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77 マリクside
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記憶にあるのは、抱かれた腕の中で聞く歌と
「生きて、幸せになりなさい。」
血まみれでそう言った母の姿。
私は、4歳で母を目の前でなくした。
そして10歳の時、ある男への復讐を誓った。
私が生まれたのはルーチェの首都の平民街。母は元城付きのメイドだったそうだが、諸事情で辞めてしまったらしい。父親の名は母の口から一度も出たことがない。
父親はいなくても、母と祖母の3人での暮らしは楽しかった。祖母はサベルク出身でその血を引く母も魔法が使えたので時折見せてくれた。私自身も祖母の血を引いてるからか少し魔法を使うことができた。
私が最初に祖母と母から習ったのは髪色と瞳の色を変える魔法。私はなぜか生まれた時から髪色と瞳の色を変える魔法を常にかけられていた。夜眠る時だけは本当の姿になり、その度に母は私の髪と目を褒めてくれた。その時間が何より好きだったので当時は特に疑問もなく偽りの姿で日中を過ごしていた。
母が働いている街のパン屋の当主にも可愛がってもらい、おやつにパンを貰えるので毎日のように通っていた。いちごジャムの入ったパンを休憩中の母と半分ずつ食べる時間が幸せだった。パン屋の当主は母も、祖母にも、僕にもよくしてくれた。
私が4歳になる少し前、パン屋の当主は母にプロポーズをし私の父となった。
私は初めて出来た父親というものに歓喜していた。お父さんと言うのに少し時間はかかったが親子として何の変哲もない日々を送ることができていた。何より、私が父と遊んでいるのを母が嬉しそうに見ているが私にとっては嬉しかった。
祖母とは離れて暮らすことになり、親子3人パン屋の2階に住むようになった。
でも、父の前でも私は本当の姿を見せることは禁止された。
私にはなぜ見せてはいけないのかが分からなかった。
だが、そんなことがどうでもいいと思えるほど毎日が楽しかった。
そんな幸せな日々の真っ只中に事件は起こった。
国中では王様が結婚するという明るいニュースが飛び交っていた。街をあげてお祝いムードで来月に迫る結婚式は国中が笑顔になる。父のパン屋でも結婚をお祝いして特別なパンを作ったんだと言って試作品を食べさせてくれた。私の日常も幸せで、国中も幸せいっぱい。そんな時に母が死ぬだなんて誰が想像しただろうか。
いや、母は少し危険を察知していたのだと今になっては思う。
その日は祖母の家で両親の帰りを待っていた。だが、いつも帰ってくる時間になっても帰ってこなかったので祖母と2人でパン屋まで帰ることにした。
なぜかその日、祖母は大通りではなくいつもは使わない道を使って遠回りしてパン屋へ向かった。私は早く父と母に会いたいのに遠回りしないでと祖母に伝えた記憶がうっすらある。
だが、祖母にいつになく真剣なその顔に何も言えなくなったんだ。
パン屋が近づいてきたが、灯りは消えており2階の自宅の灯りがついていた。
仕事が終わっているのに私のことを放って2人きりで楽しいことをしているんだと少し怒りの気持ちが湧いた。
そこからの記憶は曖昧だ。
祖母が急に私を抱き抱え、恐る恐る階段を上がり最初に見えたのは心臓にナイフが刺さったまま倒れている血まみれの父。
その奥に、至る所から血を流して倒れている母がいた。
祖母は母に駆け寄り何か会話をしていたが、その時の私は気が動転して何を話していたか聞き取れなかった。
祖母は私を母の近くに置き、奥の部屋へ消えていった。
私は泣くことしかできなかった。その間母がマリク、マリクと何度も何度も私の名前を呼んでくれた。私が泣き止むようにとよく歌ってくれた歌も必死に歌ってくれた。
数分で祖母が戻ってきて、
「お別れの挨拶をしなさい」
と言った。意味がわからなかった。
ただなくだけの僕に母は言った。
「私の愛しいマリク。母とはここでお別れだけど、ずっと、ずーっと愛してるわ。」
「お母さっ、、やだっ、、」
そう言ったところで祖母に抱き抱えられその場を離された。
「生きて、幸せになりなさい。」
そんな母の言葉を最後に数ヶ月住んだこの家を僕は離れた。
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