DNAの改修者

kujibiki

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第219話 クーシアの結実

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寒い季節も終わり、エルスタイン領都も優しい陽射しが降り注ぐようになって来ました。

年明けからグレイス様も毎月一度は屋敷に来られるようになり、僕とお風呂に入ったりして数日を過ごされて満足してから帰られます。

初めて二人で岩風呂に入った時に洗い場で横になってもらって洗ってあげたのですが、気持ち良かったのか、腰をビクビクとされ、おしっこを何度もビュッ、ビュッ…と噴き出しながら最後には気を失ってしまわれました。

一度、王城の時のようにお母さんを交えて3人でお風呂に入ってからは、僕の身体を洗う時も僕を横にして、身体を密着して洗ってくださるようになりました。

重くもないしとても気持ち良いのですが、僕が「そろそろ…」と、言わないといつまでも覆いかぶさって洗ってくださります。

後日、お母さんが、グレイス様から僕の部屋を大きくして、ベッドも大きくして欲しいと要望があったと言っていました。

どうも王城の時のように一緒に寝たいのだそうです。
お母さんにとっても嬉しい申し出だったようで、なにやら二人で相談をしていたみたいでしたが、僕としてはまだこの部屋とベッドで十分なので保留にしてもらっています。



最近になってようやく“シャルルの風”の生産量が増え、各領都へ少しずつですが分けることが出来るようになってきました。

年明けからカプランド領都とバルゼ領都ではいち早く『シャルルの魔道具販売所』が設けられていて、販売が心待ちにされていたそうです。

昨年末にサリー様とシクスエス様にも“シャルルの風”を譲ったという報告をマイヤさんから聞いています。
ジェシカやナーナも使ってみて喜んでくれたかな…。

エルスタイン領都でも、広場の近くに『シャルルの魔道具販売所』が設けられることになり、今のところは“シャルルの風”が入荷した時だけ、屋敷のメイドのお姉ちゃんが販売をしています。

しかし、まだ各都市に分配するほど量もなく、これから更に生産量を増やしていくとのことでした。



XX XY



「シャルル様、ついて来ていただいてありがとうございます」

「ううん、今日はとっても暖かいしね。気持ちの良い散歩だよ」
「クーシアも元気にしていると良いんだけれど…」

「ルーシャ様達がクーシアさんのお店に行かれたのは驚きましたね」

「メンテールお姉ちゃんが案内したそうだけど、お母さん達も良い服が見つかって喜んでいたよね」
「クーシアは女王様まで来て驚いたと思うけれど…」

「胸が大き過ぎると服を探すのも大変みたいですねぇ」

「それで、今日はクーシアのお店で何か買うの?」

「以前より頼んでいたメイド服の試作品が出来ている予定なのです」
「それをシャルル様に見てもらおうと思って…」

「あ~、オーリエが初めて服を買った時にトリスお姉ちゃんがお願いしていた物だね」

「はい」



ガランゴロン…。
「こんにちは~」

「は~い」
トリスお姉ちゃんの声に大きく返事をしてクーシアが店頭に出てきました。

「トリスさん、そ、それにシャルル様~!」

「ど、どうしたの、泣きそうな顔をして…」

クーシアは僕の顔を見るなり目に涙を浮かべていました。

「あっ、すいません。嬉し泣きです」
「シャルル様、私…、シャルル様のお傍にお仕え出来ることになったんです!」

「え~っ!? 本当に~?」

「す、すごいですよ、クーシアさん」

実際にはクーシアが“女”になってかららしいのですが、なんでも、少し前にお母さんとグレイス様がクーシアのお店に行った時に服を褒められたそうで、その時に僕の傍に仕えたいとお母さんにお願いしたそうなのです。

「夢が叶って良かったですね」

「トリスさん…、シャルル様と皆さんのおかげです」

「クーシアが頑張ったからだよ」
「お母さん達もクーシアの服を着て喜んでいたよ」

「そう言っていただけると嬉しいです。あの時はまさか女王様まで来られるとは思いませんでしたけど…」

「屋敷にはエリシアもいるしね。クーシアが屋敷に入るまではグレイス様もたまにこのお店にも来ると思うよ」



「それでクーシアさん、あの服の試着をお願いできますか?」

「そ、そうでした」
「もしかしたら、私も着ることになるメイド服ですものね」

「そう言えばそうですね」

「トリスさんも、トリス先輩になるんですね。フフ…」と、クーシアは小さく笑いながら試作品を取りに店の奥に行きました。



「……そう聞くと、トリスお姉ちゃんも結構年上なんだよね」

「歳のことを言うなんてひどいです。シャルル様~」

「ごめん、ごめん…」

「お待たせしました。トリスさん、こちらです」

「シャルル様、一度着て見ますので少し待ってくださいね」

「うん…」

「……クーシア、屋敷に入ると自由に服を製作できなくなるんじゃない?」

「特技として頑張っていただけですから…、それになぜかシャルル様の関係者にしか人気が無いのです」

「私はシャルル様が“やきもい”を買いに来られた時からシャルル様の傍に仕えたいって思っていたんです。ですからとても嬉しいんですよ」

「そう…、それなら良かったよ。はやく屋敷に移ってこられると良いね」

「はいっ! “女”になるのが待ち遠しいです」



「シャルル様~、どうでしょうか?」

「へ~、ずいぶん変わった形なんだね」

試着室から出ていたトリスお姉ちゃんは、丈の短いスカートの両端をピッと摘まんだ姿勢をとっています。

「そうでしょう。オーリエさんの購入された服は布地を巻きつける形でしたが、私達は動き易いようにしないといけませんので、裾の形を広げてもらい、肩紐で掛ける形にしてもらいました」

スカートの丈が短くなった分、オーリエが穿いていたような膝上まである靴下を着けています。
聞くと、寒い季節は色の濃い物で、暑い季節は白色の物かこれまでと同じ足首までの物だそうです。

「上の部分はエリシアさんが着ておられたような伸縮性のある生地で半袖にしてもらっています」
「ブラウスじゃないのでボタンも必要なく、多少胸の大きさが変わっても問題ありませんよ」

「襟首が大きく開いているんだね」

「胸の大きさに関わらず、鎖骨や胸の上部あたりが綺麗に見えるかと思ったのですが…」

クーシアが心配そうに言ってきました。

「うん、とっても綺麗に見えるね…」
「そうだクーシア、以前エリシアが購入していた服の袖口にひらひらしたものが付いていたけれど、あの部材はあるの?」

「はい、ありますよ」

「ちょっと持ってきてもらえる?」

「はい…」



「シャルル様、お持ちしました」

「え~と、これをエリシアが購入した服のように袖口につけて…、脚に穿く靴下の縁取りにも…、首にも巻けるようにして細目のリボンで留められるようにしたらどうかな?」

「あっ…、とっても素敵です…」

「これならもっと胸元も綺麗に目立つと思うんだ」
「フランお姉ちゃんやロッキお姉ちゃんのように髪を括っていたり、髪の短いお姉ちゃんもいるからね」
「首元にこんな風な何かが巻かれているのも良いと思うんだけど…」

「シャルル様のおっしゃるとおりですね。とってもかわいいです」
「首元にこういった装飾があるだけでずいぶん印象が変わってきますよ」

「ブラウスの襟だけあっても面白いんじゃないかな…?」

「本当ですね。首に巻く物を襟にした場合はなんだか正装感がありますよ」

「どう? トリスお姉ちゃん」
「付けるのが面倒ならなくてもいいけれど…」

「いえ、クーシアさんには悪いですが、このひらひらが付いている方が良いですね」
「上手く説明できませんがメイド感がありますよ」

「私もトリスさんと同じ意見です」
「メイド服なので、エリシアさんが購入された服のようにひらひらをつけませんでしたが、シャルル様のおっしゃられるように付いている方がいいですね…」
「トリスさん、申し訳ありませんがもう一度改良させてください」

「ええ、お願いします。完成するのが本当に楽しみです」
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