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しおりを挟むこんなことがあっていいのか。
彼は、この国の王族なのか。
長男なのだな。だが、初子が男であることは不吉とされているから存在を隠され生きているのだな。
2人の会話は僕にも聞こえていたんだ。もちろん彼にも聞こえている。
あんな胸糞悪い会話をしていた2人。王族である前に本当に人の子か疑うような発言であった。彼は2人が会話している間中唇を噛みしめ、声を押し殺して泣いていた。
彼は、こんなにも辛い思いを何年もの間続けてきたのか。
体調がすぐれなくても、医師を呼んでもらえないだけでなくこのまま死ぬこと実の父や母からを望まれ、他の兄弟が愛されるのを目の当たりにし、生きてきたのか。
そんな残酷なことがあっていいのだろうか。こんなにも優秀で、鳥の姿の僕にも優しくしてくれる彼が不憫で仕方ない。
僕にできることはなんだ。
彼をここから連れ出すことは可能なのか。
まずは、彼を治癒しなければ。
睡眠魔法を使い彼を眠らせる。
そして元の姿へと戻る。
鳥の姿のままでは治癒魔法ができぬからな。治癒魔法は最も高度な魔法とされており、国内でも使える人数は数少ない。自分自身が治癒魔法を使えることにこれほど感謝したことはない。
魔力を練り、彼の体へと流す。
苦しそうだった呼吸が少しずつ整い、体の発疹も消えていく。
魔法をかけ終わり額に手を当ててみると熱も下がったようだ。
よかった。これで苦しい思いをせずに眠ることができるだろう。
僕は魔力を使いすぎたため少しの間は変化ができない。
彼のために今何ができるだろうか。
「ん、、、、セ、ド?」
彼が起きてしまった。いや、半分寝ぼけているのか。
「・・・うん。ゆっくりお休み?必ず迎えにくるからね。」
そういうとまた彼は瞼を閉じた。
きっとこのまま朝まで眠ってくれるだろう。
魔力が回復するまでずっと彼の頭を撫で続け、朝日が差し始めた頃、彼が起きる前に飛び立った。その直前に首につけていたネックレスを彼の首へつけて。
国に帰りすぐに父と母の元へ行き、結婚したい相手が見つかったこと、彼の事情、ここまで調べたこと全てを話した。
「セドリックに思い人ができたことは嬉しいが、そのような状況のものをどうやって婚約者として国に迎えような。あちらが渡さないだろうな。そもそも、そんなものはいないと言われて終わりだ。もう2度と見つからない場所へ隠されるかもしれぬし、彼の状況が悪い方向へ進む可能性もある。すぐには動けんな。」
「婚約は、できなくてもいい。できなくていいから、彼をあの環境から救い出してあげたい。唇を噛み締めて涙を我慢するような環境からだしてあげたい。お願いします。力をお貸しください。」
床に頭を擦り付けるなんて経験は初めてだったし、両親もレスターも驚き慌てた。両親に頼み事をしながら涙を流したのも初めてだった。
「セドリック、そんなにも愛せるものができたこと父は嬉しく思う。すこしじかんはかかってしまうがどうにかして、彼を救い出そう。」
「ありがとう、ございますっ。」
ルイ、、それが君の名前なんだろう?
待っていてくれ。必ず君をあの城から、あの国から出して見せる。外の世界には本に書いてないことがたくさんあるんだ。涙だって我慢しなくていいんだ。
血の繋がった者が君を愛さないのであれば、その何十倍も僕が君を愛するよ。
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