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しおりを挟む---おぎゃぁおぎゃぁおぎゃぁ
「っっ!!!!」
国待望の1人目の子が生まれた時、産婆は言葉を失った。
大陸の西の端に位置するこの国ルーチェでは王族の初子が男であることは災いの訪れを意味する。
これまでに初子が男であった王政の時代は飢餓や天災に見舞われその度に国が滅びかけたのだ。
ここ150年は初子が女であったため今回も女であると皆信じて疑わなかった。
しかし、生まれてみると初子が男であったため出産を終えた妃も、夫である王もどうすべきかと頭を悩ませた。
妃は結婚してなかなか妊娠せず国としても待望の世継ぎであった。
どうするものかと悩んだ結果、2人の出した答えは
この長男を城の中に閉じ込め、死ぬまで隠し通すこと。
幸いにも妃は双子を妊娠していた。しかもそれを国民には伝えていなかった。よって、この長女のみが生まれたことにすれば良いと言う結論に至ったのだ。
ルーチェ教では殺人は最も重い罪とされており言い伝えのためであっても生まれてきてしまったこの長男を殺すわけにはいかない。そのために出された答えであった。
この悪しき環境に生まれてきた男の子はルイと名付けられ双子の妹はニナと名付けられた。
ルイには1人世話係がつき、その世話係のみが王族以外でルイに関わる者であった。ルイが住むのは城の端の部屋。逃げ出さないようにと頑丈に鍵がかけられており、あるのは小さな小窓ひとつ。
無邪気な妹はこう言う
「ルイは私より先に生まれてきちゃいけなかったのに先に生まれるからこうなってるのよ!自業自得だわ!」
ルイが生まれて3年の間この国では不作が続き飢餓の被害も多く出た。
両親である王と妃は
「お前が女であればよかったのにな。お前が男であるがために、この国は危機に晒されておるのだ。」
「私が初子に男を産んでしまうなど、これほどの不幸はないわ。あなたとニナの生まれる順が逆であればよかったのに。今、私たちや国民が苦しい思いをしているのはあなたのせいよ。」
ルイは賢い子であった。
ニナよりも断然早く言葉を覚え、読み書きができるようになった。
5歳の頃、2年前に生まれた弟が父や母、妹と共に幸せそうに庭を散歩している姿を小窓から見た時に涙を流して以来、人前で涙を流すことも無くなった。
父や母にこれ以上嫌われたくなくてわがままひとつ言わず、言葉すらほとんど発することなく日々を過ごした。
ただ1人、世話係のアンナだけは
「ルイ様、あなたが悪いことなんて何一つありませんからね。アンナはルイ様と出会えたこと、こうしてお世話できることが何より嬉しいです!」
そう言ってくれた。それだけがルイの心の支えであった。
口にはしないがルイはアンナのことを母親のように思っていた。
だがそんなアンナはルイが8歳の誕生日を迎えたその日、急死した。
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