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しおりを挟むセドや国王様が出かけてから数時間、こそっと外を見ると騎士の人たちがしっかり警備しているのが見える。
セドたちが前線で戦おうとしている今、僕にできることは何もないのかな。そう思うだけでこれまで時間が経ってしまった。
「セドのとこに、行く。」
そうと決まればと、紙に頭の中に入っているここからの地図を書き記す。そして、騎士の人たちの配置を頭に入れる。
じっと隙を伺い、待ち続ける。
騎士の人たちが集まって話をし出した。おそらく何か起こったんだろう。聞いておきたい気もするがこの機会を逃すことはできない。全員の視線がこちらに向いていないことを確認して裏口から外に出て森の中へと身を隠した。
そこからはルーチェの城に向かってひたすら進み続けた。1人で出歩いたことのない僕の足ではいつ追いつけるかわからないけれど、それでも進んだ。
「おい。」
「!?」
誰っ!ここはもうルーチェ、ルーチェの国民?
「ったく、国王の命令だから行ったのに部屋にはいねえし追いかけてみればこんな森の中に入りやがって。」
「だ、誰?」
「俺はムーマ!お前、ルイだろ?俺についてきてもらうぜ?」
気づくと足元に黒い影が伸びていて僕の足首までその中に引きづり込まれていた。出ようと必死に抵抗するが沈んでいくばかり。何これ、怖い。
「いやだ!僕、セドのところに行かなくちゃ!!」
「いーから、大人しくしてろってば。」
抵抗も虚しく僕は影の中にひきづり込まれた。影に顔が入ったところまでは覚えているがその後は気を失ったんだろう。
目が覚めた時にはムーマと僕の2人で部屋にいた。そう、18年過ごしたあの部屋に。
「悪りぃな、お前のこと恨んでるとかじゃねえけど俺は兄貴のためにお前を攫った。」
「お兄さん?」
「本当の兄弟じゃねえけどな、操影術を生まれた時から使えた俺は親にも、村の奴らにも気味悪がられててな。ずっと酷い扱いを受けてた。それをマリクの兄貴が助けてくれた。俺は国王は嫌いだがマリクの兄貴が使えているから命令に従ってる。」
「ここは、ルーチェの城だよね?」
「あぁ、そうだ。お前には本当に悪いと思ってる。だが、兄貴のためなんだ。本当にすまねえ。・・・この国は、、、クソだ。そんな場所に、、すまねえ。」
ムーマさん、、。
「僕を殺すの?」
「・・・まだ殺さねえ。お前の父親はお前を殺すことを望んでいる。兄貴がそれを任されてるが、兄貴はまだ殺すなと俺に命じた。だから、まだ殺さねえ。」
セドごめん。僕のこと助けてくれたのに、僕またここに来てしまった。
「あの日のままだ。」
本棚に入りきらないほどの本にサベルクの部屋のものより薄っぺらい布団に軋むベッド、あの日のまま閉じられた小窓。
いやな思い出ばかりなのに、セドと出会った場所だから少し特別に感じる。18歳になったあの日、僕が小窓から外を覗かなければセドと僕が出会うことなんてなかった。ううん、僕が誰かと出会うことなんてなかった。
このままここで殺されるなら、それでもいい。セドと出会った場所で終われるなら。
セドと出会わないままなら死なんて選ばなかったけど、幸せな日を過ごせたからこのまま死んだって僕の人生は幸せだったって言える。
でも、願わくば、願わくばもう一度セドに会いたい。セドに抱きしめられたいしセドとキスがしたい。
あ、そういえばネックレス、、いつのまにか無くなってる。
「ねぇ、ネックレスなかった?」
「あぁ、あのゴリゴリに魔力込められたやつな?あれなら外した。じゃねえとお前に触れねえようになってたし。何あれ、怖すぎ。」
「外せたの?」
「俺の使う操影術は影を操るんだぜ?触れなくてもその空間内で操作すればどうとでもなる。ま、ここまでの使い手はほとんどいねえけど。」
「どこにあるの?」
「あぁ、ここにあるぞ?一旦外して俺の影の中に魔力封じ込めてるからもう役には立たねえし、持ってるか?」
「うん、大事なものなんだ。セドがくれたものだから。だから持っていたい。」
「ネックレスのつける部分は破壊しちまったから首にはつけれねえが、ごめんな。」
「ううん、存在があるだけでいいんだ。」
この部屋にいるときはこれがないと不安になる。
ネックレスを受け取ったと同時に扉が開いた。
「なんだ、まだ殺してないのか。」
「あ?兄貴が聞きたいことあるんだとよ!何しにきたんだよ、ルーチェの国王さん」
「なに、疫病神に一言言いたくてな。」
父上、、、。
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