伸ばしたこの手を掴むのは〜愛されない俺は番の道具〜

にゃーつ

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「楓君、今日から階段での昇降のリハビリもメニューに加えるからね。」

「はい、お願いします。」

ここ数ヶ月毎日顔を合わせているリハビリの先生。正直言うと、リハビリを始めた頃は体が思う通りに動かなくてリハビリが嫌で嫌で仕方なかったけど自分で立てるようになったり歩けるようになるたびに退院して優と暮らす日が近づくのを感じてやる気が右肩上がりになった。

「楓君、この調子ならあと数週間で退院できそうだね。」

「本当ですか?」

「うん。あとかなり頑張ってるし走ったり運動するにはまだまだだけどあと2週間ほどで日常生活送るくらいには問題なくできそうだ。」

日常生活を送るくらいには、か。

「あの先生、俺優のこと抱っこできるくらいになりたいんです。」

「なるほど。となるとメニューを増やす必要がありそうだな。楓君ならきっと出来るよ、一緒に頑張ろう!」

「はい。俺頑張ります!!」

「あ、そういえば今日楓君誕生日なんだね。誕生日おめでとう。病院で誕生日嫌かもしれないけどおめでたい日だね。」

「・・・たん、じょう、、、び。」

そっか。今日俺の誕生日だった・・・すっかり忘れていた。

「忘れていたのかい?息子さんにも祝ってもらったらいいよ。あの子なら喜んでお祝いするだろうから。」

優に伝える・・・か。なんか、今日が誕生日だって言うと祝ってくれって主張しているみたいで少し気が引ける。理玖さんやはや君にも伝わるだろうし気を使わせるのは嫌だな。

うん、言わないでおこう。いつか優がママの誕生日いつ?って聞いてくれたら教えることにしよう。俺の誕生日なんかより来年の優の誕生日の方が楽しみだ。退院しているだろうから病院じゃないところで優のお祝いができる。それが嬉しい。

「さ、今日のリハビリは終わりです。今日はいつもより長めのメニューだったのによく頑張ったね。あ、松本先生が直々にお迎えだ。」

これはいつものこと。リハビリが終わったぐらいにはや君が迎えに来てくれて車椅子を押して病室まで戻ってくれる。

「そろそろ車椅子なしでもいいかもな。かなり順調だってきいたぞ?」

「本当?車椅子なしになっていいならもう退院してもいい?」

「退院はまだダメ。万全の状態になってから退院な。」

「はや君のケチ。」

「ケチで結構。・・・楓、お前今日が何の日か忘れてただろ?」

「え、、、、うん。」

「言って欲しいならちゃんと言わなくちゃだろ?」

「でも・・・気使わせるかなって思って。」

「お前らそんな関係性じゃねえだろ。ま、いいんだけどな。ほら、今日はここから歩いて自分で扉開けてみろ。」

いつも病室の中まで車椅子を押してくれるのに今日は近くになったら歩けって変なはや君。

俺が歩いた状態で扉開けたら優驚くかな。

きっとママすごいってニコニコしながら言ってくれると思うんだ。ニコニコした優を想像すると俺の口元が緩む。

緩みを隠せてないだろうなと思いながら扉を開くと、パンパンっと大きな音がしたあとに頭から紙や長い紐が降ってきた。

「ママ!!!誕生日おめでとう!!!」

音に驚いて気付くのが遅くなったが部屋の中は風船や折り紙でたくさん飾り付けがされていて大きな紙に優の字で

"ママ お誕生日おめでとう!!!"

と書いてあった。部屋の中には優に理玖さんに園長先生に理玖さんの先輩で探偵としてたくさん協力してくれた幹也さんもいた。後ろからはや君もおめでとうと言ってくれた。

こんなに嬉しい誕生日生まれて初めてだ。

「ありがとうっ、、」

俺が泣くとみんなニコニコ笑っている。きっと泣くことを予想していたんだろう。

だってこんなの中に決まってるじゃないか。

「ママ!ケーキあるよ!あとね!プレゼントもある!!こっちきて!」

優に手を握ってもらいながらソファに座ると目の前にはママお誕生日おめでとうと書かれたケーキに蝋燭もささっていた。

理玖さんが火をつけてくれて、優を筆頭にみんなで誕生日の歌を歌ってくれた。

「ママ!ふーってして!」

「うんっ、・・・ふーっ」

誕生日のろうそくを消すのはテレビの中の話だと思っていたから自分で経験できるなんて思っていなかった。優は隣で何度も何度もおめでとうと言ってくれた。

園長先生がケーキを切ってくれている間にと理玖さんがプレゼントを持ってきてくれた。

「まず、約束していた携帯ね。最新機種にしたけど使い方はまた教えるからこれで優との写真たくさん撮ってね。優も携帯持ってるから優と電話だってできるから。」

渡された携帯は俺が知ってるものより少し大きくて薄かった。俺が知らない間にこんなに変わってたのか。すごいな、、

「わ!ありがとうございます!!優、優と写真取れるよ。」

「ママ!使い方は俺が教えてあげるからね!」

「それと、これ。」

理玖さんが渡してくれたのは靴だった。携帯ももらったのに・・・・

「携帯もいただいたのに・・・」

「歩けるようになって、これからいろんな場所に優と行って欲しいからね。サイズは合ってると思うから、これを履いて優とたくさん思い出作ってよ。」

「ありがとうございます・・・嬉しいです。」

「じゃあ次俺な。」

どかっと空いていた俺の横に座ったのは、はや君だ。

「楓、誕生日おめでとう。俺からのプレゼントだ。」

少し大きめの箱と中くらいの箱の2つをぬれた。開けてみると大きな箱には服が入っていて中くらいの箱には入浴剤が入っていた。



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