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第十六話

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完全にやらかした! っていう表情をしている魔族。
片方の魔族は母さんに連行され人数的にも不利だし、戦力的にも圧倒的に不利。
どうするつもりなんだろう。

「ち、ちくしょう! もっと楽な仕事だって聞いてたのに!」

「楽な仕事?」

一瞬無言になったがすぐに口を開いた魔族から出た言葉は予想外の言葉だった。

「魔族にも人間の冒険者みたいな制度があって、俺はさっきの奴の護衛だったんだよ! どうしてこうなった! 別に戦闘になる事も無いだろうから楽な任務だって聞いてたのによ…」

あ、あちゃ…。
それで雇い主も捕まっちゃってこの人? 魔族は依頼失敗な上にこんな窮地であると。
可哀想…。

「いやぁ、聞いておいてなんだがなぁ、こいつに手を出そうとしたんだから手加減は出来ねぇな」

「待ってください! この人は別に悪人って訳じゃないです! 詳しくお話をして、魔族の国に返してあげても良いんじゃないですか?」

またもや静寂を通り越し、無になる。
遠くの音すら響いてくる。 それは音と言うよりも完全に響いている、という様だった。

「分かった、しかしいくら俺でも全部の権限がある訳じゃないから完全には保証しきれないぞ」

「はい! 君もそれで良いかな?」

「いや、魔族ってのは掟が厳しいんだ。 今は魔王領に関しては人族不介入で…。 俺は、それを破ってあいつの任務を受けちまった。 魔王領外で受けたとはいえ、魔王領所属の者がだ…。 帰っても待ってるのは大きな処罰だろうな? それは追放か、死罪か…。 アンタらのとこで奴隷にしてくれた方がマシだ。 戻ってから突き放されるなんて辛すぎる」

声を震わせながら語り出した男に僕は不意に同情してしまった。
そしてこうも思い出した。

“魔族とは魔物を統べる者であり、魔物の性質を持つ亜人族である” と。

「君は…魔物の性質を持っているかな?」

「おい、まさか!!!」

「あぁ、俺のこの気配遮断と、鋭い爪は魔物の性質を濃く継承しているはずだ。 たしか…【影狼】 だったはずだ。 ウチの家系は代々こうだ」

「それならさ、僕の従魔にならない?」

「…は? なれるのか? 俺は魔族だぞ?」

僕もやった事ないから知らないけどね。

「よく考えてよ。 召喚」

『主様、いかがされましたかな?』

「こんな喋る固有種の超強い魔物って最早魔族みたいなものでしょ?」

「…そういっても過言じゃないか? んー。 これを見ると定義が分からなくなってしまう…」

それはそうなんだけどね。 僕も実際良く分かってないから!

「では、頼んでも良いか?」

悩む事無く決めてきた魔族の男に僕は驚きと潔さを感じ、少し好感を感じ取ってしまったのだった。
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