

「いえ、俺がしたいんです!!」

「じゃあ、楓君のご飯食べさせて欲しいな。この間のご飯めちゃくちゃ美味かったからさ。」

「そんなことでいいなら!何回でも!何でも作りますよ!!」

「じゃあ御言葉に甘えるね。」

君の顔を目に焼き付けて、君の味を忘れないようにして俺は異国の地で君を忘れる努力する。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

瞳の代償 〜片目を失ったらイケメンたちと同居生活が始まりました〜

Kei
BL
昨年の春から上京して都内の大学に通い一人暮らしを始めた大学2年生の黒崎水樹(男です)。無事試験が終わり夏休みに突入したばかりの頃、水樹は同じ大学に通う親友の斎藤大貴にバンドの地下ライブに誘われる。熱狂的なライブは無事に終了したかに思えたが、…… 「え!?そんな物までファンサで投げるの!?」 この物語は何処にでもいる(いや、アイドル並みの可愛さの)男子大学生が流れに流されいつのまにかイケメンの男性たちと同居生活を送る話です。 流血表現がありますが苦手な人はご遠慮ください。また、男性同士の恋愛シーンも含まれます。こちらも苦手な方は今すぐにホームボタンを押して逃げてください。 もし、もしかしたらR18が入る、可能性がないこともないかもしれません。 誤字脱字の指摘ありがとうございます

夢見がちオメガ姫の理想のアルファ王子

葉薊【ハアザミ】
BL
四方木 聖(よもぎ ひじり)はちょっぴり夢見がちな乙女男子。 幼少の頃は父母のような理想の家庭を築くのが夢だったが、自分が理想のオメガから程遠いと知って断念する。 一方で、かつてはオメガだと信じて疑わなかった幼馴染の嘉瀬 冬治(かせ とうじ)は聖理想のアルファへと成長を遂げていた。 やがて冬治への恋心を自覚する聖だが、理想のオメガからは程遠い自分ではふさわしくないという思い込みに苛まれる。 ※ちょっぴりサブカプあり。全てアルファ×オメガです。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

この愛のすべて

高嗣水清太
BL
 「妊娠しています」  そう言われた瞬間、冗談だろう?と思った。  俺はどこからどう見ても男だ。そりゃ恋人も男で、俺が受け身で、ヤることやってたけど。いきなり両性具有でした、なんて言われても困る。どうすればいいんだ――。 ※この話は2014年にpixivで連載、2015年に再録発行した二次小説をオリジナルとして少し改稿してリメイクしたものになります。  両性具有や生理、妊娠、中絶等、描写はないもののそういった表現がある地雷が多い話になってます。少し生々しいと感じるかもしれません。加えて私は医学を学んだわけではありませんので、独学で調べはしましたが、両性具有者についての正しい知識は無いに等しいと思います。完全フィクションと捉えて下さいますよう、お願いします。

気付いたら囲われていたという話

空兎
BL
文武両道、才色兼備な俺の兄は意地悪だ。小さい頃から色んな物を取られたし最近だと好きな女の子まで取られるようになった。おかげで俺はぼっちですよ、ちくしょう。だけども俺は諦めないからな!俺のこと好きになってくれる可愛い女の子見つけて絶対に幸せになってやる! ※無自覚囲い込み系兄×恋に恋する弟の話です。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

傾国の美青年

春山ひろ
BL
僕は、ガブリエル・ローミオ二世・グランフォルド、グランフォルド公爵の嫡男7歳です。オメガの母(元王子)とアルファで公爵の父との政略結婚で生まれました。周りは「運命の番」ではないからと、美貌の父上に姦しくオメガの令嬢令息がうるさいです。僕は両親が大好きなので守って見せます!なんちゃって中世風の異世界です。設定はゆるふわ、本文中にオメガバースの説明はありません。明るい母と美貌だけど感情表現が劣化した父を持つ息子の健気な奮闘記?です。他のサイトにも掲載しています。

浮気されてもそばにいたいと頑張ったけど限界でした

雨宮里玖
BL
大学の飲み会から帰宅したら、ルームシェアしている恋人の遠堂の部屋から聞こえる艶かしい声。これは浮気だと思ったが、遠堂に捨てられるまでは一緒にいたいと紀平はその行為に目をつぶる——。 遠堂(21)大学生。紀平と同級生。幼馴染。 紀平(20)大学生。 宮内(21)紀平の大学の同級生。 環 (22)遠堂のバイト先の友人。

処理中です...