12 / 74
12
しおりを挟む風邪をひいてしまってからずっと咳が長引いていて寝苦しい毎日が続いていた。でも、理玖さんがくれた薬を飲むと体が少し楽になった。
施設にいた頃もここに来てからも薬を飲む機会なんてあまりなかったし、こういうのって耐性がない方が効くって耳にしたことがあるからそのおかげで効くのかも。
なかなか完治しない風邪のせいなのか頭がそーっとする。顔は熱っていてあついのに手先足先などの体の末端はすごく寒い。意識がフワフワする感覚で不思議だ。でも感覚的には苦しいって感じだ。
俺ってあとどれくらい生きていられるのかな。やり残したことがあるのかすら分からない。そういえば、施設にいた頃に読んでいた漫画は完結したのかな。主人公が悪の組織のボスで立ち向かってくる勇者と何度も戦う話。悪役が主人公なんて珍しくて夢中になって読んだ覚えがある。
こうなってしまえば俺を捨てた親って元気に生きてるのかな。会ってみたいとかそんなんは思わないけど、俺を施設の前に捨てたけど、それでも命懸けで産んでくれたんだよな。自分が妊娠して出産して分かった。妊娠中は怖くて仕方なかったのに産まれるときはどうか無事で産まれてくれって、自分の命なんてどうでもいいからって。命懸けっていう言葉がこんなにも当てはまることってあるんだってそう思った。
だから、俺を捨てた親も産まれる瞬間だけは命をかけて産んでくれたから元気に生きているといいなってそう思う。
もう死ぬんだって思うと後悔とかやり残したこととかが自分の中でどんどん溢れるもんだと思ってたけど、実際はそんなことなくて今の願望と言えば自分の産んだ子供に会ってみたいことと、ひまわり園の園長に最後に会いたいこと、、ぐらいかな。
俺がひまわり園にいたころに施設にいたみんなはもうほとんどが成人して施設を出てるか里親の元へ引き取られてるだろうな。そういえば、隼人は今どこで何してるんだろうな。
俺が人生で唯一仲良くしていた友達と呼べる存在。それも隼人が引き取られてからは疎遠になってしまったけど。
俺にだって小さい頃は夢があったはずだけど、それすら思い出せなくなった。まだ少し動く腕を蜘蛛の巣の張った天井に向かって伸ばす。伸ばした手は誰からも握られることなんてなかった。親からも、番からも、自分の子供からも。来世というものがあるのなら、贅沢は言わない。貧乏でいいし、容姿だって整ってなくていい。1人でいいから俺の手を取って握ってくれる人がいてくれる人生を歩みたい。それぐらい叶えてくれよ、神様ってやつがいるならさ。
今日は子供達の声が聞こえない。毎日の楽しみなんだけどな、、、。1番下の子はそろそろ歩いたかな。真ん中の子は多分女の子だと思うんだけど、今は幼稚園とか行ってるのかな。1番上の子は、たぶんゆうって名前かあだ名かな?もう10歳とかだよな多分だけど。俺の子供達ってどんな子達なんだろうな。
---ギィ
「・・・楓君」
「・・・?理玖さん、、?」
この人また来たのか。すごいな、飽きもせずに。あ、でもこの間の薬のおかげで少し楽だったからお礼言わないといけない。でも、だめだ。もう声出ない、、なんでだろ、、。
「酸素マスク早く!!すぐにストレッチャーに乗せて救急車へ!!」
なんだかすごく騒がしい。この蔵にたくさん人がいる。出産の時でさえお医者さんと看護師さんの2人だったのに。
俺、ここから出されるの?
体が浮いたと思うとストレッチャーに乗せられた。やっぱり、この蔵から出されるんだ。
・・・嫌だ。ここにいないと柊さんは来ない、、、。
「ゃ、、いや、、ここにいる」
「楓君?」
「柊さ、、ん、ひ、らぎさんのとこにいる!離れたくない」
ここにいなくちゃ、柊さんが来るかもしれない、、。
俺が頑張れば、俺が元気になれば、柊さんは来てくれるかもしれないんだ。でも、俺がここを離れて仕舞えば会えなくなる。そんなの嫌だ、俺はここにいたい。
思う通りには動かない体を必死に動かして抵抗するが俺の抵抗なんて微々たるものでストレッチャーから降りることなんてできない。それでも抵抗し続けたかった。俺は、柊さんの番だから柊さんの近くにいなくちゃいけない。番だから、子供だって産めと言われたら産まなくちゃいけない。どれだけ体がボロボロになったって産まなくちゃいけないんだ。
ここから連れ出されたら、柊さんともう会えなくなる気がした。
「楓!!死んだら何の意味もないだろ!!」
知らない人がそう叫んだ。さっきいろいろ指示してた人だ。
「・・・っ、、、」
死んだら意味がない。そんなこと分かってる、、、でも、柊さんはそれを望んでるでしょ?番が望むことなら、叶えなきゃ
「楓!!お前の人生だろ!!生きろ!!」
今日初めて会った人にそんなふうに叫ばれて響くわけないのに、どうしてか俺の心にその言葉がスッと入ってきて俺が見て見ぬふりをしていた生きたいって気持ちに俺自身気づいてしまった。
俺は抵抗するのも嫌だと言うのもやめた。俺が抵抗する気がなくなったのがわかるとすぐに蔵から運ばれた。
太陽を直接体に浴びたのはかなり久しぶりで眩しくしくて仕方なかった。理玖さんがすかさず日傘を刺してくれたみたいでから目を開けられたが、太陽ってこんなに眩しかったんだな。
救急車に乗せられたところまでは覚えているが、そのあとすぐに俺は意識を失った。
意識を失っていた間に俺は11年もの間過ごした土地を後にした。
348
お気に入りに追加
3,026
あなたにおすすめの小説
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
罪人の僕にはあなたの愛を受ける資格なんてありません。
にゃーつ
BL
真っ白な病室。
まるで絵画のように美しい君はこんな色のない世界に身を置いて、何年も孤独に生きてきたんだね。
4月から研修医として国内でも有数の大病院である国本総合病院に配属された柏木諒は担当となった患者のもとへと足を運ぶ。
国の要人や著名人も多く通院するこの病院には特別室と呼ばれる部屋がいくつかあり、特別なキーカードを持っていないとそのフロアには入ることすらできない。そんな特別室の一室に入院しているのが諒の担当することになった国本奏多だった。
看護師にでも誰にでも笑顔で穏やかで優しい。そんな奏多はスタッフからの評判もよく、諒は楽な患者でラッキーだと初めは思う。担当医師から彼には気を遣ってあげてほしいと言われていたが、この青年のどこに気を遣う要素があるのかと疑問しかない。
だが、接していくうちに違和感が生まれだんだんと大きくなる。彼が異常なのだと知るのに長い時間はかからなかった。
研修医×病弱な大病院の息子
トップアイドルのあいつと凡人の俺
にゃーつ
BL
アイドル
それは歌・ダンス・演技・お笑いなど幅広いジャンルで芸能活動を展開しファンを笑顔にする存在。
そんなアイドルにとって1番のタブー
それは恋愛スクープ
たった一つのスクープでアイドル人生を失ってしまうほどの効力がある。
今この国でアイドルといえば100人中100人がこう答えるだろう。
『soleil』
ソレイユ、それはフランス語で太陽を意味する言葉。その意味のように太陽のようにこの国を明るくするほどの影響力があり、テレビで見ない日はない。
メンバー5人それぞれが映画にドラマと引っ張りだこで毎年のツアー動員数も国内トップを誇る。
そんなメンバーの中でも頭いくつも抜けるほど人気なメンバーがいる。
工藤蒼(くどう そう)
アイドルでありながらアカデミー賞受賞歴もあり、年に何本ものドラマと映画出演を抱えアイドルとしてだけでなく芸能人としてトップといえるほどの人気を誇る男。
そんな彼には秘密があった。
なんと彼には付き合って約4年が経つ恋人、木村伊織(きむら いおり)がいた!!!
伊織はある事情から外に出ることができず蒼のマンションに引きこもってる引き篭もり!?!?
国内NO.1アイドル×引き篭もり男子
そんな2人の物語
普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる