伸ばしたこの手を掴むのは〜愛されない俺は番の道具〜

にゃーつ

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楓君に意味深なことを行ってしまった。後悔はしていないけど、楓君はまだまだ本調子じゃないしリハビリを頑張り始めたところなのにと少し申し訳なくは思っている。

俺の毎日の中で楓君に会える時が1番癒しの時間なんだ。ここ数ヶ月は家にもほとんど帰れておらず、会社に篭りきりだ。

その理由は、

「柊さん!!お兄さんの事件について何か知っていたんですか!!」

「裁判が始まりましたがどうお考えですか!」

「被害者のΩの方とはお会いになりましたか!!」

毎日のように会社に押し寄せてくる記者たち。会社のエントランスを出た途端にこれだ。兄さんのニュースが世間に出てから毎日のように記者が来る。3ヶ月経った今もだ。俺は柊とは関係ない会社を経営しているが実の弟ってことでマスコミの格好の餌食になっていた。

柊家の方は一部の取引が中止になったが日本の中枢を担っているだけあって会社が潰れるなんてことにはならない。本家の方にもかなりの数のマスコミが毎日訪ねてくると聞いた。

楓君にはニュースを見せないようにしているが今世間では兄さんの事件に関して2つの大きな議題に注目している。1つは今回の事件でどのような罪に問われ刑期がどれくらいなのか。また、関与していた人物のピックアップ。もちろん、俺たちで証拠を集めたので兄さんと義姉さんはもちろん楓君の出産に立ち会った医者と看護師も捕まっている。

そしてもう1つの議題。これが俺や松本先生が楓君にニュースを見せない理由。

「お子さん3人は柊家ではどうするおつもりですか!!」

今目の前の女記者が言ったように楓君が産んだ3人の子供がどうなるかが物議を醸している。世間の意見は2つに分かれている。

1つは産んだ本人であるΩが引き取り育てる。俺たちや楓君の希望はこっちだ。

ただ、柊本家で引き取るのがいいという意見もある。これまで子育てをしておらず職もないΩのもとに引き取られるのは可哀想だとか3人も育てるのは無理だとかそんなことを関係者でもない奴らが意見を交わしている。そんな戯言を耳にすれば楓君は優と離れようとするかもしれない。だからこそ、ニュースが耳に入らないようにしている。もちろん、優にも同様に。

2人や日和と陽介に記者がいってしまわないように俺はどんなにうざくてもこの記者たちの前に姿を出し続ける。
だから毎日楓君の病室に行くのは俺の癒しの時間なんだ。

病室の扉を開けると楓君は眠っているようで隣の机で優が宿題をやっていた。

「優。」

「あ、理玖おじさん。ママ寝てるから静かにしてね。」

こいつ・・・楓君の前では甘えたで子供らしいのに俺と2人になるとこうだもんな。

「優、ここの問題わかんないのか?飛ばしてるけど。」

「ここは後でママに教えてもらうの。」

そう聞いて俺の頭にハテナマークが浮かんだがすぐに笑いが出そうになった。

優、お前下手くそすぎるぞ。

優が分からなくて空けてある問題は体積を求める基本問題。でも、次のページの応用の問題は解けている。ということは、ママに教えてもらいたくて分からないふりしてるってことだ。隣に置いてある漢字ドリルも分からない漢字の所を空けてあるが、チラリとページをめくると次のページではその漢字が書けている。

「優、わざとだな?」

「・・・うるさい。ママには言わないでね。」

「お前、俺に反抗期か?まぁ、ママには言わねえでやるよ。あ、そういやお前さ。ママが元気になったら一緒に行きたいところとかないのか?」

「ママと?ママと行けるならどこでもいいよ。・・・でも、一箇所だけある。」

「どこだ?」

優が教えてくれた一緒に行きたい場所は少し意外なところだった。でも、その場で理由を聞くと俺はどうやってでも連れて行ってあげたくなってその場で手続きをして外出許可の出る日の昼間数時間を貸切にした。マスコミ対策もあるが、楓君と優を2人きりにしてやりたかったから。

「ねぇ、理玖おじさん。もう少しでママの誕生日って本当?」

「あぁ。本当だよ。」

「俺、ママに何かあげたいけど何がいいのか分からないんだ。大人って何が欲しいの?」

「お前のママはお前がくれるものなら泣いて喜ぶと思うぞ?お前のことが何より大好きだからな。」

「それはそれで難しいな。ママの笑顔が見れるようなものをあげたいんだ。」

「なんか候補ないのか?」

「今考えてるのは、写真立て。」

写真立てか。確かに優との写真はまだ数枚しかないだろうしそれを現像して飾れるなら楓君かなり喜びそうだな。

「いいじゃないか。今度一緒に買いに行くか?」

「本当?いいの?」

「もちろんだ。楓君が喜びそうなものがあるといいな。」

「うん!!!」

優とその会話を終えたところで楓君が起きたみたいで、俺と会話していたことが嘘かのように優はママに近づいてニコニコと話していた。

「楓君、お邪魔してるよ。」

「あっ、、、理玖さん。どうも。」

この間告白まがいのことをしてから楓君は俺と少し気まづそうにしている。俺としては寂しい気はするが、それだけ俺のことを意識してくれているのかと思うとニヤケそうになる。俺は彼のことが好きでたまらないみたいだ。

「ママ!この問題分からないんだ!教えて欲しい。」

「どれだ?」

お、さっきの問題聞き始めたな。優の分からない演技に笑ってしまいそうになったが、笑ってしまい楓君にバレたら優に嫌われそうなので必死に我慢する。そんな時間が幸せに思えた。


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