伸ばしたこの手を掴むのは〜愛されない俺は番の道具〜

にゃーつ

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「おじさんっ、お願いっ、、、俺なんでもする。俺、今はお金とかないけどっ働くようになったら必ず払うっ、、、だからお願い、、ママを助けてっ」

「優、、、。大丈夫だよ、そんなお金なんていらないから。なあ優?俺からもお願いがあるんだけどいい?」

「なに?」

「優のママを助けるために、優も俺に協力してほしいんだ。」

「俺にできること、、あるの?」

「あるよ。優、今回みたいに兄さんと義姉さんが留守の日を教えてほしいんだ。それと、優のママがすごく苦しそうにしていたり何かひどいことをされていたらすぐに教えてほしいんだ。それにね、優のママはね体の調子が悪いんだ。だから、助け出したあとは病院に入院することになると思う。そのときに近くにいて励ましてあげてほしいんだ。」

彼は俺に心なんて開いてくれていない。助け出すのがゴールじゃないんだ。助け出してから症状改善するための治療が始まる。この家でずっと酷い扱いを受けていた彼の精神面もケアするために俺ではできないことも彼の息子である優なら出来るかもしれない。それに、優はママを思って泣けるし行動できる子だ。楓君の心の支えになってくれるかもしれない。

「俺、ママのためになんでもする。」

「うん。でもね優、優のママは優に会ったことがないだろうびっくりしちゃうからここから助け出せたら初めましてしよう。な?」

「うん。おじさん、ママが寝てる時なら時々ここに来てもいい?」

「あぁ。ただし、他の人に見つからないようにな。」

腕でゴシゴシと涙を拭って優は蔵から出ていった。かなり名残惜しそうではあったけど。

「楓君、君の子供はすごく優しい子だね。優はずっと君のことを見守っていたんだよ、君は1人なんかじゃなかった。」

解熱剤は飲ませたが、電気毛布を買ってきて彼にかけているがまだ寒いんだろうガタガタと震えている。起きたら胃に何か入れてからバース薬を飲んでもらわなくちゃいけない。

「っ、、ぅ、、、、、、」

泣いてる、、?いや、魘されて、るのか?
そう思ったが楓君の表情は少し柔らかくなった。と同時に楓君の目が開いた。

よかった。このまま目が覚めなかったらどうしようかと不安だったが意識はしっかりある。おでこに置いたタオルが少しぬるくなってきたので変えてやると気持ちよさそうな顔をしてくれた。

買ってきたものを見せてどれか食べられそうか聞くと楓君の目線がみかんゼリーに向いているのに気がついた。これが食べたいのか?

ゼリーをスプーンにのせ口に運んでやると素直に口を開いてくれた。一口、二口と食べ進めると楓君は涙を流した。最初は俺に食べさせられるのが怖いのかと思った。番のいるΩである彼は俺に拒絶反応が出てしまう。可能な限りの接触は避けているが、俺がいることで何か気に触ったのかと思った。

だが、彼は食事に感動していたのだ。涙を流しながら次の一口を求めて口を開ける光景は俺に取って衝撃の光景だった。

たった100円のゼリーだぞ?小学生だってお小遣いで買える値段だ。だが楓君は体が動かないから自分で買うことなんてできない。なのに、この場で彼のために100円のゼリーを買ってくれる大人はいないんだ。

それに大きくはないゼリーを半分ほどでもう食べられないと首を振るなんてことあるのか?優はもちろん日和だって食べ切れるサイズだ。布団から見える腕を見るにガリガリに痩せていて、これは一刻も早く病院で精密検査をしないと内臓がどれほど弱っているのか、、、。

この少量のゼリーだけでは薬を飲ませるのが怖かったのでコンビニで温めた茶碗蒸しも口に運んでやると口を開いてくれた。これもまた涙を流しながら食べてくれた。

温かい食べ物に甘い食べ物・・・ここにある用意されたものを見るにそんなものはなかなか食べることができなかったんだろう。ここは日本だぞ?温かい食事や甘味を食べられないなんて。ここは柊の本家で金がないなんてあり得ない。楓君がこの家に何をした?優たちを産んでくれた恩人なんじゃないのか?義姉は子どもが産めないんだろう?出産は命懸けだ、楓君は年々弱っていたのに3人も産んでくれた。楓君が今日まで無事だったのは奇跡だと言っていい。それにこの仕打ちって・・・

悪魔に魂でも売ったのか?そう思えるほど人とは思えない所業だった。本来であれば何一つ不自由のない環境を用意し、頭を下げてお願いする内容だ。それでも許されることではないが・・・

楓君がどこから連れてこられたのかはっきり分かっていない今の状況ではどんな状況の下こうなったのかは分からないが兄たちが大きな間違いを起こしているのは明白だ。

なのに、楓君は兄さんのことを悪く言わない。

だからこそ、早く救い出さなければいけないんだ。兄さんの弟として、優のおじさんとして俺は楓君のためにできることは何でもやりたい。

多分ここに入ったあの日あの瞬間から俺は楓君に心底夢中になってしまった。

兄さんを思う気持ちを俺に向けてくれたらなんてそんな気持ちが芽生えていることを気づかないふりをしていたけれど、やはり気持ちというのは止めることができない。

でも、俺はこの気持ちを今楓君にぶつけることなんてしたくない。してはいけない。そんなの、強欲なαそのものだ。兄さんのしてきたことと相違無い。

俺はαだ。大切なΩを守るための存在だ。

楓君、もう少し待っててくれ。俺に君の手を掴ませてくれ。



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