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第118話 魔法の練習
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ある日、庭にメルモアお姉ちゃんとエリオンお姉ちゃんがいるのが見えました。
今日は暖かい方だとはいえ、まだ寒い季節です。
「お姉ちゃん達、何しているの~?」
「「あっ、シャルル様…」」
「エリオンの魔法の練習に付き合っているんですよ~」
「エリオンお姉ちゃんもちゃんと練習しているんだね」
「ひどいです、シャルル様。こう見えて私もコツコツ練習しているんですよ」
キルシッカに言われてからですが…。
「エリオンもシャルル様のお役に立てるように頑張りたいのだそうです」
「へぇ~、そういってもらえると嬉しいな…、ちょっと見てて良いかな?」
「もちろん良いですよ。その方がエリオンも身が入るでしょう」
「それで、今日は何について練習しているの?」
「はい、エリオンはカラードじゃありませんが、魔力は比較的ある方なのです。ただ、やっぱり精度と制御が弱くて…、それについての練習です」
「じゃあ、エリオン、最初から…」
「はいっ!」
「……」
メルモアお姉ちゃんと、エリオンお姉ちゃんが掌に【火球】を作り出します。
エリオンお姉ちゃんの【火球】は一般的だとは思うのですが、横で作っているメルモアお姉ちゃんのと比べてしまうと全く違いました。
メルモアお姉ちゃんの【火球】は綺麗な形の球なのですが、エリオンお姉ちゃんのそれは外部の影響を受けたり、集中力の問題なのか形が球に定まらず、時々火の球がユラっと崩れるのです。
「ほら、エリオン、球の形が崩れてきているわよ。球になるように集中して!」
「は、はい」
「……」
エリオンお姉ちゃんは少し想像が上手く出来ていないようです。
続けてメルモアお姉ちゃんは【火球】を出来るだけ小さくするように言っています。
たぶん、使用する魔力を最小限に抑えることか、又は圧縮することを教えたいのでしょう。
エリオンお姉ちゃんも頑張って【火球】を小さくしようとしていますが、ある程度のところでポシュッと【火球】が消えてしまいました。
「あ~ん、また消えちゃいました。本当に制御が難しいですね」
「ちょっといいかな…」
「はい、シャルル様」
「エリオンお姉ちゃんはちょっと炎の想像が出来ていないみたいだね」
「はい…?」
「もし、球の中に火がついたらどうなると思う?」
「そ、それは球の中に灯って…、明るくなります…」
「そうだね。じゃあその火が灯った時、炎の大きさはどうなるの? 球の内部に納まるように小さくなるの?」
「それは…、その炎が球の内部に沿って球の形に…、ハッ! もしかして…」
エリオンお姉ちゃんは気付いてくれたのか再び掌に【火球】を作り出しました。
その【火球】は先ほどとは違い、球の形に合わせて炎が渦巻いて回転しているように見えます。
「あぁ~、なんとなく分かったような気がします」
「そうそう、良いよ、エリオンお姉ちゃん。炎の勢いごと球の形にしてあげるんだ」
「シャ、シャルル様、エリオンの【火球】が綺麗な球状になってきました…」
「うん、出来たじゃない…。その炎の動きが想像出来るようになったら、練習していくと小さくも出来るようになるよ」
「はいっ!」
「メルモアお姉ちゃんが教えたかったのはたぶん威力の上げ方でしょ?」
「シャルル様、そんなことまで分かっておられたのですか!?」
「うん、同じ力だとすると、球が小さい方が威力は大きくなるからね」
「エリオンお姉ちゃん、【火球】を小さくしようとするなら炎を弱めるんじゃ無くて、エリオンお姉ちゃんのお気に入りだったワンピースに、お姉ちゃんの大きな胸をギュッギュッと隙間無く詰め込んで収めていくような想像をするんだよ」
僕は胸の前に両腕を寄せ、押し潰すような仕草をしてみせます。
「なんだかすごい例えですが、シャルル様のおっしゃりたいことはなんとなく分かります」
「まぁ、小さくするのはすぐには上手くいかないかも知れないけれど、綺麗な形の【火球】を作る練習をしていたらきっと分かってくるよ」
「分かりました。頑張って練習します」
「シャルル様、なぜそんなことがお分かりになられたのですか?」
「それはね、バルゼ領で盗賊に襲われた時に首領だったという火属性のカラードの人が、【火球】から火を細長くて鋭い形に変えて攻撃してきたからなんだよ」
「【火球】じゃシエラお姉ちゃんの【水盾】に防がれて意味が無いと思ったんだろうね」
今から思えば意外に機転のきく首領だったようです。
「それはシエラから少し聞きました。おそらく【火矢】でしょうね」と、言いながらメルモアお姉ちゃんは掌に作った【火球】を細く変形させました。
「そうそう、そんな形だったよ」
メルモアお姉ちゃんによると、魔力量と訓練によって同時に何本か【火矢】が作れるそうです。
「こうすると【火球】よりも威力が上がって、数本に一本はシエラお姉ちゃんの【水盾】も貫いていたからね」
「そういえば、メンテールからも聞いたのですが、シャルル様はその【火矢】や武器を素手で払われたとか…」
「うん」
「本当にそんなことが…」
「試してみようか?」
「そんな、もしものことがあれば…」
「大丈夫だよ、何かあってもトリスお姉ちゃんもいるし」
僕はずっと黙って観ていたトリスお姉ちゃんの方を一度向きます。
「じゃあ、威力を落として…」
「せっかくなんだからメルモアお姉ちゃんの本気を見せてよ」
「そんなぁ~」
「ごめんね嫌なことをさせようとして…、でも僕もちょっと試したくてね」
僕はメルモアお姉ちゃんから少し離れて前に立ち、危害を受けることをダメだと一応再認識しておきます。
「いいよ~、放ってみて~」
「本当に…、本当に大丈夫なんですよね~?」
「大丈夫だから、本気でね」
「では、いきますよ~」と、言いながら一本の【火矢】を作り出し、こちらに向けて放ってきました。
ビュン!!
僕はこちらに向かってきた【火矢】に右腕を突き出し、それを正面から受け止め握り潰します。
「そ、そんなぁ~。まさか、受け止めるなんて…」
「シャルル様~、大丈夫ですかぁ」と、トリスお姉ちゃんも慌てて駆け寄ってきます。
「どう、大丈夫だったでしょ」
「もう絶対にこんなことさせないでくださいね!」
「でも、さすがメルモアお姉ちゃん。盗賊たちの【火矢】より早くて威力もあったよ」
「頼もしいお姉ちゃんがいて、僕もとっても安心だよ」と、ニコッと笑っておくのでした。
今日は暖かい方だとはいえ、まだ寒い季節です。
「お姉ちゃん達、何しているの~?」
「「あっ、シャルル様…」」
「エリオンの魔法の練習に付き合っているんですよ~」
「エリオンお姉ちゃんもちゃんと練習しているんだね」
「ひどいです、シャルル様。こう見えて私もコツコツ練習しているんですよ」
キルシッカに言われてからですが…。
「エリオンもシャルル様のお役に立てるように頑張りたいのだそうです」
「へぇ~、そういってもらえると嬉しいな…、ちょっと見てて良いかな?」
「もちろん良いですよ。その方がエリオンも身が入るでしょう」
「それで、今日は何について練習しているの?」
「はい、エリオンはカラードじゃありませんが、魔力は比較的ある方なのです。ただ、やっぱり精度と制御が弱くて…、それについての練習です」
「じゃあ、エリオン、最初から…」
「はいっ!」
「……」
メルモアお姉ちゃんと、エリオンお姉ちゃんが掌に【火球】を作り出します。
エリオンお姉ちゃんの【火球】は一般的だとは思うのですが、横で作っているメルモアお姉ちゃんのと比べてしまうと全く違いました。
メルモアお姉ちゃんの【火球】は綺麗な形の球なのですが、エリオンお姉ちゃんのそれは外部の影響を受けたり、集中力の問題なのか形が球に定まらず、時々火の球がユラっと崩れるのです。
「ほら、エリオン、球の形が崩れてきているわよ。球になるように集中して!」
「は、はい」
「……」
エリオンお姉ちゃんは少し想像が上手く出来ていないようです。
続けてメルモアお姉ちゃんは【火球】を出来るだけ小さくするように言っています。
たぶん、使用する魔力を最小限に抑えることか、又は圧縮することを教えたいのでしょう。
エリオンお姉ちゃんも頑張って【火球】を小さくしようとしていますが、ある程度のところでポシュッと【火球】が消えてしまいました。
「あ~ん、また消えちゃいました。本当に制御が難しいですね」
「ちょっといいかな…」
「はい、シャルル様」
「エリオンお姉ちゃんはちょっと炎の想像が出来ていないみたいだね」
「はい…?」
「もし、球の中に火がついたらどうなると思う?」
「そ、それは球の中に灯って…、明るくなります…」
「そうだね。じゃあその火が灯った時、炎の大きさはどうなるの? 球の内部に納まるように小さくなるの?」
「それは…、その炎が球の内部に沿って球の形に…、ハッ! もしかして…」
エリオンお姉ちゃんは気付いてくれたのか再び掌に【火球】を作り出しました。
その【火球】は先ほどとは違い、球の形に合わせて炎が渦巻いて回転しているように見えます。
「あぁ~、なんとなく分かったような気がします」
「そうそう、良いよ、エリオンお姉ちゃん。炎の勢いごと球の形にしてあげるんだ」
「シャ、シャルル様、エリオンの【火球】が綺麗な球状になってきました…」
「うん、出来たじゃない…。その炎の動きが想像出来るようになったら、練習していくと小さくも出来るようになるよ」
「はいっ!」
「メルモアお姉ちゃんが教えたかったのはたぶん威力の上げ方でしょ?」
「シャルル様、そんなことまで分かっておられたのですか!?」
「うん、同じ力だとすると、球が小さい方が威力は大きくなるからね」
「エリオンお姉ちゃん、【火球】を小さくしようとするなら炎を弱めるんじゃ無くて、エリオンお姉ちゃんのお気に入りだったワンピースに、お姉ちゃんの大きな胸をギュッギュッと隙間無く詰め込んで収めていくような想像をするんだよ」
僕は胸の前に両腕を寄せ、押し潰すような仕草をしてみせます。
「なんだかすごい例えですが、シャルル様のおっしゃりたいことはなんとなく分かります」
「まぁ、小さくするのはすぐには上手くいかないかも知れないけれど、綺麗な形の【火球】を作る練習をしていたらきっと分かってくるよ」
「分かりました。頑張って練習します」
「シャルル様、なぜそんなことがお分かりになられたのですか?」
「それはね、バルゼ領で盗賊に襲われた時に首領だったという火属性のカラードの人が、【火球】から火を細長くて鋭い形に変えて攻撃してきたからなんだよ」
「【火球】じゃシエラお姉ちゃんの【水盾】に防がれて意味が無いと思ったんだろうね」
今から思えば意外に機転のきく首領だったようです。
「それはシエラから少し聞きました。おそらく【火矢】でしょうね」と、言いながらメルモアお姉ちゃんは掌に作った【火球】を細く変形させました。
「そうそう、そんな形だったよ」
メルモアお姉ちゃんによると、魔力量と訓練によって同時に何本か【火矢】が作れるそうです。
「こうすると【火球】よりも威力が上がって、数本に一本はシエラお姉ちゃんの【水盾】も貫いていたからね」
「そういえば、メンテールからも聞いたのですが、シャルル様はその【火矢】や武器を素手で払われたとか…」
「うん」
「本当にそんなことが…」
「試してみようか?」
「そんな、もしものことがあれば…」
「大丈夫だよ、何かあってもトリスお姉ちゃんもいるし」
僕はずっと黙って観ていたトリスお姉ちゃんの方を一度向きます。
「じゃあ、威力を落として…」
「せっかくなんだからメルモアお姉ちゃんの本気を見せてよ」
「そんなぁ~」
「ごめんね嫌なことをさせようとして…、でも僕もちょっと試したくてね」
僕はメルモアお姉ちゃんから少し離れて前に立ち、危害を受けることをダメだと一応再認識しておきます。
「いいよ~、放ってみて~」
「本当に…、本当に大丈夫なんですよね~?」
「大丈夫だから、本気でね」
「では、いきますよ~」と、言いながら一本の【火矢】を作り出し、こちらに向けて放ってきました。
ビュン!!
僕はこちらに向かってきた【火矢】に右腕を突き出し、それを正面から受け止め握り潰します。
「そ、そんなぁ~。まさか、受け止めるなんて…」
「シャルル様~、大丈夫ですかぁ」と、トリスお姉ちゃんも慌てて駆け寄ってきます。
「どう、大丈夫だったでしょ」
「もう絶対にこんなことさせないでくださいね!」
「でも、さすがメルモアお姉ちゃん。盗賊たちの【火矢】より早くて威力もあったよ」
「頼もしいお姉ちゃんがいて、僕もとっても安心だよ」と、ニコッと笑っておくのでした。
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