幕の向こうへ

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「それじゃあ、やりたい人いますか」

　学級代表の瀬戸が、ゆっくりと教室全体を見渡した。こそこそとした話し声が一層大きくなる。

　実乃里の制服のポケットで、スマホがブブッ、と小さく振動した。そっと机の下に滑り込ませ、ちらりと画面を覗く。由利からだ。

『ねぇ、一緒に演者やろ～』

　視線を動かすと、窓際に座る由利と目が合った。

　うちの文化祭では、各クラスで劇をするのが伝統となっている。
高校生ながらもそこそこ完成度の高い作品が多く、先生たちも毎年楽しみにしているそうだ。

　普段からあまり目立つことはせず、部活にも入っていない実乃里にとって、文化祭というのは貴重な学校行事の一つだった。
今回も無難な係でいいかな、と思っていたときに由利からメッセージが来たのだ。自分が劇に出るなんて、らしくない。けど、せっかく誘われたし、やってみてもいいかな。

　送信ボタンを押そうとした手がふと止まる。

もし、もしも上手くいかなかったら。実乃里のせいで失敗した、なんて言われてしまったら。
それなら、やらない方がずっといい。

『ごめん、塾もあるし、今回はやめとく』

　目が合うかなと思ったが、由利はスマホを机の中にしまったあと、そのまま黒板に視線を向けた。
はい、と小さく手を挙げ、一人で演者に立候補した。
挑戦する勇気もない自分が惨めに見えた。