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第7章 また混乱
7 博多攻囲戦 6 (博多沖海戦)
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皇国蒸気艦隊木島准将
「全艦隊に集合信号!ルシアの蒸気艦を迎え撃つ!」
旗艦畝傍に集合信号旗が昇る。畝傍・江田島以下4隻が続く単縦陣を形成する。最大戦速でルシア蒸気艦に向けて突進する。
「距離1千で左反転、右砲戦用意!」
頭を押さえてTの字を描くつもりだ。が、相手は・・・距離1万で撃って来た。当たりはしない。はるか遠弾となった。だが史上初の10キロ越えの遠距離砲戦となった。
ルシア艦隊蒸気装甲艦ドラコン
艦橋の前後に3つ、計6つの回転砲台がある。239ミリ、レンドル・カートーネン砲。砲身長10メートル。239ミリともなれば砲弾重量は軽く100キロを越す。レンドルは、この運搬のために専用の運搬車を作った。撃った後、砲身は所定の回転角・仰角に固定する。仰角はほぼ水平。砲身と同じ高さに弾丸を載せた運搬車を持って来て、兵たちが数人がかりで押し棒を使って砲口から円筒形の弾を押し込む。露天の甲板上で作業を行うのであるから、命がけである。この時代は前装砲の最期の輝きの時代と言われている。産業革命が急速に冶金学、金属加工の技術を進展させていた。
装填が終わった砲は射撃指揮官の示す諸元の回転角と仰角に固定すると、すぐに発射される。
「えんだ~ん!遠弾で~す。敵艦隊の左ななめ後方300メートル。」
ルシア式射撃統制は1番砲が撃った後、着弾を待たず2番砲がわずかに諸元を変えてうつ。3番以降も同じ。極力、時間を有効に使おうとしていた。
お互いが急速に接近しあっている中で撃っても、まず当たらない。距離もある。ではなぜ撃っているか?練習のためだ。そして撃つことによって兵の緊張もやわらげている。
畝傍木島准将
「1万で撃ってきやがった!」
遠弾となって砲弾が着弾する。
ドドーン!
「はっ、この距離で撃って当たるものかよ。弾を無駄使いしやがって。」
畝傍艦長生島大佐が驚いたように言う。
「海面に着弾して爆発しましたよ。」
「ほんとだ。【信管】を実用化したのか。むうう、先を越されたか。」
「いかがいたしますか?」
「なあに、予定通り千で反転して6隻で片舷斉射だ。」
「了解です。」
両者、急速に接近する。距離が千メートルになったとき、皇国艦隊が左に舵をきる。
「皇国艦隊、右に舵をきります。」
すかさずドボルザークが叫ぶ。
「ドラコン、面舵に転舵(おもかじにてんだ みぎに回ること)!」
皇国艦隊6隻とただ1隻のルシア艦隊との同航戦(千メートルの距離で同じ方向に進んでいる)が始まった。
「ウマルディー(レンドルの甥・数学者・統制射撃指揮官)出番だ。頼むぞ。」
「了解です。速力13ノット、敵に合わせろ!」
皇国側も発砲を始めている。従来通りの個別射撃だ。
「ただ今より、統制射撃本番だ。半舷斉射に入る。前部3砲塔発射!」
着弾予定時間の半分を過ぎたところで次弾を発射する。
「後部3砲塔発射!」
仰角と回転角をわずかに変えて撃っている。
「初回射撃、ちゃくだ~ん・・・今!」
ドドドーン!
「えんだ~ん!敵左前方100メートル!」
「前部砲塔装填急げ!」
「2回目射撃、ちゃくだ~ん・・・今!」
ドドドーン!
「えんだ~ん!敵正横80メートル!」
「よし、回転角はそのまま、仰角1度下げ!」
「前部砲塔、発射用意よし!」
「前部砲塔発射!」
皇国艦隊木島准将
「まずい、敵の砲の威力は当方の倍近くあるぞ。」
この時、味方の江田島が初めての命中弾を出す。30キロ砲弾だ。ルシア風に言うと口径166ミリ。この一発が見事命中する。ドラコンの第2砲塔。厚い装甲で覆われている。
カーン!
だが、無情にも貫通せず、弾き返される。
「ぐうう!」
偶然でもなんでも砲身などに命中していれば、グニャリと曲がって使用不能になっていただろう。だが、狙って当てられるのは神さまぐらいのものだろう。
ルシア艦ドラコン
「XX回目射撃、ちゃくだ~ん・・・今!」
ドドドーン!
「夾叉!きょうさしましたあ!」
横に並んだ3発の着弾。その1発目と2発目のあいだに畝傍を挟んだのだ。これを【夾叉 きょうさ】と言う。
「よし、片舷斉射から一斉射撃に切り替え!後部砲塔装填急げ、前部砲塔は後部砲塔の諸元にならえ!」
そして3回目の斉射でついに命中弾が出る。
「全艦隊に集合信号!ルシアの蒸気艦を迎え撃つ!」
旗艦畝傍に集合信号旗が昇る。畝傍・江田島以下4隻が続く単縦陣を形成する。最大戦速でルシア蒸気艦に向けて突進する。
「距離1千で左反転、右砲戦用意!」
頭を押さえてTの字を描くつもりだ。が、相手は・・・距離1万で撃って来た。当たりはしない。はるか遠弾となった。だが史上初の10キロ越えの遠距離砲戦となった。
ルシア艦隊蒸気装甲艦ドラコン
艦橋の前後に3つ、計6つの回転砲台がある。239ミリ、レンドル・カートーネン砲。砲身長10メートル。239ミリともなれば砲弾重量は軽く100キロを越す。レンドルは、この運搬のために専用の運搬車を作った。撃った後、砲身は所定の回転角・仰角に固定する。仰角はほぼ水平。砲身と同じ高さに弾丸を載せた運搬車を持って来て、兵たちが数人がかりで押し棒を使って砲口から円筒形の弾を押し込む。露天の甲板上で作業を行うのであるから、命がけである。この時代は前装砲の最期の輝きの時代と言われている。産業革命が急速に冶金学、金属加工の技術を進展させていた。
装填が終わった砲は射撃指揮官の示す諸元の回転角と仰角に固定すると、すぐに発射される。
「えんだ~ん!遠弾で~す。敵艦隊の左ななめ後方300メートル。」
ルシア式射撃統制は1番砲が撃った後、着弾を待たず2番砲がわずかに諸元を変えてうつ。3番以降も同じ。極力、時間を有効に使おうとしていた。
お互いが急速に接近しあっている中で撃っても、まず当たらない。距離もある。ではなぜ撃っているか?練習のためだ。そして撃つことによって兵の緊張もやわらげている。
畝傍木島准将
「1万で撃ってきやがった!」
遠弾となって砲弾が着弾する。
ドドーン!
「はっ、この距離で撃って当たるものかよ。弾を無駄使いしやがって。」
畝傍艦長生島大佐が驚いたように言う。
「海面に着弾して爆発しましたよ。」
「ほんとだ。【信管】を実用化したのか。むうう、先を越されたか。」
「いかがいたしますか?」
「なあに、予定通り千で反転して6隻で片舷斉射だ。」
「了解です。」
両者、急速に接近する。距離が千メートルになったとき、皇国艦隊が左に舵をきる。
「皇国艦隊、右に舵をきります。」
すかさずドボルザークが叫ぶ。
「ドラコン、面舵に転舵(おもかじにてんだ みぎに回ること)!」
皇国艦隊6隻とただ1隻のルシア艦隊との同航戦(千メートルの距離で同じ方向に進んでいる)が始まった。
「ウマルディー(レンドルの甥・数学者・統制射撃指揮官)出番だ。頼むぞ。」
「了解です。速力13ノット、敵に合わせろ!」
皇国側も発砲を始めている。従来通りの個別射撃だ。
「ただ今より、統制射撃本番だ。半舷斉射に入る。前部3砲塔発射!」
着弾予定時間の半分を過ぎたところで次弾を発射する。
「後部3砲塔発射!」
仰角と回転角をわずかに変えて撃っている。
「初回射撃、ちゃくだ~ん・・・今!」
ドドドーン!
「えんだ~ん!敵左前方100メートル!」
「前部砲塔装填急げ!」
「2回目射撃、ちゃくだ~ん・・・今!」
ドドドーン!
「えんだ~ん!敵正横80メートル!」
「よし、回転角はそのまま、仰角1度下げ!」
「前部砲塔、発射用意よし!」
「前部砲塔発射!」
皇国艦隊木島准将
「まずい、敵の砲の威力は当方の倍近くあるぞ。」
この時、味方の江田島が初めての命中弾を出す。30キロ砲弾だ。ルシア風に言うと口径166ミリ。この一発が見事命中する。ドラコンの第2砲塔。厚い装甲で覆われている。
カーン!
だが、無情にも貫通せず、弾き返される。
「ぐうう!」
偶然でもなんでも砲身などに命中していれば、グニャリと曲がって使用不能になっていただろう。だが、狙って当てられるのは神さまぐらいのものだろう。
ルシア艦ドラコン
「XX回目射撃、ちゃくだ~ん・・・今!」
ドドドーン!
「夾叉!きょうさしましたあ!」
横に並んだ3発の着弾。その1発目と2発目のあいだに畝傍を挟んだのだ。これを【夾叉 きょうさ】と言う。
「よし、片舷斉射から一斉射撃に切り替え!後部砲塔装填急げ、前部砲塔は後部砲塔の諸元にならえ!」
そして3回目の斉射でついに命中弾が出る。
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